映画って人生!

宮﨑あおいさんを応援します

「影踏み」(2019)

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原作は横山秀夫さんの同名小説。多くの作品が映像化されるなかで、映像化不可能と言われてきた最後の最後の一作だそうです。未読です。
主人公は、人の寝静まった住宅に忍び込む凄腕の「ノビ師」。横山さんの小説で、犯罪者が謎を濃き明かす小説内はないといわれ、これに注目しての横山作品鑑賞でした。
この作品は“ねたばれなし”で見るべきです。ネタを知ったら全く面白くないでしょう。

監督は「月とキャベツ」の篠原哲雄さん。主演は山崎まさよしさん、共演に尾野真知子・北村匠海滝藤賢一鶴見辰吾・大竹しのみ・中村ゆり中尾明慶さんら。

サスペンスとしての謎解は、きっちり答えを出してくれ心地いいですが、影のある主人公の生き様が解かれてくる人間ドラマがすばらしい。尾野真知子さん演じるノビ師の恋人・久子の恋心に心動かされます。尾野さんフアン必見です!!

あらすじ:
「ノビ師」の真壁修一(山崎まさよし)が、ある日の深夜、県議会議員・稲村道夫の自宅に忍び込むが、そこで偶然、就寝中の夫にまさに火を放とうとする妻・葉子(中村ゆり)の姿を目にする。そして彼女を止めた直後、その場にいるはずのない刑事・吉川聡介(竹原ピストル)に逮捕されてしまう。2年後、刑期を終え出所した修一は、彼を兄貴と慕う若者・啓二(北村匠海)とともに自らの人脈を辿り、自らの流儀で事件の真相を追うなかで、ずっと心の底に押し込めていた20年前の事件の記憶が呼びさまされ・・・。
               *
修一が投獄された事件の真相を追いながら、なんで修一がノビ師となったのかと修一の人となりが明かされるが、ふたつのドラマの繋がりが不自然で、感情移入しずらく惜しい作品になったように思う。

兄貴と慕う若者・啓二は、亡くした自分の弟と同名、うりふたつである。ふたりの関係はタイトルの「影踏み」となりファンタジーであるが、どちらの啓二なのか、それに伴う感情の切り替えが難しい。

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***(ねたばれ)
修一は東大に進学し司法試験を目指した男。山崎さんのイメージにはほど遠いように感じた。(笑)
この修一が、出所後、図書館であの事件を調べた。吉川はなぜあの場所に現れたか。葉子がその後どうしているかを調べることにする。

まず謎の多い刑事の吉川に会う。吉川は「稲村は借金で破産し、家財一式を取られ葉子と離婚、今は行方不明だ」という。
次に昔盗んだ製品の買取業者・大室誠(中尾明慶)に会う。「篠木という関西系ヤクザが進出し、稲村に変わった。葉子は篠木と関西でいちゃついている」という。

修一が戻って動いているということで、相手が動き出した。吉川が殺された。

馬淵警部補(鶴見辰吾)が修一のいるサウナを尋ねてきた。馬淵は「吉川は溺死体で見つかった。葉子が営むスナックで泥酔した帰路での出来事だ」という。
吉川と誠が話した葉子の所在が違う。何故か?葉子を囲ったのは関西ヤクザではなく、地元警察の刑事吉川か? このあたりは横山さんの小説ではよく出てくるパターン。
馬淵から昨夜の居場所を聞かれた修一は、咄嗟に安西久子(尾野真知子)の名前を出した。馬淵は復讐にしては悪すぎると悪態をついた。
久子は保育士の仕事をしながらノビ師の修一の出所を待っていた。なぜ彼女がノビ師の修一を愛し続けるのか?
彼女は今、文具販売をしている久能次郎(滝藤賢一)からプロポーズされている。

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サウナを出て、啓二が「弟は何で兄貴を犯罪人にした。後悔しているんだろうな!」と修一に話しかける。まるで死んだ啓二が兄に語り掛けているようだ!
修一は20年前、高校教師の母(大竹しのぶ)が啓二が万引したことを苦に、ふたりで焼身自殺したことを思い出す。

修一は久子のアパートを訪ねた。久子は「名前を出してくれてうれしい」と言い、金を渡そうとするが修一は断った。修一は久子を抱くこともなく朝になると、啓二と一緒に闇金屋の加藤(田中要次)に出向き、金を借りる。この際、地裁執行官・轟木がバックバージンを取って居る」と話す。轟木が稲村の財産を処分に絡んでいるのではないか?誰からバックバージンを取ったか?
修一は葉子のスナックを訪ね、あの夜吉川は轟木と一緒だったか?吉川と葉子の関係を聞く。葉子は「一緒に飲み、吉川はひとりで店を出た。あの事件の夜ひとりでは不安だから吉川に来てもらった」という。葉子の夫殺し未遂事件の全貌が見えてきた。

修一は轟木邸に忍び込み、預金通帳とネックレスを盗みだした。通帳にはしっかりバックバージン」での入金が記されていた。ネックレスを誠のところで金に換えた。

一方、久子は修一の身分が保育園に知られ、退職を促され、「私の愛する人はドロボウです。あの人は私なのです!」と堂々と宣言して退職する。なにが彼女を強くしたのか?

修一は、驫木と深い関係にある地裁判事・栗本(下条アトム)を訪ね、吉川殺しを臭わせ、止めを刺して結果を待つことにした。ここまでは、これまでの横山作品の展開でした。

予想通り、誠が修一のアパートにやってきて、斬りかかる。吉川殺しの犯人は誠だった。誠を引き取りにきた馬淵警部補に轟木の貯金通帳と自分の自転車に仕組んであった警察のマイクロチップを渡した。

久子が久能のプロポーズを断ったことで、兄(滝藤賢一)が久子を訪ねてきて、暴力を振るった。
謝りにきた久能は、兄とは双子で、自分のやっている商売も彼女も欲しがり、この事件を起こしたと謝罪した。

修一は、自分も双子の弟・啓二が自分の彼女だった久子に恋慕した。久子にとっては、顔・姿が似ていても啓二は修一ではない。弟は兄のものを欲しがり、双子の場合は特にこの傾向が強いのかもしれない。久子はきっぱりと啓二の想いを切った。このことで啓二は泥棒となり、母親がこれを苦にして啓二とともに焼身自殺した。
修一は母、啓二を死なせたのは自分だと悔やむ。啓二の影を踏むようにノビ師になっていた。久子も、修一が母の葬儀で見せた「骨を二度焼くな!」と慟哭した姿を見て、修一と同じ運命を背負うことに決めたのだった。

修一は双子だから分かると久能の苦悩に自分を重ね、久能文具店に入り込み倉庫を調べた。兄は殺されていた。修一は戻ってきた久能に警察への出頭を勧め、久子の元に戻ってきた。このとき、修一は自らに課していた弟・啓二への贖罪から解放されていた。

