映画って人生!

宮﨑あおいさんを応援します

「波紋」(2023)不条理の始まりは原発事故!それを赦し我慢、我慢で堪え、その先に見えたものは!

 

荻上直子さんの監督・脚本作品。震災、老々介護、新興宗教、障害者差別といった現代社会が抱える問題に次々と翻弄される家族の姿を描いた人間ドラマ。(映画COM)

前作「ムコリッタ」は孤独をテーマにほっこりしたユーモアたっぷりの物語で楽しめましたから、今回も期待して観ることにしました。ところが少し違っていた!私には主役の奥さんが怖かった。(笑)

監督・脚本:かもめ食堂」「彼らが本気で編むときは、」「ムコリッタ」の荻上直子撮影:山本英夫編集:普嶋信一、音楽:井出博子。

出演者:筒井真理子光石研磯村勇斗安藤玉恵江口のりこ平岩紙津田絵理奈木野花、他。

物語は

須藤依子(筒井真理子)は「緑命会」という新興宗教を信仰し、祈りと勉強会に励みながら心穏やかな日々を過ごしていた。そんなある日、10数年前に失踪した夫・修(光石研)が突然帰ってくる。自分の父の介護を依子に押しつけたままいなくなった修は、がんになったので治療費を援助してほしいという。

さらに息子・拓哉は障害のある恋人タマミ(津田絵理奈)を結婚相手として連れ帰り、パート先では理不尽な客に罵倒されるなど、自分ではどうしようもない苦難が次々と依子に降りかかる。湧きあがってくる黒い感情を、宗教にすがることで必死に押さえつけようとする依子だった。依子に幸せと思える時間がやってくるのか。


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あらすじ&感想

物語は修が出奔したところから始まる

依子は夜、舅を徹夜で介護。朝、カーテンを開けて夫が手入れした立派な花壇を見た。依子と修は会話がなくなっていた。テレビで「原発事故による汚染で飲料水に水道を使うな!」というニュースがあったその日の夕方、会社から戻ってきた修はこのTVを観て、花壇を手入れして消えた。依子の怒りが爆発した。

依子の胸に怒りの波紋が広がった

 この後、依子は舅の介護を施設に送り、スーパーのキャッシャーとして働き始めた。舅がなくなり遺産を相続して家を改築、庭の花壇を枯山水の庭に替え、砂で波紋を描き、毎日これをきれいに描く。(笑)陳家の猫が入ると抗議する。

信仰宗教団体“緑命水”会に入信し、日々を宗教の教えで生きることにした

「信仰があれば恐ろしいものはない」と自己犠牲の精神を守る教えを信じた。支部長宅で説教を聞き、信者たちと歌い踊る。自宅は“緑命水”の水瓶で溢れ、祭壇に水晶玉を戴き、出勤帰宅時に祈りを捧げている。

そこに10数年ぶりに夫修がみすぼらしい恰好で戻って来た

お腹が空いているというので食べさせた。すると「癌だ!」と告白し「最期は君のところだ!」としゃあしゃあと喋る。依子は宗教の教えに従い夫を家に置いてやることにした

出勤時、隣の猫が枯山水の庭を荒らすと、しっかり砂の波を描き直す。(笑)

自転車での出勤時にはタンタカタカタ、タカタカタンタタと胸騒ぎがする。これも波紋に次ぐ怒りの印だ。(笑)

仕事に就くと卵が割れていると難癖をつけ「値段を半額にせよ」と迫る男(柄本明)がいる。嫌なこと重なる!我慢!嫌の毎日が続く。依子は清掃員の水木(木野花)に相談すると「殺してしまえ!辛いときは水泳がいい」という。(笑)

修は家の登記書はどこにあるかと捜し始めた

依子が帰宅すると夫が水晶玉に触った形跡を発見し、一気にこれで殺したい感情になったが思い留まった。(笑)

支部長に相談すると「人を憎むと憎み殺される。夫を赦すこと。他者に寛容で犠牲になれる香水がある」と勧められ、高価な香水を買った!(笑)

修が病院で見てもらうのでつき合ってくれという。プールで水木に会って話をすると「我慢してはダメ、仇を取れ!」という。依子の心はタンタカタカタ、タカタカタンタタだった。(笑)

依子と修は波紋の中で話し合った。

依子は「名義は義父が亡くなる前に自分のものに書き換えられた。このお金で緑命水を買った。緑命水ならあなたを救える」と持ち出すと、修は「助けて欲しい」と依子の言うことに従うことにした。(笑)

緑命会のホームレスたちを救うチャリテイで、

焚き出しになんと修がホームレスの列にいた。修はプレゼントされた弁当を喰っているとそこにホームレスの男(ムロツヨシ)が近づき「あんた雄カマキリだ。雌カマキリに喰い殺されるぞ」と脅す。(笑)

修は依子に「ホームレスを助けて、俺はどうなる?」と抗議した。依子は「薬代は持つ、その代わりに教会の礼拝に参加して!」と求めた。

治が礼拝に参加し「妻の姿を見て、信仰で救われるとはこういうことかと加感謝した」と挨拶した。これが信者たちを感激させた。(笑)そして依子は近所の時の人になった。(笑)

修の癌治療が始まった。

3回に分けて投薬が始まった。各々に150万円かかると言われ、450万円を支払うことにした。投薬には一滴ごとに勘定した。(笑)

水木は「念じだけなら罪にはならない」と言う。依子は自宅の“お水様”に祈った(笑)

息子の拓哉が聾の彼女タマミを伴って立ち寄った

拓哉は依子が信仰を始めて、これを見るのが嫌で九州の大学に進学、職を得て、タマミと同棲している。東京出張でタマミを伴って上京した。拓哉は修を赦せないらしい。

依子はタマミが聾で6歳年上と知って受け入れられなかった。タマミはこんな依子に明るく接する。偏見をぶっ飛ばすような津田絵理奈さんの快演で笑った!

依子がタマミの東京見物に付き添った。依子はどうしてもタマミを息子の嫁として受け入れられず「別れて欲しい」と言い出した。するとタマミが「お母さんが別れろと言ったら言え」と言った拓哉の言葉「二度と家に帰らない!あの人は頭がおかしいから何を言われても気にするな!」をにこやかに伝えた。(笑)依子はタマミを教会に連れて行って教会の皆さんに紹介した。

帰宅して波紋の中で依子、修、拓哉、タマミが話し合った

依子が修に「あなたは原発事故のとき家族を捨てて逃げて、癌になって帰ってきた」と波紋を起こし、修がこれに反発した。拓哉は「タマミと結婚する」と波紋を起こした。依子の「許さない!」に拓哉は「お父さんは放射能を浴びて母さんから逃げた」と答えた。タマミが「妊娠している」と告白した。

依子は枯山水の波紋を消した。妙子には新しい家族の姿が見えてきた。

サウナで依子が水木に息子に騙されたことを話すと「どこかで皆そう思っている」と言い「自分の息子は家に帰ってこない。亀が救いだ」と話した。依子は帰宅し枯山水の砂に波を描き「椰子の実」を歌いながらその波紋を消した

そんなある日、プールで泳いでいて水木が倒れて入院した。依子は亀の面倒を頼まれ水木のアパートを訪ねると、亀は生きていて、亡き夫の祭壇があるが、部屋の中はゴミだらけだった。これを見た依子は「水木の心は今だに震災の中にある、」と泣いた。水木の許可を得てこの部屋をきれいに掃除させてもらった。

スーパーに出ても、あの嫌な男が「これ傷だ!」と言っても腹が立たなくなった。(笑)

修が枯山水の庭を見ているとカマキリが岩山に張り付いていた。(笑)これに水をかけようとして倒れた。そこに依子が戻ってきた。

教会で顔色の悪い依子に支部長が「特別な玉名水だ、癌に利く」と高価な水を勧められた。依子は買わないで、家に戻って砂の波紋を書いた。(笑)

修のベッドには息子の拓哉が付き添っていた。拓哉が「枯山水は水を使わず水を表現する。存在しない水だから面白い」という。修は「ないのにある、あるのにない」と応えた。拓哉が「父さんが居なくなったあと、母さんが雨の中、庭に出て花を抜いて笑っていて怖かった」と言った。修は「さっさと死ぬ」と答えた。

修が亡くなった。葬儀屋さんが修の棺を霊柩車に乗せようと枯山水の庭に出たところで転んで棺から修の腕が出た。(笑)依子が「もういい加減にして」と笑った!依子の心に波紋が広かった。

九州の戻る拓哉が「昔やっていたフラメンコ踊って見たら!」という。依子は喪服の下に赤いドレスを着こみ、砂の波を消し、タンタカタカタ、タカタカタンタタと手拍子でフラメンコを踊った。タンタカタカタ、タカタカタンタタの音はフラメンコのメロディーだった。おこに天気雨、依子の新しい生活へのスタートだった

まとめ

原爆事故という災害のせいで家庭崩壊の憂き目にあった依子。それだけではなかった。舅を看取って、宗教で救われたと思ったが、家族を捨てて出て行った夫が癌を患い戻ってきた。これを許し、堪えに堪えて見送りできた。息子の拓哉に聾の嫁、親友の水木に救われた。ラストシーンの狂ったように雨の中、枯山水の上を喪服でフラメンコを踊る依子の姿に、全てをリセットし新しい人生へのスタートと見た。

ブラックな笑いが満載だった。それに水の波紋、タンタカタカタ、タカタカタンタタの音に枯山水で描く依子の心象。ラストのフラメンコ、これは見事だった。

 筒井真理子さんの演技に怖い人なのか優しい人なのか、我慢!我慢!の姿がよく出ていたが、夫に向ける視線が怖かった。(笑)

地震災害で我先にと妻のことを忘れる人がいるらしい。こうならないよう肝に銘じておかねばなりませんね!(笑)

           ****

「デューン 砂の惑星 PART2」(2024)ストーリー、映像の美しさ迫力がグレードアップ、次作を期待!

