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「朝が来る」(2020)きっと君を探しだす、必ず君にたどり着く!

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特別養子縁組”という制度で繋がった育ての夫婦と産みの母親が織りなす葛藤の行方をミステリー風に描いた物語。監督は「あん」「光」の河瀬直美さん。この映画を観ようと決めたのは産みの母親役を演じる蒔田彩珠ちゃんを観るため!😊こんなすごい女優さんになるとは、些と早い?もう大満足でした。監督さんに感謝です。

長い不妊治療の末に一度は子どもを持つことを諦めた夫婦が、テレビで偶然特別養子縁組”という制度を知り、あるNPOを通じて男の子を迎え入れる。ところがその6年後、子供と幸せな日々を送っていた夫婦のもとに、産みの親だという女性から、“子どもを返してほしい。それが駄目ならお金をください”との電話がかかってくる。会ってみると当時14歳だった女性は金髪に染めスカジャンを着込んだ女性だった。本当にあの時に会った母親?戸惑う夫婦は・・・という物語。

冒頭で異様な産みの親だという女性が現れ、この女性をミステリアスに追って、生母の愛、生命の尊さを描き、この生母の心が育ての母親を通して息子に伝えられ、ふたりの母親の子供への愛が描かれます。こんな形で育つ息子の母への気持ちが、エンデイングが終わった後、主題歌のラストに託されるという感動的なドラマでした。

監督が長年追い続けている命の繋がり、生命の尊厳というテーマの一環としての作品ですが、少子化、さらに子を育てられない親の増加という社会問題に挑んだところに意義があります。

特別養子縁組はひとつの解決策に繋がりますが、実は我が国では血族主義が重んじられ、諸外国に比して非常に少ない。この問題への啓蒙という一面のある作品です。

原作は辻村深月さんの同名ベストセラー小説、未読です。監督・脚本:河瀬直美高橋泉。撮影:河瀨直美、月永雄太、榊原直記。音楽:小瀬村晶、An Tôn Thât。主題歌:C&K「アサトヒカリ」。

出演者:永作博美井浦新蒔田彩珠浅田美代子、佐藤令旺、田中偉登、中島ひろ子、平原テツ、駒井蓮山下リオ


映画『朝が来る』予告90秒_10月23日公開

あらすじ(ねたばれ):

産みの母の呻き声と赤ちゃんが生まれた瞬間の鳴き声、大きな生命の誕生から物語が始まります。

東京有明の沿岸地域のタワーマンションに住む栗原清和(井浦新)は建設会社のエリートサラリーマン。妻・佐都子(永作博美)とはオフィスで結ばれた仲。6年前に朝斗を特別養子縁組で得てからは、専業主婦となり、朝人を育てることに専念していた。

朝人(佐藤令旺)が幼稚園に行く日。三人がマンションを出たあと、電話がなった。誰からだったのか?

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佐都子が帰宅して鉢植えの手入れをしていると電話。朝人が幼稚園で友達に怪我をさせたという。佐都子幼稚園に出向き担任先生に会って、本当に朝人が怪我をさせたのかと確認するが、要領を得ない。佐都は朝人がやっていないいと信じてやれない自分にいらつく。なぜ信じてやれないか?本当にどんな子なのかという迷い?朝人は母親の顔色を見て「僕がやったと言ったほうがいいのかな」と言い出す始末。母親のこの迷いこそが、この物語で問われるテーマです。

どんな経緯でこの夫婦は朝人を特別養子にしたのか?

ふたりは子供が欲しくて努力したが、清和が無精子だと分かり、以降札幌まで出かけて顕微治療を受けるが陰性が続く。清和は子供を持てないことで佐都子に大きな責任を感じていた。ついに佐都子の言い出しで治療を止め、ふたりで一緒に生きることを生甲斐にと旅行に出た。

その旅で見たTVの特別養子縁組のドキュメンタリー番組。ここで語られる「親が子を探すのではなく、子供が親を探す」というNPOベビー・バトン代表・浅見静江代表(浅田美代子)の言葉に感動して、代表の講演会に参加した。

特別親子縁組では親権が養子先になること。夫婦のどちらかが仕事を止めること。そして子供が小学校に上がるまでに産みの母がいることを告げなければならないことを知った。養子というハンディをこれで薄めようということ。

講演のあと実際に養子をとった人、産みの母の体験談を聞き、ふたりはすっかりこの制度は信頼でいる、社会に役立とうと、浅見代表に縁組を依頼した。

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体験談を語る人たちシーンは、「光」の演出と同じように実際の体験者が語り、ドキュメンタリーのようで、迫力があります。特に老人が孫を得た喜びを語りシーンが印象に残りました。

うたた寝していた佐都子の元に「生まれました!」という浅見からの電話が入った。夫とふたりで広島県似島の産院を尋ね、生まれたばかりの赤ちゃんを抱いた。「お母さんに会いますか?」と浅見に誘われ、産み母に会った。母親は中学生で、「この子の名は?」と聞き「朝人」と確認して、手紙を渡し「ごめんなさい」と挨拶をした。

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朝人が友だちに怪我させたのではなく、この子が嘘を言っていたことが判明。ご褒美に朝人を動物園にと、清和が部屋を出たところに電話が入った。佐都子が出ると「片倉ひかりです。子供を返してください!私の産んだ子です。それが叶わないならお金をください!」。佐都子は「会って話しましょう」と応じた。