他の横山作品にはない、強烈な愛にあふれた物語でした。原作を読みたくなります。
***


映画『影踏み』 予告編

“いだてん”第43回「ヘルプ!」

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開催まで2年。国民のオリンピック熱は盛り上がりにかけていた。テレビ寄席の「オリンピック噺」に目を付けた田端(阿部サダオ)は五りん(神木隆之介)を呼び、広告塔に任命する。組織委員会で準備が本格化。アジア各地を回る聖火リレーの最終ランナーの候補に金栗四三中村勘九郎)が浮上する。田畑はジャカルタで開催されるアジア大会を席巻し、五輪開催にむけ勢いをつけようともくろむが、開幕直前に大問題が発生する。

感想:
田畑は東京オリンピックを自分の理想のオリンピックにするため競技場・選手村の設置、選手育成、聖火ランナーコースの選定、シンボルマーク、柔道や男子バレーボールの正式種目化など積極的に進めてきた。ほとんど政治家の出る幕がなく、彼らの反発を買うのは目に見えていたが、遂にその時がやってきた。相手は元自民党幹事長でオリンピック担当大臣。川島は総理の椅子を狙い、選挙の票に繋がる利権を欲しがる。今の時代にも同じようなことが起こっている。“桜を観る会“も同じ、この話を聞くと暗い気分になります。

聖火ランナーのコースの決定、女子バレーボールが正式種目に決定されるなどほぼ田畑の思うがままに進んできた完璧な準備。いよいよアジア競技会で強化してきた選手の成長を見極め、世界に東京オリンピックを宣伝したい第4回アジア競技大会で、インドネシアの政治理念によるイルラエル・台湾参加拒否という問題が田畑を窮地に追い込んだ。

田畑は試合に参加したに選手たちの想い、この大会を認めないIOCの思惑で東京オリンピックが返上させられる可能性のなかで翻弄され続ける。現地での決定権は津島にあるが、島津は責任拒否で逃げる。この混乱に川島が、チャンス到来とばかりにしゃしゃり出てきて、混乱の責任を取らせ、おそらくふたりを首にするでしょう。
これまで観てきたように、生意気なところがあっても田畑でなければオリンピックは出来ない。川島は、自己保身や自民党の利害だけでなく、もっとおおきな世界平和の視点から考えられなかったのかなと、田畑に同情します。自民党が大嫌になった回、生々しいドラマになりましたね!

***
田畑は加納治五郎の「オリンピックでおもしろいことをやる。政治とスポーツは別」とう教えを守って、東京オリンピックの準備に邁進していた。
都内の道路は突貫工事でも、オリンピックムードが盛り上がらない。そこで目に付けたのが「オリンピック噺」の五りん。五りんが組織委員会室にやってくると、森西栄一(角田晃広)が聖火リレーの準備に当たっていた。

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田畑は五りんに「オリンピック噺」を演じさせた。ストックホルムで金栗が走った、すはすは・・を喋った。これを聞いて田畑は、五りんがTVに出ると芸が荒れると断ったが、五りんをオリンピック宣伝部長にすることを決めた。

組織委員会に多くの若者が活動を求めてやってきた。その中に「正しく国旗を掲げることが使命」と国旗を担当する吹浦忠正(須藤漣)という早稲田の学生がいた。第3回大会の女子円盤投げ表彰式で台湾の国旗を間違えるという事件があった。

組織委員会は、空路で聖火リレーを行うことを決めた。古代オリンピック開催地であるギリシャ人のランナーによるリレーでアテネ空港に。そこから特別機でイスタンブールベイルートテヘランニューデリーなどを回り、各地で聖火リレーを行う。その後、バンコク、マニラ、香港、台北と回り、聖火は沖縄へと上陸する計画。
沖縄はアメリカの占領下にあるため、沖縄での聖火リレーを特例として認めてもらうよう、組織委員会は米軍と交渉を始めていた。
沖縄から船で本土に渡った聖火は一路東京を目指し、開会式当日に最終ランナーが国立競技場の聖火台に点火するのだ。

オリンピックを盛り上げるために、ローマオリンピックのマラソン金メダリスト、ベベ選手を招いた。アベベがハリマヤにやってきて、辛作(三宅弘城)と四三に対面。辛作は足袋をプレゼントすると申し出、アベベもこれで走ると約束をした。四三も聖火ランナーを目指すと張り切る。

ある日、農林大臣に就任した河野(桐谷健太)が組織委員会にやってきて、田畑に「島津を辞めさせるのか」と問う。田畑は川島(浅野忠信)から河野が津島(井上順)の更迭を望んでいると聞いたが」というと、河野はこれを否定した。
河野は「事務総長としての手腕は評価するが、スタンドプレーが目に余る。オリンピックを私物化しているという声がある」と忠告した。田畑は「政治家の顔色を伺っていては何も進まん!」と跳ね返した。

6月、田畑はストックホルムで開かれたIOC委員会に参加した。ここでも平沢(星野源)の巧みな演説に助けられ、女子バレーボールが東京オリンピックで正式種目に決まり、“暑さを避けて”と開会式は昭和39年10月10日に決まった。
帰国後、田畑はバー「ローズ」で河野から「津島おろしの首謀者は田畑と、川島が記者に吹聴し、津島を慕う議員が田畑から津島を守れと息巻いていると聞かされた。田畑は「いつの間に俺が黒幕か!」と激怒したが、これまで政治家たちに吐いた数々の暴言を思い出した。河野は「川島はそんな個人的な動きではない。彼は政治をやりたいんだよ。オリンピック大臣なんか飾りだよ」と忠告。

この年、インドネシアジャカルタで、第4回アジア競技大会が開催されることが決まった。20か国が参加、東京オリンピックの前哨戦ともいえる大会。日本スポーツ界は252人の選手を送り込む力の入れようだった。田畑は「東京オリンピックの本番と思ってやってくれ!」と選手たちに訓示した。

しかし、スカルノ大統領が中国、アラブ諸国と密接な関係を築いていて、台湾とイスラエルに招待状と入国ビザを出さないという事態は起こった。

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選手団の出発直前、岩田((松坂桃李)がアジア競技連盟に確認すると、この事実はない、報道は無実無根だと回答を得た。しかし、日本では台湾とイスラエルが激怒しているという外電が飛び交っていた。

東京残留の岩田が「国際陸上競技連盟ジャカルタアジア競技大会を公式の大会と認めず、参加した選手は処罰する」というニュースを見て、「これでは出場すると除名になり東京オリンピックは中止になる」と現地の田畑に知らせようとしたが、滞在先のホテルの国際電話が繋がらなかった。

田畑は通訳がサッカーの中にイスラエルの名があるというので、日本の方が間違っていると思っていた。

翌日、ジャカルタでは各国代表が、台湾とイスラエルの参加を要求したが、インドネシア政府は回答を保留。島津が「引き上げるか」という。東が「それはできない。合法的にやれる方法を考えるべきだ」と反対した。田畑は「ジャカルタに着くとおかしなことが出てきた。なにかウラがある」と川島を警戒していた。

