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「罪の声」(2020)この子たちに何の罪があるの?

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グリコ・森永事件をモチーフにした作品。すでに記憶が薄くなっており、どんな事件だったかと観ることにしました。こういう事件だったなと思わせてくれるほどにリアルでした。

原作は塩田武士さんの同名ミステリー小説、未読です。塩田さんがこの小説を書くために記者となって事件の現場を踏み、記者を辞めてグリコ・森永事件を綿密に取材して描き出したこの結末。ここで描かれるエピソードは自らが取材体験されたもので、その汗の臭いがするような作品でした。

国家や警察権力に一矢報いたいと争うのは結構。その手段が犯罪で、何にも関係ない子や身内の人たちの人生を奪った責任をどうとるのか、その人たちの未来を考えたことがあるのか?そしてこの罪の責任を誰が負うのかと厳しく問い詰めた作品です。

未解決なギン萬事件(グリコ・森永事件)。35年を経過しているから「もうよかろう」と出てくる“深淵なる声”を集めて真相に迫ろうとする新聞記者。父親の名がある録音テープのなかの自分の声が未解決事件に使われた脅迫の子供の声だと知った洋服仕立人。この二人の男が、事件を追う中で、まだ事件は終わってないと協力して、事実を解明していく壮大にしてミステリアスな作品です。

事件の当事者を追ってもいまではもう事件解明の証拠は見つからないが、その子供たちの生活の中にしっかり残っていたという物語の展開。そして事件が未開決でなくなる結末、なぜこの結末が必要なのかと、先が見えにくい今の時代に問われる作品だと思います。

監督は「麒麟の翼 劇場版・新参者」「映画 ビリギャル」の土井裕泰、脚本はドラマ「逃げるは恥だが役に立つ」「アンナチュラル」などの野木亜紀子。撮影:山本英夫、音楽:佐藤直紀、主題歌:Uru「振り子」。

出演:小栗旬星野源市川実日子、重松豊、古舘寛治梶芽衣子、宇崎竜童、篠原ゆき子原菜乃華宇野祥平火野正平、高田聖子。


映画『罪の声』予告【10月30日(金)公開】

あらすじ(ねたばれ):

1984、“くら魔てんぐ”犯人グループの事件ニュースを聞きながら、開業した「テーラー曽根」で洋服仕立てに勤しんでいた父・曽根光男。

2018、父亡きあと店を継いだ俊哉(星野源)は妻・亜美(市川実日子)と長女・詩織(朝日湖子)の3人暮らし。母親・由美子(梶芽衣子)は余命半年の病で緩和病棟で暮らしている。

クリスマスツリーの飾りつけで、部品を探していて、父親の名のある箱の中に古い録音テープと英語で書かれた手帳を見つけた。テープの声をネットで調べ、ギン萬事件に使われた声であることを知り動転する。

大日新聞の社会部事件担当デスク鳥居(古舘寛治)は「今なら聞くことができる深淵の声」を集めて平成・昭和の未解決事件を追う特集を企画。「声を聞く耳を持つ」とかって社会部に席を置いた阿久津(小栗旬)に目をつけ、文化部より呼び戻して、特集担当を命じた。

鳥居は自らの分析で、ギンガ社長誘拐事件(1984年3月)はこの1年前にオランダで起きたビール会社社長誘拐事件に似ており、この事件を追っていたアジア人が怪しいと阿久津をイギリスに派遣して調査を命じた。

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阿久津は現地で誘拐交渉人からこの記事を取材していた記者ソフィー・モリスに接触し、「キツネ目の男」の写真を見せて、「記憶はあるか」と聞いた。「親しくしている中国人に似ている」という回答を得て、日本に戻った。

阿久津は元社会部記者だった水島(重松豊)から誘拐事件で金を奪うのは難しいというヒントを得て、株価操作により金を稼ぐ手段から事件を追うことを考えていた。

俊哉は父親が事件にいかなる関りがあったのかと身の廻りから、阿久津は株価操作という大きな社会土俵から事件を追っていく。

俊哉はまず父の代からの付き合いのある職人・河村(火野正平)に話すと、手帳は過激派だった伯父の達三さんの物だという。入院中の母親に伯父のことを聞くと、「阪神パークのレパルド見に連れていってもらったでしょう」とそれだけ。家を探すとそのときの写真が出てきた。

次に父と伯父の柔道仲間・藤崎(木場勝巳)に当たると「伯父達雄の父親は過激派でギンガ社員だった。しかし、過激派の内ゲバで殺された。その葬儀にギンガが来なかったことで達雄はギンガを憎んでいた」という。

達雄を知っているという料理屋“しの”の板長(橋本じゅん)を訪ね、「自分はビン萬事件で使われた声の主だ」と名乗り、「伯父は何をしていたのか?」を聞いた。「女将さんに知られたら叱られる」と言いながら、女将の愛人・森本と耳の潰れた生島という男を含む“9人の犯人グループ”の集会がここであった」と喋った。(笑)柔道で撮った伯父の写真を見せると「こいつがいた!」。