 

期待していた作品、1週間遅れで観ました。この間にたくさんのレポートが出ており、感想も今さら感がありますが、自分のメモということで書いてみました。本作は第94回アカデミー賞で6部門に輝いたSFアドベンチャー大作「DUNE デューン砂の惑星」の続編です。

原作:ハーバートのSF小説(1965)、未読です。監督:「メッセージ」レードランナー2049」のドゥニ・ビルヌーブ脚本:ドゥニ・ビルヌーブ ジョン・スパイツ、撮影:グレイグ・フレイザー美術:パトリス・バーメット、衣装:ジャクリーン・ウェスト、編集:ジョー・ウォーカー、音楽:ハンス・ジマー

出演者:ティモシー・シャラメゼンデイヤレベッカ・ファーガソンら前作のキャストに加え、「エルヴィス」のオースティン・バトラー、「ミッドサマー」のフローレンス・ピュー、「007 ノー・タイム・トゥ・ダイ」のレア・セドゥが新たに参加。

あらすじ

“その惑星を制する者が全宇宙を制する”と言われる砂の惑星デューンで繰り広げられたアトレイデス家とハルコンネン家の戦い。ハルコンネン家の陰謀により、たった一日の戦闘で、一族を滅ぼされたアトレイデス家の後継者ポール(ティモシー・シャラメ)と母ジェシカ(レベッカ・ファーガソン)はアラキスの首都アラキーンを脱出し、砂漠の民フレメンの作戦拠点タブールのシエチ(群居洞)に身を隠した

ここで生きると決めたポールはフェレメンのリーダー・スティルガー(ハビエル・バルデム)に守られ、女性戦士チャニ(ゼンデイヤ)と心を通わせながら、フレメン戦士へと成長していく

母のジェシはスティルガーに請われってフレメンの教母となり、ポールを救世主へと導いていく。

ポールはフレメン兵士としてハルコネンのスパイス採取阻止の戦を繰り広げ、その成果でフレメンの兵士名ポール・ムアディブ・ウス―ルとなり、砂虫を自由に操れるフレメン兵士(フェダイキン)となった。さらに、母ジェシカの導きで救世主として民を率いることになった

一方、宿敵ハルコンネン男爵(ステラン・スカルスガルド)は甥のラッパーン(デイヴ・バウティスタ)の統治能力に不満でもうひとりの甥フェイド=ラウサ(オースティン・バトラー)を次期男爵に据え、新たな支配者としてアラキスに送り込んだ。

因縁のアトレイデス家とハルコネン家の戦いがポールとフェイドの手に移るが、両家の戦が皇帝の陰謀であったことが明かされ、宇宙帝国の権力闘争へと発展していく。はたしてポールは予言されたごとく帝国皇帝クウイサッツ・ハデラックになりうるのか。


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感想

冒頭、アトレイデス家とハルコネン家の戦いが、たった1日で終り、ハルコネンの兵士が大量のアトレイデ兵の死体を積み上げ火炎放射器で焼却を始めた。

前作のラストから数時間後から物語は始まる

〇前作に比しての本作の特性は

前作はアトレイデス家とハルコネン家の戦いだったが、敗者のアトレイデス家の後継者ポールがフレメンの救世主として出現したことで、フレメンとハルコネンの戦いがハルコネン男爵の野望により、皇帝を巡る権力闘争となっていく “物語の壮大さだ”。物語の空間(戦場)は広大し、新たな戦法・兵器が出現、前作に比して見るべきところの多い作品になっていた。前作同様映像が美しい、どのシーンも頭に残るという、上映時間166分を長尺と感じさせない作品だった。

〇ポールの救世主への成長とチャニとの悲恋の物語だ。

ハルコネンとの戦闘で敗者となったポールの生きる場所はフレメンの中にしかなかった。スティルガーが予言を信じ、赤ポールは救世主になる人だと認めても、フレメンの民は誰も信じない。砂漠のサバイバル術や砂虫に気付かれない砂歩きを体得し、大型の砂虫を操縦できるフレメン戦士となったティモシー・シャラメの顔は精悍さに溢れてきた。

こんなポールを支えたのがチャニ。サバイバルの知識、砂歩きを教え、ふたりで戦場に立ち、ハルコネン兵士に立ち向うことでふたりは強く結ばれていった。

しかし、ポールは常に“救世主になると多くの犠牲者が出る”という恐怖があった。チャニと恋に落ちてからは、彼女を失うという悪夢に苦しむ。ポールの苦しむ表情にチャニもまた苦しんだ。

ジェシカから救世主になるための“命の水”を飲むことを勧められるが、ポールは母の誘いに乗らなかった。しかし、ハルコネン軍の指揮官がフェイドに代り、戦傷者の増大に苦しめられ、悩んだ末に、フレメンの民のために何をなすべきかと自分に課せられた運命を考え、“命の水”を飲む決心をした。

フレメンの故事にのっとり、ポールは“命の水”を飲んで一度死に、チャニの涙で蘇生した。それほどに深いふたりの絆だが、救世主の出現にフレメンの民は歓喜したが、チャニはこれを喜ばなかった。

ポールは皇帝の地位を掛けて皇帝シャッダム4世(クリストファー・ウォーケン)に戦いを挑み、皇帝の代役フェイドと決闘し皇帝の座にものにするが、チャニは喜ばなかった。退席し砂漠で砂虫を呼び寄せて泣いた。この姿が切ない!これがラストシーンとなるので後味が悪い!本作はチャニの出現に始まって、チャニの涙で終る、チャニの物語でもあるんだ!ゼンデイヤの精悍で憂いのある演技が素晴らしかった!

〇ポールの存在が脅威となり皇帝の座を巡る壮大な権力闘争物語になっていく。

ハルコネン男爵は甥のラッパーンを無能とみなし、もうひとりの甥のフェイドの能力をアトレイデス家戦士と戦わせて試した。古代ローマの競技場を模した競技場での壮大な決闘シーンだった。

フェイドは人を斬ることになんの感情もないサイコパスだったサイコパスを血のない人間として、フェイドが関わるシーンはモノカラーで描かれる

ハルコネン男爵はフェイドに2年後男爵位を譲渡すると約束し「皇帝の陰謀を明かせば全大領家からしっぺ返しだ、これでお前が皇帝だ」とアラキスの統治者として送り出した。サイコパスとしての狂気を演じるオースティン・バトラーの怪演がすばらしい!

皇帝ジャッダム4世はポールの生存を知り精鋭部隊サーダカーをアラカスに送りポールを葬ることにした。アトレイデス家抹殺を皇帝に進言したモヒアム教母は「フェイドを皇帝の後継者とする」と皇女イルーラン姫(フローレンス・ピュー)に指示した。

そして、教母マーゴット(レア・セドゥ)がフェイドの子を孕んだ

一方、ベネ・ゲセリット出身の教母ジェシカはポールを産み、今は亡きレト侯爵の子を身ごもっていた。ジェシカは生きるために“命の水”を飲みフレメンの教母となり過去を見る力を得た。そこで自分の父親がハルコネン男爵だと知った。ポールも知った。ポールはハルコネン男爵の甥にあたる。ポールとハルコネン男爵の戦いは叔父と甥、ポールとフェイドの戦いはハルコネン男爵の甥同志の戦いという同じ血縁の中での戦いとなる。

ジェシカ役のレベッカ・ファーガソンは悲劇の中から立ち上がりフレメンの教母となり顔にフレメンの文字を入れ墨して妖気を漂わせ、ポールとお腹の子のふたりで皇帝の座を狙う気丈な女性をうまく演じていた。

となります

帝国皇帝の座を巡るシャッダム4世、ハルコネ男爵(フェイド)、ポールの三つ巴の争奪戦が始まった。これが数千年にわたり遺伝を操作して救世主を出現してきたベネ・ゲセリットという女性の結社(教母)の思惑で行われるところにこの物語の世界感がある。

〇ポールが皇帝の座に就くための戦略・戦法の面白さ。特に原爆の運用。これは今の時代に繋がる問題だった

フレメンの戦法は砂虫を操って敵を混乱し、この敵を砂漠に身を隠していたフレメン兵が飛び出し刺殺するゲリラ戦法だった。この戦法で成果を上げたが損害も多かった。ポールはスパイス密輸団討伐戦でアトレイデス家の師ガーニイ・ハレック(ジョシュ・ブローリン)に再会し、アトレイデス家が秘密裏に原爆92発を保管していることを知った

この力を得て、ポールは母の勧める“命の水”を飲み救世主となり、フェレメンの戦法と原爆で皇帝の地位に挑むことにした。

フレメンの戦闘に有利な地、首都アラキーンに、砂漠の砂嵐の時期に合わせ、皇帝を呼び出すことにして手紙を送った。

皇帝は巨大な宇宙船で大軍を携えやって来た。フレメン軍は、皇帝の宇宙船を攻撃できるよう各戦闘部隊の配置につけた。大規模な砂嵐で重要施設が吹っ飛び、精鋭のサーダカー兵たちもフレメンが仕組んだ砂虫起振装置(サンバー)の発見に苦しんだ。そこに巨大な大量の砂虫で攻撃を掛けて混乱させ、混乱したサーダカー兵を砂漠に身を隠していたフレメン兵が襲い勝利した。壮大な戦闘パノラマだった。こんな映像は滅多に見られない!(笑)

勝利したところでポールたちが宇宙船に乗り込む。ポールがハルコンネン男爵の首を剣で刺し、殺した。ポールは皇帝シャッダム4世との戦いに挑む際、チャニに「命ある限り、君を愛する」と伝えた。皇女イルーランに結婚を申し込み、皇帝に決闘で決着を求めた。この際、諸大領家に対して「アラキスを攻撃するなら原爆でスパイスを焼き払う」と牽制した。

フェイドがシャッダム4世の代役を務めることになり、フェイドとポールの死を賭けた決闘でポールが皇帝の座にものにした。決闘シーンはいずれが勝つか分からない迫力あるものでよく出来ていた。

ルーラン姫がシャッダム4世の助命を求め、ポールはこれを認めた。ジェシカがモヒアム教母に「あなたは間違った側に付いた」と声を掛けると「敵も味方もない」と言い返した。チャニは黙って砂漠に向った。

まとめ

ポールは皇帝の座を得たが諸大領家の承認は得られていない。モヒアム教母の曖昧な態度も不気味だ。さらに教母マーゴットがフェイドの子を孕んでいる。皇女イルーランも妻となったがその行動も読めない。あまりにもチェニが不憫だ!(笑)これで終りと言うことはない。次作を期待したい。

本作は砂漠の中で原住民とそこへ入植した部族との闘い、原爆による威嚇など今の世界に繋がるところがあり興味深く観ました。

      *****

「ザ・ホエール」(2022)人生って懺悔だらけだ!最期はこういう死であって欲しい!