田畑たちは参加するかどうかの決断を迫られた。各国代表は日本の出方を伺っていた。252が参加する日本が引き上げれば、大会は中止になる。

IOCはこの大会を正式な大会とは認めないと表明。日本が参加すれば東京オリンピックを返上させられる可能性があり、日本国内ではボイコットすべきだという声が高まっていた。

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開会当日。田畑たちはホテルロビーで緊急会議を開いたが拙論が出ない。監督たちは開会式に出ることを訴える。津島がこれに反対していると、窓越しに石が投げ込まれ怒号が響いた。暴徒化したインドネシアの人々が参加をためらう日本選手団に抗議の声を上げていた。
興奮状態の暴徒をインドネシア人通訳・アレンが一本背負いで投げ飛ばした。
「日本人たちはなんとか大会が中止しないよう知恵を絞っている」と叫ぶアレンを見て、田畑が「やつは加納治五郎だ、インドネシアの」と胸を打たれた。

日本の新聞には「体協幹部の優柔不断」「64年東京五輪に危険信号」といった見出しが躍り、日本がスカルノに屈してジャカルタに大会に出た場合、西側諸国は東京五輪をボイコットするだろうと報じられた。


田畑はまだ大会に参加すべきかどうか決めかねていた。「どんなときもスタジアムと選手村は聖域でありボイコットはいかなる理由があってもやってはいけないが、2年後の東京オリンピックを取り上げられては元も子もない」と悩む。

東京の岩田は「田畑さんは理想のオリンピックと現実の間で揺れている」と松澤一鶴皆川猿時)と話していると、ジャカルタの田畑から「嘉納さんは何か言ってないか?」と電話をかけてきた。いつもの田畑ではない。河野から「どうなっているんだ!川島はジャカルタにいるぞ」と電話してき。

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川島はスカルノと会談中、日本選手団の宿舎にデモ隊は進入したという知らせがあったが、「心配ない」とカニにかぶりついていた。浅野さんの英会話がスムースでよかったですね!

津島は「俺が決めるんだよ。俺が邪魔化!」と帰ろうとするのを、田畑は「選手の気持ちを考えましょう!」と留めた。そこに川島が現れた。津島が「政府に」決めてもらいたい」というと「俺が政府だ。オリンピック担当大臣だ。だが、政治はスポーツに介入しない。どっちでもいいなら早くきめろ。現場にいて誰も決断できず左往右往している。この醜態こそが問題だ」。
田畑は「だったら引き揚げますと言ったら困るでしょう。スカルノ大統領とズブズブの関係のある大臣には・・」。
これで田畑は首でしょう!
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「ボーダーライン 」(2015) SICARIO

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ドゥニ・ヴィルヌーヴ監督作品ということで、WOWOWで観ました。評判に違わない作品でした。
アメリカとメキシコ国境で巻き起こる麻薬戦争の闇を、メキシコ麻薬カルテルを撲滅すべく召集された女性FBI捜査官の目線で描いたもの。

トランプ大統領が不法侵入者を阻止する壁を強化するという国境の町ノガレス、ファレスを目の当たりにできるというのも観る価値ありでした。空撮の殺伐とした風景に不法侵入は日常茶飯事だろうと、トランプ大統領が主張するのも一理あるなという感慨です。

「ボーラーライン」というタイトルは邦画名。原題はSICARIO。
原題について、冒頭で説明があります。「シカリオの語源はエレサレムの熱心党である。祖国を侵略したローマ人を追い詰め殺戮する者たち。メキシコでシカリオは暗殺者を意味する」。暗殺者がカルテル(麻薬組織)の重要人物を暗殺する物語。
しかし、邦画名の方が面白い。「ボーダーライン」は国境という意味ですが、捜査官にとっては誰が敵か味方が分からない、生と死が隣り合わせる、超法規的行動が求められる堺です。映画はまさにこのような境界を描いています。

あらすじ:
優秀なFBI捜査官のケイト(エミリー・ブラント)は、メキシコ麻薬カルテルの全滅を目的とした部隊に入り、特別捜査官マット・グレイヴャー(ジョシュ・ブローリン)のもとで極秘任務に就く。ケイトは早速、謎めいたコロンビア人のアレハンドレ(ベニチオ・デル・トロ)と共に国境付近の捜査を開始。特別捜索とはいえあまりにも容易に人を殺すことに、そして自分の役割に疑問を抱きながら・・・。
                *
作品は、冒頭からラストシーンまで、ケイトの目線で事件を追い、最後まで明かされない本当の自分の役割は何か、次に何が起こるか、誰に狙われているかと不信、不安、恐怖の連続。カメラで追う異様な風物・音響がこれを一層盛り上げる。
捜索現場での撃ち合いの激しさ、リアルさ。特にサーモグラフィや暗視ゴーグルを通しての映像による戦闘描写はまるでIS指導者アブバクル・バグダーディを米軍特殊部隊が急襲した映像を見ているようで、リアルで迫力がある。

常に不安を抱え、スレンダーな身体で巧みに銃撃戦に挑むエミリー・ブラントが魅力的。可憐なだけに、恐怖を余計に感じたかもしれません。ナイスキャステイングです。
何と言っても、ベニチオ・デル・トロの無口で表情に出さない殺し屋演技は圧巻でした。

****(ねたばれ)
FBI捜査官のケイト・メイサーと彼女の誘拐即応チームが、アリゾナ州チャンドラーで誘拐事件の容疑者宅を奇襲捜査する。特殊部隊が囲み、車両で家屋に突入し、「動くな!FBIだ」と警告してきぱきと指令をするケイトはとても女性とは思えない。しかし肝心の首謀者は不在で、無数の誘拐被害者たちの死体を発見。

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この事件でのケイトの指揮っぷりが買われて、特別捜査官マット・グレイヴャー率いる特別捜索作戦に参加することになる。
ケイトに与えられた任務はカルテル捜索。細部はルーク基地での作戦会議で聞けというもの

コロンビア人のアレハンドレと同乗で、ルーク基地へ移動。上空から見る地表の皺がいびつですごい。と同じように同乗のアレハンドレは寝ているが不気味。アレハンドレが何者かが分かるまでこの緊張感が続く。これが見どころ!

