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「羊たちの沈黙」(1991)“恐怖のトラウマ”からの脱却!

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ホラーミステリー金字塔と言われる作品、NHKプレミアムで観賞。第64回アカデミー賞で作品賞、主演男優賞、主演女優賞、監督賞、脚色賞受賞作。

女性を殺害しその皮を剥ぐという猟奇事件が続発。捜査に行きづまったFBIは、元精神科医の殺人鬼ハンニバル・レクターの示唆を得ようと女性訓練生クラリスを彼に接触させ、彼が吐く言葉に翻弄されながら犯人を追うという物語。

レクターの吐く言葉に意味がある。それを解釈する面白さ。レクターを演じるアンソニー・ホプキンスクラリスを演じるジョディ・フォスターの表情で言葉を追う心理ミステリー”

レクターの目的は何か?FBIは利用したのか、されたのか?ミステリアスで、明らかになっていく猟奇事件の犯人像に身の毛は立つ思いでした。こんなやつが本当に存在するのかという性倒錯者の行動が怖い!

そして、レクターとクラリスの間に見られる、なんとも言えない愛情のようなものがあったのではないかと信じたくなる思いでした。

監督:ジョナサン・デミ、原作:トマス・ハリス、脚本:テッド・タリー、撮影:タク・フジモト、音楽:ハワード・ショア

出演者:ジョディ・フォスターアンソニー・ホプキンス、スコット・グレン、テッド・レヴィン、アンソニー・ヒールド、ケイシー・レモンズ、他。 


The Silence of the Lambs (1991) - Official Trailer

あらすじ(ねたばれ):

冒頭、バージニア州タウンティユ近くの森。FBI訓練施設。朝早く障害コースで女性訓練生クラリスジョディ・フォスター)がひとり訓練している。通常、こんなことをする訓練生はいない。何故彼女は走らねばならないのか?この時代、まだまだ女性FBIはめずらしい存在です!

コースに「痛み、苦悩、苦痛を愛せ」という立て看板がある。彼女は毎日この標語を見て走っていた。実はこれがテーマで彼女の成長物語でもあるんです。

捜査課長のクロフォード(スコット・グレン)は、かって彼が大学教授時代の教え子クラリスを呼び連続殺人事件のプロファイルを作成中だか、大物が非協力だから、「お前、会って来い!」と指示した。大物は元精神科医のレクター(アンソニー・ホプキンス)。

レクターが収監されているボルティモア州立法廷病院に出向き、院長チルトン医師(アンソニー・ヒールド)から「女性の面会者は初めて。面会遮断ガラスには近づくな!1981年に看護師を襲って喰った」と注意されて、厳しい監視付の地下室に入って行った。もうこれだけでゾッとする雰囲気!

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レクターは直立不動で礼儀正しくクラリスを迎えた。クラリスは緊張していた。いきなり「バッファロー・ビルの捜査か?なぜ皮膚を剥ぐと思うか?」と聞いて来る。レクターは新聞を読んで、すでに彼流のプロファイルを持っているようだ。新聞は「バッファロー・ビル、5人目の皮膚を剥ぐ!」と報じていた。

クラリスが「興奮?勲章?」と答えると「違う!」と言って、「あんたの訛りでウエスバージニア出の白人貧乏、そこから逃げるためにFBIに入ったか?」と挑発する。クラリスは「お見通し!」と面談を終えて、質問状を渡して帰ろうとすると、「答えは自分自身の中にある。ミス・モフェットを探せ、私の元患者だ」と。クラリスは保安官だった父親を思い出し、悔しさで涙が出た。

クラリスはミス・モフェットの病院カルテはすでに処分されており探せないと思ったが、レクターの言葉「自分自身の中にある」を思い出し、電話帳を調べるとユアセルフ倉庫の借主になっていた。倉庫を調べると、マネキンとアルコール漬けされた女装の首だけの死体があった。

クラリスはレクターを再訪。「ミス・モフェットは文字を並べ替えると“私の残り”という意味!あなたが借主でした」と切り出す。「バッファロー・ビルの話をしろ!」というレクターにミス・モフェットの情報を求めた。「本名はラスパイル、恋愛面で風変わりなやつだった」。

「性倒錯者?」と問うと「うつ病だ。変身願望があり未熟な殺人者だ。彼に何を感じた」という、「怖かった、刺激的だった!」。「変身の意味は?」「バッファロー・ビルを分析したまでだ。逮捕に手を貸そう!“ここから出せ!”ビルはもう次の目標を探しているぞ!」と要求してきた。クラシスは堂々とレスターと張り合っているが、いつ取り込まれるかとひやひやしながらふたりのやり取りを聞くことになります。

テネシー州メンフィス。夜間、暗視眼鏡を着けた男が少女を誘拐する映像。

ビルによる6人目の事件が起こった。ウエスバージニア州クレイ郡の現場に、クロフォードはクラシスと伴って飛んだ。航空機の中で、クロフォードがこれまでの事件概要を説明した。「ビルは犠牲者を3日間生かす。レイプや虐待の痕跡はない。切断は死後だ、殺して皮膚を剥ぐ。そして河に捨てる。最初の犠牲者ビメルは重しを付けられて捨てられ3人目として発見された。死体が上がったのはエルク河だ