 

死期の迫った肥満症の男が娘との絆を取り戻そうとする姿を描くというA24 作品以下肥満症の男をデブと呼びますが、他意はない、ご容赦のほどを。

いかなるホラーを見せてくれるかと思ったら全く違っていた。長く人生を送った者にしか分からない、人生の閉じ方を描いてくれていた。泣けた!まさかのA24 作品だった。(笑)

原作:劇作家サム・D・ハンターによる舞台劇。小説“白鯨”がメタファーになっているが、未読です。

監督:ブラック・スワン」のダーレン・アロノフスキー脚本:サム・D・ハンター、撮影:マシュー・リバティーク美術:マーク・フリードバーグ ロバート・ピゾーチャ、衣装:ダニー・グリッカー、編集:アンドリュー・ワイスブラム、音楽:ロブ・シモンセン

出演者:ハムナプトラ」シリーズのブレンダン・フレイザー、セイディー・シンク、ホン・チャウ、サマンサ・モートン、タイ・シンプキンス。

物語は

40代のチャーリー(ブレンダン・フレイザーはボーイフレンドのアランを亡くして以来、過食と引きこもり生活を続けたせいで健康を損なってしまう。アランの妹で看護師のリズ(ホン・チャウ)に助けてもらいながら、オンライン授業の講師として生計を立てているが、心不全の症状が悪化しても病院へ行くことを拒否し続けていた。自身の死期が近いことを悟った彼は、8年前にアランと暮らすために家庭を捨ててから疎遠になっていた娘エリー(セイディー・シンク)に会いに行くが、彼女は学校生活や家庭に多くの問題を抱えていた。(映画COMより)

第95回アカデミー賞フレイザーが主演男優賞を、メイクアップ&ヘアスタイリング賞とあわせて2部門を受賞。


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あらすじ&感想

田舎町。バスからひとりの男性が下車。とぼとぼと歩き出した。この町にやってきた新興宗教ニューライフ教の宣教師トーマス(タイ・シンプキンス)だ。

オークリー大学遠隔指導プログラムの講師・チャーリーが自宅のカウチソファーに272kgの身体を沈め文学表現について講義中。モニターの講師映像には姿を見せず、「文章を書くポイントは明確で説得力のある文章を書くことだ。推敲を重ねるといいものになる」と講義中。この言葉は耳に痛い!(笑)

物語は月曜日から始まる

月曜日

チャーリーは講義を終え、エロビデオを観ていてリモコンを落とした。(笑)慌ててリズを呼ぶが不在。リモコンを捕獲棒で取り上げるのに苦しむ。この姿を見るのが辛い!そこに現れたのが宣教師のトーマスだった。

チャーリーは読みかけのエッセイをトーマスに「読んでくれ!」と渡した。トーマスは何が起きているのか分からず「見事な小説“白鯨”で語り手のイシュメールが海での体験を話す。・・・」と読み始めた。読み終わって「これ何ですか?」と聞くと、チャーリーは「エッセイが俺の仕事だ。オンライン講座で教えている」とだけ答えた。

そこに看護師のリズが部屋にやってきた。ニューライフ教宣教師がいることを怒った。そして血圧を図り「上が238、下が134、悪化している。うっ血性心不全。このままでは週末までに死ぬ」とチャーリーを責めた。チャーリーが歩行補助器でトイレに入った。その間にリズは「幼い頃ニューライフ教会に養子に出されたが最悪だった。チャーリーの恋人(アラン)もこの宗教に殺された。彼は終末論など信じない」とトーマスに退去を命じた。

リズはチャーリーに「病院に行って!」と忠告するが拒否される。「行かないならナイフで刺す」と脅すが、チャーリーが「食べたい」と言えば好物を与え、チャーリーが愛しいようだ。

チャーリーは“白鯨“のエッセイを読み返した。

「語り手はイシュメールと名乗る。彼は小さな海辺の町にいる。一人の男と同宿している。名はクィークェグ。ふたりは教会に行く。その後、ふたりは船で旅立つ。船長は海賊のエイヘブだ。船長は片足がなくある鯨を殺したがっている。モビーディックだ。白い鯨だ。この本の中でエイハブは多くの困難に遭う。彼の人生はその一瞬の鯨を殺すこと。悲しいと思う。何故なら鯨は感情がない、ただ大きいだけの哀れな生き物だ。エイハブのことも気の毒に思う。彼は自分の人生が鯨を殺せばよくなると信じているから。でも実際はどうにもならない・・・」と書かれていた。チャーリーはこれを読み「自分の人生を考えた、考えた、考えた」と繰り返した。そして娘エリーに「会いたい」と伝えた

火曜日

チャーリーは配達されたピザ2枚を喰って、PCで病名と血圧で検索しステージ3の症状でsると確認した。結果は「入院せよ!」だが、チョコレートをばりばり食べて、髭剃りをしていた。そこに、

エリーが「将来、私もこうなるの」と現れた

チャーリーは8年ぶりに会った娘の美しさを喜び{ママは元気?学校は?}と聞いた。「停学中よ、8歳で捨てて、学生と一緒になった。来たのが間違いかな!」という。「卒業しよう」と勧めると、「1科目でも点を取れば卒業できる」という。チャーリーは「手伝いうから俺のためにエッセイを書いてくれ、一流になれる。それに12万ドルを渡す」と提案した。エリーは「帰る!」と帰り始めが、止まって「ここまで来たら書く!」という。チャーリーは立ち上がって歩き始めたが、転んだ。エリーは帰って行った。

そこに「カンビ-ノ」とピザ配達員が声を掛け、安否を確認してピザを郵便受けの置いて帰った。

リズが戻ってきてエリーが来たことを知り反対した

リズはエッセイを見て、エリーがここに来たことを知った。チャーリーはPCでエリーのホームぺージを開き「友人がいなく孤独だ、死んだ犬の写真なんか貼っている。輝きがない。宿題を手伝う」と言った。リズは「8年も別れていて、母親もいる。若い子特有の不安定な感情よ、この身体で宿題を手伝うのは無理」と反対した。チャーリが食べ物で喉に詰まるとリズが彼の背中に乗り掛かり叩いて吐かせる。リズの献身的にチャーリーを介護していた。吐いた後、リズはそっとチャーリーに食べ物を渡す。

水曜日

チャーリーは学生たちにオンラインで「文章の書き方を教えてきたが、一番大切なのは書き手自身の発想や分析に基づかない文は意味ないこと。よく考え、書き、推敲して主張の真実性に向かうこと」と抗議しラインを切った。

チャーリーは全力でエリーに付き添うことにした

尋ねてきたエリーとエッセイの題材について話す。チャーリーはホイットマンの“ぼく自身の歌”を提示したがエリーが「長くてひつこくて、繰り返しばかりよ。比喩ばかりで深みがなくバカらしい。19世紀のろくでもないカマ野郎だ!」と反対し(笑)、「“定義の炸裂”で書いて欲しい」という。チャーリーはひとりで書くと伝えた。チャーリーは男子学生(アラン)と恋に落ち、家を出たことを話した。エリーは8歳だったが、このことを知っていた。

チャーリーは「今あるこの詩について考えを書いて欲しい!思ったまま本心を書いて欲しい」と言ってトイレに立ち、洗面所で泣いた!エリーが描き始めていた。

そこにニューライフ教宣教師トーマスがやってきた

トーマスが「チャーリーがニューライフ教に興味を持っているので資料をもってきた」と言う。エミーは「宗教が面白いのは、人間はみんなバカだと思っている。それでイエスを信じる者は優れていると思っている」と批判した。エミーはチャーリーに「明日までに書ける!」と伝え、トーマスの名前を確認し自分の名を教えて帰っていった。

トーマスがチャーリーに“終末論”を溶き始めた。

チャーリーは「知っている」と勧誘を断るが、トーマスは「ここのドアを叩いたのは神の御導きだ」と引き下がらない。チャーリーは「君はタイプでないが正直に言ってくれ!俺は悍ましいか?」と聞いた。トーマスは「いいえ、力になりたい」と答えた。チャーリーは部屋のドアを渡した。そこにリズが車椅子を携えて戻ってきた。

リズが戻ってきてトーマスにチャーリーとニューライフ教との関りを話し、退去を求めた

チャーリーは車椅子を喜んだ。リズはトーマスと部屋を出て、ベランダで話し合った。

リズが「兄アランはニューライフ教の宣教師で南米に渡ったが、父親に同じ宗教の人と結婚するよう迫られ帰国した。しかし、チャーリーと恋に落ち、教会と家族から追い出された。教会のことを忘れようとしたが出来ず、自死した。チャーリーの最愛の人は私と兄のアラン。チャーリーの救いにあなたは必要ない。数日でチャーリーは死ぬ。あなたは不必要」と話した。トーマスは帰っていった。

このあとリズは夜勤に出掛けた。チャーリーはピザの配達を受け、TVの大統領選挙報道を見て、エリーが描いたエッセイを読んだ。

鯨の描写の退屈な章にうんざりさせられた。話し手は自ら暗い物語を先送りする。すこしだけ、このアパートの匂いは臭い!みんな大嫌いだ」と書かれていた。

木曜日

チャーリーは訪ねて来たエリーに続きを書くことを促すが描かないという。チャーリーは自分が家を出て何があったかを聞いた。エリーは「ゴミのように捨てて出て行ったが、大事なことを教えてもらった。せめてお金を送って欲しかった」という。チャーリーは「金はママに送った。君はすばらしい娘だ、最高の娘だ」と褒めた。チャーリーはサンドウイッチを食べ、エリーの差し出す薬を飲んで眠った。

エリーがチャーリーの眠る姿を写真に撮っているところにトーマスが訪れた

エリーはトーマスに大麻タバコを吸わせて写真を撮って、何故薬を飲ませ写真を撮るかを明かさず、「友情が芽生えたから・・」と告げてトーマスの本心を語らせた。

トーマスは「大麻を吸った罰として父親によりニューライフ教に入れられた。パンフレットを配るだけで嫌になり、金を盗んで逃げ出した。この金で布教しようと思ったが金がなくなり、ここに辿りついた。どうすればいい?」と語った。エリーはアランのサインがある教書をトーマスに渡し、「アランはこれで亡くなった」とアランがマーキングした箇所を読ませた。

そこにチャーリーの妻のメアリーがリズに伴われて現れた

リズは目覚めたチャーリーを見て「あの娘は危なかった!」という。エリーが「たった2錠よ」と否定した。メアリーがいきなりチャーリーに「お金いくらくれる」と聞いた。エリーは「あなたなんか気にもしてない!早く死んで!」と言って部屋を出て行った。

チャーリーとメアリーはエリーの教育のことで言い争った。

メアリーは「あの子はただ反抗的だと思っていたが邪悪な子だ」と言う。チャーリーは「そうではない」と言い、ふたりの想いには食い違いがあって批判し合うが次第に邂逅していった。メアリーが「9年ぶりで聞きたい」とチャーリーの心臓に耳を当てて心音を聞いた。チャーリーは幸せだった頃のオレゴンの海水浴を思い出していた。

チャーリーは「俺は死ぬ、エリーは俺の人生で唯一の正しいことなのだ」とメアリーにエリーを託した。メアリーは帰っていった。

チャーリーは学生に「エッセイなんか忘れろ!何かを書け!正直な気持ちが全てだ」とメッセージを送って、食べまくった。

トーマスが慌てふためいて飛び込んできた。

「エリーが教会と家族に大麻を吸っている写真と録音を送った。親が『たかがお金だ帰って来い』と言って来た」という。チャーリーは「エリーは自分を傷つけるため、あるいは救うためにやったことなのか」とトーマスに「俺に何をしたくれきた!」と聞いた。トーマスはアランの教本を示しながら「アランは神の実心に背いてあなたを選び、その一節から逃れられなくなった。霊でなく肉に従ったからです。あなたはまだ間に合う」と答えた。チャーリーは「俺がアランとひと晩中愛し合った、悍ましいか?」と答え「神などいなくてよい。家族の元に返れ」と告げた。

金曜日

チャーリーは学生たちに「正直に書け」という言葉を残し、退官することを伝えた。そしてデブの自分の姿を見せた。学生たちは驚いたようだった。

リズが戻ってきてチャーリーの血圧を図りながら、「あなたが兄を愛さなかったらとっくに死んでいた。人はだれかを救うことなど出来ない」という。チャーリーが「そうではない!トーマスは救われた。エリーがトーマスを家に帰して救った」と話しているところにエリーが戻ってきた。