ルーク空軍基地(軍事情報センター)での作戦ミーテイング。
特別捜索隊の任務はファレス警察署からマヌエル・ディアスの弟・ギエルモ(エドガー・アレオラ)を引き取るというもの。
ディアスは合法的に商売しているがメキシコのカルテルにつながりソノラ・カルテルの幹部。彼の兄がギエルモ、ソノラのナンバー3。

移動時国境通過時襲撃されやすい。メキシコ内ではメキシコ警察が隊を誘導するが、メキシコ警察を信用するなと指示がある。

この指示で行動を開始した特別捜索隊。国境検問を緊張のなかで通過、メキシコ警察が隊の前後に付きハイスピードで移動。常にどこから狙われているかとひやひや。高架橋の下に吊るされた遺体を見る。カルテルが見せしめに吊るしているもの。

ギエルモをもらい受けてからの帰路、いつ襲撃されるかと警戒していると並列して走る車が気になる。渋滞で停止中に、カルテルの一味に狙われてことにアレハンドレが気づき下車して近づくと、特別捜査隊の一斉射撃で一味をせん滅させる。ケイトはメキシコ警察から狙われるが軽傷。劇中のケイトも驚くが、映画を観てるこちらも怖くなる!

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エルパソの警察署に戻り、ギエルモの尋問。これがえげつない!アレハンドレの知合いの警察官が「ファウストに繋がるトンネルがあるらしい」と教えてくれる。国境沿いに調査するがトンネル位置がつかめない。

夜になるとファレスの町のいたるところで銃声と爆発音が響く。ギルモアがいなくなったことでカルテル内で衝突が起こっている。

一方、ケイトは特別捜索隊員として参加したが、無謀とも思える銃撃戦を目の当たりにしただけで、捜査官として何の役にもたっていない。特別捜索隊を抜けるつもりで、ケイトは隊の役割をマッに糺す。
マットは「ギエルモがノガレスの東にトンネルがある」と喋った言い、「ここで混乱を起こせば、ディアスはメキシコに呼び戻される。これでボスの居場所を掴む」と語った。掴んでどうするかを明かさなかった。

ギルモアの情報を確認するため、FBI捜索官ケイトの権限を使って、不法侵入者を尋問する。さらに航空写真でトンネルの位置を特定。

ディアスの資金洗浄を行い口座を凍結したことでカルテル内が混乱し始めた。「この混乱でボスはディアスをメキシコに呼びつける。そのときがチャンスだ」とマットはいう。
ケイトは「口座の金の流れを追えば正当にディアスの逮捕出来る」と主張するが、マットは「真の狙いはディアスではなく、彼を従える麻薬王ファウスト・アラルコン(フリオ・セサール・セディージョ)だ」という。

ケイトは「越境して戦を起こすことは違法だ」とFBI上司に訴えるが、上からの命令と却下された。ケイトは正義を重んじる論理はここでは通らないことを知る。

ケイトは、相棒のレジーダニエル・カルーヤ)とバーで飲んでいて、レジーの友人警官・テッド(ジョン・バーンサル)にホテルに誘われる。テッドはカルテルに買収されている警官だった。ケイトはとんでもない醜態を見せたことで隊の言うがままに動かざるを得なくなった。

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いよいよトンネルを使っての麻薬捜索。ケイトもこれに参加。暗視グーグルを着けての作戦。途中でアレハンドレが単独行動に出るのでケイトがこれを追った。ケイトはアレハンドレに撃たれ隊に収容されるが、アレハンドレは単身でファウスト・アラルコン邸に乗り込む。

ここでマットからアレハンドレという人物、彼の任務が明かされる。アレハンドレはメキシコ麻薬カルテルに妻と娘を惨殺された過去を持つメキシコ政府の元検事。彼の個人的復讐を利用してファウスト・アラルコンを殺害し、コロンビア麻薬カルテル一党支配を確立するのが任務だという。このあたりは歴史を調べると面白い。
ケイトはマットの計画の全貌を公表するつもりだと警告するが、やっても無駄だという。このことがラストで明かされるという実に巧妙な特別捜索作戦だった。

アレハンドレは子供・妻と食事中のファウストに、自分の苦しみを味わわせるように、子供、妻、そして本人に食事をさせて刺殺する。

アレハンドレが基地に戻り、ケイトに麻薬捜索作戦終了報告書にサインを迫る。これがケイトの役割だった。ケイトはサインせざるを得なかった。

特別捜索隊は全く自分の手を汚さずメキシコの大物カルテルを潰すことに達成した。いわゆる毒をもって毒を制した。麻薬の流通をコロンビアに任せることになったが、実情はどうなっているのでしょうか? とても面白いシナリオでした。
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映画『ボーダーライン』本予告

「レオン」(1994)完全版 CUT版で十分!

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「午前十時の映画祭10」で完全版(約20分の拡大)を観ることができました。
孤独な殺し屋と、家族をギャングに殺された少女が心を通わせていく物語。
銃乱射に恐怖し、ふたりが出会って心が通じ会う姿に笑って癒され、最後の銃撃戦での殺し屋の自爆に泣かされるという、愛の溢れた、アクションが楽しめる作品。 

見どころは、孤独な殺し屋のレオンを演じるジャン・レノと、家族を失い心に傷を負った少女マチルダを演じるナタリー・ポートマンの演技。特に当時12歳で、この作品が映画初出演というナタリーの演技は見事でした。

完全版では、レオンとマチルダがより深く、純粋な愛で結ばれていく過程が描かれ、ラストでレオンが自爆してでもマルチダ守る気持ちに心打たれます。

この作品について、ポートマンはあまりしゃべりたくないという気持ちを持っていると聞きます。決してこの作品に愛情がないわけではなく、大人になって見て、子供には見せたくないという気持ちではないかと想像します。

わたしは、このナタリーの気持ちを大切にしたいと思います。完全版を観なくてもこの作品は十分に楽しめます。

付加された映像は、
Ⅰマチルダが殺し屋の訓練を受ける
チルダが家族を殺され、レオンに拾ってもらい、仇討ちしたいと銃の基本を教わるシーン。殺しの仕事にレオンがひとりで出掛けるのが寂しいマチルダが、一緒に殺し屋が出来るようよう腕を磨き、プロの殺し屋として活躍するシーン。

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拳銃の分解結合、照準の仕方、引き金の引き方を丁寧に教えていて、素人の方にはとても参考になると思います。マチルダがプロの殺し屋になってからの銃の操作はスムースで見事、さすがプロになったなという感じが出ています。ナタリーはしっかり練習を積んだんだと思います。
米国の子供による銃事件が頻発する現状では、この描写は詳細過ぎるので、カットした方がよいと思います。こんなもの無くても十分楽しめます。

プロになってから何回かふたりは住所を変える必要性で、引っ越しを繰り返します。この時のふたりの引っ越し姿に、ふたりの関係がよく出ていて楽しい。

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Ⅱマチルダシャンパンを飲む
チルダがプロの殺し屋としてレビューし、うまく出来たとレノンとレストランでお祝い。「殺人者になれた。キスさせてレノン」とひと口飲み、レノンの殺し屋レビューは19才と知って、「私の勝ち!」と“がぶ”飲み。レノンは止めなかった。
日本と異なって、米国ではTVの酒CMはなかったと記憶しています。この程度のシーンなら酒でなくてもいい。「殺人者になれた」と喜ぶシーンもいらない。

