映画って人生!

宮﨑あおいさんを応援します

「孤狼の血」(2018)

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「凶悪」「日本で一番悪い奴ら」の白石和彌監督に「渇き。」の役所広司さんが主演、共演に松坂桃李真木よう子中村獅童竹野内豊ピエール瀧石橋蓮司江口洋介さん。原作が人気作家・柚月裕子さんの同名小説。未読です。公開初日初回に観て参りました。「やくざ映画」と思っていましたが、とんでもない、不条理な社会に自らの理想を掲げて突き進む熱い上司とその背中を見て育つ部下の物語で、“こう生きなきゃ”と爽快な気分になれる映画でした。人生はこういう上司に出会えるかどうかで決まると思う。

今年の映画賞では何かの賞は取れるでしょう。取ってほしいです!
 
作品は、「暴力団対策法成立直前の昭和631988)年。暴力団同士の抗争が激化する広島のとある地方都市を舞台に、暴力団が絡む事件の解決に乗り出したマル暴刑事が己の信念のみに従って進める法律無視の過激な捜査の行方を壮絶なバイオレンス描写とともに描き出す」と紹介されますが、圧倒的にこの刑事とその部下の成長のなはしです。部下のはなしの方が胸に響くんですよね!
 
ふたりの刑事のはなしは、己の都合でのみ動くやくざのはなしを圧倒しています。「やくざ映画」の範疇と言われる中で、異色を放っており、テーマ性が圧倒的で、今日のなんでも法律、規則でしか動こうとしない、動かない社会風潮に、人は何を正義に、どう生きるかを説いているように思います。こんな気骨のある上司を持ち、それを継ぐ新米刑事に涙が止まらなかった。
 
白石和彌監督が作品の刑事と同じ気持ちで、映画をどう面白くするかと挑んだ作品ではなかったかと、TVでは絶対に観れない作品、その思いが伝わる作品でした!!
 
脚本は「日本で一番悪い奴ら」の池上純也さん。刑事とその部下にはなしを絞り、なかでも部下が挫折を味わいながら、この上司こそが自分の理想の上司と成長する様を克明に描いたのがよかった。事件をめぐる警察とやくざの闘い、それぞれのなかでの対立と、複雑な物語を面白いエピソードを挟み、テンポよく見せる脚本が見事です。

冒頭の豚糞を食わせ指を切り落とす出だしに圧倒され、次に何が起きるかと恐怖心をあおり、刑事の聞き取りで見せる破廉恥行為()、パチンコ店での脅しによる自供強要、極めつけは真珠取り攻めでの自供強要などはらはらどきどき、面白かった! 遺体を掘り起こし、首を確認する刑事。恐ろしい、

これで刑事の持ちがわかるというもの。クライマックスでのやくざの闘争劇は目を背けるほどの凄みがあった。そして、ラストで見せる新米刑事の爽やかな表情に、この作品のメッセージが託されるというエンデイング。すこしくどいという感じもありますが、すばらしい。()

出演者の演技。役所さんの狂ったようなやりたい放題のそれでいて自分なりの正義を主張する刑事、時に見せる笑顔や心使に、演技の凄さを見ます。「渇き。」より深化していますねえ.
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部下の松坂さん、国立大学を出たばかりで規則や法律でしか物が考えられない新米刑事が、もまれ、泣き、先輩の背中を見て自分なりの正義を見つける演技が、清々しくすばらしい。若手の中で一番の成長を見せてくれた俳優さん。ぜひ大河で主人公を演じて欲しいです。( ^)o(^ )
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どの俳優さんも役に嵌ってすばらしい。目についたのが、中村倫也さんが親分衆をピストルで撃ったときの表情、ここで見せる目が逝った狂気の表情が残っている。すばらしかった。
 