エリーがチャーリーとふたりで話したいという

エリーは「昨日渡されたエッセイは何か」を確認にきたという。チャーリーは「ママが4年前に送ってくれたものだ。読んでくれ」と頼んだ。そしてエリーを捨てたことを侘びた。エリーは「デブのくそったれ!知るか!」と読み始めた。これを聞き終えたチャーリーはオレゴンの浜辺で幸せを感じていた記憶の中で後ろに倒れた。

まとめ:

死期を知ったチャーリーは娘エリーが4年前に描いた小説“白鯨”のエッセイ「鯨の描写の退屈な章にはうんざりしたが、語り手は自らの暗い物語を再送りする。“すこしだけ”この本は私の人生考えさせてくれてよかった」を発見した。チャーリーはこれを読み上げるエリーの声を聴きながら、「誰もがおぞましいという自分の存在をエリーが認めてくれた」とあの世に旅立った。

宗教と小説“白鯨”を題材に描く舞台劇。セリフがすばらしい。この作品では宗教と同性愛、終末思想に痛烈な批判がなされている。これもテーマのひとつだ

チャーリーには、ゲイとなったことで妻のメアリーとエリーとの別れ、そしてゲイの相手アランの自死を救えず、さらにデブとなりアランの妹リズの介護を受けるという大きな後悔、贖罪を残したが、エリーがトーマスを国に返しチャーリーがゲイであったことを赦した行動とこの短いエッセイで彼の人生は救われた

冒頭からチャーリーの暗い、汗や食い物の臭いが充満するような中での陰鬱な物語。と思いきや、チャーリーことブレンダン・フレイザーの声の良さ、気品に救われ、彼が言う“デブのおぞましさ”を感じず、自分の生き方に対する正直さや彼が説く小説作法がストレートに伝わり、陰鬱な気分にならず、人生の最期をどう閉じるかという醍醐味を味わうことができた。ブレンダンのすばらしい演技だった。そして272kgのデブ。椅子、シャワーの使い方がリアルだった。

ラストでドアからさっと部屋に光が入ってきて、胸の中に閊えていたものが吐き出されるよう感覚になり“観てよかった!“と思った

長く人生を送った者にしか分からない、人生の閉じ方を描いてくれた、泣ける一品だった。

                                                   ★****

「アダマン号に乗って」(2023)まさか精神疾患施設とは、ここに求められるものを問うドキュメンタリー!

 

「ぼくの好きな先生」「人生、ただいま修行中」などで知られるフランスのドキュメンタリー監督ニコラ・フィリベールが、パリのセーヌ川に浮かぶデイケアセンターの船「アダマン号」にカメラを向けたドキュメンタリー

精神疾患デイケア施設、私には映画「月」(2023)のイメージしかない、一体どういう施設なのかと観ることにしました。3度寝落ちし、4度目で何とか感想を書き上げました。(笑)

冒頭で字幕“大切なのは余白を持つこと。余白がなければどこからイメージが湧くか?”(フェルランド・ドウリニィの言葉)から始まるドキュメンタリー。

この字幕に惹かれて最後まで観たいと思ったが途中で眠くなる。ずっと余白だった。(笑)

何の説明も、音楽もなく、雑音環境の中で、次々と登場してくる患者たちとスタッフ。患者とスタッフの区別もつかない、果たして彼らの言葉はどこまで信じられるのか?初心者には随分不親切な監督だなと思った。(笑)しかし、セーヌ河に浮ぶアダマン号が圧倒的に美しい、これ見ているだけで心が癒される。

 

ラスト近くで“この施設のすばらしさ”が新しく赴任する医師から明かされ、そういうドキュメンタリーだったのかと感動し、締めの字幕に納得しました。

物語は

パリの中心地・セーヌ川に浮かぶ木造建築の船「アダマン号」は、精神疾患のある人々を迎え入れ、文化活動を通じて彼らの支えとなる時間と空間を提供し、社会と再びつながりを持てるようサポートしている、ユニークなデイケアセンターだ。

そこでは自主性が重んじられ、絵画や音楽、詩などを通じて自らを表現することで患者たちは癒しを見いだしていく。そして、そこで働く看護師や職員らは、患者たちに寄り添い続ける。誰にとっても生き生きと魅力的なアダマン号という場所と、そこにやってくる人々の姿を、フィリベール監督によるカメラが優しいまなざしで見つめる。

2023年・第73回ベルリン国際映画祭コンペティション部門に出品され、最高賞の金熊賞を受賞。2003年の「パリ・ルーヴル美術館の秘密」以降のフィリベール作品を日本で配給してきたロングライドが共同製作。(映画COMより)


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あらすじ&感想

冒頭、男性患者フランソワがテレホン曲だと断わり「人間爆弾」曲を熱唱する。実に歌が上手い、この人が精神病だというのが分からない。

歌詞は「人間爆弾は君が持っている。君の心の近くに起爆装置がある」「自分の人生を他人に任せたら終わり」「誰も自分自身を手放すべきではない」。ある種の狂気のある詩だ!彼の好きな詩だ。「薬さえあれば正常だ。ここに来る必要はない!」と病状を明かす。しかし彼はここにやってきて歌う。矛盾している!

これがこの施設の必要な理由、テーマだ

アダマン号は二階建ての木造建築の船

セーヌ河の川面に浮ぶラマダン号の影がゆらゆらと漂いながらその実態を現す。うつくしい絵だ!アダマン号は係留されていて、図書館か美術館のような外観をしている。特に窓に特色がある。カーテンが木製で作られ、飛行機のフラップ翼のように動いて光を取り入れる。これで絶妙の光量を取り入れる。

患者の1日は自分の1日の予定をスタッフとともに作ることから始まる。

 女性患者のミュリエルはスタッフとワークショップの「音楽、ラジオ、絵」参加とスケジュールを打ち合わせる。自分の意志で行動するようになっている。「新人にお会いたい」「サッカーの試合結果を聞きたい」と自分の計画で動き、ワークショップ“シネマクラブ”に顔を出す。

“シネマクラブ”の患者から10周年記念としの映画上映企画が示された。彼らが自主的に企画している。「1週間、テーマを決め1日1本、キャッチコピーは“よくも悪くも一緒に”だ。誰がどんな仕事をやりたいか話し合いたい」と告げられた。

ミュリエルがいかなる病なのかは明かされない。いまどういう状態なのかもわからない。観る人に任されている。ミュリエルは「早く医者に会いぶちまけたい。でもあまり話さないようにする。ここの活動に参加できなくなる」と嘆く。新人の人に話しかける。父も兄も死に今は母だけと“孤独”を嘆く!

 コーヒーを飲む男性患者。彼は「ガキの頃から映画を観ている。リノ・ヴァンチュラ、ミシェル・コンスタンタン。ここにはいい俳優がいるが本人に自覚がない。何故か?病気のせいだとは思えない」という。一体この人の病は何だ?専門家の悦明が欲しい!(笑)

アダマン号のカフェ。

患者たちが集まり店の売上を勘定し始めるなかなか売り上げ額とお金が合わない。(笑)アダマン号の運営にも、患者自身が関わっている。

絵を画く若い男性患者アレクミス

アレクミスは「ビザンツユスティニアヌス帝は大きな宮殿にひとりで住んで宮殿を守るために戦争を起こした。僕の物語では小さな戦争だ」と言い、このドキュメンタリーを見て小説を書き絵にするという。かなりの古代史マニアらしい。(笑)また、彼は赤い鶏冠で針や注射器を、禿げた男からミカンを連想する。厚い唇は言葉を伝える表現、ピュレで不安、死を連想するという。絵を通してスタッフと話すことでアレクミスの症状が分かるように思う。

自分が描いた絵を説明する若い男性患者

ファニーゼとシャザンヌのふたりの女性の絵。とてもシンプルな絵だ。スタッフの質問に答えながら描いた絵をひとつの物語にしていく。治療に一環だと分かる。

ギター演奏する男性患者。

「ギターを弾いて1日が始まると気分がよくなる」という。「朝、何をするかが一瞬できまる。写真家が一瞬を捕らえるのと同じ。ロベール・ドアノーが市庁舎前で恋人のキスを撮ったように、戦場記者が撮影するようにだ!」と言う。すごい知識の持ち主だ、この人も正常なのかどうかわからない!(笑)

“コロナワクチンについて”のミーテイング

スタッフが「社会と文化にそして心と体に如何なる影響があるか」を示し意見を求める。「身体がどうなるのかビデオを作って欲しい」「ワクチン薬の体への影響を知りたい」などの意見が提示された。「専門家を招いてワークショップを立ち上げる」で意見集約となった。患者たちの討議だとは思われない出来っぷり!

 ソニック・プロテスト”についての報告

ミュージシャンのプレディリは中年の紳士然とした知的な男で、患者とは思えない。「すばらしかった。現代ヒッピーらしい2日間を楽しんだ。自閉症の人々が雄弁に喋り価値観を覆させた。固定概念がひっくり返る」と説明した。また、プレディリは「ヴィム・ヴェンダース監督は自分を「パリ、テキサス」作品のモデルにしている」という。この話の真偽も分からない、解説が欲しいところだ!

ミシンを使う男性患者

スパイダーマンの“S”をミシンを使ってTシャツに縫い付ける男。この男はこのTシャツで船内を歩き廻る。

帰化した女性ナディアの受け入れ

スタッフが仲間にナディアを紹介。ナディアはフランス国歌を歌えないが、故郷の歌を唄って仲間に入れてもらった。仲間の勧めで「何かを書く」ことにした。

顔の絵を説明する男性患者

「これが目、髭、首」と説明する。鼻がちょっと大きかった。スタッフと会話すながら“こうなるべき鼻”という題をつけた。抽象的な絵だが説明としては見事だ!

息子を養子に出して精神不安定になった母親

「頭が混乱し育てられないと施設に預けられ、その後里親に引き取られた養子に会えるようになった。産んだときは周りの人が攻撃的で敵に見えたが、今は幻聴もなくなり、友達が救ってくれ、息子と話せるようカウンセラーも入ってくれるようになった」と喜びを表す。

絵のワークショップ

妊婦の女性患者はある抽象画を「幸せに溢れている。見たい形が全て入っている」と評価する。ミュリエルが「女性を感じる!解剖学的に女性そのもの、女性器よ!」と絵を指先でなぞって見せる。ミュリエルは自分の絵は雌のカマキリで“生と愛と死”を現したという。キリンを描いていてセバスチャンにカマキリに間違えられこうなったという。(笑)。

映画のワークショップ

カサブランカ」を観ての感想。老女の患者が「エバー・ガードナーはハンフリー・ボガードを愛していたのか、共犯的な関係だ」と言い出す。これに「映画の話かそれとも私生活か」と議論が起こる。(笑)こうして時が経っていく。

音楽のワークショップ

ピアノで「蘇る過去、この絶望に耐え続ける。誰も完璧でない」と弾き語りする男性患者。“人は完璧でない”の歌。歌詞はもう患者の域ではない!