Ⅲマチルダがレオンに初体験をしたいとお願いする
このシーンはスタンがレオンを殺しにやってきてラストでレオンが自爆するシーンの前シーン。
チルダがドレスアップして、レオンにミルクを飲ませ、「初体験をしたい!」と言い出す。ここではレオンが丁寧に理由を付けて断るシーンがあり、いつものようにレオンが椅子で寝ようとすると、マチルダが側に寝て欲しいと添え寝をしてもらう。ナタリーの表情がすばらしく、切ない音楽が流れます。
そして、次の日、レオンは壮絶な死を遂げる。
ふたりの気持ちがよくわかって、泣けるシーンですが、ナタリーが痛々しく見えました。“添え寝”で十分だと思います。

スタンとその配下、さらに警官隊が加わり、レオンひとりに銃撃戦を挑む。マチルダに「植木」と持たせて脱出させ、自分もうまく相手の銃撃をくぐり抜け脱出できたかと思われたが、その背後にスタンが拳銃を突き付ける。レオンは、手榴弾の安全ピンを抜き、「マチルダからのプレゼントだ」と渡すと、・・・・。この切なさに泣けます。
***


映画「レオン 完全版」日本版劇場予告


Sting - Shape Of My Heart (with lyrics)

「ひとよ」( 2019)自分の不甲斐なさを親のせいにするな!自分には特別なことでも他人にとってはなんでもない!

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監督は白石和彌さん。出演は佐藤健鈴木亮平松岡茉優佐々木蔵之介・田中裕子さんと魅力的な方々。これで観ることにしました。血縁に結ばれた家族が家族であろうとすることへの監督らしい野太いメッセージと、これを演じる皆さんのすばらしい演技に魅入りました。

原作は桑原裕子さんの同名舞台劇。脚本は高橋泉さん。

あらすじ:
小さなタクシー会社を営む稲村家の母・こはる(田中裕子)は、3人の子どもたちの幸せのためと信じて、家庭内で激しい暴力を繰り返す夫を雨の夜(ひとよ)に殺害する。
15年後、長男の大樹(鈴木亮平)は地元の電気店の婿養子となり家族を持ち。小説家を夢見ていた次男・雄二(佐藤健)は東京に出て、今だうだつの上がらないフリーライター。長女・園子(松岡茉優)は美容師の夢を諦め、地元の寂れたスナックのホステス。それぞれが事件によって運命を狂わされ、心に深い傷を抱えたまま今の人生を送っていた。そこに、出所したこはるが突然姿を現わし、かっての親子の縁を取り戻せるのか。

原作が舞台劇。これに暴力、セックス、アクションなどが加味され、監督らしい味付けがなされていて、重いテーマのヒューマンドラマが、エターテイメントとして笑いもあって、楽しめます。
テーマは血の繋がる家族の崩壊と再生。血の繋がりがあることでの強い絆。しかし、一度壊れたらその修復の難しさ。どうやってこれを修復させるか。

監督は人殺しの母親・こはる、田中裕子さんにメッセーズを託しています。これが見どころです。母がいなくなって、彼らは冷たい世間の目にさらされ、いつの間にか母への思いが遠ざかっていく。そこに戻ってきた母を昔のように母として受け入れられないが、母の“あの夜”に投げた言葉を手掛かりに、母の心を少しずつ理解していきます。

ここで大きな役割を演じるのが、長女・園子、大樹の嫁・二三子(MEGUM)です。二人は“はるこ”の性格に似て、包容力があって生活力がある。映画「サッド・ヴァケーション」(2007)の間宮千代子(石田えり)です。
これに対して大樹と雄二は面子に拘り、度量の小さな男。これが家族の絆を取り戻すことに大きな障害となっていきます。家族の絆を保つ秘訣は女性の力のようです。( ^)o(^ ) もうひとつ、血が濃すぎて溶けない問題に、他の力、小さなタクシー会社の人間関係(疑似家族)の力が必要だった。このふたつの家族形態がうまく機能して、稲村家の家族が再生されていくという、とてもうまい脚本でした。

舞台劇と違って、映画の主役は佐藤健さんです。佐藤さんは母が与えてくれた自由を生かせず、まともの小説家にはなれず、母に罪を擦り付けて逃げる面子に拘る複雑な内面を抱える雄二を、鈴木さんは長男でありながら家族をまとめきれない、吃音のある大樹をうまく演じてくれます。

松岡さんは、スナックでホステスとして放縦に働き母不信感の兄たちと母の仲をうまく取り持つ女性を見事に演じています。「霧島、部活・・」(2012)の高校生・野崎沙奈が、この年になったと思わせるほどの絶品演技です!
田中さんの夫殺しの妻役は「共食い」以来の二度目。田中さんによって、この物語が支えられているほどの存在感を示して、圧巻です。

****(ねたばれ)
雨の夜、母親・こはるはタクシー勤務を終え稲村タクシー営業所に戻ったとき夫に車をぶつけ即死させた。子供たちが帰りを待つ居間に入り、おにぎりを作って食べさせ、「お父さんを殺しました。あんたたちを傷つける父だからやった。今から警察に行きます。15年後、必ず戻ってきます。誰も殴らない、自由に生きて行ける。お母さんはすごく誇らしい!」と家を出た。ここでのこはるの落ち着いた威厳のある物言いには圧倒され、その決意はなみなみならぬものであった。子供たちは、その後を車で追ったが捕まえられなかった。

夫は酒を飲むと激しく子供たちに暴力を加え、このことは会社の誰もが知っており。はるこや子供たちの同情していた。

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これから15年後、はるこは親族が営業を引き継ぎ名を稲丸タクシーに変えた営業所に、登山者の服装で戻った。そこには大樹と園子が居て、園子は母親に抱きつき再会を喜んだが、大樹は戸惑った。翌日、営業所でこはるの歓迎会をバーベギューで祝っているところに東京から雄二が戻ってきた。雄二は「変ったね!」と声を掛けるが、やはり戸惑いの表情を見せた。

営業の皆がすっかりこはるを受け入れていても、雄二には、母が居なくなってから長い間、近隣からの激しい中傷誹謗を受け、冷たい目に晒され、東京に逃れ、苦難を強いられた記憶が忘れられない。
一方、大樹は母親に似た女性二三子と結婚し、長女が出来たが、一切母親のことは隠しで生きてきて、今では会話がなくなり妻から離婚をせがまれていた。園子は苦しい辛いこともあったが、戻ってきた母の髪を切ることを楽しみにしていた。

朝食時、かってのように“こはる”が台所に立ちみそ汁を作り振舞うが、昔のような家族の雰囲気はない。

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雄二は母に「なにもかもがめちゃめちゃになったのに、のうのうとよく帰れたな!」と怒りをぶつける。こはるは「自分のした事を疑ったら、子供たちが迷子になっちゃう」と、営業所で洗車や掃除をしてみんなと過ごす。こはるの行動に、周りが動き始める。

