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「人魚の眠る家」(2018)

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原作は東野圭吾さんの現在累計100万部を超える同名ベストセラー小説。監督は「SPEC」シリーズの堤幸彦さん。NHK•Eテレで「SWITCHインタビュー 達人達」(20181020)に出演され、特に力を入れた作品と紹介されました。これは観なければと楽しみにしておりました。
 
脳死を受け入れるかどうかの選択に苦慮する夫婦、子にかける母の大きな愛のミステリアスで壮大なヒーマンドラマです。
主演は篠原涼子さんと西島秀俊さん、共演に坂口健太郎川栄李奈田中泯松坂慶子らです。
 
6歳の娘瑞穂(稲垣来泉)がプールで溺れ意識不明となり、医師進藤(田中哲司)から“脳死”と診断され、脳死を受け入れ臓器提供するかどうかという究極の選択を求められた播磨和晶(西島秀俊)、薫子(篠原涼子)夫妻。
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娘との別れの瞬間、握りしめた娘の手が一瞬動いたことで、妻が「娘は生きている」と臓器提供を拒否。 娘の先の読めない在宅介護で、延命にと最先端科学技術を導入して人工的に生かす妻。妻の行為は善なのか悪なのか、愛なのかエゴなのかと戸惑う夫や周囲の者たち。そして、最後に家族が行き着く究極の選択は・・・。
 
この結末には、泣けます! そして、よく検証された、“立派な医療ドラマ”になっているという、すばらしいドラマです。
 
テーマは、「あなたは脳死を受け入れられますか」。死とは何か、なにをもって、誰が死と決めるのですかを問うています。
このテーマ、大変難しい問題。しかし、誰しもが出会いかねない大問題。この作品で「自分ならこう決断する」と考えてみることに大きな意義があると思います。
 
作品では、医学的な知見、倫理的視点、社会通念など広く考察を加え、その決断を、子を愛する母に委ねたことに大満足です。人はこの母の行為をエゴと見るかもしれませんが、彼女にはこれを凌駕する愛がありました。ここに感動させられました。( ^)o(^ )
 
脳死とはなにか? この映画では、赤と青の色彩で生死を表現しています。
瑞穂が董子の枕元に立ち別れを言うシーン。顔の左右が色分けされています。
私の介護経験では、8ヵ月後に身体の左右に大きな体温差が出ました。これが脳死です! この描写に鳥肌が立ちました。
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決して笑顔を見せることなく、物言わぬ娘に見せる不気味な笑み、狂気とも見える母・篠原さんの演技、そして、終始眠り続ける娘・稲垣来泉ちゃんの顔は脳死の娘の顔に見え、すばらしかった。
 
妻を支えながらもその行動に苦悩し、ある妻の行動で目覚め、身体一杯で妻を受け止める夫・西島さんの変化のある演技が、これまたすばらしい!
 
そして、IT技師・坂口健太郎さんのピュアーで温かみのある演技は、この物語にリアリテイを与えてくれたように思います。
 
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冒頭、ボールを追って播磨家の庭に入った少年が、そこで見た、眠っているような車椅子の少女瑞穂。生きているのか、死んでいるのか、これがテーマです。
物語は、ここから遡り、瑞穂が母董子に見送られ、祖母千鶴子(松坂慶子)と一緒にプールに出かけるところから物語は始まる。
 
董子はふたりの子を持つ母親で、IT機器メーカーを経営する夫和昌とは別居生活中。瑞穂が有名小学校に入学したら離婚する予定。
 
この日、董子と和昌は瑞穂の入学試験ゼミに夫婦で参加中に、瑞穂のプール事故が伝えられ、急ぎ病院に駆けつけ、意識不明の娘に会う。
 
董子は、自分の生き方で、娘をしっかり見てやれなかったという贖罪。また、祖母千鶴子には孫に自分の監督下で事故を起こさせたという大きな後悔がある。このことが、「何としても瑞穂を生かしたい」という、これからのふたりの行動に大きく影響します。
 
神経科担当医師・進藤の下した診断は、「脳に重度の障害、脳波がない。残念だが脳死の可能性が高い」というもの。
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ICUに入り瑞穂に会う。そっと手を握る。やわらかい手に体温がある。にもかかわらず、進藤医師は「数日で心停止。こどもの場合は数か月で。回復した例はない」と言い、臓器提供の有無を持ち出します。夫妻にとって、おそらく進藤の言葉は信じられなかったでしょう。
 
播磨夫妻は、その夜は家に戻り、脳死とはなにかと資料を漁り、臓器提供に応じることにする。翌日、臓器移植コーデネイターが見え、別れを惜しみ手を握ると、瑞穂の手が反応する。
董子は「この子は生きている。死んでいない」と確信し、いつかは意識が回復するという奇跡に賭けることになる。異常とも思える彼女の行動はこの覚悟からきている。董子は夫に離婚を取りやめ、協力を求めます。
 
この時点での進藤の判断は「手が動いたのはラザロ徴候(脳死患者によくみられる自律反応)。“子供の脳死はまだ決め付けられない”。しかし、自分の考えは変わらない」というもの。董子の採った行動が、全く医学的に間違いというものではない。
 
瑞穂は人口呼吸、薬剤による栄養補給で、生き続けることになる。董子は、おそらく娘が結婚する年齢までには回復すると考えたでしょう。
董子は、瑞穂に付き添い看護士から在宅介護に備え、介護技術を学ぶ。ここはしっかり描かれていました。
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そして、一か月後退院し在宅介護に移るに際し、人工呼吸法をこれまでの気管挿入から気管切開に切り替えるのですが、夫・和昌の会社研究員・星野(坂口健太郎)の勧めで、横隔膜ペースメーカーを取り付ける。国内ではあまり例がないという。これにより、介護が楽になるし、なによりも患者を動かしやすい。
 
