映画って人生!

宮﨑あおいさんを応援します

「まく子」(2019)すべての背後には生命と慈愛があり恐れる物はない!

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原作が西加奈子さんの同名小説ということで、WOWOWで観ました。このタイトルは何か? おそらくタイトルで観る人は少ないかもしれませんね!(笑)これが分かると“人生が楽になる”というお話し、原作は未読です。

小さな温泉街に住む11歳の少年が、身体の異変に気付き大人になっていくことへの不安のなかで、転入生の不思議な少女との出会いを通して成長していくというボーイ・ミーツ・ガールドラマ。 西さんらしい壮大なファンタジー作品でした!(笑)

この少年に被さるところもあり、この年頃でこの物語が語る人生の見方を理解していたら、ずいぶんと楽に人生を楽しめたな!」と思いながらの観賞でした。(笑) 

監督・脚本は「くじらのまち」の鶴岡慧子さん。撮影:下川龍一、音楽:中野弘基、主題歌:高橋優さんです。
主演は「真夏の方程式」の山崎光君、本作が2度目の映画出演となる新音さん。共演は草なぎ剛須藤理彩村上純・橋本淳・内川蓮生 ・根岸季衣さんらです。


心揺さぶる!映画『まく子』予告【全国公開中🌸】

あらすじ(ねたばれ):
山間にある古い温泉町、四方温泉「あかつき館」のひとり息子、小学5年生のサトシ(山崎光)。身体に異変が現れ出した。そして、いつも学校前で智恵遅れの大人・ドノ(村上純)が読んで聞かせてくれるマンガも面白くなくなり、浮気した父・光一(草なぎ剛)のことを思うと大人になるのが嫌いになっていった。孤独になりたい。そんなところに新しい仲居さんの子として、コズエがやってきた。とても可愛い子で白いドレスでの初顔合わせでは緊張で物も言えなかった。

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コズエはすぐにクラスメイトやドノにも馴染んでいくが、サトシは馴染めなかった。そんなある日、いつもやってくる大樹の丘で、身体の異変を調べているところにコズエがやってきて、隣に座って、顔を覗き込む。もうサトシしはどうしていいか分からず、落ち葉を掬って撒いた。すると同じことをコズエがして喜ぶ。コズエのこの行為から、コズエのことを「まく子」と呼び、タイトルとなったようです。

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ふたりはここで一緒に座るようになり、コズエが大きな秘密を明かします。自分は宇宙人だという。自分の住んでいる星では年齢という概念がない。しかし、あるときから人口がどんどん増え続け、希望して死を選択することが出来るようになった。でも死がどういうことか分からないから地球に見学にやってきた」。「照井さんという地球人にシンクロしてその姿になっている。本当の姿は図工で作った塊よ」と喋って帰っていった。分けわからない西さんの世界です。(笑)

橋の上から瀧の流れを見ながら、コズエはサトシの掌の色が変わることに驚き、「私の身体は小さなブツの沢山の集まりで出来ていて、その数が変化することはない。サトシの身体もそれで出来ている。しかし、サトシのツブは私たちとは違って、数が減ったり増えたり、別のものと与えあったりでき、サトシたちは歳をとり、全てが入れ替わることが出来る。しかし、私たちのツブが変化しないツブで作られているので永遠に生きることができたが、隕石と衝突してツブが増え続けるので、誰かが消滅しなければならなくなった」という。 (笑)

人は成長し、結婚して新しい生命を得て、死を迎えるという決まったプロセスがあるので心配することはなに一つない生命体である。身体の変化なんか気にするな!私と違ってあなたは生き続けると言っているようです。

サトシはこの不思議な話に魅せられ、コズエに惹かれていきます。まるで「ペンギンハイウエイ」(2018)のアオヤマ君みたいです。
 
生徒たちの作ったミコシを壊して燃やす温泉町名物の祭り“サイセ祭り”が近づき、コズエの地球儀が本体ミコシに選ばれた。

ダダシがコズエに告るのを目にして、猛烈に敵愾心が湧いて来る。

サイセ祭りが始まった。ミコシが町を練り歩き、夜になって川原で岩にぶつけて壊し焼かれる。生徒たちはこれを無念に思いながら、次に生まれるものへの期待で諦めて見送るが、サトシはコズエの想い出を壊したくなかった。
「壊さないで!」と先生に訴えているとき、“あかつき館”のコズエの部屋付近から火の手があがり、祭りは中止となった。

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コズエが「オミコシをどうす?」と聞くと、サトシは「こんなバカなことをする大人が嫌いだ」と言い「君には死んで欲しくない」と頬に触れた。コズエは葉っぱを撒きながら「楽しいよ!全部落ちるから!ずっとずっと飛んでいたら、こんなにきれいでない!」と御呪いのようにサトシの頭に撒き続けた。コズエの行為をどう解釈するか?