まず、大樹の離婚問題。こはるは“毅然として”ふたりに話し合うよう促す。大樹が母親の出現で、長女に自分と同じような負い目を負うと離婚を決意する。妻は「そんなことではない、あなたがなにも話さないことが別れる原因だ」と大樹を責めた。大樹は自分のトラウマから抜けられず妻・二三子をぶん殴った。大樹は暴力に苦しめられた父親と同じだと苦悩する。一二三は「あんたの悩みは私の悩み」という。大樹は妻を通して母の気持ちを理解していく。

雄二は中一の時、エロ本の盗みが見つかって、引き取りに来た母が怒ることもなく小説家になれとレコーダーを買ってくれ、あの日の「自由にやりたいことをやりなさい」という母の言葉で小説家になったが、今だにエロ記事しか書けない。なにもかも母親がおかしくしたと母親の中傷記事を書いた。この記事で稲丸タクシーは中傷誹謗の張り紙、落書き騒ぎに巻き込まれ、社長丸井進(音尾琢真)も清掃に奔走する。

こはるは、全くひるむことなく書店に出向き、昔雄二がやったようにエロ雑誌を万引する。社長と雄二が“こはる”を引き取りに書店に出向く。雄二が「こんなバカなことして、俺たちを巻き込むな!」と非難する。これに社長は「巻き込まれてやれ!」と促した。会社に迷惑を掛けている雄二は何も言えなかった。

これを契機に大樹、雄二、園子が話し合う。大樹は「自分は変わる」、園子は「帰って来たんだからいいことにしよう」、雄二は「変われない」と言い張る。

新入社員の堂下道生(佐々木蔵之介)は愛嬌のある親しみやすい男。元ヤクザで、離婚し、ひとり息子とは金で結ばれている親子関係。その息子が薬の運び屋となって自分の前に現れる。止めるよう説得するが失敗。やけ酒を飲んで海に入って自殺するとこはるを車に乗って走り出す。

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これを知った大樹、雄二、園子。母を助けに追いかける。やっとのことで捕まえ、雄二が激しく堂下を痛めつけた。父親と同じだ。堂下に「失敗して、ろくでもない記事を書いて!」と罵られ、彼は「どうしたらやり直せるか教えてくれ」と自分の不甲斐なさに泣いた。堂下は雄二が自分の息子に重なり泣いたこれを目にする大樹も泣いた。これを見たこはるは「自分にとって特別でも、他人とっては何でもない。それでいいんだ」と声を掛けた。

雄二はレコーダーの母の言葉、小説ねたの母の記録ファイルを消して、母、大樹、園子に見送られ東京に戻った。

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血の繋がった家族、何があっても切れない親子の絆。自分の不甲斐なさを母のせいにするな!自分には特別なことでも他人にとってはなんでもない!母の毅然とした態度が息子たちを救いました! 主役は母親・田中裕子さんにしか見えなかった!」
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映画『ひとよ』予告2

“いだてん“第42回「東京流れ者」

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1961年.3年後のオリンピック開催に向け、解発が進む東京。田畑(阿部サダオ)は、政府が埼玉県内で進める選手村建設計画を中止させ、競技場に近い都心部に場所を確保しようと奔走する。田畑の意を受けた平沢和重(星野源)が、代々木の芸軍基地を返還するようアメリカに訴えるが、それが大きな波紋を呼ぶ。政府によってオリンピック担当大臣に任命された大物政治家、川島正次郎(浅野忠信)が田畑に忍び寄る。

感想:
田畑は選手村を代々木ワシントンハイツにもってくることに拘った。政治家のスポーツへの介入を嫌う彼が、政治を利用するという爽快なはなし。
かって高橋是清からオリンピック経費を出させた経験を持つ田畑は平沢と結託して、代々木のワシントンハイツ返還してもらおうと米軍への要求する60億円の返還賠償金の捻出法を考え、池田隼人首相(市川談春)を説得した。NHKの放送設備をここに建設すれば鮮明な画像が送れ、カラーでオリンピックを観ようとカラーテレビ需要が出てくる。その金を返還経費に当てればいいという妙案だった。60年安保闘争に対するアメリカの思惑と所得倍増計をめぐる首相の思惑をうまく利用する案、見事でした。

これでは出番がなくなる政治家たちを怒らせるでしょう!スポーツ、芸術に政治家が出てくるとロクなことがない。

川島正次郎はオリンピック担当大臣となり、関係大臣をもって組織委員会を牛耳ろうとする。この喧嘩の結末は見えている。おそらく田畑を事務総長の座から引き下ろすでしょう。いよいよ田畑は東京流れ者になる運命か?

聖火ランナーコースとしてシルクロードを考えて、調査したというのはすばらしいアイデアだ。日本なら出来る、これを可能にする技術をなぜ考えなかったか。聖火をアテネから広島に運び平和祈念して全国を回すという黒澤監督の案もすばらしかった。
東京オリンピックラソンの札幌移転、日本の技術なら十分実施可能であったろうにと残念。マラソンは東京でやらなければ意味がない!

***
頼みもしないのに自民党幹事長・川島正二郎(浅野忠信)が組織委員会顧問となり「貴様たちのオリンピックではない。国民のオリンピックだ。オリンピックで日本は変わるんだ!」と気合が入る。
当時日本は高度成長期、車の渋滞で困っていた。タクシー運転手の森西栄一(角田晃広は、この渋滞では儲けにならないと、アテネから陸路シンガポールまでの2万kmをジープ2台で走るという聖火リレー踏査隊に応募した。

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女子バレーボールお監督・大松博文監督(徳井義美)が女子選手に厳しく鍛えていた。でもこれを虐待とはいわない。大松は選手の家族を訪ね、厳しく鍛えることを伝ることに許しをえていたから。現在なら間違いなく虐待です。(笑)
安藤サクラさんの熱演に笑った!

志ん生ビートたけし)は脳出血の後遺症で右半身が麻痺していたが、慣れない左手で特訓を開始していた。

オリンピック選手村は朝霞にほぼ決まりかけていたが、田畑のいう理想のオリンピックを行いことに意気投合した平沢(星野源)が「日米安全保障条約により、米軍が引き続き日本に駐留するなら、国民の反感を買わないよう代々木を返還した方がいいとアメリカ側に伝えてはどうか」と提案してきた。

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さっそく、平沢(星野源)は駐日大使ライシャワーと面談し「代々木ワシントンハイツを返還すればオリンピックに全面協力するというアピールにもなり、安保闘争による反米感情も収束する」と説得、これにライシャワーは感心を示した。

これを知った東(松重豊)は「すでに朝霞という話で進んでいて、政府、建設省、東京都、埼玉県の承認を得て道路建築が始まっている。津島(井上順)が「さらにアメリカ側は立ち退き料として“60臆”を要求すると言ってきている」という。

