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「三島由紀夫vs東大全共闘 50年目の真実」(2020)

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すばらしい作品で、三島由紀夫さんと芥正彦さん(東大全共闘きっての理論家)の論争など滅多に観れるものでなくその迫力に圧倒されましたが、これが喧嘩にならない、お互いに相手のいうことに耳を貸し、譲ることはないがその論に敬意を払うという、今の政治家に是非見て、討論の在り方を学んで欲しいと思いました。「改革は言葉でしか出来ない、その情熱と敬意」というラストの締め言葉が胸を打ちます!

三島由紀夫さんは1970年11月25日、自衛隊市ケ谷駐屯地で自衛隊の決起を呼びかけた後に割腹自殺しましたが、この時期に何故という想いがあって、この作品を観ました。
この討論会の時点で日米安保の破棄は無理かもしれないという読みがあって、認識よりも実行を重視する三島さんには彼の持論からこの行動は当然の帰着であったように思いました。

話が前後しますが、この討論会にもこの想いを賭けて臨んだのではないかと見ました。

作品のラストでこの討論会の司会者であった木村修さんが明かす、この討論会の後電話で「楯の会」への勧誘があり、曖昧な返事をしたら「隣に誰がいる?」と聞き「彼女!」と応えたら「代われ!」と言って彼女に「旦那を愛していますか」と5分間説いたといいます。もうこの時自決は決めていたんでしょう、三島さんの優しさが伝わります。

この作品の冒頭で、討論会のあった1969年5月13日がどういう時代であったかを映像で見せてくれます。佐藤首相の70年安保延長演説、警察と学生の武力闘争、真っ赤に燃え上がる東大安田講堂など、日本で共産革命が成功するのではと思わせるほどの日本で最期の政治の季節であったという。
こんな右翼と左翼が真正面に対決する中で、安田講堂事件で官憲に敗北した東大全共闘がその立て直しに選んだのが「三島を論破して舞台の上で切腹させろ!」という討論会だった。

当時の人だったら「三島は殺されるかも知れない」と思ったでしょう。よくこれに三島さんは応じたなと思います。
三島さんが登壇し学生たちに話しかける最初のシーンで、決してそんなことが起こらないということが分かりました。それほどに三島さんにはオーラがあり、学生に優しかった。川端康生に並ぶノーベル賞作家と称せられながらこの低姿勢、想像だにしませんでした。

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TBS局が保有する2時間30分の討論会映像を編集し直し「現代の私たちに本気で生きる瞬間を体験してもらいたい」と飯島啓介さんが監督を務めています。この討論会で三島さんと舌戦を繰り広げた芥正彦・木村修・橋爪大三郎さんら元東大全共闘メンバーの3人、解説者として平野啓一郎内田樹小熊英二・瀬戸内 寂聴・椎根和さん、元楯の会メンバー篠原さんら3名、計13名のインタビューで討論が解説され分かりやすくなっています。特に平野さんの解説が助けになりました。でも、革命理論など分からなかった!(笑) ナレーションは東出昌大さん。


【公式】『三島由紀夫vs東大全共闘 50年目の真実』3.20(金)公開/本予告

討論は、
第1章 七人に敵あり 三島の決意表明
第2章 対決
第3章 三島と天皇
最終章 情熱
となっています。
              *
三島さんは登壇するや、柔らかい言葉で、挑発的な発言をします。この発言が彼がこの討論に臨んだ真意だと思いました。
自民党の人があんたたちを気ちがいだと言ったが、気ちがいに政府が騒ぐのはおかしい(笑)、介護すべきだと思うんです。私は気ちがいとは思わない!」と滑らかに語り始めます。会場では笑いが漏れる。この喋り方は魅力的でした!

そして「言葉の有効性」を試すためにここにやって来たことを表明します。「国は不安がないというが、実がその不安が見たいんだ。自分は暴力を否定しない。だからもっと暴力的であれ」と煽ります。このあたりの三島さんの話しを聞いていると心地よかったです。(笑)

そして主張は反知性主義」、「他者の存在」へと進み、共産主義を敵と明かし、楯の会を作った経緯、自衛隊で実弾訓練をやったことまで話し出す。楯の会のメンバーは「やばい!」と聞いていたそうです。これ何で当時話題にならなかったのでしょうか?

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「第2章対決」に入ります。「自然対人間」、ここで芥さんが左腕に小さなお子さんを抱いてタバコをふかせながら三島さんに挑んできます。危ない人だなと思いましたが、三島さんは一向にそういうそぶりを見せず丁寧に答えます。挑発されても乗らない、相手に押されれば丁寧に持論を説明します。論議「解放区」「価値分配の理論」へと進んできます。解説者の説明があるんですが、私にはよく分からなかった!

ところが助け舟が出てくるんです!傍聴席のある学生から「三島をぶん殴れ!」というヤジが飛び、芥さんがその学生を壇上に上げると「観念論の遊びだ!現実的に展開しろ!」とやり合う。三島さんはタバコをふかし、芥さんに「喫え!」と渡す。会場からは笑い声が起こっていました。

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この論議は分からなかった。でも安心しました、プロの東大革命家が「観念的!」と怒るのだから仕方がないと。(笑) 革命理論は“シンプル”でなければならない。こんな難しい理論では失敗するでしょう。(笑)

第3章に入り、三島さんの天皇論です。「今の天皇は私の天皇ではない。天皇がブルジャワでないから革命が難しい」と語り、日本の底辺にある「絶対天皇だ」と主張する。この背景については解説者が丁寧に解説してくれ分かり易かった。ところが、突然、「個人的な想い出があり昭和天皇を崇拝している」と明かし、学生たちに「天皇と言ってくれれば共闘してもいい」と言い出す。学生側が「“反米”と敵は同じだから共闘できるか!」と聞うてきます。

最終章で三島さんは「共闘できるかに?」に「2時間で君たちは天皇と口にしてくれた。このコトダマを残して去りたい!諸君の情熱を信じている。共闘は拒否する」ときっぱり断り降壇した。大きな拍手でした。

このあと三島さんの自決に対する所見、東大全共闘の総括が語られます。残念ながら、今だ総括できていないと思いました!

言葉の有効性を試す熱いバトルで、その思考の深さと相手への敬意に心打たれました!ツイッターとかで匿名の人たちが罵詈雑言を浴びせ合う状況は、それはもう議論ではないと知らしめてくれる作品でした。すばらしい作品でした!
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