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「アメリカン・ビューティー」 (1999) 見かけの豊かさではなく、真の豊かさを探せ!

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WOWOWアカデミー賞特集2020」で紹介された作品。タイトルのネーミングに魅せられての観賞です。
現代アメリカの理想的家族の崩壊劇を通して、現代アメリカ社会の抱える闇をコミカルに描き出すというもの。

アメリカの闇という高尚なことはよく分からなかったですが、家族の崩壊劇はまさに今の日本が抱える中年夫婦危機の実態で、劇中夫婦が交す辛辣な数々のセリフやその行動が、多くの人にとって身に覚えがあるというか、リアル感があって、胸に刺さりました。(笑) ラストで明かされる主人公の言葉の中に家族崩壊を避けるために何が大切かがわかります! そしてふんだんに出てくる下ネタギャグに大笑いです。

本作は第72回アカデミー賞で作品賞、監督賞、主演男優賞、脚本賞、撮影賞を獲得した作品です。
監督はサム・メンデス、脚本はアラン・ポール、撮影はコンラッド・L・ホール、音楽はトーマス・ニューマンです。
主演はケビン・スペイシー、共演にアネット・ベニング、ゾーラ・バーチ、ミーナ・スヴァーリらです。

あらすじ:
広告代理店に勤め、シカゴ郊外に住む42歳のレスター・バーナム(ケビン・スペイシー)。彼は広告会社に勤めるがいまだ平社員で、仕事に意欲がなくなっていた。妻キャロライン(アネット・ベニング)はこんな夫を「人生の敗北者」と見下し、不動産業を営む業績を上げることにいっぱいで、夫のことなど頭にない。当然ふたりはセックスレスで、レスターは妻にうんざりしていた。

娘のジェーン(ゾーラ・バーチ)は情緒的な不安と混乱を抱える典型的なティーンエイジャーで、こんな生気のない父親を嫌っていた。そんなある日、レスターは娘のチアリーディングを見に行って、ジェーンの親友アンジェラ(ミーナ・スヴァーリ)に恋をしてしまい、彼女好みの体形つくりにと筋トレを始める。(笑)

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アンジェラはセブンティーンのモデル経験がある女生徒で「男性経験は豊富」と公言する。ジェーンに「あなたの父母はセックスレスよ」というちょっと跳んでる子。(笑)

そこに、元海軍大佐フランク・フィッツ(クリス・クーパー)家が隣に引っ越してきて、レスターはその息子リッキー(ウエス・ペントリー)に薬を紹介されたことで繋がり、ジェーンはリッキーと恋仲になっていく。リッキーの趣味はビデオカメラ。父親の厳格な躾に耐えられず薬を覚え精神科治療を受けた経歴があった。

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退職を勧められていたレスターはアンジェラやリッキーに煽られるように広告会社を辞め、上司のセクハラをネタに金をせしめ、昔に戻ったようなハイな気分で赤色のファイアバードを買い、自由気ままに過ごそうとハンバーガー店員になる。
一方、妻のキャロラインは売上を伸ばそうと不動産業の王様といわれるバディ・ケーンピーター・ギャラガー)をベッドに誘った。

こんなレスターとキャロリンが自宅居間で大喧嘩を始めた!

このとき2階部屋にいたジェーンとリッキー。父母で喧嘩にうんざりしたジェーンが「マジ、あれで父親と言えるの!父親が娘の友達を見て、パンツの中に発射する。死んだほうがいいよ」と言えば、「俺が殺そうか」とリッキー。ジェーンは「やってくれる」と頼んだ。このとんでもない殺人劇の顛末をレスターが語るという“寓話”です。


American Beauty - Trailer

****(ねたばれ)
アメリカン・ビューティー」とはバラの品種の一つで、色は真紅で発祥の地はアメリカ。アメリカの幸せの象徴です。パーナム家の庭には“このバラ”が植えられ、妻のキャロリンが手入れをしており、外から見るとまさに幸せ家族に見えます。が、実情は離婚寸前の夫婦と父親に死んで欲しいと願う娘からなるとんでもない家族です。見た目だけでは分からない、なぜこうなったのか、これがテーマです。

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このバラはレスターの欲情、妄想のメタファーとしても用いられ、作品をファンタジックにしています。