警察が捜査するが犯人は分からなかった。父・光一がしょんぼりしたサトルのために大きなおにぎりを作ってくれた。

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仲の良かったクラスメートの類(内川蓮生)が戻ってきたので、コズエを伴って訪ねると、そこにノドが居て、彼に勉強を教えていることを知った。そして部屋に類が描いた「UFO」の絵があった。「この絵はコズエに関係があるか?」と聞くが「それはない」という。

類の書いた絵が幼稚で「これがUFOに見えるか?」とノドに尋ねると、「見える!何故信じない!本人が見たというものを、俺は信じる」ときっぱり応えた。サトシはノドに対する見方が間違っていたのではないかと気付き始めた。

その夜、赤いドレスのコズエが夢に現れ、サトルが初めて精通した!

パンツを始末していて異変に気付き外に出るとそこに女性がいた。サトシは「火を点けたのはあんたか」と激しく詰問したが「絶対にやっていない、お母さん謝りに来た」というばかり。騒ぎでコズエが駆けつけた。「なんだってものは何時か消える。永遠のものはない。消えてしまって終わりでないように形を変えて、生まれ変わって大成する力になる」という祭りの由来を聞いて、女性も加わり三人で壊し焼いた。

そして「俺の金玉はおかしいか」と父のものと比べてみた。

いつも間にか、コズエが町をいなくなると、大樹のある丘に皆さんが集まった。コズエは大空に町の人たちに思い出を描いて去って行った。サトシはまた会いたいと祈った。とてもファンタジーな見送りの映像でした!

コズエ親子が去って、また新しい親子が“あかつき館”にやってきた。今度の女子もサトシと同級生でソラと言った。サトシがしっかりサポートしようとするが、嫌がる。「私が館に火をつけた!」というが、サトシには許しの心に芽生え意に介さない。

コズエが遺した「飛ばないで落ちていくことはとてもきれいだ」と「僕らのツブは変わり続けていていつか全部新しくなる」という言葉をソラに伝えようと、枯れ葉をふたりで撒いた。
               *
感想:
まず最初に、物語の背景となる山間の古い温泉町のロケーションが素晴らしく、閉ざされた少年の心を象徴するようで、少年の成長に合わせて、この重苦しい空気が次第に溶けていく描写がすばらしい。そしてこの難解なセリフの人生訓が、山崎光君と新音さんが醸し出す雰囲気で解かれていくというふたりの演技がすばらしい。

身体に異変が現れ、初めての精夢を体験する年頃の男子が、大人に向かって一歩踏み出すための切っ掛けが、ちょっとませた女の子に憧れ、不安、焦り、孤独を克服するという定番で男子成長物語が、西さんにかかるとかくも壮大なドラマになるのかと楽しみました。

サトシの隣にコズエが座るその距離、“ソーシアルディスタンスの微妙さ”。(笑)これにサトシの心が疼くのがわかります。何も喋れなかったサトシが、こんな大人びたコズエに物おじしなくなり、「好きだ!」といえるまでの成長。この憧れの気持ちが将来にわたってサトシの成長を支え続けるでしょう。

サトシが宇宙人のコズエが発する言葉をどう捉えるか。難しいですね!

「飛ばないで落ちていくことはとてもきれいだ!」はコズエが撒くシーンから生命力と慈愛を示していると推測できます。
これがアメリカンビューティ」(1999)のなかで孤独な青年が飛び散る紙が決して一点を離れず回る様を見て叫ぶ「すべての背後には生命と慈愛があり恐れる物はない」と生き様を見出すシーンに似ていて、感動しました。 

そして話は死生観にも及びます。コズエは命の連続性についてよく喋り、これをサトシが自然にこれを受け入れていくという形でしっかり死を見つめています!

草薙さんがちょっと危ないお父さんを演じましたが、役にぴったりでした。(笑)これまでにはなかった役の草薙さんが観れそうで楽しみです!

小さなもの語りですが、壮大な思索で描かれた普通の男の子の成長物語、面白かったです。
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