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「影裏」(2020)

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監督が「るろうに剣心」「3月のライオン」の大友啓史さん、綾野剛松田龍平さん主演のヒューマン・ミステリー作ということに釣られて観ることにしました!
原作は沼田真佑さんの芥川賞受賞作の同名小説、未読です。とても難解とのうわさのある作品。理解できるだろうか?という心配をしながらも、大友監督のこれまでの作風とは異なったものがみれると楽しみにしていました。

ミステリアスな物語で、先週観た映画「グッドライアー 偽りのゲーム」感覚で観ていましたが、とんでもない、騙しのゲームではなく、“人生の再生“が描かれ、さすが芥川賞作品の映画化だと感じました!!

大友監督がこんな作品を手掛けたことに驚きました。

監督は同郷の作家沼田さんに惚れこみ、某放送局の記念作品ということで手掛けた作品。ヒットすることなどの縛りがないだけに、監督の想いがよく出た作品で、この作品を作り上げるにふさわしいスタッフが集まっているように思います。
プロデューサー:「モリのいる場所」の吉田憲一さん、脚本:「愛がなんだ」の澤井香織さん、撮影:「わが母の記」「羊の木」の芦澤明子さん、音楽:「あまちゃん」の大友良英さんらです。

主演はこのふたりでなければ本作は描けないという綾野剛さんと松田龍平さん。共演は国村隼・筒井真理子中村倫也・水島英子・安田顕・平埜生成さんらです。

あらすじ:
岩手県の盛岡に転勤してきた30歳の独身男・今野秋一(綾野剛)。慣れない土地で心細さを感じていた彼は、同い年の同僚・日浅典博(松田龍平)と言葉を交わすようになる。やがて一緒に渓流釣りに行くなど交流を重ね、いつしかすっかり心を許すまでの存在に。ところが日浅は何も言わぬままいきなり会社を辞め、姿を消してしまう。日浅と音信不通となり、大きな喪失感を抱えて日々を過ごす。
ある日突然、日浅は互助会の営業マンとして今野の前に姿を現す。ふたりの友情が続くように思われたところに東北大地震で、再び日浅の姿は消える。今野は必死に日浅を探し、まるで想像もしなかった日浅の人格を耳にするなかで、彼が行き着いた想いとは何か・・・。
            *
〇今野が味わう喪失感と日浅の想い、ミステリアスだ!
今野は一度は失踪、二度目は地震による不明という日浅の二度の喪失感を味わいますが、この差をうまく描き上げることで、人への想いの深さとは何か、喪失をどう克服していくのかという人としての根源的な生き方が上手く描かれていると思います。

〇自然の映像が美しい。川の流れ、風・雨に、音・色に意味がある!
沼田さん、大友さんの故郷岩手、盛岡の美しく力強い自然がふんだんに取り入れられ、これをモチーフに今野と日浅の交差する人生が描かれる演出がすばらしい。

〇ふたりの演技が見どころ!
綾野さんの、ゲイとしての秘密を隠して生きる表情、所作、動きがすばらしいです。裸になるシーンが多いですが、冒頭でのベットから起き、ベランダに出て座りシャスの鉢植えを陽に当てるシーンで“これは・・”と気付きます。そして日浅を失ったときの表情がすごい。
一方、松田さんは、どこか人生を達観、いい加減そうで哲学的な人生訓?がポロっと出てくる、不思議感のある、今生きているのか死んでいるのか分からない演技がすばらしい。

****(ねたばれ)
冒頭、「支援物資」と表記された薬品箱を生気のない表情で取り扱う今野が、会社からアパートに戻ってくるとパート勤務の西山(筒井真理子)が待伏せしていて、カフェ店に誘われ「半年経っても課長が戻ってこない、今野さん会っていない!死んだかもしれない」と相談を持ち掛けられるシーン。今野の喪失感が、日浅が死んでいるかもしれないと追い込まれ、“どう展開していくか?”という作品テーマが提示されます。

ここから物語は、今野と日浅の出会いからのふたりの関係が時系列で描かれます。

今野がゲイであることを隠すように埼玉からここ盛岡に転勤してきた。朝、パンツ一枚で寝ていたが目覚ましで起き、忘れられない相手から贈られたジャスミンの鉢植えを陽があたるベランダに出す。岩木山さんが見え、清流が流れる川の側にあるアパート。アパート入口にある個人ポストを確認して出勤。

出勤した今野を倉庫勤務の日浅が後ろから目隠し、これをきっかけに付き合いが始める。こうして、日浅主動で付き合いが始まった。

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ある日、日浅は今野が好きだという酒を持って、今野のアパートを訪ね、ふたりは大いに飲み、飲み疲れて日浅はソファーに、その下にごろりと今野が寝た。このとき今野が「東京の大学を出てここに戻り父親とふたりで暮らしている」と話すが、後に、これが大でたらめだったことが明かされます。朝起きて、今野の携帯電話を借りて会社に電話し、出勤する。なぜ携帯電話を持っていないのか、今野は気づかなかった! 日浅は「釣りにいこう!」と誘って出勤していった。

夏の清流での釣り。日浅は全く釣りを知らない今野に餌の付け方から教え、ふたりの距離がどんどん縮まっていく。ここでの清流、緑の森林、青い空がふたりの“生“を浮き上がらせて見せてくれます。東北の緑の美しさは抜群です!

