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「1917 命をかけた伝令」(2019)

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今年の米アカデミー賞で作品賞や監督賞他10部門にノミネートされて、撮影賞、録音賞、視覚効果賞を獲得した作品。
完璧なまでに計算された俳優の演技とカメラワーク。予測不能な天候を考慮し細部に至るまでこだわり抜かれたロケセット。シーンを繋ぎ全編ワンカットに見せる驚異の編集技術。これぞ戦場体験。・・と宣伝された作品。

1600人の味方の命がかかった重要な指令を届けるため、最前線へ向かって戦場を駆け抜ける2人の若いイギリス人兵士の姿を追うというストーリー展開、ドラマは大丈夫かと心配でした。

観てまいりました! アカデミー賞どうりのすばらしい映像作品でした。ドラマは平凡でしたが、人も物も全てを焼き尽くす戦争の虚しさがしっかり伝わり、“生きることの大切さ”を知る戦争体験型映画でした。

タイトル通り「1917」年の第一次世界大戦の西部戦場を描いたもので、人類が初めて経験した総力戦とはいかなるものか、この戦争で生み出した兵器の残虐性を再現した映像は凄い。歴史教科書では語れない、まるで戦場に立った気分にしてくれました。土地は荒れ放題、町には人が住めない、いたるところに累々たる死体の山。何で人間はこんなバカなことを繰り返すのかという思いにしてくれます。

荒れすさんだ戦場を、1コ大隊(1600名)の兵士の命を救わんと、危険をも顧みず走り抜けた名もない伝令の使命感に感動です。

監督は「007 スペクター」などのサム・メンデス。主演はジョージ・マッケイとディーン=チャールズ・チャップマン。共演にマーク・ストロングコリン・ファースベネディクト・カンバーバッチ

あらすじ:
第一次世界大戦真っ只中の1917年。西部戦線ではドイツ軍の後退が始まり、イギリス軍はこれを好機と、追撃に乗り出そうとしていた。しかし、それはドイツ軍の罠だった。そのことを一刻も早く最前線の部隊に伝えなければならなかったが、あいにく通信手段は途絶えてしまっていた。そこで若い兵士スコフィールド(ジョージ・マッケイ)とブレイク(ディーン=チャールズ・チャップマン)が呼び出され、翌朝までに作戦中止の命令を届けるよう指令が下る。この伝令には味方の兵士1600人の命がかかっていた。その中にはブレイクの兄(リチャード・マッデン)も含まれている。こうして2人は塹壕を抜け出し、いくつもの危険が待ち受ける無人地帯(ノーマンズランド)へと飛び込んでいくのだったが…。
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撮影監督は「プレートナンナー2049」(2017)のロジャー・ディーキンスです。
すばらしい映像を見せてくれました。戦場の退廃した雰囲気がすばらしい、特に燃える教会、廃墟と化した街を照明弾下でスコフィールドが疾走するシーンが印象的だった。

第Ⅰ次世界大戦の象徴である塹壕線、砲弾による炸裂孔とこれによる泥ねい化、放置死体とその腐敗など生々しく再現されています。馬や人が浮かぶ腐った泥のなかを歩く、また浮かぶ無数の腐敗遺体を踏みつけて岸に上がるシーンなど耐えられないほどで、遺体の腐り方の再現度にこだわりがあり、すごい映像でした。

最初から最後まで、伝令の行動をまるでワンカットのようにカメラが追い、伝令の目で見る戦場、差し迫る敵の脅威や恐怖、もう止めようかと思う心、自分がまるで伝令であるかのように体験でき、最後に、使命が達成でき生きていてよかったと思える映画です。
時間が勝負で前線へ前線へと最前線部隊を探す伝令のはなしで、回想シーンなどわずかな会話があるだけで、とてもテンポがよい。感情は観る人に託されています。

****(ねたばれ)
3年にも及ぶ塹壕戦。兵士たちはひとときを草地で身体を休めていることろに、「エリンモア将軍(コリン・ファース)のお呼びだ」と将軍付曹長が呼びにきた。これにすぐに反応したのがブレイク上等兵。彼は19才でいまだ戦功がない。隣で寝ているスコフィールドを起こして司令部に急ぐ。彼はすでに1年前ソンムの戦で毒ガス戦を経験している20代の上等兵。この戦で勲章を授与されたがワインと交換、家には帰りたくないという心に悩みを抱えていた。

ふたりが陣内の長い塹壕線を走って司令部に急ぐ。カメラがこれを追う。ワンカットシーンのようです。塹壕での兵士の生活、寝ている者、飯を食べている者、ゲームをしている者、病気の者などの姿がカメラに入る。さらに炊事場を通る。このシーンはとても珍しい。戦争映画で炊事場を描くのは相当なベテラン編者がついている!英軍の塹壕の深さ・傾斜にも注目。再現度が凄い! 塹壕に掩蓋がないのはこの時代、まだ空中破裂榴弾がなかったため。

