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「レ・ミゼラブル」(2019)ライオンの子を盗んだ話だ! 

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2019年カンヌ国際映画祭で「パラサイト」と並んでパルムドールを競い、見事審査員賞に輝き、さらには第92回アカデミー賞国際長編映画賞にノミネートされた作品。やっと観ることができました。

パリの郊外ヴィクトル・ユーゴーの名作「レ・ミゼラブル」で知られる町モンフェルメイユを背景に、少年たちがサーカス団から一匹のライオンの子を盗んだことから起こった警察対策班(BAC)と少年たちの闘いを描いた物語。

ライオンの子を盗むなどとちょっとスケールがデカイですが、少年たちが叱られて成長するという無軌道な遊びをユーモラスに描くのかと思いきや、なんとフランス政府をも引き込む大騒動になるという話でした。(笑)

舞台となるモンフェルメイユのレ・ボスケ団地はパリから東に17キロほど離れ、1960年代にミドルクラス向け分譲集合住宅地であったが、今では住宅は貧しい層に転売され、沢山の移民が集まってきて、貧困、犯罪多発地になっているらしい。作品のなかでドローンを使って整然と並ぶ古びた住宅群、緑のない公園・グランド、露天商店街など猥雑な景観を見せてくれます。

この街を取り締まる警察はその権力で住民を抑え込み、住民との関係は常に緊張感が存在することになる。映画を観ていると、対策班と住民の関係はまるで「アルジェの戦い」のフランス軍と住民の関係のような緊張感があります。

監督・脚本はこの町に住む、本作が長編初監督というラジ・リ、フランスではドキュメンタリー作品でよく知られた監督さんのようです。ここで描かれるサーカス小屋からライオンの子を盗み出したことや子供たちが警官と衝突したことなどのエピソードは全部事実だそうです。それだけにここで提示される問題は深刻です。

ラストで「少年たちと対策班のどちらにこの騒動の責任があるか」と問うてきます。「どちらも悪い!答えようがない!」と思いましたが、監督は対立する社会を作ったことが悪いと、ヴィクトル・ユーゴーの言葉を引き「友よよく覚えておけ、悪い草も悪い人間もない。育てる者が悪いだけ」と決を下しています。

キャストはダミアン・ボナール、アレクシス・マネンティ、ジュプリル・ゾンガ、イッサ・ペリカ、アル=ハサン・リ、スティーブ・ティアンチュー、アルマミー・カヌテ、ニザール・ベン・ファトマ、レーモン・ロペス、ジャンヌ・バリバールらです。


映画『レ・ミゼラブル』予告

                
あらすじ(ねたばれ):
ワールドカップでフランスが優勝した凱旋門通り、そこにはいろいろな人種の人々が駆けつけフランス国旗で埋まり「ラ・マルセイエーズ」が歌われる。

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多民族のフランス国家は安泰だと言わんばかりのこの光景。物語は一転して貧困と犯罪多発地帯モンフェルメイユの街に移る。

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シェルプール警察から移動したステファン(ダミアン・ボナール)は署に着いたそのとき「鶏を盗んだ“こいつ”を警察で預かれ!」と騒ぐ光景を目にする。後に分かるのですが“こいつ”がサーカス団のライオンの子を盗んだ犯人だった。(笑) 常習犯なんでしょう!

ステファンは早速、本部長(ジャンヌ・バリバール)から「責任感を期待します」と訓示され対策班員を命じられた。班員はクリス(アレクシス・マネンティ)とグワダ(ジュプリル・ゾンガ)。クリスは自分なりの正義で意欲的に勤務するが気性が激しい。一方、グワダは10年間この土地で勤務して幾つもの事件を見てきており「俺をなめるな!」という勤務態度。

早速三人が私服で防弾チョッキをつけて、市街を警ら。グワラが街を紹介してくれる。
タバコを吸ってる女の子のグループを見たクリスは車を止め、タバコが大麻かとうかを調べる。自分が喫って煙を引っかけ、女の子の手と服を嗅ぎ年齢を聞くという誠に立派な勤務ぶりですが、相手を教導してやろうというような気持ちはさらさらなく、少しでも気配があれば即逮捕という態度。怒った相手の女性が携帯で写真を撮ろうとすると、その携帯を取り上げて踏みつけてしまう。これでは相手は反感をいだく。市民の警察に対する信頼や敬意は全くなくなっている。