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夏まつりの準備、盛岡の名物“さんさ”踊りの練習が始まった。ふたりはこれに参加して踊る。こうして、ふたりは本屋・寿司屋・カフェ店を訪ね、映画を観て涙を流し、今野はこれまで吸わなかったタバコを吸うようになった。ある日、日浅が“ざくろ”を持ってきて、人間の味がすると、二つに割って食べた。

なぜ“ざくろ”を食べたか? 彼にはどこか風変わりで掴みどころがないところがる(裏)。

冬になり、出勤した今野の耳に「日浅が辞めた!」という噂が入った。今野が
これまでの日浅との想い出を反芻しながら、大きな喪失感を抱えて日々を過ごしていた。

1年が経過し、部屋で本を読んでいたところに日浅が訪ねてきて「アイシンという互助会で営業をやっている。成績はうまくいっている」と話す。今野は彼の言うことがすぐには呑み込めなかった。
“雷”が鳴り、“大雨”の日。家に帰って裸になり身体を清めているところに日浅が酒を持って訪ねてきた。ふたりは、以前のように飲んで寝た。ところが今野の首に“蛇”が巻き付こうとしているのを日浅が見つけて、掴んで外に捨てた。今野は日浅の“脚”を見ていて、いきなりキスをして押し倒した。「マジかよ!」と日浅が起き上がり洗面所で顔を洗い、戻ってソファーで眠り、朝になってベランダでタバコを吸って帰っていった。帰り際に「おまえの釣り場に連れていってくれ!上流は淀んでいるけどな!」と言い残し帰っていった。

釣り場にやってきた。日浅はミズナラの倒木の上に生えた苔を見て「死んだ木から新しい芽が出る。これの繰り返しだ!俺たちは屍の上に立っているんだ!」と話す。今野はこの意味が分からなかった! 

日浅が「互助会に入ってくれ!ノルマが足りない」と尋ねてきた。今野はこれを受け入れ入会申請書にサインし、帰っていく日浅を見送った。彼は長い時間待っていたらしい。沢山のタバコの吸い殻が捨てられていた。何が起こっているのか?今野は分からない。間抜けだ!! 

気になり今野が電話を入れるが、繋がらなかった。その夜、日浅から夜釣りの誘いがあり出掛けた。廃品置き場で生活する老人を互助会入会に勧誘する場でもあった。今野は照明・ガスコンロなどしっかり準備していったが、日浅は“枯れ木”を抱えてやってきて、枯れ木の“赤い炎”のなかでヤマメを焼き食べさせる。酒を進めたが、「勤務がある」と今野が断った。

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いつもと違って日浅が激しい口調で「お前が見ているのは一番光が当たっているところ。人を見るのはその裏、影の濃いところだ!」と今野に辛く当たってくる。これが、このドラマの核心部。今、日浅はどんな状態にあるのか?なぜこの言葉を吐いたか。日浅に対する気持ちが試されたことに今野は気づかず、彼はアパートに帰っていった。

今野が所要で盛岡を訪ねていた昔の相手・副島(中村倫也)に会い、懐かしんだ。しかし、共に過ごすことはなかった。

そして2011年3月11日。東北大地震の発生。今野は西野から「日浅に金を貸していて、会社に安否を確認したら釜石に出ていて行方不明になっていた」と聞き、「もしかして日浅は・・」と懸命に彼を捜索し、彼の父親(国村隼)と兄(安田顕)と尋ね捜索願いを出すことを勧めた。「やつは勘当した。学費を受け取っただけで大学には行っていなかった。小さいころから変わったやつで母親の死にも動揺しないような子だった。いかし、どこかで生きているように思う」と捜索を拒否した。

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今野は日浅のイメージが自分のものとあまりにも異なることに動揺したが、「死んでいるかもしれない」と日浅への思いが一層募り、彼と過ごした釣り場を訪ね、彼が吐いた言葉を反芻し、「何で分かってやれなかったか」と苦しんだ。

日浅が死んだのか生きているのかは分からない。そんななかで送られてきた互助会入会更新を勧める郵便封筒に、かって日浅のサインしたパンフレットが同封されていた。自分を愛してくれた“日浅への想い”を大切にしながら、今野は2年後新しい相手誠人(平埜生成)と再出発した。ふたりが釣りをする川の音が、とてもよい響だった!
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綾野剛×松田龍平×大友啓史監督『影裏』ロングバージョン予告編