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叔父が犯人のひとりだということが分かった。生島は柔道ができる男で警察を首になり家族全員が消えたという。生島秀樹(阿部亮平は父や伯父と柔道仲間だった。

 阿久津は株価操作の件で、元証券マン立花(堀内正美)に指南を受けた。英国でギンガの株を買って株価を吊り上げ、脅迫状を送って騒げば、兜町空売りすれば儲かる。こういう頭の回転が早い髪を借り上げた一ツ橋出の男が当時兜町にいたと証言。これがあのキツネ目の男、この男はギンガ事件の次の映画「天国と地獄」を真似た“又市食品脅迫事件”(1984年6月)に現れ、失敗していた。

阿久津は姉・葵(須藤理彩)を訪ねて萬堂製菓脅迫事件(1984年9月)のことを話していると、姉が「あの事件での男の声を思い出すとぞっとする」と話すのを聞いて、社内で事件と子供の声の関係を調べてもらった。

ギンガ事件:16歳の女の子、萬堂事件:8才の男の子、ホープ事件:8歳の男の子という結果を得た。「この子たちの手掛かりは?」というデスクの声で、「県警、県警」と警察情報を追っていた捜査がぶっとんだ!

俊也は生島秀樹に娘・望が居たことを知って、当時の担任・大島先生(浅茅陽子)を訪ねた。「望は2年生で15歳、8歳の弟がいた。将来翻訳家になると言って急に引っ越し、おかしいと思ったがヤクザがからんでいるというので何も言えなかった。その日は1984年11月14日(ホープ食品脅迫事件日)だった」と話してくれた。(ホープ食品脅迫事件当日)。この事件では大坂府警1000人が子供の声で動き、追い詰め、隣県間の警察の連携不足で犯人を取り逃がすという警察の大失態事件だった。

俊也は望と弟、そして自分の3人の声がギン萬事件に使われ、望と弟のその後が気になり、怖くなった。自分の家族のことを考えこれ以上事件に首を突っ込むのを止めようと考えていた。

阿久津がホープ事件の現場を見て、この事件で社に垂れ込みした飲み屋の店主・藤井(佐藤蛾治郎)を訪ねた。藤井は「客の山根(当時トラック運転手)が次はホープが狙われるという話を聞き、当たりかどうか分からないが伝えた」という。山根は現在服役中で、話を聞くと「当時森本という運転手が仲間と話している無線を傍受して、飲み屋で喋った」と証言。

社で森本を割り出し、森本の幼なじみである中古車店主・秋山(佐川満男)を訪ねた。「ギンガ事件のときから怪しいと思っていた」。森本が写っている砂金を見ると「キズネ目の男」と一緒だった。

阿久津は森本行付けの料理屋「しの」を訪れ、「キズネ目の男」の写真を見せて、板長の佐伯から話を聞いた。俊也の話も出た

ホープ食品事件では株価操作の痕跡がない。そこでこの筋のベテラン・ニシダ(塩見省三)の意見を聞いた。「手口を吉高弘之に教えた。スポンサーは上東忠彦だ。操作がないのは儲けが出ていないということ。中央が関係している?姿がないのは殺されている」。

阿久津は何度も子供の声をテープで聞いて、曽根俊也に会うことに決めた。店を尋ね「テープが最大の事件解決策だ」と申し出たが「あんたは記事にすればいいが、俺は知ってもどうにもならん!」と断った。妻・亜美が「何かあったの!」と問う姿に、阿久津は「何でもないんです」と店を出た。

阿久津は「真実よりスクープ狙い、相手を無視した取材姿勢にうんざり!」とデスクに伝えると、「馬鹿!未解決はマスコミに責任があった。」と一喝された。

俊也は大島先生から望の同級生・天地(高田聖子)が会いたがってと誘われた。

天地は「望(原菜乃華)が居なくなっても2か月に1回公衆電話で連絡があった」と前置きしてその後の望の動きを語った。「父親はあの日から帰っていない。青木組に殺されると逃げ、建設事務所で暮らしていると泣いていた。父に読まされた文章で学校にも行けなくなり将来に何もない。次の年の7月にギンガの看板の前で会うことにしたが来なかった。時効になっても連絡がなかった」。

俊也は妻に知っている全てを話し、これまでは「罪の声」として誰が自分の声を使ったかを調べていたが、ここからは「声の罪」、自分の声が罪を犯したという贖罪の気持ちで、阿久津とともに、望の弟・聰一郎を探すことに決めた。