田畑は島津(井上順)の紹介で、池田隼人首相(立川談春)を訪ね、この案を説明した。が、「放っておけば代々木は5、6年で空き地になる。朝霞に全部持っていけばただですむ」と納得しなかった。「朝霞では埼玉オリンピックだ、東京オリンピックではない」と田畑は思った。

田畑は、バー「ローズ」で、怒りをぶちまけていると、マリー(薬師丸ひろ子)が「オリンピックの予算は国が出すんでしょう?」と岩田(松坂桃李)に聴く。「スタジアムやプールのような後に残るものは都と国が折半するんだ」と岩田が答える。
田畑は事務所に帰り、「オリンピック後も長く使えるものはないか」と考え続けた。亡くなった嘉納治五郎が出てきて「止めた、俺が命がけで取ってきたのに。政治とスポーツは別物だ!しっかりしろ!国民はオリンピックをどこで見るんだ」と急かす。「テレビで見る」というと「ドイツであれはダメだったろうが」、「今は違う、カラーテレビがある」。田畑に妙案が浮かんだ。

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田畑が首相官邸に、首相を訪ね、ワシントンハイツを米軍から買い、そこに放送局を建設することを首相に勧めた。「放送局がメイン会場の側にあれば、鮮明な放送を確実にお茶の間に届けられる。そうすると白黒よりカラーテレビだ」と。
当時カラーTVが一台60万円。一万台売れれば60億円。「たった一万台で元が取れる。買うなら今です。オリンピック終わってから放送局作っても意味ない」と首相に迫った。田畑のこの直談判で、選手村は代々木に決まった。

四三は「走れ25万キロ」という本を出版した。五りん(神木隆之介)は、書店で開かれた四三(中村勘九郎)のサイン会に行き、サインを貰おうと「小松金治です」と名乗ると、「こ、小松!」とかっての弟子であった小松勝とりくの息子だと知って、驚愕した。
このあと五りんは、公園で待つ志ん生を背負っての帰り、師匠のおはこ「富久」を稽古していた。

昭和37(1962)年5月、亀倉雄策前野健太)がデザインしたオリンピック・ポスターが完成した。
短距離走者のスタートダッシュを見事にとらえてポスターの出来栄えに、田畑をはじめ委員会の面々は大満足していた。しかし、このころになってもオリンピックは盛り上がらない。

事務局長室で、岩田、松澤(前川猿時)と論議しているところに、聖火リレー捜査隊の森西が現れ、「ルートは砂ぼこりと熱気で前に進めない。タクラマン砂漠はジープで半年かかった。たいまつを持って走ったらミイラになる」という。(笑) 田畑は話しを切り上げ、皆で飲むことにした。今回で最も面白いシーンでした。

料理は、一流の料理長・村上信夫黒田大輔)のつくるもの。村上は選手村の食事を担当することになっており、2週間にわたり世界各国の料理一万食を提供するため試作を繰り返していた。

川島は、池田首相と面談し、「オリンピックは経済成長に起爆薬。政府が利用しない手はない」」と持論を語っていた。「政府は不介入が基本」という首相に、「今のままではスポーツ界の連中だけのバカ騒ぎに終わる。国際舞台で日本の株を上げるならためには、政府がしっかり舵を取るべきだ」と勧める。

川島はオリンピック担当大臣に任命され、組織委員会の会議室に記者を集めて会見を開いた。
トトカルチョの代わりが私だ。200億円という費用がかかるオリンピックにおいて、道路が建設大臣、客を運ぶのは運輸大臣、選手強化は文部大臣、これらを総合的にまとめるのが自分の役割だ」と語った。

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会見後、川島と田畑は事務総長室で話しをした。
川島は「仕事が後手後手で、島津では仕事がしずらいだろう。河野ら政府要人、池田首相も島津にオリンピックは荷が重いと言っている」。そして「金を出したら、口も出すのが政府だから記憶にとどめておいてくれ」という。

田畑は東に「政治家は恐ろしい」と島津を会長から降ろすことを話した。東はお座敷に呼ばれ、川島から「田畑と島津はどうだと聞かれ、田畑は必要だと答えた。寝業師・川島の正体だよ」という。田畑は川島を守ると決めた。

田畑は事務総長室のテレビで偶然、五りんの高座を見た。「てれび寄せ」という番組で五りんは過去のオリンピックにまつわる出来事をネタにした「オリンピック噺」を演じていた。ベルリンオリンピックで水泳の前畑秀秀子が金メタルを獲得したときの河西アナウンサーの実況を五りんが真似ていた。
これを見た田畑は、「見つけたぞ!こいつをオリンピックの広告塔にしよう!」
早速、岩田が高座を訪れ、五りんをつかまえた。
                                             ***

「IT イット THE END」(2019)傷による絆から自立へ。あのころの友は宝物。

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本作、大ヒットしたスティーヴン・キング原作ホラー「IT/イット “それ”が見えたら、終わり。」(第1章)の完結編(第2章)。
前作から27年後を舞台に、再び現われたたペニーワイズに立ち向かうべく再結集した大人になった“ルーザーズ・クラブ”の仲間たちを待ち受ける衝撃の運命とは・・・。

監督は引き続きアンディ・ムスキエティ。出演はジェームズ・マカヴォイ(ビル)、ジェシカ・チャステイン(ババリー)、ビル・ヘイダー(リッチー)、ジェイ・ライアン(ベン。)、ジェームス・ランソン(エディ)、イザイア・ムスターファ(マイク)、アンディ・ビーン(スタンリー)ビル・スカルスガルド(ベニー・ワイズ)。

27年後の7人、幼いころの容貌をしっかり残している。よくぞ見つけたという絶妙なキャステイング。注目すべきはベン、ほっそりしていて気が付かない!
皆さん、性格やベニーワイズとの戦い方、友人への付き合い方などがしっかり
引き継がれていました。それだけに、第1章を復習して第2章に観て、再び第1章の戻ると、感動が大きいと思います。いずれ、1章、2章を通して上映してくれることを望ます。

27年後、彼らの記憶に何が残っていたか?思い出せと問われば、よいことばかり。本当の想い出は、忘れたくないベニーワイズのことで、どこかにトラウマとして残っていた。このトラウマを克服していくドラマは、まるで自分の記憶体験をなぞるようで、自分の人生を振り返ってあの時代に戻りたいと思わせてくれます。また、亡くなった友が自分にどれだけ大きな力を貸してくれていたか、友に会いたくなるような作品です。

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ベニーワィズは“お前ら、すっかり大人になったな”の言葉を残して亡くなる。ベニーワイズの正体が明らかになり、中世の時代からここに住み着いたバケモノ。どの地方にもある伝説の“バケモノ”でした。(笑) 怖いより人を結びつける、成長させる、納得のベニーワイズ物語でした。恐ろしかったのはベニーワイズではなく、獄中から出てきたヘンリーでした。やはり、人間が一番怖い!