ギターを弾く男性患者が「アニメの世界は消去と再生だ。魔法の杖は言葉として存在する。自分が持っていたらどうするか分からない。警官にあなたが殺したら30年刑務所暮らしだと言われた。銃を持っていたら隣人を撃っただろう。30年刑務所で暮らし被害妄想に駆られ何も考えられなくなる。だから薬を飲んでいる。飲まないと発作が起こり、何も分からなくなる」と言い「人が信じられない、今は身体が汚れていて水を浴びたい。本当に辛い、何年もの間、罵倒され続けてきた」と訴える。

これに他の患者が「テロを起こすのは精神病だからというのはバカげている。ここの患者はテロリストではない。自分も凄く不安定で傷つきやすい。問題は間違ったイメージが持たれていることだ。自分たちの表情が人と違うせいで好奇な目に晒されている。周りの物音にもの凄く敏感だ。雑音が怖い!物音を立てる人が怖い。首にクリスタルを付けて悪い波長を受けないようにしている」と悩みを訴える。

ワークショップ参加者全員で雑音を聞き堪える

 ここに「自由を失ったと、権利がない」と苦しむ患者がいた。

「夫は死んだ、ファハド王アビダッラーのために働いた。私はファハド王の建築デザイナーだった」という。

写真のワークショップ

カメラの扱いをスタッフから教わりながら、コロナの禍前と今の顔写真を撮り合う患者たち。

キーボードで作曲しながらプレディリが語る

「ヴィムはUCLAの学生であったA・ヴァルダンのように映画を撮りたがったが、飛行機で革命を逃れ、パリにやってきた。夢を追う者よ、諦めないで!」と“ドアーを開けて”の曲作りをしながら、自分史を語り、ジェラール・フィリップ、ジェームス・ディーン、ジム・モリソン等な何故事故に遭い不慮の死を遂げたか、その真実を知った。社会心理学的鍵を見つけたことでこの恐ろしい仕掛けを取が外すことができた」と言う。プレディリが正しいのか自分がおかしいのかと思った。(笑)

ミーテイングーの終了

来週からここに着任する精神科医サビーヌ・ベルリュールが「施設では気持ちが和らぐ、すばらしい場所にあると思う。そして欲求が叶えられる場所でもある。皆さんには存在したいという欲求がある。それが大切だ!」と挨拶した。

その後、皆でスーパーのgarbage boxを漁り、これでジャムを作って食べる。(笑)

スーパーの向かいのごみ箱に行って、外見は多少傷んでいても品質は問題なさそうなフルーツをゴム手袋で収穫し、みんなでジャムやムースを作って食べる。残りはそれぞれの名を付してカフェで売る。(笑)

身体を動かすワークショップでダンスを楽しむ

 その後、カフェでお金を払って楽しむ。ここでアルバイトもできる

 この日最後のミーテイング

映画祭の説明があって、「話がしたい」と映画「カサブランカ」を話題にした女性が、教える資格はないけれど元ダンサーで、身体を動かすことが大切だと、「ダンスのワークショップを作って欲しい」とひつこくスタッフに要求した。しかし、「資格の問題ではなく、やる人の問題がある」と却下された。

霧にかすむアマダン号。静かで美しい幻想的な映像だった。

まとめ:

アダマン号を訪れる精神患者たちの活動をだらだらと書きました。もっとまとめて文章にすれば良いのですが、患者たちが魅力的でなんとも捨てがたく、だらだらと書き連ねました。(笑)

これを纏めると

自分達の興味の物を書く、描く、歌う、演奏するという芸術活動、縫う、料理するという物を作ることで人と関わりながら生きる。あるいは正常といわれる人達の活動に馴染んでいく。その中での彼らの悩み恐れを知り、彼らの尊厳を認める社会であって欲しいと感じた。

個性的でこれが精神病患者だと分からない人が多かった。その教会は曖昧だ。また、治療に芸術が関わることの大切さを知った

締めの字幕

アダマンはパリを中心部の成人を受け入れるサン・モーリス病院付属デイケアセンターである。チームと患者の意見を基にセーヌ・デザインが設計。2010年7月に設立した。形式的な事務に追われて個を軽んじる世界にまだ属しない場所が存在する人間の言葉の想像力を生き生きと保つ場所である。

日本で心の療養施設というと人里離れたところに立地しているという印象だが、フランスのデイケアセンター・アダマン号はパリの中心地セーヌ川に浮かぶ木造建築の船で、まるで今時の図書館か美術館のような外観をしている。この姿を見るだけで我が国の施策の遅れを感じました。

              ****

「LOVE LIFE」(2022)愛という心理の揺れ、なくしてその存在に気付く!

 

「淵に立つ」(2016)「よこがお」(2019)の深田晃司監督作品。矢野顕子さんのアルバム「LOVE LIFE」(1991)に収録された同名楽曲をモチーフに、「愛」と「人生」に向き合う夫婦の物語を描いたものベネチア国際映画祭(2022)コンペティション部門作品。

劇場で観ましたが、改めてWOWOWで観てよく理解できていなかったなと、所見を書き換えることにしました。

夫婦の交差する愛がサスペンスフルに描かれ、ヒリヒリする思いで観ましたが、その結末に「愛とはこういうもの、忍耐がいる」と唸った!(笑)

監督・脚本:深田晃司撮影:山本英夫美術:渡辺大智、編集:シルビー・ラージェ 深田晃司音楽:オリビエ・ゴワナール、主題歌:矢野顕子

出演者:木村文乃永山絢斗、砂田アトム、山崎紘菜、嶋田鉄太、神野三鈴、鈴田口トモロヲ、他。

物語は

再婚した夫・二郎(永山絢)と愛する息子の敬太(嶋田鉄太)と、日々の小さな問題を抱えながらも、かけがえのない時間を過ごしていた妙子(木村文乃)。しかし、再婚して1年が経とうとしたある日、夫婦は悲しい出来事に襲われる。そして、悲しみに沈む妙子の前に、失踪した前の夫であり敬太の父親でもあるパク(砂田アトム)が戻ってくる。再会を機に、ろう者であるパクの身の回りの世話をするようになる妙子。一方の二郎も、以前つきあっていた女性の山崎(山崎紘菜)と会っていた。悲しみの先に妙子が見つけた愛とは?人生とは・・。(映画COMより)

家族の物語。主として夫婦の目線で描かれる。

前段、二郎の父親・誠(田口トモロヲ)の誕生祝いを軸に淡々と描かれる人間関係・想いが、敬太の死を境にしてどう変化していくか。

機微な会話の中に、どのような気持ちで喋り、相手はどう解釈するかとこれを追う。会話のがこの作品の醍醐味だ。

“人生、不可思議なことが多い”。これを描くためにオセロ、天気、水、音楽の使い、特に手話を言語として取り入れ、二郎、パク、妙子の三角関係がミステリアスに描かれる。


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あらすじと感想

二郎と妙子夫婦。二郎は福祉課の主任、妙子は福祉課の市民相談センター職員。二郎は同じ課の若い女性・山崎と付き合っていたが、妙子の生活弱者に対する献身的な仕事っぷりに惚れ一緒になった。しかし、妙子は山崎の存在に気付き、この結婚に拘りがある。山崎は元厚生部長の二郎の父親(田口トモロヲ)が部下から嫌われ者であることが気になっていた。

二郎は両親の承諾が得られず妙子と入籍していない。妙子にはオセロ好きの6歳の息子がいる。今だ、二郎には懐いていない。

ふたりは父の誕生会を祝うことにした

二郎は妙子との結婚を何とか両親に理解してもらうために、部下にお願いしてアパートの外からプラカードで誕生祝いにメッセージを送ることにし、料理を一切引き受けて準備をしていた。妻の妙子は啓大とオセロゲームにつき合っていた。

二郎たちのアパートの向かいのアパートに住む誠と妻の明恵(神野三鈴)がやってきた。誠が絵本を、二郎が飛行機のおもちゃをプレゼントした。敬太は絵本を喜ばなかった。

明恵が夫のご機嫌を取るように釣りの話を出し、「妙子さんは二郎の釣りにつき合っている」と言うと二郎が「海吊りにも行く、浮は中古だけど」と合図鎚を打った。これに父の誠が「中古でも良い物と悪い物がある」と喋った。妙子が興奮して「中古とは何ですか?取り消してください!」と食い下がった。明恵が仲介して収まったが「早く孫を抱かせて!」と付け加えた。

言葉の行き違いで、言葉が凶器になる。夫婦の間にいやな感情が走ったが、妙子が二郎に謝った

誕生会の開始。二郎の合図で職員一同からの「おめでとう」のプラカードがアパートの広場に掲げられ、これを見た誠は大満足で飲んでカラオケマイクを離さなかった。アパートの部屋は職員やボランティア仲間で溢れ、啓大は遊ぶ場所がなく水を張った風呂場で二郎がプレゼント飛行機で遊んでいていた。

敬太が水を張った風呂に落ち亡くなった

発見したのは妙子だった。警察の検視し「溺死」と判定され、遺体を引き取ることになった。妙子が「アパートにつれて帰りたい」と言うと義母の明恵が「斎場にして。あの部屋はわたしたちの思い出の部屋だから(穢れる)!」と反対した。誠のとりなしで明恵は自分たちのアパートに戻ったが、妙子は辛かった。

 お通夜の席で義母の明恵が「誰も悪くない!」と妙子を慰めたが、妙子は「自分が風呂水を抜かなかったのが原因」と自責の念に苛まれていた。

葬儀によれよれ服の前夫・パクがやってきた

パクは啓大の棺を覗き激しく泣き、妙子を見つけてぶん殴った。二郎が止めた。聾の男だった。妙子は激しく泣いた。

葬儀が終わり、妙子は仲間とホームレスたちへの見回りに出た

仲間と別れ、ひとり公園のベンチで休むパクに会った。パクが「結婚おめでとう」と言う。「何故逃げた?」と聞くと「上手く伝えられない」と手話で話す。

妙子はパクが残して出て行ったパスポートと韓国の家族からの手紙を渡し「私は許せない、もう会わない!」と別れた。

パクが福祉課に生活保護申請にやってきた

韓国人で手話でしか話ないということで、妙子に通訳の役目が回ってきた。二郎は「どんな気持ちか分からないが、しっかり面倒を見てやれ!」という。妙子はパクが電気器具の中古品販売店で働き自立できるよう面倒を見ていた。

義父母が田舎に引っ越すことになった

引っ越しの手伝い。義父が「部屋が売れるかどうかわからん、電気と水道は残しておくから使っていい」と言う。

夜、明恵は妙子をアパートに呼んで風呂に入るよう勧めた。ベランダに出て、ふたりはタバコを吸いながら話した。明恵が「敬太が突然亡くなって神もあてにならない、死が怖い」と言う。妙子が「お義父さんや二郎さんが居るのに」と聞くと、「居たってひとり。今すぐ死ぬわけではないから」と言う。

二郎は父母の手伝いで田の舎引っ越し先にいた

二郎はついでにと仕事を休んでいる山崎を見舞った。そんなとき、地震が発生、妙子が地に震怯えているところに二郎から安否確認の電話が入る。傍に山崎がいた。

山崎は「振られ悲しい思いをしたが今は恨んでない。しかし、妙子さんの顔を見ると腹が立ち、あなたたちがめちゃめちゃになればいいと願っていたら、こんなことになった」と泣く。二郎はそっと抱いてキスした。すると「こんな時でも、あなたは目を見て話さない!」と言う。

