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“いだてん”最終回「時間よ止まれ」

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1964年10月10日。念願の東京オリンピック開会式当日。田畑(阿部サダオ)は国立競技場のスタンドに一人、感慨無量で立っていた。そこへ足袋を履いた金栗(中村勘九郎)が現れ、聖火リレーへの未練をにじませる。最終走者の坂井(井之脇海)はプレッシャーの大きさに耐かねていた。ゲートが開き、」日本のオリンピックの歩みを支えた懐かしい面々が集まってくる。そのころ志ん生ビートたけし)は高座で「富久」を熱演していた・・・。

感想:
記録フルムとドラマがうまく組み合った東京オリンピック実況、楽しい、面白いオリンピックでした。オリンピック行進曲が響くと涙がでました。
矢沢栄吉さんの「時間よ止まれ」、田畑にとって、生涯忘れられない東京オリンピック、忘れられない「“いだてん”オリンピック噺」でした。

スポーツのすばらしさを教えてくれた作品でした。

テーマは「オリンピックは平和の祭典」。日本が初めて参加したストックホルムオリンピックから、完走できなかった金栗四三が54年の時を経てゴールインするという東京オリンピック噺。嘉納治五郎田畑政治の功績は大きいが、沢山の選手たちの汗と涙、命で繋いだ東京オリンピックへの夢、平和への祈りこそが原動力だった。田畑がここで行われた学徒出陣式の日、必ずここでオリンピックをやると決意したことを想い出すシーン。戦場に散った若い者への追悼でした。平和がどれほどに尊いものか。オリンピックが平和への願いだということを訴え続けたドラマでした。

大河で扱われるには馴染(なじ)みのない時代、知らない人物、そしてマニアックな俳優という、異例づくしの大河だった。

オリンピックに関わる市井の人々、信長や秀吉だけでない、皆の力が積もってドラマができていると感じさせてくれる大河だった。これがクドカンさんのいいところ。ドラマの世界に入っていける。こんな大河ドラマはこれまでない、歴史に名を刻むでしょう。

何度も泣いた!金栗と三島が初めてのオリンピックに胸を張って参加したが、挫折し三島が自殺しかけたことや金栗が行方不明になったこと。世界の差をどうやって埋めてきたか?雪の降る箱根マラソンで沿道の人たちが懸命に支えた駅伝への関心、関東大震災の復興をスポーツが支えたこと、人見選手の登場で女性の地位が重んぜられるようになったこと。ロサンゼルスオリンピックの水泳陣の頑張りが海外移住者の生きる希望の火になったこと。平和の祭典を唱え続けた嘉納治五郎への信頼と彼を失った悲しみ。世界戦争で有意な若者を失ったこと。1964年オリンピックに政治家が絡んできたこと、そして理不尽な田畑の免職。オリンピック聖火に広島の記憶を刻みこんだこと、女子バレーボールにみる自らの意思でオリンピック参加する選手たちの意識改革など沢山のドラマを観てきました。

出演者の多かったこと。僅かな演技に全力投球でとても印象に残っています。自転車節の綾瀬さん、これがMVP。紅白で観たい!次がストプオッチを持って一回転する阿部サダさん。中村勘九郎さんの“すっす、はっは“走り。車引きの峯田和伸さん!
犬養毅役塩見さんの血を吐くような演技、人見絹枝役菅原小巻さんの「800mを走らせて!」と涙で訴えた演技、満州でオリンピックの夢の中でロシア軍に射殺された仲野太賀さん。2度も不幸に巡り会うシマとリク親子を演じた杉咲花さん、熱演でした。

大河でしか見られない絶品芝居。大竹しのぶさんと中村獅童さん、役所さんの英語スピーチと柔道、セリフの少ないバレーボールだけの名優安藤さくらさん、物言わぬメガネ美人の麻生久美子さん、バー「ローズ」のママ:薬師丸ひろ子さん、よくこの役引き受けました。気丈な明治の母親・白石加代子さんが、息子・弥彦をストックホルムに送り出す駅頭で流した涙が忘れられない!ビートたけしさん、よく頑張りました!

