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「さがす」(2021)

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監督は映画「岬の兄妹」(2018)の片山慎三さん。この作品は衝撃的な作品でした。それだけに本作を期待して待っていました。本作、長編2作目にあたり、商業レヴュー作になります。

大阪を舞台に、中学生の少女が、失踪した父親を必死に探す中で、思いもよらぬ真実へと近づいていくさまをミステリアスに描き出すという。

監督・脚本:片山慎三、脚本:小寺和久 高田亮撮影:池田直矢、編集:片岡葉寿紀、音楽:高位妃楊子。前作と異なるところは脚本に「新聞記者」「そこのみにて光輝く」などの秀作が多い小寺和久 高田亮さんが加わり、定評のある池田さんが撮影を担当するという、気合のかかった作品になっています。

出演者:佐藤二朗、伊東蒼、清水尋也、森田望智、石井正太朗、松岡依都美、成嶋瞳子品川徹、他。

あらすじ:

大阪の下町で平穏に暮らす原田智(佐藤二朗)と中学生の娘・楓(伊東蒼)。「お父ちゃんな、指名手配中の連続殺人犯見たんや。捕まえたら300万もらえるで」。いつもの冗談だと思い、相手にしない楓。しかし、その翌朝、智は煙のように姿を消す。

ひとり残された楓は孤独と不安を押し殺し、父をさがし始めるが、警察でも「大人の失踪は結末が決まっている」と相手にもされない。それでも必死に手掛かりを求めていくと、日雇い現場に父の名前があることを知る。「お父ちゃん!」だが、その声に振り向いたのはまったく知らない若い男だった。

失意に打ちひしがれる中、無造作に貼られた「連続殺人犯」の指名手配チラシを見る楓。そこには日雇い現場で振り向いた若い男の顔写真があった――。(HP転用)

本作はミステリードラマ。いかにミステリーを楽しんでもらうかと心血が注がれた作品です。それだけにネタバレには注意しなければなりませんが、それでは感想は書けません!という訳で、ネタバレご容赦願いたいと思います。

そこで結論を述べます、衝撃的な作品でした。“ちらし”“あらすじ”には「探す」のは娘が父親を探すようになっていますが、本当に探し当てたものは何か。実は“これ”を探す作品。見つけたその結末、作中の親子だけでなく観客にも「何を見つけたか」と問うてくる描き方は衝撃的でした。

感想(作品を観てから読んでいただきたいです!):

冒頭、いきなり影絵のように男がハンマーを振っている。これが物語のハイライトで使われるという、実に伏線がよく繋がる物語です。

次いで楓が全速力で走りだす!どこに?父親は万引きで捕まっているスーパー店に。20円足りなくて盗んだという。楓が「寝ぼけてなければこんなんならん!」と店長に抗議。(笑)「まあ、わずかな金だから」と警察官。

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中学3年の楓が親父を引き取って帰る道すがら、くちゃくちゃ物を食べる。やめて!と注意すると顎か砕けていると反論する智。こんなに粘っこい親子関係はなぜ、そしてこの関係があっての結末。これまでいかなる生活してきた?母親はどうした?と疑念が湧いてきます。行間を読ませるようなストーリー展開でこれが明かされていくという脚本が凄い!3人の脚本家が関わってということが分かるストーリー展開です!

父親は「300万円」を貰おうと犯人を追うように、朝起きると、グウタラ親父がきちんと部屋を整理して、「卓球に行こうか」という言葉を残して、楓の前から消えていた!

楓は学友の花山豊(石井正太朗)、担任の蔵島先生(松岡依都美)の手を借りで父親の消息を追う。父親の仕事現場だったごみ処分場で、父親の名前を叫ぶと、俺だという若い男に出会った。人違いだった。

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ちらしを作って駅前で配布するが、なんの反応もない。頭にきた梢が先生に「こんなん、先生はうさん臭い!」と当たり散らすと「自腹やで!」と怒って帰ってしまった。こんなエピソードを交えながら、笑のあるストーリーになっている。商業作品への配慮だが、すこしやり過ぎとちがう!というところもある。

そこで見つけたのが連続殺人事件の手配写真。写真はごみ処分場で会った男、山内照己(清水尋也)だった。楓は驚いた!父親は殺されたのではないか。

父親と卓球をしたスポーツセンター(場末のセンター)を訪ねると、そこで父親が首を吊った姿を思い出した。楓にはこんな悲しい記憶があった!楓は豊を呼び出しオッパイを見せて、協力を頼む。このシーンがとても大切なシーンになります。

楓はひとりで簡易宿泊所を捜索した。マスクをして寝ている男のマスクを剥ぐと、山内だった。逃げる山内。追う楓!狭い西成の路地を追う。このシーンは、かって監督が助監督として仕えたポンジュノ監督作品へのオマージュです!(笑)しかし、ここでは西成の街が持つ何とも言えない味があります。楓は山内のパンツをはぎ取り、ポケットの中に父と撮った待受け写真、瀬戸内海のある小島への渡航キップを手に入れた。

楓は豊を誘い、この島に渡り、空っぽになった廃家を捜索するなかで、警官にっよって屋敷からストレチャーで運びだされている現場に遭遇。「お父さん!」と叫ぶが、警官に近づくことを阻止される。

いきなり、美しい海辺で山内がムクドリ(アカウント)という女性(森田望智)と語らうシーンが出現。「じゃ行こう」と山内がムクドリを空き家に誘うシーン。このシーンの時程はいつか?

