クリント・イーストウッド監督作品ということで楽しみにしていました。
1996年のアトランタ五輪で大会期間中に起きた爆弾テロ（負傷者111人、死者2人）時、警備員として多くの命を救いヒーローしてもてはやされ男リチャード・ジュエルが、一転してFBIとマスメディアの暴走によって冤罪容疑者とされた。
冤罪を晴らすためにジュエルは弁護士の支援を受けて、連邦刑事局員の聴取に「あの晩、俺の仕事で生きた人間が一杯いる。彼らは逃げようと俺に付き纏った！早く本当の犯人を捜せ！また起こったらどうする。俺に罪を問う理由があるのか！どうだ！」と応じた。
与えられた仕事を一生懸命果たそうとする普通の青年だが、見てくれが悪く銃が趣味という犯人と疑われやすいジュエルに、このセリフを刑事に向かって吐かせるまでに、“人間ジュエル”を描き上げたイーストウッド監督の描き様に泣きました！！90才になるという監督、まだまだ、期待しています。
ここで描かれるＦＢＩもメディアもめちゃくちゃだ！「いつ犯人にされるか分からない」と激しい憤りを感じます。ここで扱われる弁護士同伴の尋問受けなど我が国の裁判制度は早急に検討する必要があると思います。
1996年オリンピック開催時のアトランタ公演でのコンサート。まるで参加しているように再現された映像がすばらしかった。コンサートに酔っている観衆のなかで、ただひたすら人を守ろうと這いまわって警備するジュエルが愛しかった！
そしてジュエルを演じたポール・ウォルター・ハウザの演技は、演技とは思えない、この作品のために生まれた人のように思いました。
共演はサム・ロックウェル、キャシー・ベイツ、オリヴィア・ワイルド、ジョン・ハムらです。
ジュエルの熱血弁護士を演じるサム・ロックウェルは「ジョジョ・ラビット」につぎ、名演技で楽しませてくれました。
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冒頭、中小企業庁の弁護士室の用務員ジュエルが弁護士ブライアント（サム・ロックウェル）と知り合うシーン。筆記具や好みに合うスナック菓子などを整えたり、ふたりでゲームセンターで銃撃ゲームを楽しみながら“ＦＢＩ”になりたいと伝えたり、「警備員の仕事が見つかった」と報告し餞別金を贈られるというブライアントとの関係が丁寧に描かれ、この関係がジュエルの弁護に生かされます。
ジュエルはこのあとビーモンド大学の警備員となる。夜、学生寮での飲酒を厳しく取り締まり、「融通性がない」と免職になる。笑いが出るほどに実直です。
こんな彼にアトランタオリンピック公園の警備員に採用され、母・ボビ（キャシー・ベイツ）とともに喜びます。
オリンピックの開会式に合わせて、公園でコンサートが始まる。ジュエルは休むことなく会場を点検。妊婦を見つければ「人助けのためだ」と水を差し出す親切者です。
バックパックを見つけ、警官に知らせると警官が触ろうとする。「爆発物処理マニュアルに従うべきだ」と、放送タワに駆けつけ避難放送を依頼し、避難誘導のために警備本部へ報告に走る。しかし、誰も信じない。
彼は自分でバックパックの中身を確認し、再度タワーに、警備本部へと走る。遂に自らが現場で避難誘導しはじめる。タワーに犯人から爆破予告が入るが、なんの処置もなされない！ 一体、この会場の警備体制は誰が仕切っているのか？ これこそが問われる問題だった。このあたりを丁寧に描いているのがいい。
爆発！大混乱、このなかでジュエルは負傷者に声を掛けて励まし、避難誘導する。記者もＴＶクルーも見て何もしない！
やって来たＦＢＩは現場の警官となにやら打ち合わせ！ こんなやつらに犯人扱いされるジュエルが可哀そうだった。
ジュエルの活動を見たAT&Ｔ記者のインタビューで“英雄”として報道された。彼は「警察の人たちと法に従っただけ！」と謙虚に語った。このあと「本を出版しないか」という誘いがきた。
一方、ＦＢＩアトランタ支部は犯人捜索会議を開き、爆破犯人プロファイリングから「発見者のジュエルが該当する」と決定。FBI調査官・ショウ（ジョン・ハム）がジュエルを追うことになる。最初にビーモント大学で彼の勤務歴、人柄を聴取。これが最悪だった。
記者スクラッグス（オリビア・ワイルド）はバーでＦＢＩショウから色仕掛けで「追っているのはジュエル」の情報を得た。ＦＢＩが漏らしたのは事実、これはいかん！ この情報が編集会議で了承され「容疑者は警備員！」と新聞に載った。しかしすぐに“ジュエル”へと変わっていった。編集長も編集長だ！！
ジュエルはＦＢＩの出頭要請を受けて、多くのマスコミのいるなか「俺はまだ容疑者ではない」と出掛けた。彼はＦＢＩが憧れの職だから聴取に協力しようとしていた。
カメラを入れて尋問され、終わってサインを求められ、彼はこれを拒否し弁護士ブライアントに相談する。ブライアントは「何もしゃべらず俺の到着を待て！」と指示した。ブライアントが居なかったら彼は完全な黒にされていた。この制度は日本にも必要だと思った。
ブライアントは公園を訪れ、あの夜、ジュエルが爆弾を仕掛けたとして、タワーに電話する可能性を調べ彼の犯行でないことを確認する。こんな基本的な捜査もしないFBI、人をバカにした捜査に激しい怒りを覚えた。
ブライアントがジュエルの家を訪ねると、大勢のマスコミに囲まれ家に入れない状態。「世の中は変わった、当分何も話すな！権威が君を火祭りにするぞ！」とこれからの過ごし方を示唆した。
FBIの家宅捜査が始まる。ブライアントが立会している。これも見習う必要があると思います。趣味の銃が何丁も出てくる。壁にはFBI制服の自画像。「このイメージだとジュエルは首だな！」とブライアント。FBIがすべてを運びだす。これにマスコミが群がる。「タッパーからパンティーまで持って行く！」と怒りを露わにする母・ボビ。
ジェエルの電話音声を録音しようとするFBIにブライアントが抗議した。家宅捜索の場を借りて隠しマイクを設置して盗聴を始める。さらにジュエルの友人を脅迫しホモの相手に仕立てる。
ブライアントはジュエルに「デブ、クッキーを食え！」とけしかけて怒らせ、「怒れ！これから反撃に出る」と宣言。
与党民主党全国大会に合わせ記者会見を開いた。ボビがクリントン大統領にジュエルの無罪とマスコミの嫌がらせを訴えた。
「お前より偉いやつはいないと思って対応せよ」というブライアントの言葉を胸に、ブライアントとともに、連邦司法省刑事局アトランタ支局の聴取を受けたが、堂々たる弁明で、相手はなんの証拠も持っておらず付け入るところがなかった。
88日後にFBIから「黒ではない！」という文書を受け取った。
1997年ジュエルはルーサーズビルの警察官に使用され、ここで2003年実行犯が逮捕されたことをブライアントから聞く。2007年心臓発作で44才で亡くなった。
黙々と努力しながら生きる人のなかにヒーローを見出すという優しい目線に感動させられました。
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