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宮﨑あおいさんを応援します

「ジョーカー」(2019)  これしか生きる道はない、現在に通じる物語

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バットマン」のビラン、ジョーカーの生誕物語。アメコミ作品からから生まれた作品でヴェネチア国際映画祭金獅子賞受賞という話題作。これはもう観なければと駆けつけました。彼がなぜ巨大な悪のカリスマに堕ちたか?「ゴッサム・シティ」という都市のもつ世界感のなかで、貧困、就職難、差別、賤民思想、福祉・介護などいびつな社会構造に翻弄され、ビランに変貌していく心理過程の描写は見事で、こうなるのは当たり前だと納得です。ジョーカーを応援したくなります!

その社会構造は現在社会にも投影されていて、本作は、社会派エンターテイメント性の強い作品となっており、いわゆるアメコミ作品とは異なるところが評価されての受賞でしょう。

監督は「ハングオーバー」シリーズのトッド・フィリップス。主演はザ・マスター」「her/世界でひとつの彼女」のホアキン・フェニックス。共演にロバート・デ・ニーロ、ザジー・ビーツらです。

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脳に傷をもつ主人公アーサー(ホアキン・フェニックス)のやさしい、気弱な男が、社会の不条理にもまれ、次第にジョーカー化していくところが見どころですが、「ゴッサム・シティ」の持つ雰囲気を出すロケーション、美術、そして、アーサーの心理状況を表すような音楽が一体となって盛り立て、すばらしいアート映画になっています。

****(ねたばれ)
頭に障害のあり緊張すると笑いの発作に襲われるアーサーは、母・ペニー(フランセス・コンロイ)から「どんな時でも笑顔で人々を楽しませなさい」と教えられ、芸人の道を志して勉強しながら、ピエロ姿で看板を持つ宣伝マンとして生活している。

TVニュースでゴッサム・シティのゴミ問題で市の職員がストライキに突入し、街がゴミの山と化していることを伝えている。ゴッサム・シティはまさに1970年代のニューヨークの街として描かれ、ペイントだらけの地下鉄の電車やホームに犯罪の匂い、不潔さ、治安不安、恐怖など当時を感じる見事な絵になっている。

アーサーが看板を持って立っているところに、3人組のストリート・ギャングがやってきて、嫌がらせで看板を取り上げ壊してしまう。この風景は今日でも観られる風景。彼は看板をとり返そうといてもみ合い、メタメタに殴られる。こんな不条理はない。彼はトイレで「どうしてだ」と泣いた。そして、店に帰ると、ピエロ派遣プロダクションの店長から看板を壊したと責められ首にするぞと脅される。
頭に傷のある彼にはあまりにも厳しい仕打ち。そんな彼に、用心のために拳銃を持てと仲間から拳銃を譲り受けた。

拳銃を持ったことで、彼の気持ちがすこし和らぎ、これを持って踊ってみる。踊りが、現状を抜け出すというアーサーの感情表現になっている。家では母親に食事をさせ髪を洗ってやるという孝行息子。わずかのアーサーの稼ぎでふたりは生活していた。ふたりでマレー・フランクリン(ロバート・デ・ニーロ)のバラエティ番組を楽しみ、いつかこの番組に出演する日を夢見ていた。

小児病棟の慰問で子供たちを笑わせているときに、この拳銃を落として、これで店長から首を言い渡される。その帰りの地下鉄電車の中で3人のエリート・サラリーマンに揶揄われる少女を見て、救ってやろうと笑うと、その笑いが気に入らないと3人にめった蹴りされる。たまらず拳銃を一発発射して難を逃れたが、ホームを下りた3人を追って射殺した。このときは無音になり、彼は耳鳴りがして、走って逃げた。
「犯人はピエロだ」というニュースを見て、この社会ではやらねば殺されることがあるとアーサーは笑い、足が震えた。過剰防衛ではあるが、アーサーの苦しみを知ると許せるという気持ちになります!

彼は市のソーシャルワーカーにカウンセリングを受けていたが、予算削減でこれが受けられなくなり、精神安定剤の交付が受けられなくなる。彼の精神安定に致命的な影響を与える。

ナイトクラブもコメディーを見てネタを仕入れ、コメディアンクラブでステージに立つが、全く笑いがとれない。彼のネタ帳には、「人生以上に高価な死を求める」という落書きが遺されており、彼の心は何時しか死が蝕んでいた!

こんなときに母がTVでゴッサム随一の富豪トーマス・ウェイン(ブレッド・カレン)が市長になったことを知り、「アーサーの面倒を見て欲しい」という手紙を書いてアーサーに投函するよう頼む。が、アーサーはこれを開封して見た。これを知ったアーサーはトーマス邸を訪ねるが、使用人にバカにされ、父親であることが確認できない。コンサートホールに忍び込み、トーマスに会うと俺は父親でないと殴られる。

母に確認しようとするが精神病の再発で緊急入院。母がかって入院していたアーカム州立精神病院を訪ね、管理人を脅して手にいれた資料には、養子縁組で虐待され、あげくにネグレクト。母親とは血の繋がりはない。これを知ってアーサーは泣いた!

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これまで恋人関係にあると思っていたアパートの隣人・ソフィーに救いを求めるが、出て行ってと断られる。薬が切れたことによる幻覚であったとは!

アーサーは入院中の母親を訪ね、俺は人を笑わせことはできないと首を絞め殺した。
そして、地下鉄の殺人事件で警察が訪ねてきて困るという社長をハサミで首を刺して殺し、ピエロ姿で街に出た。

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警察官がこれを見つけて追ってくる。電車に乗ると、客が皆、ピエロの面をつけている。アーサーは、市当局に反感を持つ人たちのシンボルになっていた。たくさんのピエロ面を着けた人たちの中に身を隠して逃げ切った。

アーサーは、全く自分が望んだことではなく不条理な社会に翻弄され、悪い方に悪い方へと運が傾くが、なんとか耐えようとしてきた。しかし、遂に限界を迎える。

アーサーが望んでいたマレーからのTV出演依頼が来た。マレーはアーサーの拙い喋りを逆手にとって、喝采をとっていた。

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アーサーは、ステージの袖で踊って、「ジョーカー」と呼ばれステージに。ジョーカーは自分でつけた芸名だ。

マレーのネタを見せてくれに、ネタ帳の「人生以上に高価な死を求める」を見て、「地下鉄で3人殺した!と告白する。マレーが「人生のまさかの喜劇だ」と言えば、「善悪を主観で判断するな」と返事。「それが殺人の理由か」というマレーに、「おれの映像を流して人気を取ってくるおまえこそ、くそくらえだ!」と拳銃で撃った。

TVでこれを知った市民が街に出て、暴動となり、ウェイン夫妻が殺された。護送される車にトラックがぶつかり、意識を失っていたアーサーは群衆によって救い出され、ボンネットに立って口を両手で広げ、笑顔を作った。大歓声のなかで、アーサーは英雄となった。

アーサーは精神病院のカウンセラーに「理解できないだろう、これが人生、冗談みたいだ」と語り、殺害して、姿を消した。

アーサーは死にたかった。これしか生きる道はない。あるとすればジョーカーとしての道。
ホアキン・フェニックスが、24㎏の減量でガリガリの肉体となり、苦悩で苦しむアーサーを見事に演じてくれ、一生モノの作品になりました。


映画「ジョーカー」オンライン60秒(ストーリー編) 2019年10月4日(金)公開