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「風をつかまえた少年」(2018)教育が生き方を変える!

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大変評判がよく、NHKの「あさイチ」で取り上げられた作品。やっと観ることができました。タイトル通りの主人公の感動的な物語でしたが、そのバックグランドである貧困国“マラウイ”(6位)の因習をぶち破った教育のすばらしさに感動しました。

冒頭で描かれる、風で砂が巻き上がる大地、枯れてなびくトウモロコシ畑、葬儀列の先頭をゆく「グレワンクール」、色彩豊かな衣装の女性たち、目の澄んだ人たち、アフリカンメロディー。
マラウイの光景とここに住む人たちの日常が鮮やかに写し出され、なかなか観ることのない世界に誘ってくれます。
https://ja.wikipedia.org/wiki/マラウイ

監督はアカデミー賞作品賞それでも夜は明ける」(2013)でアカデミー主演男優賞にノミネートされたキウェテル・イジョフォー
主演は、オーディションで見つけたマックスウェル・シンバ、共演に監督自身、マラウイ出身本作で女優デビューのリリー・バンダ、セネガルダカール出身のアイサマイサ、南アフリカ出身のレモハン・ツィバ、マラウィ出身フィルベール・ファラケサらです。

はしがき:
2001年、アフリカの最貧国のひとつマラウイを大干ばつが襲う。14歳のウィリアムは貧困で学費を払えず通学を断念するが、図書館で出合った1冊の本をきっかけに、独学で風力発電のできる風車を作り、畑に水を引くことを思いつく。しかし、ウィリアムの暮らす村はいまだに祈りで雨を降らそうとしているところで、ウィリアムの考えに耳を貸す者はいなかった。それでも家族を助けたいというウィリアムの思いが、徐々に周囲を動かし始める。(映画COM)

***(ねたばれ)
物語には「クフェサ」(種まき)、「ククラ」(生育)、「クコロラ」(収穫)、「コンジャーラ」(飢え)、「ムポヘ」(風)の章立てで、農作物の生育状況に合わせるように国や組合の動き、家族の暮らし、主人公の行動が描かれます。こうして、風車発電を作り上げるまでの環境を広くとらえているのがいい。

冒頭で、主人公ウイリアム(マックスウェル・シンバ)の叔父の葬儀が執り行われ、牧師が「死者が何を残したかでその人を知る」として叔父がこの地を切り開いた人であったことを皆に披露し「この仕事を継ぐ」よう促します。そして、皆で叔父を「グレワンクール」で見送る。

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このようにして、農民はこの地に踏み踏み留まり、繰り返される旱魃にどうしようもない辛い運命と諦めて背負う運命サイクルが出来ていた。
洪水が予測されても、旱魃が予測されても田を耕し続ける父・トライウェル。きっとうまくいくと信じ一生懸命やっておればなんとかなるという農業を、この土地固有の風を生かした風車発電で変えていくという、ウィリアムの葛藤は想像を絶します。

「クフェサ」(種まき
「種まき」、ラジオで雨を気にするシーズン。ウィリアムは日本でいう高校に入学。子供たちの15%ぐらいだそうです。
土地を持たない父親には異例のこと。しかし、このことが家族を、村を救うことになりました。

ウィリアムは入校式を終えると担任のカチグンダ先生(フィルベール・ファラケサ)に「学費の未払い分がある」と学費を納めるよう言われる。先生にはウィリアムの姉・アニー(リリー・バンダ)と付き合って、彼女に大学教育を受けさせたい思いがある。

雨が降り続き、ニュースでモザンビークでの洪水被害が伝えられる。集会ではもうタバコ栽培は出来ないと土地を売る、木を伐採して生計を立てようとする。土地を持たない父親には、兄の土地で愚直に農業を続けることしか生きる道はなかった。
放課後、父の農作業を手伝い、小鳥を獲って食料にしようとする。(笑) 廃品集積所をあさり、電気部品を拾ってくる。電池などでラジオ電源に困る人を助けていた。
先生の自転車を見てダイナモでライトがつくことを知った(父の自転車には装備されてなかった)。のちの風車発電の着想につながっていく。
この廃品がどこから出たものかはっきりしない。車両の廃品もあることから、街に住む裕福な外国人が捨てたもの?社会構造に大きな歪みがあるようです。