日本橋で四三と孝蔵が“いだてん”走りで交差するという夢のような美しい映像を見せてくれた大根仁監督。

歴史資料もふんだんでした。信長、秀吉が大河だといいますが嘘ばっかり。このドラマではしっかり時代考証がなされ沢山の映像資料を見せてくれました。

製作に関わったスタッフの方、そして参加された多くのキャストのみなさん、ありがとうございました。よいお年をお迎えください。

***
10月10日、東京オリンピック開会式当日。天気は快晴だった!
前の晩から眠れなかった田畑は、観客の入場前から、国立競技場のスタンドにいた。そこに四三が現れた。ふたりには特別席だったんだろうな!

四三が昭和15年東京オリンピックの最終ランナーを務めて欲しいという加納治五郎の手紙を見せて、今日その役が果たせないことを悔やむ。田畑は悪かったと詫びると、四三も「もう気にしない」というが、相変わらず足袋を履いていた。四三は「坂井君を励ます」と去って行った。

開会式まで5時間。東東京都知事は羽田にインドネシア選手団が帰国するのを見送っていた。東がすまないと謝ると「田畑のオリンピックに出たかった」と言葉を残して帰国していった。

貴賓室では岩田がIOC会長のブランテージに日本語スピーチの練習を指導していた。夫人が岩田のストップウオッチを見て、「アンティークな時計ね」という。岩田は「嘉納先生が田畑さんに託したものを渡しが託されました。まだ動くんです」と答えると、ブランデージが「動いているのは、彼がまだ生きている証拠だよ」と言った。そうだ、このオリンピックは加納治五郎がいて可能になったといってもいい。だれかが線路を引く、歴史は必ず唾がっていくことを教えてくれます。

坂井は郊外の「水明軒」で、とても不安げに、聖火を引き継ぐために待機していた。四三はやってきて水冷浴で「何にも考えんで走れ!」と励ました。

開門と同時に国立競技場に観客が押し寄せ、高石勝男、野田一雄、鶴田義行、大横田勉ら、戦前のオリンピックで活躍した面々もスタンドに集まってきた。

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午後1時50分、「オリンピック序曲」の演奏が始まり、参加94か国の国旗が一斉に掲揚された。国旗担当の吹浦(須藤漣)が大活躍で完璧な掲揚。国旗を示すことで「心だけでもこの競技場にあってほしい」と不参加となったインドネシア北朝鮮の国旗を掲げた。

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やがて音楽は行進曲に変わり、実況を担当する北井清五郎アナウンサーは「世界中の秋晴れを、全部東京にもってきたような、すばらしい秋日和でございます」と述べた。北ローデシアの選手がひとりでやってきたが、上手く行進に加える。

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スタンドを埋め尽くす観客たちが見守る仲、各国選手団の入場行進が始まった。コンゴ共和国はヨンベとウランダの二人きりで入場するのを見た四三が「思い出す!ストックホルム、三島さんと二人で歩いた」と感慨を漏らした。
日本選手団が全選手団の最後、94番目に入場した。赤いブレザー姿の354人の選手が登場すると、喝采が一層大きくなった。田畑がここで行われた学徒出陣式の日、必ずここでオリンピックをやると決意したことを想い出した。

選手団がそろうと、ブランデージがスピーチを始めた。「開会宣言、」ここに、つつしんで、」天皇陛下に、おねがい、もうしあげます」
天皇陛下の開会式宣言が行われ、聖火ランナー・坂井がトラックに姿を現した。大歓声の中、坂井は聖火台に続く階段を駆け上がる。振り返り、会心の笑みを見せたあと、点火した。すると一万匹の鳩が一斉に上空に飛び立った。

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皆の視線が青空に向けられ、ブルーインパルスの5機が見事な円を描き、上空に五輪のマークが現れた。「とってむねえ!」と四三。

この日、志ん生は美津子を伴ってテレビ局に急いでいた。運転手はクドカンさんだった!

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]高座に上がると、今日のネタが「富久」だと告げた。

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「富久って、酒にしくじった芸人が、旦那の家が火事だってんで浅草から日本橋に駆けつける。これを満州でやったら生意気な兵隊さんにケチをつけられた。それから私は、浅草から日本橋を超えて芝までやっています。その兵隊は足が速くてオリンピック目指していたんだが、“マヌケな野郎で死んじゃった”。そのせがれが、なんの因果か私に弟子入りしまして・・」。

五りんはこの日、美津子の勧めで聖火リレーに随走者として参加した。「すっす、はっは」と予定区間を無事走り終えると、正走者の鈴木久美恵が最終ランナーの坂井に聖火を渡した。

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五りんは樹に上り聖火が点灯されたのを見て“火事”を思い出し、「富久だ」と師匠のところに駆け出した!