妙子は義父母が出て行ったアパートに「ここに住んでいい!」とパクを連れてきた。パクは猫を連れて来てとても喜んだ。翌日、妙子はパクを自分たちのアパートにつれてきた。パクは啓大の位牌を丁寧に拝んだ。妙子は「あなたにしか出来ない、協力して!」とパクを風呂場に誘い、自分が風呂を使うのを監視させた。妙子はこれまで入れなかった風呂に入り顔を沈めた。鏡を通してパクに「あなたは葬儀で涙を出して泣き、悔しさで私をぶん殴った。理不尽だったが誰かが怒るべきだった。皆は敬太にいない世界に慣れようとした。あなたは違った、怒ってくれた」と話した(韓国手話)。パクは与えられた部屋に戻ってひとり手話で感謝して眠った。

父母も夫の二郎も涙を出さなかった。これを妙子は敬太に対する愛がなかったと見ていた

二郎は父母の引っ越し作業が終って自分のアパートに戻った

部屋に妙子が居ない。父母が居たアパートのCD版の反射光が眩しく、そちらを見ると、妙子とパクがベランダで洗濯ものを干しながらふざけていた。

二郎が急いで父母が居たアパートに来ると、パクはひとりで洗濯ものを整理していた。妙子の姿はなかった。二郎はパクと話したいが通じない。諦めて、別の部屋で「パクさんあなたはずるい。4年も捨てておいて帰ってくる。妙子が必死に探すのを見ていた。俺は葬式で泣けなかった、悲しくなかったわけではない。妙子が泣くのを見て、早く子供を作りたいと思っていたからだ」と独り言ちた。パクは二郎の気配で部屋を出ようと準備していた。猫が逃げ出したが気付かなかった。

敬太の死の受け取り方に、二朗と妙子は大きく異なっていた

そこに妙子が戻ってきた

パクが猫がいないと騒ぎ出す。三人で団地内を猫を探して走った。探し出したのは二郎だった。「猫は飼ってもらいたい人を知っている」とパクが猫を二郎に渡した(妙子と同じだ!)。(笑)

そこに郵便配達員がパクへの転送手紙を渡した。「父危篤く」という。パクは「釜山に帰りたいから、金を貸してくれ!」と手話で話す。

二郎と妙子が車でパクを釜山行きフェリー泊港まで送っていくことにした

妙子が「パクは弱い人だから心配、ついていく」と言い出す。二郎が「やめとけ!」と促すと「結婚する直前に、あなたと啓大と一緒に公園で遊んでいたときパクを見つけていた。だから私はあなたを一度捨てていた!」という。二郎が「違う!先に君や敬太を捨てていたのはパクだ」と言い返した。

パクが「(二郎に)君は啓大のこと忘れていいが、妙子は啓大を忘れてはダメだ」と手話して車を降り、乗船場に向かった。これを妙子が車を降りてパクを追う。二郎は「車に乗れ!帰ろう!」と車をバックさせながら妙子を呼び戻するが、妙子は聞く耳を持たなかった。混雑する乗船場で、妙子は手話で「一緒に行く!」とパクに伝えた。

釜山のパクと妙子は“結婚式場”に急ぐ車に拾われた。

妙子は「結婚式」と聞いて驚いた。パクは「嘘ついていた、前の嫁の息子の結婚式だ」と謝った。(笑)式場ではパクの息子が待っていた。息子が「父を連れてきてありがとうございます、母は父を認めていません」と挨拶した。OPPA、OPPAと叫びながら結婚式を祝う。

パクが皆と一緒に式場に消え、妙子は雨の中に取り残され、ただただ放心状態だった。妙子は自分のアパートに戻ることにした。

妙子は韓国から元のアパート戻った

アパートには、CDの反射光が舞い、オセロが机の上に、猫が出てきて、敬太のゲーム機に触り、何にも今までとは変わりのない世界だった。妙子は啓大のオセロの対戦相手に敬太が亡くなったことを伝え、オンラインゲームを切った。そこに買い物していた二郎が戻ってきた。

まとめ:

釜山から戻った妙子が見つけた愛は「どんなに離れていても愛することができる(歌詞)」という敬太への愛。そして二郎には、人生で全てを失って知った「この世界は愛に満ちている」というこれまで見出せなかった愛「もう何も欲しがりませんから、そこに居てね。微笑みくれなくてもいい、でも生きていてね!(歌詞)」ではなかったかと。

まるでオセロゲームの黒が白に変わるように愛の見方で世界は変わっていく

妙子役の木村文乃さん大きく感情がぶれる、ちょっと理解しづらい感情をしっかり演じました。パクの息子の結婚式で、私は全てを失ったと佇む無力感、感情がよく出ていた。

二郎役の永山絢斗さん。感情を出さないがしっかりした妙子への愛情を持っていて妙子に振り回されながらこれを貫いていく、後段での聞こえないパクに思わず漏らす言葉、埠頭で車をバックさせながら妙子を説得する演技に二郎の心情が溢れていていい演技だった。

 

圧巻はパク役の砂田アトムさん手話を巧みに使って、とてもいい人に見えるがとんでもない曲者だったという、聾というハンディを感じさせない怪演が素晴らしかった。

 

会話の行き違いが夜の闇や室内の光の揺らぎ、CDの反射光で暗示され、観ていてふたりの先行きに不安と恐怖を感じる。愛という心理の揺れの怖さ。これを乗り終えてこそ本当の愛だ!これまでの監督作品とは違って、円熟味のある結末になっていた。

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「ちひろさん」(2023)風俗嬢と弁当屋を掛けて描く人生訓、生きるに必要なこと全部教えてくれる。

 

ちひろ“という平凡な名にさん付けとは?監督が今泉力哉さんだから何か曰くがあるなとWOWOWで観ることにしました。(笑)

 作品紹介を見ると「弁当屋さんで働く女性・ちひろ。元風俗嬢である」とある。

演じるのが有村架純さんとなると観ようかとなる。これを戒める作品。(笑)

この作品のテーマは元風俗という先入観でちひろさんを見るが、ちひろさんはどんな人がテーマで、“ちひろさん“は風俗店の源氏名であったかと、このタイトルはよく出来ている。風俗嬢と弁当屋を掛けて描く人生訓、これは凄いと思った。 (笑)

原作:安田弘之の同名コミック未読です。監督:今泉力哉、脚本:澤井香織 今泉力哉撮影:岩永洋、編集:佐藤崇、音楽:岸田繁主題歌:くるり

出演者;有村架純、豊嶋花瀬、嶋田鉄太、Van、若葉竜也佐久間由衣

長澤樹、市川実和子鈴木慶一根岸季衣平田満リリー・フランキー風吹ジュン

物語は

海辺の小さな街にあるお弁当屋さんで働く女性・ちひろ。元風俗嬢であることを隠さず軽やかに生きる彼女は、自分のことを色目で見る男たちも、ホームレスのおじいさんも、子どもも動物も、誰に対しても分け隔てなく接する。

そんなちひろの言葉や行動が、母の帰りをひとり待つ小学生、本音を言えない女子高生、父との確執を抱える青年など、それぞれ事情を抱える人たちの生き方に影響を与えていく。ちひろ自身も幼少時の家族との関係から孤独を抱えて生きてきたが、さまざまな出会いを通して少しずつ変わり始める。

御案内のように、親子、恋人、友人、上司と部下とたくさんの人と人の関り方が何気ない日常と風景の中で、印象的なセリフを追い、その行き着く先にハラハラしながら観ることになる。が、登場人物のエピソードが断片的に羅列されるので混乱するところがある。これが逆に面白さにもなっている。ということで、あらすじが少し長くなります!


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あらすじ&感想

ちひろが猫とじゃれたり、公園のブランコで遊び海岸道を気持ちよさそうに散歩する。これを中学生の久仁子(豊嶋花瀬)がストーカーして撮影していた。

このあと、ちひろ弁当屋“のこのこ”の店先で弁当を販売する。漁師の若者が「今夜どう」と誘う言葉も一向に気にしない。仕事が終わり、売れ残った弁当を持っての帰りにホームレスの男に会うと、この弁当を食べさせ、アパートに連れてきてフロにいれてやる。

ちひろが自分を語ることは少ないが、親の暴力、家出、風俗嬢の体験を経て、苦を抱えている人には徹底的にやさしい

 一方、久仁子は授業中にこの映像を見ていると、男子生徒から「風俗の人だろう」と言われる。放課後友達とカラオケ店にいても母から電話で呼び戻される。夕食は、母が豪華な料理を作って家族と一緒に食べる。会話は父中心で、母は父を大切にする。久仁子は自由がなく母に大切にされてないと孤独を感じていた。

 ちひろはタケノコ弁当をホームレスの男に与えようとしたが見つからず、海の見える廃屋で弁当を食べていて不登校の中学生・宇部千夏(長澤樹)に出会った。千夏はコミック好きで、ふたりはこれで盛り上がり、仲良しになった。

夜、風俗店にいたころの友人バジル(Van)が遊びにやってきた。ちひろが唯一心許せる人だった。

ちひろが公園でコミックを読もうとベンチに座ると、そこに蛇がいた。マコト(嶋田鉄太)の悪戯だった。マコトは友達がなく虐めを警戒してナイフを持ち歩く子だった。ちひろはマコトがお腹をすかしていると、弁当屋に連れてきて弁当を買い食べさせた。マコトはちゃんとお礼をいう子だった。これを久仁子が一部始終を見ていた。

夕暮れの海。ちひろが脚を海水に浸していると久仁子が写真を撮る久仁子がちひろの側にきて脚を海水に浸しながら「私の名前とか年齢とか気になりませんか?」と聞く。ちひろ「そんなのあてにしたことがない。それが本当かどうか、風俗嬢とはそういう仕事よ。でも人は目を見ればわかる。あなたは嫌いではない」と答えた。久仁子は泣いた。ふたりは脚で海水を掛け合った。

“のこのこ”の女将・多恵(風吹ジュン)は目が見えなくなり入院した。

「お母さんが入院してるから」とアヤという女性が多恵の部屋にやってきて折り紙を教える。多恵が「アルバイトのいい子がいるからもう戻るところがない」と話して聞かせる。(後に分るがアヤとちひろの本名)

千夏から最近ホームレスの人を見ないと聞いたちひろは彼を探し始めた

ホームレスの遺体を発見し、夜、ひとりで穴を掘り埋めた。これにはびっくりだ!

