監督は「プライドと偏見」「つぐない」のジョー・ライト。アカデミー賞でゲイリー・オールドマンが主演男優賞を、辻一弘さんがメイクアップ&ヘアスタイリング賞を受賞した作品です。
なぜ、今になってチャーチルの伝記なのかという興味もあり、公開1か月後にやっと鑑賞することができました。クリストファー・ノーラン監督作「ダンケルク」(2017)と合わせ観ると理解しやすい。
新たに就任したばかりのチャーチル首相が、英国史上最大のピンチ(原題DARKEST HOUR)のなかにあって、政敵に追い詰められ、ヒトラーに屈するのか、あるいは戦うのかと歴史的決断を下す瞬間に立ち会うことができる作品。
膨大な記録を残したチャーチルの書物のなかにこの部分の記述がない。この時期の動揺、弱さを書きたくなかったのでしょうか。
彼の弱さを見ることで、ヒトラーと戦い抜く決意がどのようにして生まれたかを知り、国家の指導者として何が求められるかがわかる。政治家の皆さんに是非見て欲しい作品です。( ^)o(^ )
物語は、首相就任から英・仏軍が独軍に押されダンケルクに追い込まれるまでの戦況に合わせ、首相の状況判断とスピーチで構成されており、就任当初のスピーチは尊大傲慢、芸術的で誇張ぎみな“上から目線”スピーチ。
これが、全陸軍を失うかもしれないという最大のピンチに立たされ、苦悩のなかで国王の助言と国民の声に押され徹底抗戦の決意を述べるスピーチは“国民目線”へと変化している。
常に国民の立場で考え、絶対に嘘は支持されないことを示している。今日のわが国の政治状況は情けない状況にある。
ラスト4分間のスピーチシーンは、彼が誰のために戦ってくれているのかがわかって、感動で涙がでる。
チャーチルを演じるゲイリー・オールドマン。アカデミー主演男優賞に値する演技は、演技とは思えない、すばらしいものです。
これまで知ることがなかったチャーチルのイメージ、妻との他愛無い夫婦喧嘩、入浴中・トイレ中でも原稿を読み上げる、涙するタイピストにそっとハンケチを差し出すやさしさ、国王のまえで外相ハリファックスをぼろ糞に貶すなどユーモアたっぷりの演技にびっくりです。
そしてなんといっても人を引きつける圧巻のスピーチシーンは、「彼は演説という武器を手に入れた」というハリファックスの言葉がわかるほどに圧倒される。
そのゲイリー・オールドマンをチャーチルへと変身させた辻一弘さんの特殊メーキャップは、メイクアップと気づかないほどのみごとさだ!
物語の展開がスピーデイーで、映像もとてもよく工夫され戦時という雰囲気がよくでている。俯瞰カメラで捉える、冒頭の議事堂・偵察機による戦場視察で目にする子供・そしてチャーチルに見捨てられたカレー守備隊長が見上げる空。いずれもチャーチルの深層心理をしっかり表現されていて、心を揺さぶられる。
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物語、
1940.5.9.独軍がベルギーに攻め入る前日、英議会はチェンバレン内閣の不信任を可決。後任首相でもめる与党、だれもが外相の ハリファックス(ステイーヴン・テイレイン)が平和を交渉できる人物で適任と思うが本人の辞退で、チェンバレンの「野党に受け入れられる人物」ということでチャーチルが選ばれる。チャーチルは「国難のとき、損な役!」だという。
5.10.国王ジョージ6世(ベン・メンデルソーン)から首相に任命される。
ベットで食事中でも、ベルギーが連合国に援助要請してきたことへの原稿だと、いきなりのタイプ要求にレイトンが泣き出す。これを見た妻クレメンテイーン(クリステイン・スコット・トーマス)が「最近マナーが悪い。尊敬される首相になって!」とやんわりと諭す。これを受け入れる首相がやんちゃで愛嬌がある。
史上最大の作戦を控えている。私は楽観と希望で首相になった。私が差し出せるのは血と苦労と涙、そして汗だけだ。目の前には忍耐と苦難が待っている。我々の方針は「陸、海、空で徹底的に戦う。人類の犯罪史に残る男を葬る。我々の目的は勝利だ。徹底的に戦う。この演説は評価されなかった。「交渉しなければ生き残れん」とハリファックスが吐き捨てる。