見た目で幸せかどうかなど分からないと、これを強調するためキャラクターの容貌や行動では人となりが判断できないように作ってあり、とても面白い物語になっています。騙されないように!
なかでもリッキー、こいつは目に凄みがあり薬をやり盗み撮りをするという悪の代表例のような男です。が、もっとも正義に近い判断力を持っています。我々はいかに見てくれで人を判断し、その人の本当の姿を理解していないかに気つかせてくれます。

このために登場してくるのが、「すべてのものの背後には“生命と慈愛の力”があり何も恐れる必要がない」というリッキーが撮るカメラ映像です。厳格な父親に折檻されなかで、彼が辿りついた生きるための哲学です。宙を舞う紙が絶対にカメラのフレームを外れることなく漂う映像には彼の哲学を支持する説得力があります。彼はこのカメラでジェーンを撮り、ジェーンの本当の姿を知り好きになった。

バーナム家の朝、キャロリンはレスターを無視したように仕事に出掛け、レスターは、ジェーンの「今夜アンジェラが来る」を聞いて、意気揚々とランニングに出掛ける。(笑)
フィッツ(クリス・クーパー)家では、リッキーが何時も送ってくれる父の車を断りキャロリンの車で登校、これを見送る父フランクが不信感をもつ。

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ハンバーガー店に勤めるレスターが、ケーンとやってきたキャロリンに「君が幸せならそれでいい。僕にああしろ、こうしろ言うな!」と激しい言葉を投げた。
これにケーンが反応して不倫関係解消を言い出す。頭にきたキャロリンは、車の中でいつもの「力関係が崩れたても自己中心的に生きることができる。他人の犠牲となる日々から解放されることだ」というテープを聞いて、隠し持っていた拳銃をハンドバックに入れて家路に急いだ。(笑)

一方、レスターは帰宅し、アンジェラに会えると筋トレを開始。薬が切れていることに気付きリッキーに電話した。
この電話に父フランクが疑念を抱き、窓越しにふたりの様子を監視する。フランクの想像で、リッキーとレスターはゲイ関係にあると判断し、戻ってきたリッキーを罵倒し、殴り倒した。
この家族も、元大佐に貞淑な夫人と一見立派そうに見えるが、実際は頑なな夫に支配されたとんでもない夫婦だった。

リッキーはニューヨークで暮らすと家を出て、ジェーンのところに。帰宅したジェーンはアンジェラに「父とは寝ないで!」と話しているところにリッキーがやってきて、これを見たアンジェラが「こんな男の何処がいいの」と言ったことから仲違い。アンジェラとジェーン&リッキーは別々の部屋で休んでいた。

フランクがガレージで筋トレしているレスターを訪ねてくる。ゲイ嫌いを豪語するフランクだからレスターを殴り倒すと思いきや、深刻な顔でレスターにキスをしてくる。彼は大佐として生きるためゲイであることを隠していた。レスターは「勘違いしているぞ!」と言ったからフランクはしょんぼりと雨の中帰っていった。

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レスターが居間に戻るとひとりでしょんぼりしているアンジェラを見つけ、この時を待っていたとばかりに挑もうとすると「初めてなの!」という。レスターはこの言葉で平常心を取り戻した。「ジェーンはとても素敵な恋をしている」と聞かされ、自分は何をしていたかと家族の写真を見ていた。そのとき彼は頭を拳銃でぶち抜かれた!犯人はフランクだった。

拳銃の音でリッキーとジェーンが駆けつけレスターの死に顔を見た。穏やかな顔だった。

帰宅したキャロリンがレスターの遺体を見た。彼のロッカーを開け、洋服を抱いて慟哭した。失くしてみて、何が大切かを知った。
レスターは消えていく意識のなかで、「美しいものがあるとそれに圧倒されて、僕のハートの風船のように破裂しかける。そういうときは、身体の緊張を解く。すると気持ちは雨のように胸の中を流れ、感謝の気持ちだけが後に残る。僕の愚かな、とるに足らぬたわごとに聞こえるだろう。大丈夫!いつか理解できる」と微笑んだ。

夫婦喧嘩も日本ではこんな結末にはならないでしょう。そこがアメリカの闇なんでしょうか。家族のなかで何が大切かをしっかり描いてくれているように思います。レスターの残した言葉よりリッキーの人生哲学のほうが心に残ります。
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