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「アメリカン・スナイパー」(2014)American Sniper

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クリント・イーストウッド監督による、米軍史上最強とうたわれた狙撃手クリス・カイルの自伝の映画化。
スナイパーの眼鏡で捉えた目の前の戦闘がカイルの戦争観(羊と狼)だった。懸命に撃って“人を救い国家に貢献する”と”愚直“に射撃し、PTSDに犯され、あっという間に消えていったカイルの人生、イーストウッド節に泣かされました。

この作品が戦争を擁護しているという意見があると聞きますが、全くそれは感じなかった。派兵され、初弾でM1戦車に対戦車擲弾(RPG-7)を向ける少年を辛い思いで射殺した以降、撃つことを使命として撃ち続け、4回の派遣を終えたカイルはPTSDでボロボロになっていた。それでも、同じPTSDで苦しむ海兵隊員を救う活動中、彼に撃たれて命を落した。こんな惨い戦争はない!イーストウッド監督の痛いほどの反戦気分が伝わってきます!

主演はブラッドリー・クーパー、共演はシエナ・ミラー、ルーク・グライムス、
ジェイク・マクドーマン、サミー・シークらです。この作品はまさにブラッドリー・クーパーの映画というほどに仕上がっています。

あらすじ:
米海軍特殊部隊ネイビー・シールズの隊員クリス・カイルは、イラク戦争の際、その狙撃の腕前で多くの仲間を救い、「レジェンド」の異名をとる。しかし、同時にその存在は敵にも広く知られることとなり、クリスの首には懸賞金がかけられ、命を狙われる。数多くの敵兵の命を奪いながらも、遠く離れたアメリカにいる妻子に対して、良き夫であり良き父でありたいと願うクリスは、そのジレンマに苦しみながら、2003年から09年の間に4度にわたるイラク遠征を経験。過酷な戦場を生き延び妻子のもとへ帰還した後も、ぬぐえない心の傷に苦しむことになる。
                
全編、ほぼ戦闘行動それもカイルがPTSDに侵されていく過程を描くために狙撃シーンが多い。とてもリアルだ! シールズ(米海軍特殊部隊)の戦い方が情報の共有と警戒で、誰かの不注意が大失態に繋がるという連帯感がカイルのスナイパーとしての責任感に大きく関わっていることが分かります。

戦場にいるカイルと妻タヤ(シエナ・ミラー)の携帯電話による会話。直接、戦場音が妻の耳に達するシーンには心が痛かった。カイルが敵を狙撃する精神的苦痛の癒しを妻に求めているが、妻には耐えられなかった。カイルのスナイパー・スコープには、妻が“羊”であっても、その姿は入らない!

敵を描き、最後にカイルと対決するという西部劇的結末に、クリント・イーストウッド映画を見る思いで、にんまりしました!

****(ねたばれ)
冒頭、カイルが初めてイラク戦争に派遣され、初弾でM1戦車に対戦車擲弾を投げる少年を射撃することを躊躇うシーンから、彼のこれまでの人生が回想シーンに入っていきます。カイルの単なる英雄行動ではなく“躊躇う”姿がどう変わっていくか。作品のテーマです。

カイルはテキサス州の田舎で敬虔なキリスト教徒の父に「人間には羊、狼、番犬という三種類があるが、番犬になれ!」と厳しく教えられ、狩りで射撃を学んだ。
成人してからはロデオに熱中して妻に逃げられ、その妻の吐いた「妻を放っておいて!ただの牧場使用人よ」の言葉に発奮、米国大使館襲撃されるのユースを見て「国を守る!」と、30才で海軍特殊部隊ネイビー・シールズを志願した。30才でこの訓練を受け一兵卒からスタートする人はほとんどいないでしょう。稀なる意志の固い男です。
射撃訓練で命中させるため「呼吸や鼓動の狭間を掴め!」「“狙いを小さく”、外してもどこかに当たる。大きく狙うと外れる」というコツを教わる。このコツがカイルの生き方に影響を与えたように思う。

訓練中にバーで知合った女性タヤが海兵隊やいやだったがカイルの「地上最高の国を俺は守る」という言葉にほだされて結婚。新婚3日目に召集されイランに派遣された。

〇第Ⅰ回の派遣
ファレーシャに。中東の西部、アルカイダが米兵に償金を掛けているという地域に派遣された。
カイルはスナイパー兵として海兵隊の建物制圧を護衛・監視するのが任務。相手にはムスタファという元オリンピック選手がスナイパーとして参加していると聞かされた。
マーク(ルーク・グライムス)とペアで監視ビルを占拠、マークが全般を監視し、カイルがスナイパーとして射撃する態勢を整えていた。
そこに、男がM1戦車を発見しビルから対戦車擲弾をもって走り出る。男を射殺。次いで子供が男に駆け寄り擲弾を拾おうとする、「拾うな!」とカイルのつぶやき。子供がM1に擲弾を投げようとしたところで射殺。次に駆けつけた女性も射殺。「よく撃てるな!」と思う。“怖いから撃つか”、“撃つのが使命だから撃つ”のどちらか。カイルはスナイパー、使命で撃った!

