映画って人生!

宮﨑あおいさんを応援します

「坂道のアポロン」(2018)

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監督は三木孝浩さん。「ソラニン」(2010)以来監督の作品を見続けていて、公開される度に「この作品がベスト」と思っています。今回も同じ感想です!
原作はアニメ化もされた小玉ユキさんの同名人気コミックス、未読です。脚本は「ソラニン」の高橋泉さんです。知念侑李・中川大志小松菜奈さんの共演、演技力を観たいというのも作品選定の理由でした。
 
1960年代の佐世保を舞台に、親戚のもとに預けられた孤独な男子高校生が、転校先で出会った不良少年とその幼なじみの少女とジャズを介して強い絆で結ばれていくほろ苦くもかけがえのない友情と恋の青春模様を描くというもの。
 
主題は男同士の恋のはなし。男だからこそ言い出せないことをジャズで会話することで不器用なふたり結ばれていく様に、演者自らが演奏するという圧巻の演奏シーンで、感動します。
監督は、「ソラニン」で宮崎あおいさんが魂を吐き出すように歌うことで感動を与えることができたと、本作においても知念さん・中川さんのしっかり練習を積んだすばらしい演奏シーンを盛り込むことで、大きな感動を伝えてくれます。そして、ふたりの絆を確かめるように小松奈々さんが流してくれる美しいい涙で一層感動が強まります。ラストシーンでの涙には、これまでにない小松さんの演技を見ることができます。
 
絆に傷がつくことへの怖さから本当のことが言えない、相手を庇うことなど青春特有の悩みをそれとなく見せながら紡ぐ物語。時を経るにつれて深まっていく絆を小田和正さんが歌う主題歌「あの坂道を上る、そのたびに、僕らはみんな、大人になって行った」で味合うことになります。
監督作品独特の美しい映像を楽しみながら、チラシにある「青春時代を経験した人に贈る」という文言に偽りはなく、自分の人生を振り返ることができます。
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物語は、東京の病院に勤務する医師西見薫(知念侑李)が診断を終え、子供たちにピアノでアート・ブレイキーMoaninを弾きながら「1966年、あの坂道であいつに会った!」という呟きから、当時のモノトーンの佐世保の風景が次第に色を帯びて来て、「忌々しい坂だ!」と高校に初登校シーンへとつながるというとてもうまい導入で、一気にこの時代に入り込めます。オート三輪車が懐かしい!
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授業に馴染めず屋上に出ようとして、上級生と喧嘩を始める同級生川渕仙太郎(中川大志)に出会う。対番役を命じられた迎律子(小松菜奈)に連れられて彼女の自宅ムカエレコード店を訪れるとそこでドラムを叩く彼に会う。「ピアノで合わせてみて」という彼女に応えて弾くと「それじゃスイングしない」と馬鹿にされ、彼の叩く曲「Moanin」のレコードを買い、「見返してやる」と楽譜を起こし、翌日教室であいつが箸で送ってくるリズムに、鉛筆で送り返してやる。箸と鉛筆によるセッション、これを契機にふたりは音で結ばれる。物語がスピーデイーで気持ちがよい。「Moanin」という曲がなつかしく、心が繋がるにふさわしい曲。

こんな時、東京から安保闘争に嫌気した、彼が兄貴と敬愛する桂木淳一(デイーン・フジオカ)が帰ってきて、店のおやじ迎勉(中村梅雀)も加わり三人でセッションが始まる。
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このシーン、フジオカさんの吹くトランペットの音色が良い。

すっかり雰囲気になれた薫が律子にデートを申し込むと、なんと仙太郎も一緒に海水浴に行くことになる。仙太郎がロザリオを首にかけているのを見て糺すがふたりが答えてくれない。これで薫は律子の思い人が仙太郎だと思うわけです。これまで描かれた千太郎の暴力性、孤独、ジャズ演奏、ドザリオ等のエピソードが、一気に彼の出生の秘密につながってくる高橋さんの脚本が凄い。
 
彼はハーフで小さいときに教会に置き去りにされ、虐められ、黒人にジャズを教わり、今の父に拾われ育っているがそこは居場所ではないという。両親を失い叔母のところで暮らす薫は、自分の境遇に似ていると、一層絆を強くしていきます。

そんなところに、東京の美大生深堀百合香(真野恵里菜)が千太郎の前に現れ、彼をモデルに絵を描き「アポロン」と褒めたことで、すっかり逆上せてしまい、どうしたら付き合いができるかと薫に相談を持ち掛ける。
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彼女は淳一を追っかけて来たのだが、経験のない千太郎には分からない。薫は気付いても、あまりにもみじめな彼の出地もあり、話して悲しませたくない。
こんな薫の思いが逆に出てふたりは仲たがいする。淳一と百合香の関係設定がうまく描かれてなくて、わかりずらい。しかし、フジオカさんが、アルバイトで、米兵があつまるバーでトランペットを手に歌うBut Not For Meが見事なので、これを許すことにします。(#^.^#) 
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文化祭。千太郎はロックの仲間とステージに立つが、しっくりしない。帰りかけると聞こえてくる薫のピアノ。「こいつは一生ものの友達」と始めるふたりのセッションはもう止まらない。知念さんと中川さんが、スタントなしで演奏しているとは驚きです。これに聞き入る生徒の動き、大好きなSomeday My Prince Will Comeに送る律子の美しい涙、とてもうまいカメラワークで見せてくれ感動します!

を取り戻したふたりは、教会でクリスマスセッションすることになり、律子が「Someday My Prince Will Come」を歌うことにする。千太郎がバイクに律子を乗せ教会に駆けつけているとき、律子が「薫さんのこと。このごろドキドキする」と告ると同時にば~んと衝突、律子は意識不明に。病院で落ち込む千太郎、これを慰める薫。
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しかし律子に意識が戻ったところで、ロザリオを残し行方不明に。ここでの千太郎の気持ちを伏せた演出が秀逸です。

そして、10年が経過。冒頭のシーンに繋がります。薫は淳一の知らせで千太郎が黒島天守堂の牧師になっていることを知ります。黒島天守堂が美しい!
坂を上り高校を訪ね教師になった律子を誘い、彼を訪ねます。
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教会にやってくるとドラムで叩く「Moanin」が聞こえる。声を掛けると「ふたり揃って結婚式か!おれが挙げてやる」と千太郎。事故から10年後の千太郎の気持ちが読め、泣けます。
ふたりのセッションが始まる。薫が「おれ見つけた、最高のSomeday My Prince Will Comeだ。歌おう!」と律子を誘う、律子の目に大粒の涙が。これに小田和正さんの主題歌が被さります。確実に泣けますね!(#^.^#)
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