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俊也と阿久津は当初匿われた大津にある青木の京陽アパートから捜索を開始した。京陽アパートは放火殺人事件で今は存在しないことが分かったが、事件の容疑者津村(若葉竜也)が常連客であった雀壮繋がりで、高松、岡山の津山を経て、首吊り寸前まで追い込まれた聰一郎に心斎橋で会うことができた。

聰一郎から、「ホープ事件の日、青木のアパートに連れてこられ監禁、母親千代子(篠原ゆき子)は青木の女にされ、姉・望は脚本家になる夢を求めて家出し“キズネ目の男”に追われ、車に衝突され亡くなった。組員の津村に可愛がられ、彼が博打の中抜きが露見して逃げる際、母を救おうとふたりでアパートに火を掛け、あとは転々と知合いを渡り歩いた」と聞かされた。

聰一郎は俊也に「どんな人生でしたか?」と聞く。俊也は絶句した。阿久津が「曽根さんの今は曽根さんの人生。罪を抱くのは曽根さんではない!」「私はロンドンに行き、本当の罪人を引き出す」と言い添えた。

聰一郎はマスコミの前に出て、「母に会いたい」と語り、母と再会することができた。「お母さんを置いて逃げて!」と泣くのみだった。この運命を誰が償うのか?

阿久津はロンドンに行き、ソフィー・テイラーに会い「達雄はOssilだ、ヨークにいる」と聞き出した。達雄は国際的な大バカになっていた。

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阿久津はヨークの古本屋を営む老いた達雄(宇崎竜童)と対峙した。達雄はギン萬事件を「俺たちの闘争だった!警察、社会、日本にこの国が如何に空想かを見せつけたかった!」と総括した。阿久津は「日本は空想の国になりましたか?あなたは1984年のままだ!声を使った子供たちの運命を変えた。子供たちの未来を殺した!これは正義でない!」と追及し、「誰かを恨んであなたのようなことはしない!」という俊也の言葉を伝えた。

警察に達雄の逮捕を要請してロンドンを去ったが、達雄は姿を消していた。

俊也は病院から一時帰宅してテープと手帳を探す母の姿を見て、「誰が自分の声を取ったか」と聞いた。母は「学生のころ過激派で達雄と一緒に活動していた。結婚して夫のテーラー仕事を支えていたところに、達雄が訪れ俊也の声を欲しがり、録音して渡した」と言い、「ずっとくすんでいた警察、社会に対する痛みだった」と告白した。

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俊也は母の死に、「孫を可愛がってくれてありがとう」と母を許し、妻・亜美は「ありがとうございました」と義母が告白してくれたことに感謝した。

阿久津は社会部記者となり、俊也の店でスーツを新調した。さて、似合いますかどうか!

感想:

阿久津と俊也、それぞれが犯人を追うなかで、声を使われたことで苦しんでいる望と聡一郎を救いたいと、ふたりで協力しながら犯人を追い詰めるという物語の構成。

前段、俊也と阿久津が事件を追う様。交互に描かれ、それぞれの証言者が35年経っての証言だと思える雰囲気があり、役者さんたちの名演技に飲み込まれます。特に望の学友・天地を演じた高田聖子さんの証言などとても“リアルでノンフィクションドラマ”のようでした。

後段、ふたりが協力して聰一郎の行方を追い、厳しい暮らしの現状が明かされるが、ここでは“涙が絶えないヒューマンドラマ”になっている。聰一郎と望の厳しい人生を描くことで、なんでこんなバカげた事件を起こしたか、なぜこの事件が未解決になったかと疑義を感じ、このことが作品のテーマだと思います。

発見された聰一郎の風体に、なぜこのような嵌めになったのか。イギリスでノウノウと暮らす達雄が「警察、社会、日本にこの国が如何に空想かを見せつけたかった!」という言い草にこの風体を対比させ、阿久津が「真実」を知って達雄のバカさ加減を突く脚本・演出がすばらしい!

俊也の母は自分が関与した事件でありながらその非を認めない。こんな母の罪を背負うことになった俊也。望の短い人生が、父親の罪を問うことなく、夢を追うものであったこと。こうして子供たちの人生をしっかり描くことで、罪の深さを問う物語となっていた。

劇場型犯罪といわれるギン萬事件。何が劇場型にしたのか?スクープばかりに目が行き真実を明かそうとしなかったマスコミ、面子と手柄に拘り何度も犯人を取り逃がす警察の姿がよく描かれた作品でした。

小栗さんは、当初は乗り気でなかったが、今もこの事件で犠牲者が出ていることに正義感を自覚し、“俊也の苦悩に寄り添って”、犯人を追い詰める阿久津の演技はまるで小栗さんそのものに思え、すばらしい演技でした。また、星野さんは、テーラー役がよく合って、自分が関わった事件だけに状況が明らかになる度に苦悩が大きくなるという、大変感情コントロールの難しい役でしたがうまく演じられましたね!すばらしい作品でした!

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