「何が起こるかわからない、先が読めない」と物語を楽しめるよう、物語は3か月前、13か月前と時間をさかのぼり、山内、父親の過去が語られ、ふたりの衝撃的な実像・関係が浮かび上がり、それが現在進行中の事件に繋がる作りになっている。そこで大切なのが、描かれるシーンはいつの時点か?クリストファー・ノーランにも似た時制の使い方。いくつかの時程がはっきりしないシーンを挟んで、物語にミステリー性、驚きを与えてくれます!しかし、やり過ぎ!と感じるシーンもあります!

ここから3か月前の山内の物語に移る。

山内が女性の首を自分のパンツから外したベルトで絞めるところで、家主が「この家ではよく女のなき声が聞こえる」と警官を案内してくる。山内は逃げ出した。

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山内は島の爺さん馬淵(品川徹)に出会い、馬淵は変態マニアで、山内に/を家に招いてSMビデオを見せる。が、山内は「動くものでは興奮しない!」と話すと、馬淵が日本刀を持ち出し山内に渡すと、山内は手淫して、馬淵をぶったぎった。そして風呂で遺体を解体しクーラーボックスに収めた。今の時代を表す特徴的な事件かもしれない!このシーンが狂気たっぷり描かれ、その表現力に驚く。清水尋也さんの狂気の演技がすばらしい!

山内は大阪西成に出てきて、ホームレスのための炊き出し場に顔を出した。智が衣類を土中に埋める男として山内を見ていた。

ここから13か月前の智の物語に移る。

智は妻のALS症の妻公子(成嶋瞳子)の介護で疲れ切っていた。妻が「殺して!」に応じて首を絞めたが絞め切れず、キスしてくる公子を抱いて泣いた。

リハビリで転び公子に絶望しているところに、看護師の山内が近づき、「無理矢理に生かすのは金と時間の無駄。息を止めて自由にしてやるのがいい」と20万円で公子殺害を勧めた。智は山内に任せた!亡くなった公子を見て、智は悔やんだ!

山内は「世の中には死にたがっている人が沢山いる。救済してやるんだから、一緒にやろう」と智に勧めた。断ると「あんたは外交だけ。殺すのは自分がやる。報酬は20万円」と言われ、智は手伝うことにした。

殺人願望ネットで相手を見つけ、説得して、連れてくるのが智の役割。こうして次から次へと殺害していった。しばしばニュースで話題になる今の社会を代表する闇。

遺体が発見され連続殺人事件として、ニュースで報じられ、ポスターが出回った。

この時期に「300万円払うから殺して欲しい」という車椅子生活の女性ムクドリが現れた。警察に捕まると智は山内に瀬戸内海の島に逃げるよう船のキップを渡した。

ムクドリの殺害場所を探しているなかで、楓が豊かにオッパイを見せている場に出会った。このことが智に自分がしていることの罪に気づかせた。

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山内から殺害場所を瀬戸内海の島に変更することが伝えられ、智はムクドリを連れて島に渡った。

山内がムクドリの首を絞めたところに、「人がやってくる」と智が部屋に入り、山内をハンマーでめった撃ちして死なせ、自らの腹にナイフを刺し、警察に電話した。そこに楓が駆けつけた。ここで演じる佐藤二郎さん、こんな役を演じるとはとうてい思えない熱演でした!

智は警察で自分は「連絡係ですべて山内がやった」と自供したが、取調べ刑事は自作自演だとして捜査していた。

智は300万円を手にしたと思ったが、ムクドリが一枚上で6万1千円でしかなかった。金に困り、山内と同じ手口で、自殺願望者を選んだ。それが楓だった!

 智は「買い物だ!」と出て行き、ベルトを買って待っていたが相手が来ない。アパートに戻ると、楓が「何買った?」と聞く。「何かな、忘れた!」と言い、ふたりは卓球を始めた。

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長いラリーに中で、楓が「忘れたらいかんよ!私のことも、お母ちゃんのことも、今迎えに来ている!」と話すと智が「なんで!」と。そこにパトカーのサイレンの音。「さっきの待ち合わせ?」「お前か?」。「お父ちゃんが何者か、何やったか知っている。やっと見つけた〇〇〇〇」と智は泣いた!「私の勝ちやな!」と楓。泣く父親。ここで楓:伊東蒼さんの演技は物語を終焉させる全責任を背負ったような身震いがするほどのものでした。

まとめ:

なんちゅうラストや。泣けた!智のやったことは苦渋の選択だった。それゆえに生きて死を選んだようなもの。父親の苦しみを一番知る楓の愛情から出た、父親安楽死と思った!長い卓球のラリーですべてを語り尽くした!

感想が書けない!イーストウッドが描いた「ミリオンダラー・ベイビー」や「ミスティック・リバー」のように、「罪は罪だが、罪ではない!」と答えが見つからなかった。楓の迷いの無い強い心に、今の時代の行き方を知る思いでした。

障害、病魔で死を願望する人の殺害、これを執行する人。そこには現在社会の貧困や差別、麻薬やSNSが複雑に絡む罪深き社会の現状、これが本作殺人劇の源基だ。これをリアルに描き上げていました。

現在、3か月前、13カ月前と時制を変えて、楓、父親、山内の視点で事件を追い、ミステリアスな物語にするという手法。先がよめず、劇的な感動を味わうことができましたが、反面次々と唾がってくる伏線に、作られ過ぎたな!もっと自然なストーリーの流れがいい!と感じでました。次作は力を抜いた自然体の作品を期待した!

出演者の演技がすばらしい!そして映像が美しい!作品でした。まだ、的を得た感想にはなっていないなと、再度の見直しをしたいと思っています。

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