司令部で将軍から「マッケンジー大佐率いるデヴォンシャー連隊第2大隊が撤退したドイツ軍を追っているが、敵は要塞化した陣地で待ち構えている。攻撃を中止せよ」という指令を受けた。ふたりの役割はこの指令書を伝令として明朝朝までに、エークスの町南東2キロにあるクロワジルの森に向かって前進中のマッケンジー大佐に届けよというもの。

伝令としてふたりが選ばれたのはスコフィールドには戦闘経験と慎重な判断力。ブレイクは地図判断能力が高いことと、なによりも第2大隊に兄がいること。

指令書を持ったブレイクが「兄のところへ!」と走り出す。彼はこの任務で勲章がもらえると喜んだ!その後をスコフィールドが走り、再びカメラが追う。
塹壕線の最前端陣地。守備隊長のレスリー中尉(アンドリュー・スコット)に会い必要な情報をもらい万一失敗時の収容を依頼して塹壕を飛び出す。

レスリー中尉は部下の死傷で落ち込み、風邪で疲れきっていた。長い陣地戦の苦痛が滲みでていた。

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壕を飛び出し、スコフィールドが指を自軍が張った鉄条網で切る。ドイツ塹壕までの無人地帯は大量の砲弾で耕され泥海化し、何度となく繰り返した突撃失敗で放置された人馬の遺体、遺棄された戦車などが存在し、悪臭を放っている。死の世界だ!なによりも不発弾が暴発する危険性がある。ふたりはこの地帯を無事通過し、着剣してドイツ軍塹壕に飛び込む。

ドイツ軍の塹壕がイギリス軍とは作りが異なっていた。壁は垂直で幅が広く深い。塹壕線を伝って陣内に。兵士の姿はないが、火種がある。残置兵がいるらしい?行き留まりが部屋になっており、部屋を捜索。ベッドと大量の食糧が遺されており、大きなネズミがいる。このネズミをどうやって撮影したのか気にかかります!(笑) ネズミは導線に触れ爆発。スコフィールドが瓦礫で生き埋めになるが、ブレイクが必死に救出する。

塹壕線にはいくつもの仕掛けがあったが、無事通過。塹壕を出たところでふたりは歓喜を上げた! しかし出口には大量の機関銃の薬きょうが遺されており、第一次大戦が“機関銃の戦”であったことが分かります。さらにその先に、幽霊のように120mmクラスのカノン砲が置き去りにされていた。

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敵砲兵陣地を通過し、これでドイツ軍塹壕陣地帯を通過。広々とした牧場に出た。牧場小屋を捜索しているとき、上空で空中戦が始まった。航空機が戦場に現れたのも第一次世界大戦です。

ドイツの飛行機が墜落し小屋に衝突。燃える機体からパイロットをブレイクが救出したが、ブレイクがパイロットに刺され、スコフィールドがパイロットを射殺した。19歳のブレイクがこんなことで命を落とし、最期に{家族に恐れずに戦ったと伝えて欲しい。行き先が分かっているか?}とスコフィールドにかけた言葉があまりにも悲しく、彼は泣いた!

スコフィールドがブレイクの遺体を火葬しているとき、通りがかった陣地変換中の車両部隊、隊長スミス大尉(マーク・ストロング)に救われ、エクス―トの町の入り口まで送ってもらう。スコフィールドの苦しみは出会った兵士たちによって救われた。
馬に変わり自動車が用いられたのも第一次世界大戦から。整備が不十分な道路、ぬかるみで苦戦する車両行軍が描かれました。

エクスートの入り口に橋で敵残置兵の射撃を受け、一時意識不明。映像は暗転し、次のシーンから始まる演出がうまい!

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残置兵に追われ、女性とあかちゃんがいる隠れ屋でしばらく過ごす。このシーンは戦場のなかで“生命”を感じるシーンで、スコフィールドが生き返り、照明弾で照らされた廃墟の街を泣きながら走り、女性に教えられた川に飛び込み、急流に飲まれて・・・暗転。水面に浮かび上がり、遺体の浮かぶ川辺に辿り着く。

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森の中から聞こえてくる“ヨルダンに帰りたい”の歌声に、スコフィールドは泣いた。この部隊がデヴォンシャー連隊の後続部隊であることを知り、隊長マッケンジー大佐を探して白砂の塹壕線を走り、第2大隊の最前線に飛び出し、敵砲弾落下なかのを走り、指揮所塹壕に飛び込んだ。頑固者の大佐も副官の意見とスコフィールドの熱意でエリンモア将軍の指示を聞き入れ、攻撃を中止した。

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スコフィールドはブレイクの死を伝えるため兄のブレイク中尉を探した!負傷者収容所でブレイク中尉を見つけ「生きていてよかった」とほっとした。任務を終えたスコフィールドは大木のもとで、「帰りを待っている!」というサインのある母の写真を見て、生きていることの喜びを感じた。
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『1917 命をかけた伝令』予告