呉のオールロケ。商店街やクラブのある繁華街の風情や加工された建物に当時が忍ばれ、ここで行われる祭りのシーンは忘れられないものとなりました。
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物語は、
冒頭、加古村組関連企業である呉原金融の経理担当・上早稲(駿河太郎)を、組の若頭・野崎(竹野内豊)、苗代(勝矢)らが養豚所でリンチを加えるシーンから始まる。このときポップコーンを咥えていたからきついシーンでした。()この後、指を草刈り用鋏で切り落とすというとんでもないシーンに、覚悟を持って観ることに挑みました。糞シーンが再度出てきて、このときはもうすっかり慣れていました。() 竹野内さんがこの役を演じるというのも納得、出番が少ないが存在感があった。
 
ここで第3次広島抗争(1974)とその後について「新たに進出してきた広島の巨大組織五十子会系の加古村組と地場の暴力団・尾谷組との抗争の火種が燻り始めた」というナレーションで入る。

新米刑事・日岡松坂桃李)がカキ氷を二つ買って取調室に持ち帰ると、主任刑事・大上(役所広司)が兄の捜査依頼人・上早稲潤子(MEGUMI)と食べ始め「お前、邪魔じゃけん帰れ」と指示し、この女と楽しむという刑事。
 
大上が日岡を連れて町にでる。大上の風貌は開襟シャツに髭面で、黒のサングラススタイルは刑事よりやくざ、役所さんだとは思えない。()
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「一発抜いたあとは当たる!」とパチンコ店に入り、あたりをつけていた苗代に「傷を負うほどの因縁をつけて来い」と日岡に指示。傷害事犯で捕まえ、これまでの犯罪歴を加えて脅迫し、上早稲殺しを吐かせようとする大上。テンポよい展開、大上のキャラクターの見せ方に唸ります。この映画は面白い! 日岡・松坂さんの殴られっぱなし(役)もいい。()

日岡の傷治療に薬局を訪ね、アルバイト店員の岡田桃子(阿部純子)に治療させる。この設定が面白い。()
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桃子は日岡が弱音を吐ける唯一の女。桃子は日岡の成長に関わる重要役を担うことになる。阿部さんの清純な演技が、この作品では、救いです。()

大上は、マル暴刑事として、五十子会会長(石橋蓮司)、加古村組長(島田久作)、地場の尾谷組組頭一ノ瀬(江口洋介)らと、情報のやり取りで適当に渡り歩きながら、事件を追って生きる術を知っている。石橋さん、島田さん、そして現在鳥取刑務所に拘束されている尾谷組長の伊吹五郎さん。そうそうたるやくざ顔で、画面が締まります! 江口さんの尖っていても暖か味のある“切れやくざ”も良いですね。
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懇意にしている右翼団体代表・瀧井銀次(ピエール瀧)から、加古村組員が連れ込み宿で上早稲を処分したらしいという情報を入手し、この宿に忍び込み、旅館に火をつけて、殺害現場のビデオを手に入れる。このシーンは調子よすぎ。() 

日岡は桃子のアパートを訪れ、とんでもない大上のやり方をぼやく。寝る前に、大雨のなかビールを買いに出て、発砲事件に遭遇する。
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格闘のすえ捕らえた男が尾谷組組員備前(野中隆光)。やってきた大上に「バカ、なにやっとる。(尾谷組組員)タカシ(田中偉登)がやられた」と大発破を喰らう。良いところを見せたのにとくさる日岡
 
加古村組の犯行であることを確認した大上は、股間に仕込んだ真珠が自慢な加古村組員・吉田(音尾琢真)がクラブ「梨子」のマダム高木里佳子(真木よう子)に迫るのを利用して、ホテルに誘い出し、吉田をベッドに縛り手錠をかけ、逸物に埋め込んである真珠をナイフで切り出し、更にこの真珠を口の中に押し込むという拷問により、上早稲殺しを白状させるシーン、びっくりでしたね!顔をそむけました。
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絶対にTVには映せない。はるかに「レッド・スパロー」(2018)を超えています。() 真木さんがひるむ吉田に蹴りを入れる気風のいい演技に笑います。() 
反撃する吉田、大上に、「五十子会幹部・金子(黒石高大)殺しを県警に告るぞ」と脅しをかけてくる。これを聞いた里佳子の表情の変化が絶妙です。日岡も人殺しまでしてこの職を全うしようとするのかと苦悶する。
 