雨が降り続き、もう農業はできないと父は村長のところに出かけ訴える。この時期、アメリカでテロ事件が発生し、海外支援の影響も予想される。

「ククラ」(生育)
日照りで葉っぱが枯れる。母・アグネス(アイサマイサ)は娘・アニーに「20年前にこういう危機があった。これを切り抜けたのは妻たちだった。いい嫁になりなさい。いい人いるの?」と聞きます。アニーは「この村にはいない」と答えた。
危機の辛いことが、弱い女たちに掛かってくるこの皮肉。しかしアグネスは、家計をやりくりして、ウィリアムに教育を受けさせるという叡智がありました!アグネスのいつの子供を抱っこしている姿が印象的でした。 

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ウィリアムは廃品置場でバテリーを拾い、これを充電すれば、風車を回せるのではないかと考え始めた。
先生が姉と密会していることを秘密にすることを条件に、図書館のエティス先生(ノーマ・ドゥメズウェニ)を紹介してもらい、「Using ENERGY」という本を見つける。

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この本で、“風車”でダイナモを回して電気を起こし、バテリーに貯めて、モーターを回して水をくみ上げるシステムを学ぶ。この書物は貧民支援としてアメリカ大使館が贈ったものだという。このシステムを作るためにウィリアムは廃品置き場を漁った!

折しも大統領選挙。村長が応援に出かけ、災害支援要請のお願いしたところ、連れ出され、拳銃で脅され負傷させられるという事態をウィリアムが目にする。

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この国には、貧民に対する政治がない。貧困の原因が、旱魃だけではないことを示唆しています。父親は困れば村長のところに相談にいくが、こんなことで旱魃は解決出来ない、「自分で道を探さねば」と強く思ったのではないでしょうか。

「クコロラ」(収穫)
保存してある食糧は70日分しかない。次の収穫までどうするかと心配するアグネス。
屋根のブリキを剥がして金に換える。急激な物価上昇で父は抗議行動に参加し家を空けるようになる。
姉のリリーは先生の家族と会話ができないと家出を渋っていた。この国は多民族国家で、言葉という障害がある。

ウィリアムは内緒で授業に出ていたが、金を払えないと退学になった。母・アグネスは校長に「先祖のように雨ごいのお祈りをしない。学校で学ばせたい」と願い出て、図書館だけは使えるようにしてもらった。

こんなときに泥棒に入られ、食料を盗まれる。母・アグネスが泣き叫ぶ!食料危機になってきて、盗難事件が増える。
緊急に食料配給がなされることになり、ウィリアムが父代わりに受け取りにいくが、受けられない人が大勢押しかけ暴動が起きる。外国の援助支援があっても端末までうまく配分されないという現実がある。

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15kgの配給を受け、家族は1日1食として、夜だけ食べることにした。

「コンジャーラ」(飢え)
1日1食、飢えをしのいで乾燥した畑を耕す。愛犬カンバには餌が与えられなくなった。姉・リリーが食扶持が減るようにと先生と駆け落ちした。これは母に大衝撃を与えた。

しかし、先生はウィリアムが望んでいたダイナモを残して行ってくれていた。このダイナモでモデルの風力発電機をつくり、ラジオを鳴らし、このやり方で実用できると説明し、沢山の協力してくれる仲間を得た。そして、姉・リリーに「先生の自転車のダイナモがあれば発電できる」と訴えたが、返事は「わからん」だった。

父・トライウェルにもモデルを見せ、「自転車を譲って欲しい。私にはお父さんの知らないことを知っている」と申し出たが「唯一の移動手段、ばかばかしい!」と受け付けてくれない。これが一番の難関だった。そして、愛犬カンバが亡くなった!

この状況で母アグネスが「あなたに従って全てを失った。大地もアニーも。教えて欲しい、失わないことを」と泣いてトライウェルに訴えた。

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「ムポヘ」(風)

父親が「土地を失い、これで全てを失った」と自転車を譲ってくれた。ウィリアムは「違う、私を学校にやってくれた。すべてではない。風を使ってうまくやっていく」と答えた。
友人たちの助けを借りて、木を倒して櫓を組み、風車を取り付け、電力発電を開始した。

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学問は、物つくりだけでなく、制度や偏見などいろいろな壁を壊してくれ、貧しさから逃れる大きな力であることが分かります。沢山の暖かい手が差し伸べられることを願ってやみません。
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映画『風をつかまえた少年』本編映像