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キャンプに戻るとカイルの射殺数が話題になった。「あまりにも残酷だ!まさか最初にこんなことになるとは」と漏らした。

カイルは相手の自爆攻撃やスナイパー射撃に晒される日々を過ごしていた。

休暇3日前、海兵隊作戦本部からビンラディンに支援されているザルカウィとその副官を排除せよという命令が出た。ビルをシラミ潰しに一日10個のビルを捜索するという海兵隊をスナイパーとして支援することになった。

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しかし、カイルは「新米海兵隊にこの任務は無理だ」と自分が先頭にたって閉ざされたビルに入り、家族を拘束して尋問。「米軍と接触したのがバレたら殺される、その男はアミール・ハラフ・ファヌス。19万ドルが必要だ」と家主から要求される。この情報を本部に持ち帰り審査して、10万ドルを準備して家主のところに向かう途中に相手スナイパーに狙われて交戦。このときカイルが妻タヤと電話中だった。交戦状況にタヤが驚く!

家主のところに着くと、子供の頭にドリルで穴を開け、家主と妻が撃ち抜き、海兵隊員1名を射殺し、トヨタ車で逃げ去った。カイルは相手が放った犬に喰いつかれ撃てなかった。(笑) カイルは“チクショウ!”とつぶやき第Ⅰ回の派遣が終わった。

帰国。タヤが長男を出産。これに付き添うことが出来た。しかし、タヤは「心はここにない。戻って欲しい」と」訴えたが、カイルは戦場に戻っていった。

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〇第2回の派遣
空港でイラクに派遣される弟に出会い「くそくらえ!こんなところ」と言われ、マークから「俺たちがやっていることが正しいのか?」と疑問を投げ掛けられた。カイルは「祖国を守っている!」と自分の使命を再確認した。これがカイルの生き方だ。
カイルは相手の重要指名手配人として18万ドルが賭けられていることを知る。

店に集まる相手重要人物“屠殺者”の待伏せ作戦に参加する。この店の対のビルを監視拠点に選び、その夜はここで過ごすが、家主が敵だった。朝、家主を囮にして店に突入する計画でカイルは屋上の監視場所についた。家主に店の扉を開かせて海兵隊が突入し激しい撃ち合いが始まる。屠殺者が脱出し、これを援護するムスタファ。カイルは初めてムスタファを見た。が、彼らはデモ隊の中に消え、これ以上追えなかった。

帰国。
長女が生まれ、産院に長男を連れて急ぐカイル。途中で元海兵隊員から「ファルージャで助けてもらった。あなたは英雄です」と挨拶される。
病院に着くと、新生児室で名に叫ぶ長女を見て激しく看護師に抗議するPTSD症状が現れ始めていた。
妻タヤに「帰っても心がない。シールドが憎い!」と言われるが「彼らは待てるが、ここは待てない!」と再び戦場に。

〇第3回の派遣
“屠殺者”の捜索作戦。指輪を贈ると話す僚友ビグルス(ジェイク・マクドーマン)と車で移動中、射撃を受けて視界の利くビルの屋上に移動するが、突然射撃を受けてビグルズが負傷。カイルはビグルスを背負い脱出し、懸命に救命に努めた。
「7つ先のビルに敵の拠点がある」という情報で、ビルに駆けつけたがすでに敵は逃げ去っていた。しかし、スナイパー射撃でマークが撃たれ即死だった。カイルの目の色が変わった!

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カイルはマークの遺体とともに帰国し、葬儀に参列した。帰りの車で、後続車が敵に見える!PTSDの症状がかなり進んでいた。ビグルスを病院に見舞うと「失明し、顔の修復手術を受ける」という。
カイルは妻に「再婚してよい!俺は国のために戦う」と伝えた。タヤは「くだらない!引き際よ。他人に行ってもらって!」と言うが「他人というのは卑怯だ!」と聞き入れなかった。

〇第4回の派遣
戦地について入院中のビグルズが亡くなったことを知った。タヤに「お前の言ったことを考えていた」と電話し、サドルシティの“屠殺者”の拠点制圧作戦に参加した。問題は砂嵐だった。
装輪装甲車で拠点のある市街地に侵入した。敵に囲まれていた。高いところに監視点を求め銃を構えた。より高いビルにムスタファが居ることを確認、距離1920mだった。撃った!命中! しかし、カイルの居るビルが敵に包囲され、屋上での銃撃戦になり弾薬が底をつく。砂嵐がやってきて、これを利用して部隊は退却。カイルは戦友に助けられ、間一髪のところで装輪装甲車に引き上げられた。

帰国したカイルは「もぬけの殻」だった。耳に入って来る音は戦場音。庭で戯れる犬に襲い掛かる。医者の「また戦場に戻るか」と聞かれに「もう退役した。蛮人から守っただけ!神に説明できる」と答えた。

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医者の勧めで退役兵士の癒しに出掛けるようになり、タヤとやっと安らげる日々を迎えるようになった2013年2月2日、PTSDで苦しむ元海兵隊員と射場に出掛け、帰らぬ人となった。

彼の追悼式はカーボイズ・スタジアムで執り行われた。これに集まる人、人、人。
    *
戦争はない方がいいに決まっている。しかし、今そこで苦しんでいる人をどう救うか?
カイルの生き方、「友を助け、国を守る」と誰が何と言おうと信念を曲げず、戦い続けた彼の生涯に、掛ける言葉がない。

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映画『アメリカン・スナイパー』予告編