テレビ寄席の高座を終えた志ん生が今松に背負われて舞台を降りると、聖火リレーを終えて駆けつけた五りんが「師匠、復帰おめでとうございます」と挨拶した。「どっからきた」と師匠、「浅草じゃない、国立競技場」、「忘れねえで来たんだからやる気てやれ!」と五りんの破門を解いたところに、美津子が「知恵が、生まれるって!」と飛び込んできた。五りんは血相を変えて、今度は浅草に向けて走り出す。まるで「富久」の久蔵だった。生まれた女の子に「富恵」と名付けた。

東京オリンピックでの日本勢は大健闘し、重量上げ、レスリング、ボクシング、体操で次々にメダルを獲得した。しかし、国技の柔道では、オランダのヘイシングに敗れ、全階級制覇は達成できなかった。
大会12日目のマラソン。宇宙中継で世界に配信された。しかし、中継車だ一台で先頭のアベベしか映らなかった。(笑) 円谷幸吉選手が銅メダルを獲得し、スタジアムに初めて日の丸が上がった。
10月23日には、大松監督率いる女子バレーボール日本代表が、ソ蓮を破って見事に金メダルを獲得した。鬼の大松も泣いて、何度も宙に舞った。

10月24日、閉会式を前に競技場のゲート前で、松澤や森西が選手を整列させようとするが、言うことをきかず、肩を組み、抱き合い、酒を飲んで雄叫びを上げる」さま。松澤の懇願もむなしく、選手たちがスタジアムに流れ込んだ。そして各国入り乱れての行進となったが、この自由奔放な行進は意外にも世界から称賛された。この日ザンビアが独立。吹浦の機転で国旗が間に合った。

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田畑が加納治五郎記念コーナーに立つと「これが世界に見せたい日本かね!」と声がする。「いかがですか?」と聞くと「実に面白い。私は改めて礼をいう。ありがとう」の声、田畑は泣いた。そこに岩田が駆け寄って「いろいろありましたが、最後はこれがお守りでした。どうぞ、お返しします」とストップウオッチを差し出すと、田畑に瞳から涙が止まらなかった。TVで閉会式を観た菊枝(麻生久美子)が「ごくろうさまでした」とつぶやいた。

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昭和42(1967)年、熊本の池部家にストックホルムのオリンピック委員会から手紙が届いた。「金栗選手。あなたは1912年、7月14日、マラソン競技において、競技場をスタートしたあと、今だ、どこかを走り続けていると想定されます。当委員会はあなたに、完走を要請いたします」。それは、ストックホルムオリンピックから55周年の式典への招待状だった。

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四三は、スヤとともにストックホルムを訪ねた。そして観客たちが見つめる中、かっての日本人初のオリンピック選手としてマラソン競技のスタートを切ったスタジアムを走り、ゴールテープを切った。記録は54年8か月6日5時間32分20秒3。
                                     ***おわり***


時間よ止まれ/矢沢永吉

20191226

『いだてん』最高じゃんねぇ! 最後まで見続けた人が勝ち組である5つの理由
12/26(木) 12:00配信


2019年1月6日からスタートしたNHK大河ドラマ『いだてん ~東京オリムピック噺~』が約1年の時を経て、先日12月15日に終了した。この『いだてん』と共に1年を走り抜けてきた筆者にとっては未だ感動と興奮が冷めやらない。そこで本稿では、『いだてん』がいかに他の大河ドラマと異なり革新的で愛すべきドラマだったのかということを、rockinon.com編集部の熱狂的な「いだてんウォッチャー」2名が5つのポイントで解説する。この5つのポイントを読んでいただけたら、最後まで『いだてん』を見続けた人たちがいかに驚きや切なさや共感や感動などのたくさんの感情を抱き、心が高まる境地に達したかということがお分かりいただけるだろう。また、本稿を読んで少しでも気になった方は12月30日(月)に放送される総集編をお見逃しなく! いだてん最高じゃんねぇ!(諸星奈津子、金秀奈)

①物語と共に進化するオープニング映像
『いだてん』がこれまでの大河と比べていかに革新的なのか、それはオープニング映像を見ただけでも語ることが出来る。大友良英が手がけた疾走感のある音楽、ファンファーレと共に駆け込んでくる、斬新な横尾忠則デザインの題字、山口晃が描いた東京の俯瞰図……と、日本屈指のクリエイターの才能が結集した贅沢な映像だが、それだけではない。物語の時代や内容に合わせて、背景の地図やコラージュされた当時の映像が徐々に変化していくのだ。
例えば関東大震災後の回では、それまで浅草の街の象徴であった凌雲閣(浅草十二階)が消え、煙に包まれた街の俯瞰図に変わっていて、作中の登場人物と同様、私も街の景色が一変してしまった事実に心を痛めた。また物語の後半では、戦後復興の象徴である東京タワーが登場し、今の東京の街並みはこの時代に出来上がったのかと胸が熱くなる。
私が確認しただけでも、恐らく十数パターンはあったのではないかと思う。これだけ作品に合わせてオープニング映像を緻密に作り変えたドラマは他にあっただろうか。