在宅介護は母親千鶴子と訪問看護師を加えた三人態勢。バイタルの管理から入浴まですべてを董子が取り仕切る。大変な労力です。
 
ペースメーカーの効果で瑞穂の代謝がとてもよい。クリスマスシーズンを迎え、董子は もっと身体が動かせないかと和昌に相談する。
和昌は、董子の頑張りと回復に向かっているように見える娘の現状に驚き、星野に人工神経接続技術(ANC)で手足が動かせる装置の開発を命じる。 
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ここからが、この物語の面白いところです。本人の意識がなくても人為的に作られた電機信号を脊髄神経に伝え手足を動かすというもの。
 
瑞穂の足が動くことに董子は興奮。この様子を見て、人のためになる研究をしていると喜ぶ星野。恋人川島真緒(川栄李奈)の誕生日をも忘れてANCの性能アップに励む。
 
こうして作られたのが、筋肉を動かして微笑むANC。自分の意思ではなくて笑う瑞穂を見た和昌は愕然とする。
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このシーンは、ホラーと感じ、ぞっとしました。普通の人はそう思うでしょう。これがこの作品の狙いです。ここまで求める董子の愛と倫理との衝突です。
 
星野に会えない不安から、真緒が播磨家を訪れ星野の作成したANCの動きを見て「これが彼が守りたい世界。この先に何があるの」とつぶやく。これが普通の人の感覚でしょう。
 
和昌が父親播磨多津郎(田中泯)に相談すると「人間が技術に関わるには範囲がある。お前はそれを超えた」と忠告される。 和昌は董子と距離を置くようになる。
 
和昌は偶然出会った友人の「臓器移植支援募金」に心を動かし、100万円を寄付する。そこで、移植を希望する親から「脳死者の親御さんの気持ちを大切に思っている。ただ、待つのみです」と聞かされる。臓器移植を受ける側の難しい現実が描かれている。
 
一方、董子が瑞穂を車椅子に乗せ外出するようになり、息子・生人(斎藤沙鷹)の入学式にも参加する。
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これを見る周りの人は「大変ですね。お母様はよくなさる」とは言うが、その本心はわからない。
 
しかし、息子・生人が「お姉ちゃんは死んでいる。お母さんがそれを認めないだけ」と反発しだす。瑞穂の見舞いによく訪ねてくる生人の従妹・若菜(荒川梨杏)も「それ、言ってはダメ!」と意味深な発言をする。若菜を問い詰める薫子に妹・美晴(山口紗弥加)が反発し、姉妹の大喧嘩となる。
 
さらに和昌が臓器移植支援募金に100万円寄付したことが董子にバレ、「それはあなたの贖罪。瑞穂が生きているとは思っていない」と、夫婦の間に大きなき裂ができる。
 
こんな中で迎えた生人の誕生会。招待した生人の親友6人が来ない。生人に聞くと「虐められるので、お姉ちゃんは死んだことにした。誕生会のことは言わなかった」という。
董子は生人を殴りつける。これを参加者が庇う。これを見た董子は「瑞穂は家族から見捨てられた!これでは生きて行けない」と、皆に、世間の見方や知識によるものでない“本当の心”を知りたいと警察官を呼び、瑞穂に包丁を突きつけ、「脳死でも、刺して心臓を止めたら殺人になるのですか。法律に、国に問いたい」と叫ぶ。これまでの伏線が、ここで全て解消されます!
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警察官は「殺人だ!しかし、そんな仮定の質問に答えられない」という。瑞穂と一緒に死のうとする董子に、和昌が「おれが偽りの希望を与えた。それでも、殺さないでくれ」と止めに入る。

若菜ちゃんが、「瑞穂ちゃんは、自分が落とした指輪を探していて、排水口に指を挟まれて溺れた。私の身代わりになった」と事故の真相は話し、「董子おばちゃんを手伝うから、瑞穂ちゃんを生かして!」と泣く。
生人はこれを見て「学校でお姉ちゃんは生きていると伝える」と泣き出す。
そして、おばあちゃんも美晴さんもみんなが泣いた!( ;∀;)
 
これで董子の気持ちが救われ、家族で瑞穂を外に連れ出し散歩を楽しむようになる。董子は、瑞穂が楽しそうに描いた絵のなかに、人の幸せを願う子であったと瑞穂の優しさを見つける
 
雨の夜、董子の枕元に瑞穂が立ち、手を動かして「おかあさん、ありがとう。今までありがとう」。董子が「もう行くの?」と問うと、「お母さん、うれしかった。幸せだった」。
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ピッピーという血圧低下を知らせる警告音。おそらく董子の身体は凍りついたでしょう。何度も何度もこの音で絶望の淵に追いやられ、強くなった母親・董子の愛は壮絶です!
 
病院で、瑞穂のバイタルは元の数値に回復したが、董子は「瑞穂は亡くなった」と進藤に「脳死判定」を求めます。
 
快晴のなかで、瑞穂の葬儀が行われた。瑞穂の死亡日時は、董子に別れにやってきた夜となっていました。
遠藤医師が和昌に「死亡時期はいつですかね」と問うと「死を実感したのは、心臓は止まった時です」と応えると、「それなら瑞穂ちゃんはどこかで生きていますね」という。この言葉にどっと涙が出ました。和昌の言葉、心臓停止の瞬間に立ち会った人の言葉です。
 
とてつもなく愛に溢れたお母さん。このお母さんに見送られ瑞穂ちゃんは天国に。両親にそして冒頭で描かれた少年に、すばらしいプレゼントをしましたね! 「脳死とはなんぞや」という重い物語が、男の子の心臓音で終わるというラスト、すばらしい作品でした。
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                                     主題歌「あいことば」