やってきたひかりが金髪でスカジャン姿だった。清和は驚いて「あの日会ったひかりさんではない!」とひかりを本人と認めなかった。「あなたは誰なんですか?」と問うと、「産んだ母です」とひかり。本当にひかり?だったら何がこの子に起きたの?と物語に引き込まれます。

ここからひかりの物語が始まりますミステリーが人間ドラマへと繋がる上手い物語の構成です。

ひかり(蒔田彩珠)は体育館でピンポン台を準備しているところを麻生巧(田中偉登)に見初められ、ひかりはすっかり巧の虜になった。あっというまにハイキングで結ばれた。これに至る経緯が短いフィルムで描かれますが、ふたりの出会は若い誠意の篭ったもので、美しく描かれます。特に蒔田彩珠ちゃんの満面の笑顔がすばらしく、この笑顔が物語の核になります。

ひかりの妊娠、すでに堕胎手術は無理と判明。教師の父母は高校受験させ普通に過ごさせたいと、肺炎で休んだことにして、子供を特別養子縁組NPO、浅見代表に任せることにした。ひかりは泣いた!巧は「ごめん!」と泣くのみだった。

この親のやりようについては言いたいこともありますが、映画の主旨でないので先に進みます。

ひかりは奈良を離れ、ひとりで広島に。ここで浅見に迎えられ、似島のベビー・バトン施設に入った。

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ここで同じように子供を産むためにやってきたコノミ(山下リオ)やミヤコ(葉月ひとみ)と一緒に過ごすことになった。コノミはコンビニで、ミヤコは風俗でいずれも相手が分からない子を宿し、家族が嫌いだという。ここでは浅見に優しくしてもらい、島民とも触れ合い、何よりも瀬戸内海の優しい光と風を受け胎教にはもってこいの環境だった。

ひかりは腹の子は「好きな人の子だ!」と「きっと君を探し出す!きっとたどり着く!」と大きなお腹をさすっていた。

「朝人を返せ!お金をくれ」と言ってきたひかりがすんなりと引き揚げた。佐都子は「あの片倉ひかりさんは金を要求しない」と言い、朝人に「あなたは広島にいたのよ。海がキラキラでね、この海に繋がってるの」と朝人の出生の秘密を語るが、朝人にはまだ無理。いずれしっかり話すつもり!

そこに神奈川県警が訪ねてきて「こういう子が来たか?」と写真を出す。「来ましたよ、だれですか?」と佐都子が聞いた。

ひかりのその後、

ひかりは似島で出産後、奈良の実家に戻ったが、もはやそこに彼女の居場所はなかった。髪を赤く染めて、学校をやめ働いていたが、浅見の優しさが忘れられず、似島に「働かせてほしい」と彼女を訪ねた。しかし、浅見は病弱で施設を閉めるところだった。その引っ越し荷物のなかで、朝人の居場所を見つけた。ひかりは浅見に感謝して、朝人がいる東京に出て、新聞販売店で日夜働いていた。

そんなある日、中学時代のトモカ(森田恵)が金髪でスカジャン姿で訪ねてきて、しばらく泊めて欲しいという。ひかりは孤独だった、そしてトモカの痛みが分かる。トモカと生活を共にするが、ある日、小銭とスカジャンを置いて居なくなった。実は借金から逃げるためにひかりを利用したのだった。そんなトモカを憎むことなく、店主から金を借りて、取り立ての怖い男にトモカの借金を返済し、「まだ終わっていない!」とトモカが残したスカジャン姿で、栗原のタワーマンションを訪ねた。

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感想:

ここからは感動的な本作の結末ですので、すこしくわしく書きます。

ひかりは「私です。見た目は変わっていますがひかりです!」栗原のマンションを訪ねた。佐都子が「私のほかにもうひとり母親がいることは朝人に伝えています。お母さんから預かっているものは読んで聞かせました。ひかりさんと私たちでしっかり育てた朝人です。もうあなたには関わって欲しくない」と話した。

そこに「ただいま!お母さんいる!」と朝人が戻ってきた。清和が「どうします?あなたですよ」と声を掛けた。ひかりは泣いた!佐都子は「お帰りください」と声を掛けた。ひかりは「申し訳ありませんでした。私はあの子の母ではありません!」とマンションを出て、海岸を泣きながら走った。

やってきた警察官に佐都子は「あの人は恩を受けた人、産みの母です」と話した。

佐都子は預かった手紙を読み直すと、文章の後に隠し文字があることを見つけた。「なかったことにして欲しい」と書かれていた。佐都子はあの日、ひかりが手紙を差し出し「ごめんなさい!」と泣いたことを思い出した。

佐都子は「分かってあげられなくてごめん!」と泣いた!朝人の頭を撫ぜ「あなたの本当のお母さんだよ」と泣いた!

佐都子はどんなことがあっても離したくない母の深い愛を知った。そして、“(子供を持てなかった)人の痛みが分かる”ひかりという女性のすばらしさを知った。

エンデイングが終わって、主題歌の終わりに朝人が歌う「きっと君を探しだすよ、必ず君にたどり着く!」が聞こえてきます。朝人は何時かひかりに会いますね。それまでにひかりは朝人にふさわしい母になっているでしょう。

河瀬監督はこんなに優しい監督さんでしたかね!(笑) 柔らかい人になったな!と感じました。(笑) すばらしい作品でした

ふたりの母を持てる朝人は幸せだなと思いました。

「朝が来る」、いたるところに朝日、夕日があり、海あり河あり、森あり、柔らかい風ありで、とても癒される映像が多い作品でした。

永作博美さんと蒔田彩珠ちゃんの競演、映画館で確認してくだい!

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