夏祭り。ちひろはバルジと出かけ金魚すくいの店で元の風俗店長・内海(リリー・フランキー)に出会った。その帰りバルジが「あの人と出来ていたの、そう見える」と聞く。ちひろは「何もない」と答えた。

久仁子がマコトの宿題をみてやる。ちひろがおにぎりをサービスした。

久仁子が「お母さんは料理学校に行き、料理が上手だが味がない」という。ちひろが「それがお母さんの理想だよ。わたしはそういう人は苦手だ。昔、絵本で見た海苔巻きが美味そうで作ってひとりで食べたが美味しかった」と話すと久仁子が泣きながらおにぎりを食べる。マコトが「うちの母さんのはめちゃめちゃ美味い」と言う。ちひろは久仁子の孤独を癒すために千夏に会うことを勧めた。

母親の作る料理を子供はどう思うか。これが親子関係のひとつのバロメータになる

ちひろは弟から母親の死を知らされたが、葬儀に参加しないことにした

 マコトの母ヒトミ(佐久間由衣)が弁当のことで抗議にきた

ヒトミは「弁当のことで批判された。シングルだがしっかりやっている。余計なことはしないで」と激怒。ちひろは不承不承に「配慮が足りませんでした」と侘びた。マコトはひとりでスパゲッティを“ちん”して食べながら、TVで「母に花をプレゼントする」CMを見ていた。

久仁子の家では母が作った豪華な料理で夕食が始まった。父が「約束していた陶芸を見に行こう」と誘ったが、久仁子は友達と約束があると断った。父が「家族より大切なものがあるのか」と不機嫌。母が「友達を相談したら」と言い、久仁子はそうすることにした。

久仁子は千夏に会った。自己紹介、ちひろの紹介ということで意気投合し、ふたりはマンガ読みに熱中していった。このあと、千夏は登校するようになり、久仁子は「千夏は離せない友」と喜ぶようになっていった。

アヤがプレゼントだとドングリの実を持って多恵を見舞った。

多恵は娘が20歳のとき箱根に領してドングリを見つけ娘に渡したが退屈そうで目もくれなかった。娘はいつの間にか大人になっていた」と話す。アヤは「そうだね、そうだねと言ってくれたらそれでよかったのにね」と返した。

何気ない会話だが、母と娘の関係で、成長した娘の親への思いやりが必要なことを上手く言い当てている!

ちひろは夜の海辺を歩きながら“ドングリ”の忘れられない記憶を思い出していた。

幼い頃、海苔巻きを作って神社でひとりで食べていた。それを見た女性(市川実和子)が「自分で作ったの!食べさせて」という。食べて「美味しかった、夜は私たちの味方」と手を繋いで施設の近くまで送ってくれた。ちひろがドングリを渡すと「店に来たら指名して!」と名刺をくれた。その名が”ちひろ”だった

ちひろが食堂“門田”に入ると店員と客が揉めていた

客が料理を注文し、メニューにないを断った店員に因縁をつけていた。カウンターでラーメンを喰っていた谷口(若葉竜也)がこの客の胸蔵を掴み制止させた。ちひろは谷口と店をでた。谷口がこれで生きていると入れ墨「色即是空」を見せ、「ちひろさん、あんた本当に人殺しなのか?」と聞く。(笑)「ばれたか」と答えた。谷口は「下のやつ見ると何してもいいと思っているやつ見ると許せなくなる。父親がそうだった。親父が死ぬか俺が死ぬかいなり、気がつくとバットで殴っていて、それて家を出た。親父は生きていると思う」と打ち明けた。ちひろは「父親に会って死のうと思うなら、父親を殺せ!」と忠告した。(笑)谷口は「埋めるのを手伝ってくれ」と答えた。(笑)「したくなった」とちひろは立口を家に招きセックスをした。(笑)

ちひろは幼い頃、親の暴力を受けて生きてきた。弱者虐めを徹底的に嫌う。これが彼女の強さになっている

バルシがちひろのアパートに泊まりにきてタコ焼きを食べながら、「あんたは恋をしないのか」と聞く

「しない、恋愛なんかそんなもんだと思っている。人の心を独り占めできない。もしそれが恋愛なら、私には必要ない。恋愛に酔えないたち。酔うと死ぬ。セックスは生理現象」と答えた。

ちひろの恋愛観は風俗嬢として働き体得したものだった。決して恋にのめり込まない!

マコトの母・ヒトミが「あんたの入れ知恵か?」と激怒しひろみを訪ねて来た

ヒトミは「マコトが誕生日おめでとうと花束を寄こした」とちひろに花束を投げつけた。(笑)ちひろは「これゴミにしたが一生後悔するよ!お母さんの料理が一番美味いと言う子。もっとよく見てやって!花束のことなど知らない!」と花束を突っ返した。(笑)

親であっても子供のことで理解できないことがある

金魚屋の内藤から「一緒に飲まないか」と誘いを受けた

「バジルが金魚店でアルバイトすることになった、一緒に飲まないか」と誘いを受けた。「その気になれない」と断ると、「すこし池に沈んでいろ、藻掻くと死ぬ。人は浮かぶようにできている。じたばたするから死ぬ。浮かんだところで連れてゆく」と言って、電話が切れた。(笑)

ちひろは内藤に母の墓参りに連れていってもらった

母の墓にドングリを供えた。ちひろが内藤に「あのころ店長が身体を求めなかったわけが分かった。私の父だったんだよ」と話した。「なんで俺が?」と内海が笑った。

内藤が店に戻ってバジルに「ちひろは頭おかしいよ、とんでいる。しかし、乗ってやることにした」と話した。

バジルがちひろのところにやってきて「あんた店長とできていたの?」と激怒する。(笑)

「私は恋愛に酔えない。店長は好きだけどお父さん。男と女には恋愛しかないの(このバカタレ)」と答えた。「しょせん雄と雌よ」と言う。「あんたには社長は無理よ、止めな」と言うとバジルは怒って帰っていった。(笑)

唯一の友人でも自分のことが絡むと相手が見えなくなる。(笑)

 雨の夜、マコトが鍵を無くして家に入れず「お腹がすいた」と久仁子に電話してきた

久仁子はおにぎりを作って持って行こうとしたところを母に見つかった。母が「いい気なもんだ勝手にしなさい」と怒った。久仁子は「お母さんも同じ!私のことは何も知らない」と言い返し、おにぎりをもってマコトのところに駆けつけたべさせた。そこにマコトの母・ヒトミが帰ってきて目玉焼きを乗せた焼きそばを作ってくれた。マコトは美味しそうに食べる。久仁子は泣けて仕方がなかった。

料理は豪華だけでは駄目だ!作る人の愛情なんだ

 弁当屋では女将さんが病院からいなくなったと大騒ぎ

店員の永井(根岸季衣)が「アヤちゃんという子を話していて、アヤちゃんと一緒に居なくなった」と騒ぐ。アヤはちひろの本名だった。(笑)

ちひろと多恵は病院を抜け出し車の中でちひろが店にやってきたときのことを話していた。多恵は「ちひろが弁当を買いにきたときドキドキした」と言い、ちひろは「同じ星の人だと思った人は二人いる。ひとりは多恵さん。もうひとりは昔、海苔巻きを食べてくれたちひろさん」と答えた。ちひろは「母が亡くなったときは辛いとも悲しいとも思わなかったが、多恵さんが母ならどんな大人になったかな」と聞くと「今より素敵な人にはなっていなかった」とちひろを抱いた。ふたりは病院に戻り、多恵は退院した。

弁当屋の屋上でのお月見パーティー

“のこのこ“の皆さん、マコトの親子、久仁子の家族と一緒に月見の会を開いてお団子を戴いた。ちひろは誰にもわからないよう途中退座し海岸を歩いていた。そこに多恵から「中途で帰ったでしょう」と電話してきた。「何故分かった」と聞くと「寂しそうな気配が急に無くなったから。あなたがどこか遠くに行こうと思っている?もういいんじゃない、あなたはどこにも行っても孤独を手離さないで生きていける。さようなら」と言った。

ちはるが去った弁当屋“のこのこ”

多恵夫婦が栗の皮むぎをしていた。旦那が「多恵さんがこんな地味は稼業を楽しいというのを聞いて惚れ直した。良い嫁をもらった」と多恵に感謝する。多恵が「ちひろが居なくなってさみしいそう、いい人が見つかるといいね。ちひろを採用した理由は何だったの?」と聞く。旦那は『隠れて見ていたら、出した弁当をエビの尻尾まできれいに食べて「美味しかった」と感謝したことだと話す。

ちひろは新しい職場“牧場”で働いていた

牧場主に「前職は?」と聞かれ、「ただの弁当屋です」と答える。これに牧場主が「弁当屋か」の返事。風俗屋とは見られなくなったが、弁当屋かに、人は仕事という見える形に拘るようです。ちひろさんはこれでまた強くなるでしょう!多恵さんにこれ以上心配させたくなかった。

まとめ:

ちひろは親の暴力、家出、風俗嬢の体験を経て、弱いものを徹底的に助け、慕われ、もう孤独ではなくなった。が、恋愛はできないかもしれない。(笑)

親子、恋人、友人、上司と部下とたくさんの人と人の関り方が描かれたが、自分の立場、都合や見かけで人を判断する。立場や都合を捨てることでその人を理解できると訴えている。ちひろとバルジの関係にみるように、親しい関係にありながらバルジが内海に関心を持つことで、ちひろに対する見方が正反対になる。

 食べ物、料理がいろいろなシーンで数多く出てくる。料理は愛情、人と人を結び付けると訴えている。特にマコトと母ヒトミ、久仁子と母親の関りが面白かった。弁当屋というのが生かされた作品だった。

田舎の寂れた港町。この閉鎖的な環境の中で、おだやかな自然特に海によって人がもつ傷が癒されていく。特に、元風俗のちひろさんと母に愛されないクミコが夕陽の浜辺で脚を海に浸して交わす会話。このシーンが本作のテーマの全てを語るような美しい映像だった。

セリフがすばらしい。沢山の名言があった。元風俗店長の内海が寝込んでいるちひろを励ます「すこし池に沈んでいろ、藻掻くと死ぬ。人は浮かぶようにできている。じたばたするから死ぬ。浮かんだところで連れてゆく」。ラストシーン近くで弁当屋の夫婦が交わす会話もいい。

有村架純さん、風吹ジュンさん、リリーフランキーさん、ナイスなキャステイングで見事な演技でした。

風俗と弁当で描く愛の物語、人生についてのいい壺をついていた!!

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「52ヘルツのクジラたち」(2024)家族という呪いから解かれた命、聞こえない弱者の声を捜して生きる!