そして、映像の終盤、過去から現代に移り変わる東京の街を主人公が駆け抜けていくシーンでは、私たちが今見ている風景や日常が、物語に登場する人物と地続きであることを想像させる。本当に毎回一瞬たりとも目が離せない、心動かされるオープニング映像だった。

②立体的に折り重なった脚本
脚本を担当したのは、NHKでの執筆は連続テレビ小説あまちゃん』以来となる宮藤官九郎。宮藤の作品を複数見てきた身としては、今回の脚本もとにかく素晴らしかったの一言に尽きる。まず、偉人や歴史的人物の「一人」の人生を描いてきた今までの大河ドラマとは異なり、「二人」の人生を前編と後編に分けて一人ずつ描いていく過程に、一貫して「もう一人」のパラレルワールドが存在し、その「三人」を軸に物語は進んでいく。どういうことかと言うと、前編では日本で初めてマラソン選手としてオリンピックに参加した中村勘九郎演じる金栗四三、後編では日本にオリンピックを招致した阿部サダヲ演じる田畑政治の二人が主人公とされているが、噺家古今亭志ん生の「三人目の存在」(若いころを森山未來、近代をビートたけしが演じた)が、『いだてん』を語る上で欠かせないのだ。古今亭志ん生は若いころと現代を行き来しながら前編後編で常に登場し、さらにドラマ内の「語り」も担当しているため機能的にもとても重要な役割を担っている。
第1話を見た人の中には、なぜ落語が出てくるのか?と違和感を感じた人も多いだろうが、この伏線は第39話「懐かしの満州」で回収される金栗四三古今亭志ん生が、あるいはマラソンと落語が、「富久」という落語の演目をもって図らずも繋がる瞬間だから。いだてんファンの中でこの回をベスト回に挙げる人も多く、例に漏れず私もその一人で、涙を流しながら「ここか~~!」と頷きしばらく放心状態になった。ちなみに10月13日に放送されたこの回は、裏で日本中を熱くさせた「ラグビーワールドカップ」日本代表がスコットランドに歴史的な勝利をしベスト8に進出したあの試合が放送されており、色んな意味で神回となった。

そのほかにも、金栗四三田畑政治は一見それぞれ別の時代の主人公として分けて捉えられるが、これまた最重要人物の日本でのオリンピック開催に奮闘した役所広司演じる嘉納治五郎によって、物語中盤のこの二人の近付いたり離れたりするなんとも言えない絶妙な距離感が作られていたことも挙げておきたい。

立体的に物語が作られる傾向は宮藤作品にはよく見られるが、今回の『いだてん』は登場人物が多く年月も長い分、その全員が少しずつ少しずつ重なりあい影響しあい、物語を、ひいては時代を作ってきたというところに「つくりもの」ではないリアルを感じた。

③テーマは「敗者」と「継承」
宮藤自身も以前ラジオで語っていたが、『いだてん』は「敗者」を描いた物語である。それは主人公の二人ですら、ある意味「敗者」だった。
日本人選手として初めてオリンピックに出場した金栗四三は、メダルを期待されていたにも関わらず、ストックホルム大会ではまさかの棄権。オリンピック招致に尽力し、見事東京五輪を叶える田畑政治も、開催の2年前に事務総長の座を失脚させられてしまう。

しかし、この作品の魅力は「敗者」が描かれたことだけではない。彼らの見た夢が次の世代に「継承」されていく過程が描かれていることだ。金栗四三のマラソンの夢は弟子の小松勝(仲野太賀)、そしてその息子の五りん(神木隆之介)に。田畑政治東京五輪への熱い思いは、部下の岩田幸彰(松坂桃李)に嘉納治五郎の形見とも言えるストップウォッチと共に受け継がれる。

私が特に感動したのは、この作品で描かれた女子スポーツの歴史である。マラソン選手を夢見ていたが、震災で命を落としたシマ(杉咲花)、初めて女子アスリートとしてオリンピックに出場しメダルを獲得するが、24歳の若さでこの世を去った人見絹枝(菅原小春)。彼女たちの夢が、後に水泳で金メダルを獲る前畑秀子上白石萌歌)や、64年の東京大会で金メダルを獲る、「東洋の魔女」と呼ばれた女子バレーボール選手たちに引き継がれていく。

