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「名もなき生涯」(2019)

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終戦記念日を控えた今、観るべき映画として選んだのが本作。愛と信念でナチスに立ち向かった名もなき農夫(フランツ・イエーガーシュテッター:実在人物)の、175分という長尺での、物語です。

この長尺で、ナチに立ち向かうことで加えられる数々の虐待が苦痛でなくなる(愛と信仰)という不思議な映像体験をしました!名もない人でもここまで出来る、映画を観た人は忘れないで欲しいと、監督の狙いがこんなところにあったのではないかと思いました。圧倒的な意思力を持った映像でした!!

この物語に添えられた言葉は、

歴史に残らないような行為が世の中の善を作っていく。名もなき生涯をおくり、今は訪れる人もない墓にて眠る人のお陰で、物事がさほど悪くはならないのだ。

ジョージ・エリオット

監督・脚本はテレンス・マリック、今や生ける伝説と呼ばれる監督さんですが、初観賞です(恐縮!)。撮影監督:イェルク・ヴィトマー、音楽:ジェームズ・ニュートン・ハワード

出演者:アウグスト・ディール、バレリー・パフナー、ブルーノ・ガンツ(故人)、マリア・シモン、マティアス・スーナールツ、カリン・ノイハウザー


『名もなき生涯』オンライン予告編

あらすじ(ねたばれ):

1938年3月、ドイツ進駐を熱烈に歓迎する式典パレードから始まり、独墺統合による徴兵制が敷かれたことから物語が始まる。

豊かな自然をたたえた山と谷に囲まれた畑で麦の収穫をする仲睦ましい夫婦、フランツ(アウグスト・ディール)とファニ(バレリー・パフナー)。ふたりは

村の祭りで出会ってひとめぼれで結婚した仲、敬虔なカトリック教徒。子供も次々と生まれ、フランツの母親と一緒に暮らし、いつまでも幸せが続くと思っていたが、ナチ・ドイツの影が田舎の村サンクト・ラーデグントにも忍び込んでくるようになった。

こんな中で、フランツがエンスト基地で行われる軍事訓練に召集された。そこで見たのはナチ・ドイツ軍の醜い戦だった。そして人形を目標に刺殺する訓練。「国に何が起こったのか」と不安になっていった。ひと冬を越す長い期間の訓練だったが、ふたりは手紙を交換することで愛を確かめ合っていた。

この手紙のやりとりは後にフランツがベルリンの監獄に収容されるようになっても続き、この手紙が往復書簡集として出版され、彼の存在が世に知られるようになった。

フランツが訓練を終え帰ってくると、ふたたびふたりに子供たちを交えての農作業が始まった。村のなかに「招集されるかも!」「戦争が続いている」「本当のことが言えなくなった、死んだほうがいい」と不安が走り、ドイツ兵の姿に「あの人たちは国を壊すよ」と陰口する。そして不審な男が出没するようになった。

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フランツはフェルナンド牧師(トビアスモレッティト)に「兵役拒否」を相談すると「考えたほうが良い。犬死になるぞ!司教に聞いてみる」という。ナチが教会にも手を廻していた。

そんなある日、在郷軍人会が寄付を集めにやってきた。フランツはこれを断った!このことが村で噂になり、断ったのはフランツだけだった。

フランツは妻と教会を訪ね、司教の説教を聞いたあと、「罪なき人は殺せない」と兵役拒否を伝えた。司教は「兵役は義務だ!それしか言えん。すべての人は上に立つ人の権威に従え!」と突き放した。フランツは家に戻り妻と子供たちを抱きしめ、「司教は責められない。教会への弾圧を防いだ。理由を聞く者は留置場だ!」と自分の考えを突き通そうと思った。

道すがら、村人が「ハイル・ヒトラー!」と挨拶を寄こすが、フランツは礼を返さなかった。村で噂になる。ファニの姉レジーが「妹を危険にしないで!」と責める。母親がフランツを無視するようになる。嫌な噂を耳にしてもファニは「気にしない!」とフランツを支持した。

フランツ家族への非難はさらにエスカレートしていく。軍人から「妻も母も虐められるぞ」、村長に「子供たちはひどい目に会う。君は何を守るんだ、敵より君の方が危険だ!」と言われる。

共同の野作業には入れて貰えない。ファニは「神が応えてくれます!」とフランツより強くなっていく。

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ふたりで教会に出掛けたところに、招集令状が来た。フランツは「悪に立ち向かう!」と出征を決意したが、ファニは泣いた。洗濯場では、誰もファニには近寄らなくなった。