 

タイトルがいい!これで観ることにしました

多用な家庭環境、ヤングケアラー、児童虐待トランスジェンダーと苦を抱える人たちの物語。ラストで涙に溢れた。何もしてあげられないが、泣けたことが少しはみなさんに近づけたかなと思わせてくれる作品だった

ストーリーに当初違和感を覚えたが、アウチングとはこういうことかと、現実の問題として受け入れ、ラストで涙に溢れた。

原作:2021年本屋大賞を受賞した町田そのこの同名ベストセラー小説、未読です。

監督:「八日目の蝉」「ファミリア」成島出脚本:龍居由佳里脚本協力渡辺直樹撮影:相馬大輔、編集:阿部亙英、音楽:小林洋平、主題歌:Saucy Dog、トランスジェンダー監修:若林佑真、LGBTQ+インクルーシブディレクター:ミヤタ、インティマシーコーディネーター:浅田智穂。

出演瑳:杉咲花、志尊淳、宮沢氷魚小野花梨、桑名桃李、金子大地、西野七瀬真飛聖:三島由紀池谷のぶえ余貴美子倍賞美津子

物語は、

自分の人生を家族に搾取されて生きてきた女性・三島貴瑚(杉咲花)。ある痛みを抱えて東京から海辺の街の一軒家へ引っ越してきた彼女は、そこで母親から「ムシ」と呼ばれて虐待される、声を発することのできない少年(桑名桃李)と出会う。貴瑚は少年との交流を通し、かつて自分の声なきSOSに気づいて救い出してくれたアンさん(志尊淳)との日々を思い起こしていく。(映画COM)


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あらすじ&感想(ねたばれあり:注意)

冒頭、貴瑚は東京から大分の祖母が暮らしていた、クジラが見える丘の家に引っ越してきた。よく海が見えるようにとテラスの張り出工事中。

貴瑚が母親の暴力とヤングケアラーとして苦しんでいた時に救い出してくれたのが安吾だった。彼女はトランスジェンダーに対する配慮なさで安吾を失った。海を見ながら、彼が贈ってくれた52HZのクジラの鳴き声(MP3 プレーヤ)を聞き、どう生きるべきかを考えるためここに来た。

52HZのクジラとは、他の仲間たちには聞こえない高い周波数で鳴く世界で1頭だけのクジラのこと

貴瑚は坂を下り埠頭に出て、海を見ながらMP3を聞きながら「何で私を置いて逝った」と安吾と会話し、その帰り道で突然の雨でお腹の切り傷(後述)が痛み出し座り込んだところに、女の子が傘を差しだしてくれた。この子の髪の長さ、服装から尋常でないと家に連れ戻り、身体を拭いてやった。男の子(桑名桃李)だった。身体に傷、大きな痣がある。しかし、晴が逃げ出し捕まえることが出来なかった。

幼いころ母から虐待された貴瑚はこの少年を見過ごすことが出来なかった

工務店の村中(金子大地)の紹介で、博多でアイドルだったが子供を連れて戻ったという、食堂店員の琴美(西野七瀬)に会った。が、「知らない、やってない!」と激怒する有様。

再び少年が家に現れた。殴られていた。テラスに少年を誘い、アイスを食べさせ、MP3を聞かせ、「このクジラもひとりぼっち。しかし私があなたの声を聴いた。私にも聞いてくれる人がいたの」と話して聞かせ、やさしく少年を抱きしめた。

貴瑚は自分の過去を振り返り、この少年にどう対応しようかと考え始めた

3年前、貴瑚は3年前に倒れた義父の介護に明け暮れていた。

貴瑚の給仕で喉を詰まらせた義父が緊急入院。病名は肺炎だった。激怒した母の激しい暴力で貴瑚は一時意識朦朧となった。病院からの帰り、貴瑚はトラックに飛び込もうとしたところ、塾の先生・岡田安吾と親しい友人の牧岡美晴(小野花梨)に救われた。

居酒屋での貴瑚の回復祝い。

貴瑚は初めてビールを飲んだ。安吾が「3年の介護はきつかっただろう。もう十分だ。ここで死んで生き返ろう。第2の人生を生きてみないか。そのためには家からの開放だ」と勧められた。

貴瑚には思いもしなかった案だったが、ふたりの協力で義父を在宅介護サーブスで実施できるよう資料を揃え母に渡して、母との関係を絶った。

貴瑚はすっかり可愛い娘に戻っていた。これを契機に貴瑚は安吾を「命の恩人」と感謝し、ふたりの関係は「アンコとキナコ」の関係になっていった。(笑)安吾「貴方は魂の番に出会う」と貴瑚に伝えた。貴瑚は「愛されること」と聞くと「寂しくて死にそうになっても眠れる」と52HZnクジラの声を録音したMP3プレーヤーを渡した。ふたりはイヤホーンで繋がってクジラの声を聴き過ごした。

貴瑚は安吾から救われた記憶から、今の世界に戻った

貴瑚は彼氏のスポーツカーに乗っている琴美を捕まえた。子供を預かっていると言っても「あの子はいない。私の人生を狂わした。ムシけらだ」と言う。「預かる」と言うと「どうぞ!」と去って行った。

家に戻って少年に名を聞く。紙に「ない」と書く。「どんな名前がいい」と聞くと「52!」と書いた。これに決めた。「家族はいるの?」と聞くと「ちほちゃん」と書いた。

そこに友人の美晴が「急に消えて、放ておけない」と尋ねて来た。うたりで52を連れて小倉に出て「ちほちゃん」を探すことにした。三人で観覧車に乗った。すると52が喜んだ。52がここに来たことがあると分かった。美晴が「あんた、新名さん(宮沢氷魚)とどうなったの?」と聞く。

2年前

貴瑚は化粧品会社の倉庫で商品発送の仕事に就き、忙しく働いていた。安吾に会い「貴方が好き、私のことは好きですか」と聞くと「キナコのことは大事に思っている。心から幸せを祈っている」というが、キスもなし。しかし、安吾は苦しんでいた。貴瑚は気づかなかった!

社員同士の喧嘩のとばっちりで貴瑚が負傷し入院した

社長の息子で専務の新名が入院見舞に訪れ、怪我させた相手を責めない貴瑚お優しさが気にいって、交際を申し込んできた。貴瑚はこれを受けた。新名はタワーマンションの一室を貴瑚に与え、ふたりはここでの生活が始まった。

新名は貴瑚の友人安吾、晴美と晴美の彼氏(若林佑真)をホテルのレストランに招いた

紹介時、新名は安吾に「男の方だった。安という名で女性だと思っていた」と挨拶した。食事が始まっても安吾と貴瑚の関係を見ていた。新名が「貴方は魂の番の活動をしていて貴瑚と出会い男だとは思わなかった」と安吾に話しかけた。安吾が「男で問題ですか?男と女とかの関係ではない」と開き直った。新名は「これからは自分が貴瑚の面倒をみる」と言い返した。

現在に戻って、

貴瑚と美晴は小倉の路地に入り、ちほさんの家を探した。すると隣のおばあちゃんが「ちほさんはいない」と52を自分の家に連れ込んだ。

おばちゃんは「琴美はこの子をちほさんに預け仕事をしていた。この子は言葉の遅い子で琴美が帰ってきたときママでなくちいちゃんと呼んだ。これに腹を立てた琴美は煙草をこの子に押し付け、これでこの子は言葉を失った。琴美がこの子を連れて出たあと、ちほさんは亡くなった」と話した。ちほさんと一緒に写った写真を見せられた。裏に52の名が記されていた。愛だった

貴瑚は愛と大分の家に戻りイヤホーンを繋いでクジラの声を聴いた。

1年前

貴瑚は街で安吾に会った安吾が「新名と別れた方がいい。あなたを泣かせる」と忠告してくれたが貴瑚は「幸せよ」と意味が分からなかった。

貴瑚は新名から「父の勧めで結婚することになったが、本当に愛しているのは君だ。このまま続けてくれ」と言われ、これを受け入れた。ところが安吾の投書でふたりの関係がバレ、父と結婚相手が激怒しているという。新名は「おまえが安吾に相談したか?」と疑い、激しく貴瑚を殴る。

さらに安吾の母・岡田典子(余貴美子)と安吾を呼び出し、典子には「安吾は女性でありながら男の恰好で妻をストーカーしている。障害があることを知らなかったのか」と責めた。典子は「知らなかった」と絶句した。安吾には「子供を作って貴瑚を幸せにする。あとは母と話せ!」と去った。安吾は泣いた。

このあと新名は貴瑚の部屋に戻り、貴瑚を殴り続けた

安吾と母はアパートに戻り、安吾トランスジェンダーであることを母に伝え、東京に逃げてきたことを話した。母が「気付かなかった、障害を持っているとか」という。安吾は「障害か?俺がが」と怒った。母は「女には戻れないのか」と聞き、「長崎に帰ろう。どこでもいい逃げよう」と言った。安吾は居場所を失ったと考えた

貴瑚が安吾のアパートを訪ねると安吾は風呂場で自死していた

遺書が2通、貴瑚と新名宛に遺されていた。貴瑚は典子と安吾の遺骨を長崎まで送った。典子は「安吾の分まで生きて!」と言った。その帰に新名宛の遺書を読んだ。そこには「悔しいが貴瑚を幸せにしてくれ!」とあった。

貴瑚がマンションに戻ると、新名は泥酔し茫然自失としていた

貴瑚が新名宛の遺書を渡すと燃やしてしまい「全部忘れよう」と言った。貴瑚は包丁で自殺しようとしたが止めに入った新名と揉めたが、自分の腹を刺した。

貴瑚は大分の家のベランダで安吾の遺書を読み、安吾を忍んでいた。

遺書には「誰も幸せには出来ないと思っていたが、キナコが人生を豊かにしてくれた。どうか彼女を幸せにしてください。永遠の幸せを」とあった。貴瑚は「魂の番は私だと言って欲しかった」と話すと「出会いの時から番だった」と安吾が話す。貴瑚は「私を愛してくれてありがとう」と泣いた。このシーンの杉咲さんの泣き演技が一番よかった。

工務店の村中と彼の母親・村中サチエ(倍賞美津子)が「誘拐犯で捕まる」とやってきた。「少し時間を「ください」と帰ってもらった。夜明け前、愛は居なくなった。気付いた貴瑚は埠頭に走った。そこで愛を見つけた。

貴瑚は「死なないで!ふたりで生きよう。家族になろう。必ずあなたを守る」と叫んだ。愛が「ああ」と声を発した。巨大なクジラが跳ね上がった!

愛の長い髪を切って寄贈することにした。

ソーメン流しで集う人々の中に貴瑚、愛、美晴の姿があった。愛が貴瑚にアイスキャンデーを持ってくる。サチエさんが「クジラが見たかったらここで暮らさねば」という。愛が皆の中に溶け込んでいる。貴瑚は「何があっても生きる。ここで笑って!」と返事した。

まとめ:

貴瑚が愛を助けるとともに再生されていく物語。

とてもシンプルだ。しかし、登場する人物の発するセリフには深い考察がある。これまで目にしないスタッフたち。トランスジェンダー監修、LGBTQ+インクルーシブディレクター、インティマシーコーディネーターたちによる指導だと知った。彼らに対する正しい見方を教えてくれた。自分がいかに傍観者だったかが分かる作品だった

 悪のように見える新名も琴美も貴瑚の母も、みんな傷を持っているんだ!これを想像できるように描かれているのもいい。

大きな傷を持つ貴瑚の愛で“愛”が救われるというだけでなく、ラストのソーメン流しのシーンで、集まった人々の中でふたりが再生されていくエンデイングが、集まったすべての人がクジラの声に耳を傾けているように見えてすばらしいエンデイングだと思った。

出演者みなさんの演戯はすばらしい。主演の杉咲花さん、「市子(2023)」に次ぐ社会派ドラマへの出演だが、これに優る演技だった。「湯を沸かすほどの熱い愛」(2016)で血の繋がらない母・宮沢りえさんに抱きしめられるシーンがあったが、この作品では血の繋がらない母となって桑名桃李君を抱くという、その成長に感無量だった。

ヤングケアラー、児童虐待トランスジェンダーという社会問題に関心を持たせるいい作品だった。

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