「女に体育は不要!」、「嫁入り前の娘が足を出して走るなんて!」と世間から言われていた時代から、「自分たちのためにスポーツをやる」と胸を張って言える東洋の魔女の時代まで、彼女たちのスポーツを愛する心が、いかに女性を取り巻く社会や歴史を変えていったのか。その視点で『いだてん』を振り返るだけでも胸が熱くなる。

『いだてん』は、志半ばで夢破れたり命を落とした「敗者」が、次の世代にバトンを渡しながら、スポーツの未来や日本社会そのものを変えていった、まさに壮大な歴史ドラマだった。もちろん彼らは、皆それぞれ偉業を成し遂げた人たちに変わりはないのだが、自分と同じように挫折し、悔し涙を流し、それでも前を向く姿が描かれていたからこそ、私たちは深く共感し一緒に涙しながら並走出来たのではと思う。

④史実と創作の絶妙なバランス
『いだてん』の脚本が優れている、ということはすでに前段でも触れたが、史実と創作のバランスが絶妙であったことも伝えたい。
宮藤脚本らしい突飛なセリフやエピソードが次から次へと飛び出し、「さすが宮藤さん、大河でも自由だなぁ」なんて思っていたら、実は史実だったということが、番組終了後に放送される「いだてん紀行」や公式ツイッターで明らかにされ、さらなる驚きと感動を呼び起こす、という現象が『いだてん』ではほぼ毎回のように起きていた。

例えば、生田斗真演じる三島弥彦が率いるスポーツ同好会、天狗倶楽部。作中では暑苦しくチャラい若者集団として描かれるが、番組終了後の「いだてん紀行」では、実際の彼らが上半身裸でポーズをとる当時の写真が映し出され、「意外とドラマの彼らと同じ感じだったのかも……」と思わされてしまう。

また、実際の映像が差し込まれるからこその説得力も大きい。最終回のラストには金栗四三が54年もの時を経て、ストックホルム大会のゴールテープを切る実際の映像が放送された(競技中にコースを外れて行方不明となったため、今もどこかを走り続けているとされていた)。ゴール後に彼は「長い道のりでした。この間に嫁をめとり、六人の子どもと十人の孫に恵まれました」と語ったという。嘘みたいな本当の話で、まさに「事実は小説よりも奇なり」だ。

『いだてん』の制作スタッフは、リオ五輪前から5年もの歳月をかけて、気が遠くなるほどの膨大な資料を集めて読み解き、史実を繋ぎ合わせながら物語を作っていったらしい。これだけでもスタッフの並々ならぬ熱量を感じるのだが、これらの実話や本人の言葉を宮藤が創作を交えながら生き生きと描いていくので、見ているこちらはどこからどこまでが史実なのかわからない。毎回放送終了後にSNS上で繰り広げられる、「いだてんウォッチャー」同士の答え合わせが楽しくて仕方がなかった。意外と知らないことが多い近代史だが、『いだてん』は私たちに「ついこの間までこんなに面白い人がいた」という事実を教えてくれた。

⑤豪華で個性豊かなキャスト陣
最後に、『いだてん』を彩ったキャスト陣を振り返る。まずはじめに、中村勘九郎阿部サダヲには今年一の拍手を送りたい。実力は申し分ない上に、中村勘九郎は激しい熊本弁や驚いた時の「ばっ!」、阿部サダヲは「じゃんね~!」の語尾や「アレとナニ」など独特な口調に象徴される滑稽さと親しみやすさは抜群だったし、それがゆえに未だにロス状態である。そのほか全てのキャストが個性豊かで魅力的なのだが、例えばシマを演じた杉咲花や岩田幸彰(通称「岩ちん」)を演じた松坂桃李などは、初登場時こそさほど目立たなかったが、物語が進むにつれてどんどん愛着が湧いていき、最後には視聴者全員の愛すべきキャラクターとなっていたのではないだろうか。さらに、俳優業以外も生業としているキャストが多く出演していた。星野源トータス松本峯田和伸などのアーティストや、角田晃広東京03)やカンニング竹山などのお笑い芸人も良い味を出していたし、宮藤作品に三谷幸喜が出演したのには少し驚いた。そのほか最終回だけに脚本家本人である宮藤がちょい役で出演していたり、北島康介に実際の水泳選手役を演じさせ「気持ちいいじゃんねぇ!」と言わせるあたりも今までの大河ドラマには無い『いだてん』ならではの遊び心だった。
rockinon.com(ロッキング・オン ドットコム)

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