****(ねたばれ)
27年後の夏。ベリーランドで遊ぶゲイのカップル。町の不良に殴られ川に放り込まれ、ベニーワイズが食いちぎられ、沢山の赤い風船があがり、再びベリーの町にやつが現れたというシーン。一気にジョージが排水溝に引き込まれたシーンを思い出し、不気味な雰囲気に引っ張り込んでくれます。

異変を感じ、地元に残りベニーワイズを研究していたマイクがルーザーズ・クラブメンバーに招集をかける。
ビルは小説家、しかし結末がいつも悲劇で監督と女優の妻になじられる。ベンは建築家として成功を収めていました。リッチーはコメディアン。
エディはリスクコンサルタント。ベバリーは夫とファッションブランドを立ち上げたが、暴力をふるう夫に苦しんでいた。
マイクからの電話を聞いたときの反応。誰が積極的に行こうとした、嫌だと思ったのは、そしてこれを機に自殺したのは誰か?第1章のラストシーンでメンバーを離れる順番になっている。(笑) 自殺はスタンリーでした。しかし、彼は友のためにしっかりとメッセージを残します。

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中華料理店に集まった6人。当初、思い出は楽しいことばかり。しかしスタンリーが来ない。マイクが呼び出した理由を明かすと、皆にあの日の記憶が蘇る。みんな悪い記憶を封印していたのだ。おみくじを引いて並べれば「スタンリーは約束を守り切れなかった」と読める。テーブルに出ているフーチュン・クッキーを見ればお化けに変わる。全員がベニーワイズからの幻覚を見た。あの夏の出来事は、忘れようとして忘れられないトラウマとして残っていた。ここでのお化け、気持ちが悪かったが、笑いました!

マイクは全員の力で今度かやつを殺したいというが、嫌だというものがいる。リッチーとエディ、納得のふたりです。(笑)

これを説得するには誰がいいか?マイクはビルを司書として働いている図書館の一角にあるマイクの部屋に連れてきて、彼が研究した対処法を話す。中世の時代からここに住み着いたバケモノ。先住民のやりかたでやれば解決するという。ベニーワイズの正体が明かされ、これで沢山出てくるベニーワイズの化身の正体も判明です。メンバーへの説得はビルが適任だと諭します。このあたり、1章からの伏線です。

やり方は、全員が一致してベニーワイズに当たるために、メンバーが持っているあの夏の日の記憶が残っている物を集め、ベニーワイズの住む井戸屋敷の洞窟で燃やす(チュードの儀式)というもの。うまい設定です。一度昔に戻るという映画「アベンジャーズ・エンドゲーム」(2019)と同じやり方です!

マイクやベンをいじめていた問題児ヘンリーが、父親を殺害後精神病院へ収監されていたが、ペニーワイズの手助けで病院を脱走。

メンバーはそれぞれ、思いでの場所に赴き、そこでベニーワイズに出会い、記憶を取り戻し、その記念品を持って図書館に集まることにする。

ビルはジョージーが亡くなった排水溝を見つけ、ジョージに化けたベニーワイズと闘いあの紙の船を手に入れる。通りすがりのスケボをもった少年に「ここは危険だから立ち去れ!」とビルが声をかけたことで、ベニーワイズがこの少年に憑りついた。ビルがベニーワイズを追ってベリーランドへ。

べバリーは昔住んでいたアパートで壁の隙間に隠していた27年前の差出人がわからない手紙を手にいれる。トイレでベニーワイズに襲われた。

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リッチーはヘンリーの従妹に会ってヘンリーに襲われたゲームセンターにやってきてゲームセンターのメダルを手に入れた。エディは薬局に来て、喘息の吸入器を手に入れた。
ベンは学校に来て、ベバリーのサインをもらった卒業ノートを手に入れた。

図書館に皆が集まった。ビルが来ない。ビルはベニーワイズがあの子をさらって井戸屋敷に連れて行ったと自転車で追っていた。これを知ったベバリーが他のメンバーに声を掛け井戸屋敷に走る。ベバリーがビルを追うという第1章と逆になっているのが面白い。

井戸屋敷に入ると、エディは怯える。そこに冷蔵庫の中からスタンリーの首が出てくる。これがカニの形をしてリッチーに襲い掛かる。ビルが「突け」と槍を投げるが、エディは何にもできない。しかし、ここからエディが立ち直るところが見どころ!
井戸を伝って地下の下水道に降り、ベニーワイズの住む祠穴に。ここで全員が集めてきた記憶の残る思い出を壺にいれて燃やす。これで終わりかと思ったが、そう簡単には終わらない。(笑)

壺からベニーワイズが出てきて、メンバーの団結を割くように、「チュードの儀式で原住民は全滅した!」とマイクの嘘を貶す。
マイクは「皆をここに連れてくる拠り所が欲しかったんだ」と白状し、「怖くない声を出して戦え!」という。

ベニーワイズが蜘蛛の姿になりその爪で襲い掛かる。さらでメンバーを分裂させそれぞれを狙ってくる。
ビルは「お兄ちゃんは仮病でついて来てくれなかった」という弟ジョージを始末して、あの日の自分に決着をつけた。

ベンとベバリーは、ベニーワイズの幻覚術により、ベンは大量の砂で溺れ、ベバリーは便所に閉じ込められ大量の血液で溺れるが、ふたりは手を取り合ってこの危機を脱出する。

リッチーとエディはベニーワイズに追い詰められ、リッチーが窮地に陥る。そのときエディが渾身の力で槍を投げてベニーワイズに致命傷を与えリッチーを救った。しかし、エディがベニーワイズの爪に刺され絶命。リッチーは自分がエディを死なせたと悔やみ落ち込むが、これを他のメンバーが支える。このことでリッチーは“勇気”というエディからの大きな贈り物を手にした!

これでルーザーズ・メンバーの士気が上がり、「お前はただのピエロ、正体を知っているぞ!このいかれた男!」の一言でベニーワイズがひるむ。まるで老人のように弱弱しくなる。その心臓を抉り出して、決着をつけた。

亡くなった二人が遺したものは、「自分の生き方をしろ!」(スタンリーの遺書)「勇気をもて!」(エディ)というもの。

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ベニーワイズとの闘いを終えた5人がウインドガラスの前に立つと、かっての7人の姿に見える。死者が出ても7人が生涯の友です。これまでの手の傷で結ばれた絆から、もっと深い、心の絆に変化した瞬間でした。

遊泳禁止の川にみんなで飛び込み絆を確認する。今回のリッチーが川底にメガネを落としたのは、ベンとベバリーへの配慮だと思いました。( ^)o(^ )
みんな、自分のトラウマに決着をつけこれからの人生に飛び出していきました。マイクもこの地を離れ、新しい自分を探す旅にでる。
「持つべきは友、あの日に帰ってみたい」と思わせてくれる、すばらしい作品でした。
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映画『IT/イット THE END』本予告 2019年11月1日(金)公開