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地域のやくざ・市長(スティーブ・ティアンチュー)。警察とは持ちつ持たれつの関係らしい。「新人が来た」とステファンが紹介されているときに、サーカス団長・ゾロ(レーモン・ロペス)が「ライオンの子を盗まれた。盗んだのは黒人だ。犯人を寄こせ」と市長にからんでくる。市長は「知らん」と突っぱね、二人の間が険悪なものになり、この件を警察が引きとることにした。

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ライオンの子を盗まれるとはどんな管理をしていたのか?「ライオンはイスラムの世界では強さの象徴で檻などには入れない」という。簡単に盗めるらしい。盗んだのはイッサ(イッサ・ペリカ)で遊びは荒れたグランドでサッカーボールを蹴るか、鶏を戦わせることぐらい。屋台のトウモロコシを買うお小遣いもない。

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イッサはライオンの子と鶏を戦わそうとしていた。ライオンが警察だったかもしれない。(笑) しかし、こんなことは子供の悪戯として、「バカモノ!」の一喝で終わることです。

警察は犯人を子供と睨んで、子供が集まっている公園を襲い、金髪の子を捕え引き回して厳しく尋問するが誰か分からない。「いつも警察はこうだ!」とこれも少年たちの反感を買ったでしょう。親たちの聞いても全く協力は得られない。無言の抵抗です。

SNSの時代。イッサがライオンの子と遊んでいる写真がネットに流れた。これを見た対策班がイッサを追うが、同じように駆けつけた仲間が対策班を妨害する。頭にきたグワダがダム弾をイッサに向けて撃った。なぜグワダは子供ごときに銃を向けたか? アッサが顔に負傷し意識を失っていた。

ところが警察にとって都合の悪いことに、警察の動きを探っていた若者・バズ(アル=ハサン・リ)がこのシーンをドローンで撮影していた。対策班も撮られたことに気付いた。

「体制側の一発の銃声が革命戦争を引き起こす」というのは革命理論のイロハ。

対策班がアッサの傷の手当よりドローンの撮影記録を手にいれることを優先した。「拙い!」とステファンが薬局で薬を買い応急手当したが、目覚めたイッサはこのことに気付いた。

ドローンの記録は元罪人で今はムスリムの人たちの信頼されている店主・サラ(アルマミー・カヌテ)からステファンが頭を下げて渡してもらった。

これで一段落とイッサを連れてサーカス団長に謝罪に行く。ところが団長が「ライオンに詫びろ!」と檻にイッサを入れた。イッサは怯えた!ステファンが拳銃をライオンに向け、イッサを檻から出すよう説得した。これも行き過ぎた叱り方だ!大人への信頼を失くしてしまう。
さらに、クリスが「顔の傷はお前が転んで出来た。みんなにそう言え!」と約束させて家に帰した。
ここまでくると子供の警察、大人への信頼性はなくなるでしょう。こんなことがこの街では茶飯事ではなかったのかと思われます。

クリスも家に帰れば娘たちの、たわいもないことを喋るパパです。グワダは老いた母が待つアパアートに帰って「無地帰ってきた!今日も終わった」という優しい息子で気の小さな男です。ステファンもシェリブールの娘に電話するパパ。イッサは夕暮れの太陽を見て感傷に浸る無垢な少年。少年たちは何もなかったようにサッカーボールを蹴る。

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警官と少年たちが正面衝突するラストの衝撃的なシーン、なぜこのような警察官と少年が争わなければならないのか!
               
監督は本作をマクロン大統領に観てもらいたいと願っていたようですが、大統領は作品に感銘を受けたとのこと。是枝さんの「万引き家族」に対する政府の扱いとの違いに驚いています。コロナ風邪対策にも出ているように思います。

次作は、政府の責任を問う作品になるということですので楽しみにしたいと思います。
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