第92回アカデミー賞作品で監督、脚色賞を含む6部門にノミネートされ、衣装デザイン賞を得た作品です。コロナ騒動で遅れましたがやっと公開で、掛けつけました。
監督はグレダ・ガーウィグ。キャストはシアーシャ・ローナン、エマ・ワトソン、フローレンス・ピュー、エリザ・スカンレン、ローラ・ダーン、ティモシー・シャラメ、メリル・ストリープらと、とても豪華です。
撮影:ヨリック・ル・ソー、音楽:アレクサンドル・デスプラ、衣装デザイン:ジャクリーヌ・デュラン。
原作「若草物語」は1886年に出版されたルイザ・メイ・オルコットの名作小説「若草物語」で、これまでに沢山の映画作品がありますが、全く観ておらず、小説も未読で、今回のリメイクする意義がどこにあるのかという視点で観ました。
ガーヴィング監督のOB情報を調べると、監督の活動が若草物語の主人公女性小説家ジョー・マーチ、作家オルコットの生き方に近い。女性が結婚以外に自立して生きる道があり、ひとつのすばらしい選択であると、今を生きるガーヴィング監督の目を通して、ジョーとオルコットの生き方が描かれていると思います。
『ストーリー・オブ・マイライフ/わたしの若草物語』6月12日(金)全国順次ロードショー
あらすじ:
南北戦争時代下のアメリカ。貧しいながらも仲睦ましく生きるマーチ家の個性豊かな四姉妹。
作家志望の次女ジョー(シアーシャ・ローナン)を主人公にマーチ家の皆さんの生き方がみずみずしく描かれます。
女優志望で裕福なセレブの生活に強く憧れるメグ(エマ・ワトソン)。小説家として大成したいと願う次女ジョー。ピアノの演奏に秀でているが病弱な三女ベス(エリザ・スカンレン)。画家としての才能に恵まれた頑固なエイミー(フローレンス・ピュー)。
叔母マーチ(メリル・ストリープ)は「女性に仕事は絶対無理、結婚しなさい」という。叔母には反対され長女のメグは子供のころに夢見た女優の夢を諦めて結婚するという人生を選択してしまう。
ジョーには作家となると同じくらい大切な男性ローリー(ティモシー・シャラメ)がいたが、彼のプロポーズに「結婚したら人生が終わる」と断ってニューヨークに出て小説家を目指す。
四女のエイミーも自分の能力には限界があることに気付き「サロンの花を目指す」と言い出す。そこにフランスから帰国したかってジョーの恋人であったローリーが現れる。
ジョーはやっと作品が出来、出版社に採用されたが次作ができない。そんなとき三女のベスが病に倒れ、これを機会に故郷マサチューセッツ州コンコードに戻る。母や姉妹の絆や葛藤を通して、自分の初心を再確認し、ベスの死契機に再び小説家として立ち上がる。
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物語はジョーが故郷に戻り、過去のエピソードを交差させながら、現在のマーチ家の生活を描いています。過去エピソードには薄いオレンジ色を掛け分かりやすい工夫がしてありますが、物語そのものが複雑ですから・・(笑)
ジョーはローリーとどんな出会いをして別れたのか、別れたローリーとの関係、ベスとの想い出が今の自分にどう繋がっているのか、小説家になると決めたときの家族の応援・母との絆、メグからどんな影響を受けたかなど、今のジョーの気持ちが浮き彫りになるよう焦点を絞って、過去エピソードが描かれますので生々しく感動的な脚本になっています。
こうすることで、ジョーの物語だけでなくマーチ家全員が、人に意見で人生を選んでない、この時代にこの考え方があったことに驚きですが、結婚してもそこにはしっかりした自分の生き様があることが分かります。
日常のたわいもないエピソードが描かれる「若草物語」が、映像で感動的に描き、沢山の人に親しまれる譯が分かるという演出になっています。( ^)o(^ )
感想:
ジョーはローリーと別れ小説家道を選び結婚への憧れは無かったかといえばそうではなかった。ローリーがエイミーとヨーロッパ旅行に出ると、孤独感に襲われ、ふたりになにもないなら元に戻すことを真剣に考える。
金がないことにも不安もあるが、戦争協力のために寄付を求められ、自分の髪を売って金を作り、このことで家族の絆は強まっていく。貧乏でも幸せに生きるメグ夫婦の生き様を目にする。
こうして何をもなすことなく亡くなったベスの無念を思うと、彼女のためにも何かを残したいと逡巡しながら道を切り開いていく。そして孤独感や金のことが吹っ飛んで、ラストでは自分が生きるために書くという結末に胸打たれます。
作品の冒頭で、他人名で作品を売って編集者ダッシュウッド(トレイシー・レッツ)とお金を交渉し現金を手にした。それがラストシーンでどう変わったか?これがこの作品のテーマでしょうか!
「若草物語」を書き上げ、編集者との交渉で著作権を譲るか自分のものにするか?
編集者が「これでは売れない、何故近所の子と結婚しなかった?では誰と結婚するんだ」と問うてくる。ジョーが「誰とも結婚しません」と言うと「バカ、だれも読まんよ!ハッピーエンドだよ!」。
ジョーはすばらしいハッピーエンドを考えました!彼女はこれが書けるほどの経験を持っていました。
著作権を渡さず、自主出版に踏み切った? 小説家として生きる決意が決まった瞬間でした。作家オルコットが生涯独身でしたから、小説と結婚した瞬間でした。
母親マーミー(ローラ・ダーン)は、近所にご飯が食べられない家族がいると娘たちを連れて慰問に出向くという、とても慈愛に富んだ人でした。こんな母親に育てられれば、娘たちがどう成長するか分かります。ローラ・ダーンの表情がすばらしい。娘たちには自分の道を進めと励ます強い母でもあった。この作品のなかで好きなキャラクターとなると母親マーミーと長女のメグです。(笑)
ベスは身体が弱かっただけに家族はいろいろと助けてやらねばならないことが多かった。そして、ダンスパーティにも参加せずひたすらピアノを弾く姿は姉妹に大きな感動を与え、亡くなって家族を結束させる結果となりました。ベスの死は物語の大きな結節となっています。
四女エイミーは、幼いころジョーに嫉妬して彼女の原稿を焼き大喧嘩をし、成人してローリーを取り合う形になりましたが、ローリーがジョーと完全に切れたことを確認し、結婚はお金の為ではないと交際を始め、これを実らせていくというとてもしっかりした結婚感の持ち主でした。さらに自分が絵を描くことを辞める際、ジョーの力を認め小説家になることを勧めたのは彼女でした。
このように女性たちがとても強く、自らの意思で決める人生が描かれています。
この作品の見どころは、美術の優れたところです。 アーチ家とローレンス家、室内美術品、そして姉妹が着るフアアションが、当時に会わせるよう再現され美しいです。ダンスシーンが躍動的でこれがまたすばらしい。
「若草物語」を読んだことがありませんが、この作品でその良さが分かったと思わせる作品でした!
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