チャーチルはトレインを連れて女性立入禁止の地下壕作戦室で戦況報告を受ける。
「敵は後方に第9軍の20万が控えている。制空権は独だ。わが海軍はいまだ回復せず。700万の難民が戦場で動いている。西ヨーロッパは壊滅だ」とブリーフィングを受ける。“まずがフランス軍の攻撃支援だ”と航空機偵察に出る。身軽に体を動かすことに驚かされる。この体力が絶対に首相には要求される!逃げ惑う子供と目線が会う。
格納庫で仏軍司令官と意見交換。「手がない」という将軍に「戦車で突破されただけで負けか。地図に立った敵にすぎん!奇襲されても侵略ではない」と強気。これにハリファックスが「チャーチルは1日に1000のアイデアが出る。使えるのは1%だ」と揶揄する。リーダーに最も求められるのは知恵だ。
5.19.勝利のVサインを練習して、国民に向け演説する。
トレインに、トイレにも付き添わせ、言葉を吐き出す。(笑)タイプせよ、読め!と演説原稿を作り上げていく。突然キケロの本を探し始める。本は売ったという妻と言い争う。しかし、とても微笑ましい夫婦喧嘩。
放送室では、直前まで原稿に手を入れる。「国民のみなさん、首相として初めてお話します。独が空爆と戦車軍団をもってマジノ線戦を突破しました。今も攻撃中です。しかし、打撃を受けたのは仏軍の一部。侵略されたのはほんの一部の領土。英と仏は勝利が手に入るまで戦い続けます。服従しない。
どんな犠牲や痛みを伴っても、我々は勝たねばならぬ」と演説。
帰宅したチャーチルは妻に「私は真実を語る政治家だ。軍はボロボロだ」と語ると「いまは知らなくてよい」と返事し夫をやさしく迎える。
レイトンからチャーチルのVサインは「糞くらえ!」の意味だと教えられる。(笑) 国王から「国民を正しく導け!」と電話が入る。
カレーに4000の守備隊がいると聞いて、「この部隊で敵を拘束、空軍で海岸堡に接近する敵を阻止する」と指示する。
これに対して、「これでは全陸軍を失う。平和交渉をしよう」とハリファックスとチェンバレンが主張。お互いに譲らない。いったん論議を中止して、米大統領ルーズベルトに軍艦1隻と輸送艦40隻を貸して欲しいと打診する。平和ボケしたルーズベルトの返事が面白い。が、断られる。
そこで思いつくのが小型船舶を集めての救出作戦“ダイナモ作戦”だ。海軍司令部のラムビイ将軍に実行を命じる。すざましい気迫だ。
チャーチルは、責任は自分がとると「カレー守備隊の救出は行わない」という電文をレイトンにタイプさせる。
泣くレイトンにやさしくハンケチを差し出す。この日、カレーは陥落。ラムビイ将軍にダイナモ作戦を督促する。
5.27.ベルギーが陥落。作戦室で状況を確認する。チェンバレンが「現実を見ろ!」と独との交渉を勧める。イーデン陸相が「陸軍が全滅する」と訴える。チャーチルは「交渉案は示すが、そうはならんだろう」と交渉準備に応じる。
レイトンに「果たして交渉が、自分の業務か検討する」とタイプさせ、ウイスキーを一口飲んで、「交渉相手はあの曹長か!あのような野蛮人が、殺屋が、ペテン師が」としゃべりタイプを点検しようとするが、レイトンは「聞き取れませんでした」と。
レイトンの兄がダンケルクで亡くなったと聞き、「私が考えているのは交渉を受け入れるべきか否や」とつぶやく。
妻が「お客さんよ」と言い、「全世界があなたの肩にかかっている。その心の葛藤があなたを鍛えてきた。欠点があるから強くなる。迷いがあるから賢くなれる」と問いかける。
お客さんは国王。「勇敢に戦って敗れた国は立ち上がれる。逃げ出した国に未来はない。しかし、いま自分を支持する者はいない」と弱音を吐くと、「私は君を支持する。あのヒトラーが怖いのは君だ」と励ます。「議会が聞かないではどうにもならん」に「町の声だ」という。
閣議で、降伏しないのは国民の総意であり、和平交渉はしないと決意を表明したのち、下院で演説する。
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