1943年3月2日、フランツはエンス基地に出頭したが、ヒトラーへの忠誠宣言を拒否したため直ちに逮捕され、「抵抗して誰のためになる」「世界の創始者は悪も作った」と懐柔されたが、拒否し、独房に閉じ込められた。そこには沢山の囚われ者がいた。

ファニとの手紙のやりとりが始まった。ふたりの交換文書に合わせ、交互にふたりが迫害を受け耐え、どんどんと強くなっていく様が描かれる。

ここではフランツは同じような境遇の友を見つけ、「自分の苦しみは大したことではない」と妻に書き送っている。友を得たことが大きな力になったようだ。ファニは「神は全てを正しくしてくれる!」と元気な子供たちの成長を伝えた。

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フランツはベルリンのラーゲル拘置所の独房へと送られた。ここでは体罰が課しての尋問が始まる。一方のファニも石や水をぶつけられ、井戸が荒らされ、豚が殺され、ビートが盗まれるといういじめが始まる。教会への出入りもできなくなった。子供も仲間に入れてもらない。姉のレジーとふたりで懸命に耐え、働いた。フランツには「神は無理な試練は与えない!」と書き送った。

フランツは体罰のなかで「手は縛られているが、意志が縛られるよりいい。命への執着を捨て去ると、新たな光が差し込む。かっては誰も許せず、容赦なく非難した。自分の弱さを知った今、他人の弱さをも理解できる」と書き送った。

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ファニへの村人の攻撃は鎌を振りかざして追ってくるという、激しくなってきた。しかし、そんななかでも荷車が故障で動けないと助けてくれる人が現れる。父と一緒にザルトブルグに陳情にも出かけた!

フランツは弁護士に呼ばれ「訴訟を取り下げる文書だ、サインしないか?」と持ち掛けられたが拒否。独房では守兵がナイフを顔に近づけ脅してくる。「あなたは私の力だ。私の道しるべ。あなたは我々の光だ!」というファニの言葉に励まされていた。

 1943年5月7日、帝国軍事法廷で軍事裁判が開かれた。フランツは罪状が読み上げられたが聞こえなかった。「言い分は?」と聞かれたが返事をしなかった。

ルーベン判事(ブルーノ・ガンツ)が「君の行動が戦争を変えるか?何も変わらん!逆効果だ。“君は俺を裁く気か!”」と問うてくる。フランツは「過ちだと信じることが出来ません」と変心を断り、死刑と判定された。

ファニが「死刑確定は明日だ!」という弁護士に誘われ、フェルナンド神父と一緒に刑務所駆けつけた。ちょうどフランツが裁判所から戻ったところだった。

ファニとフランツは手を握りあったままだった。弁護士が「戦争はまもなく終わる。死刑中止の請願書だ、サインしなさい!」と勧めた。フランツは「分かってくれ!」とファニに声を掛けた。ファニは「愛しています、あなたが何をしようとどんな結果だろうともあなたと共にいます。いつまでも、正義を貫いて!」と答えた。フランツは泣いた!!

1943年8月9日フランツは故郷の青い空にファニの声が聞こえ、オートバイで会ったときのことを思い出しながら、断頭台に立った。

感想:

険しい山間に切り開いた畑、牧場で牛と自分の力で生きる素朴な生き方から生まれた強い夫婦愛と敬遠な宗教心。前段でこれに裏打ちされたヒトラーの戦争を許さない絶対的な信念へとなっていく過程が描かれ、後段、この信念がふたりに襲い掛かるあらゆる妨害、迫害に耐えるエネルギーになっていく展開が、しっかり尺を使って描かれるので、この結末に納得でした!

 迫害されればされるだけ、まるで神は自分の中にいると確信したように信念が強くなって、最後には相手が恐れるに至るという、フランツは「沈黙ーサイレンスー」(2016)の神父ロドイコの心境に到達しているのだと思いました。

フランツが処刑されても、妻の言葉で彼の命が家族に繋がれ、再び故郷の自然のなかに戻っていく結末は、大きな感動を与えてくれました。ファニの愛がなければフランツのこんな大きな決断は出来なかったでしょう。

 ふたりが自然の力と神に生かされていた。そのときどきの不安や喜びの感情を太陽や空、雲の動き、川や滝の流れ、雪、花、音などの自然の現象で表現し、さらに自然光で撮った映像は、このことに説得力を持たせていました。

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