吉田の自白から、養豚業者の善田(岩永ジョーイ)をえげつない拷問で責めて吐かせ、上早稲の埋蔵場所を突き止めて発掘する。これがグロいシーン、でも笑えた。
 
一方、日岡はこれまでの大上のやり方に疑問を持つ。彼は、着任時県警監察官・嵯峨警視(滝藤大輔)に大上の監視を命じられており、この機会にこれまでの活動状況を報告する。これには金子殺しの件も含まれていた。嵯峨警視は、これを聞き、証拠として「大上の日記」を手に入れるよう指示する。大上は日記で県警幹部をも脅してたのだ。

事件は遺体発見で解決と思われたが、タカシがぶっ殺されたことで尾谷組と加古村組の対立が激化。ついに、逆上した尾谷組の永川(中村倫也)が五十子会長ら幹部を襲撃したことで、決定的な対立の突入する。
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このことで、尾谷組は五十子会により襲撃されるが、そこに幹部の姿はなかった。
何とかしたい騒動を収めたい大上。しかし、金子殺しを嗅ぎつけ県警本部に確認にやってきた記者・高坂(中村獅童)の存在で、謹慎処分で活動停止に追いやられる。
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大上はうまく署を抜け出し、五十子が入院中の病院に訪ね、抗争を収めさせようと交渉するが、これまで面倒を見てきた組頭・一ノ瀬の破門要求が飲めず、結論を持ち越しにする。
五十子と大上の対立シーン、どちらの悪っぷりもおもしろい。特にうなぎを喰いながらの石橋さんの人をコケにした凄み。() 
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大上は「あいつらはいつも己の言い分だけじゃ。今から説得じゃ、わしの頭には極道のねたが一杯じゃ。これで落とす。びっくり、むっくり、クリトリスや」()日岡に言い残し、姿を消す。
 
日岡がクラブ「梨子」を訪ねると、里佳子から、渡しておけと言われたという大上の「日記」を受け取る。日記は、県警本部幹部の履歴メモ(スキャンダルメモ)で、最後に日岡について「ようやったのう。褒めてやる」とある。日記は大上が刑事として生きるための保険だった。「大上は金本を本当に殺ったのか」と聞くと、里佳子は「自分が殺した。大上がそれを庇ってくれた」という。日岡が大きなショックを受ける。
 
大上の遺体が桟橋で上がる。この知らせを聞き桟橋に走る日岡の表情が一変している。遺体を見て慟哭する。大上の死因は酒と薬によるものと報道される。
 
ここから、日岡の大上の生き方を引き継いだ復讐が始まる。まずは養豚場に出向き大上殺害痕跡を探索し、その痕跡を見つけ、善田を徹底的に傷めつける。すざましい暴行シーンです。

次いで「それやったら上さんかに祟られるぞ!」という銀次に五十子組を潰す計画を明かし協力を求める。
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五十子会の祝いのホテルに、密かに尾谷組を引き入れ、一ノ瀬に五十子の首を取らせる。ここでの五十子の殺され方がすごい。ことが終わって、一ノ瀬が代替え玉を寄越すが、一ノ瀬を逮捕する。はるかに大上のやり方を超えている。()
 
嵯峨警視に大上の日記を渡し、刑事を続けることを宣言。日記の最後は自分が書き加えたと申告する。()
大上の葬儀が終わり、墓地で桃子に会い、彼女も大上に救われていたことを知る。「なんだ、美人局だったのか!」と声を上げる日岡日岡は大上を超えた!!
 
「警察じゃけん、何をやってもええんじゃ」という大上の口上。自分に与えられた権限を越えたようですが、堅気を守るという大きな正義のために、人のせいに、社会のせいに、規則のせいにしない生き方に感動します。 並みのやくざ映画ではない、TVでは観ることができない作品。大勢の人が劇場で観て欲しいですね!
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