現地では、クラリスは地元警官にいやな目で見られる。解剖に立会した。これまでの遺体と異なるのが、“喉に異物”が詰め込まれていた。

クラリスは友人のいる考古博物館で調べてもらった。メンガタスズメ、別名ガイコツ蛾、生息しているなはアジアでのみと知った。

メンフィスの事件。誘拐されたのはテネシー出身の上院議員の娘キャサリン25歳。ブラウスの背中が切られていると報道された。

クラリスはレクターに会い「キャサリンを救えたら軍人病院“プロムアイランド”に移動される」と伝え、バッファロー・ビルの資料を渡した。レスターは「クラシスの幼いころの記憶を知りたい」と要求してきた。「父は保安官。10歳のとき犯人に撃たれ亡くなった。母は早く亡くなっていた」。

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6番目の事件を聞いてくるのが無視して、「公表されてない異物・蝶があり、ラスペイルの頭部にもあった。何の意味か?」と問うた。「変身だ!ビルも変身したいんだ」。

「性転換と暴力は結びつかない!」というと「逮捕まで間近だと気付いているか?父の死のあと孤児となったあとを喋れ!」と要求してきた。「母の従兄のところにいて2か月で逃げた。次は私の質問に答えて!」と逮捕まで間近の意味を聞いた。「性倒錯者ではないが願望があり、手術を申請したが拒否されている。暴力と関係した少児障害を調べろ!生来の殺人者ではないが長年にわたる虐待でビルは自分の存在を憎んでいる」と明かした。レクターは何故クラシスの幼児のころのことに執着しているのか?

ビルはキャサリンを井戸に閉じ込めていた。キャサリンは「母は偉い人、家に帰りたい!」と訴えている。

ふたりの会話を密にチルトン博士が録音していた。博士はマーティン(ブルック・スミス)上院議員に取り入ろうとレクターを牢から出して、レクターに口輪を着けさせ、テネシー州刑務所への移送を条件に犯人の本名を聞き出そうとしていた。レクターは「下の名はルイス、残りはマーティン上院議員にあってから明かす」と交換条件を出した。

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レクターはメンフィス国際空港に移送され、ここでマーティン上院議員に会い「本名はルイス・フレンド。会ったのは1度だけだ。悪者のラスペイルと一緒に来た。2人は変人だ。ルイスはラスベイルを殺した!」と明かし、「自分で娘に授乳したことがあるか!乳首が勃起したか!」と議員を侮辱した。これはレクターが警察に賭けた罠?

ニュースがマーティン上院議員とレクターの面会でレクター博士が捜査協力に同意しバッファロー・ビルの逮捕は近いと報じた。

レクターはシェルゼー郡裁判所内の檻に収容された。そこにクラシスがキャサリンに危機感を感じてやってきた。

「ルイス・フレンドは文字を並び帰ると“偽者”という意味、誰なの?」と問うと「渡してもらった資料にある。第1は、本質はなんかだ?探している男は何をするかだ」。「キャサリンは殺されているの?」「ちがう、それは結果だ!彼は何を満たしている?」。「怒り?社会的容認?」「違う、切望だ!切望するものを探せ!毎日見るものから切望は高まる!」。

レクターは話を変えて「母の従兄のところにいて2か月で逃げた。何故逃げたかを話せ!」と迫った。クラシスが「奇妙な子供のような声を聞いて、納屋に入ると羊を殺しているとこだった。その一頭を抱えて逃げたが、捕まり、その羊は殺された」と話すと「時々目が覚めて、闇の中で羊たちの声が聞こえるか?」と聞いてきた。「そうだ」と答えるとありがとう」と言い、「キャサリンを救えばその悲鳴は消えるかな?(発見してみろ!)犯人は資料にある」と答えた。彼の手に触れたが引っ張り込まれることはなかった。ここは怖いシーンだった!

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レクターは夕食を運んできたふたりの警官を襲い、鍵を奪ってエレベーターに逃げ、警備隊をエレベーターに引きつけ、撃たれ、救急車で空港に運ばれ、ここで観光客を殺して服と現金を奪い姿を消した。

クラシスはこのレクターのこの脱出劇を知り「彼なりの礼儀があった。もう彼は救えない!」」と資料の中のヒント探し始めた。

遺体の発見場所はランダムだが、発見された順番は犯行順であるにも関わらず、最初のビメルだけが3番目に発見された。重しが付けてあったからで、この遺体に重要な情報が隠されてると、オハイオ州ベルベデーレに飛び再調査を始めた。レクターに示唆された「切望!」を見つけるために。ビメルの部屋を綿密に調べた。デブのビメルの写真とクローゼットに切り取り部のあるワンピースを発見した。シカゴの友達に面会してビメルは裁縫が趣味で、リップマン夫人の仕立てを手伝っていたことを知った。

クロフォードは病院のブラックリストから犯人をジュイミー・ガム、別名ジョン・グラントと確認し、ガム逮捕のためイリノイ州キャメットシティに向かっていた。「ジュイミー・ガム」とはガイコツ蛾の名。この情報をクラシスに送り、引き続き情報を収集するよう命じた。

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クラシスはビメルの友人から「ジュイミー・ガムという名は聞いたことはあるがジョン・グラントという名は聞かなかった」と聞き、リップマン夫人宅を訪ね確認することにした。一方、クロフォードはジョン・グラント宅に向かっていた。

ビルは「やつの時間だ!」とキャサリンを閉じ込めている井戸を覘いていた。人皮を縫い付けたガウンを羽織り、女装して真っ裸で蛾のように舞い、興奮状態だ。

クロフォードはグランド宅に突入したが、空き家だった。クラシスがリップマン夫人宅を訪ねるとジャック・ゴードンと名乗る男が出て来た。“部屋に蛾がいる”ことでこの男がビルと断定し拳銃を向けるが、暗い部屋に逃げられた。蛾が一杯いた。真っ暗で見えないが、ビルが暗視眼鏡を着けてクラシスに襲い掛かる。その瞬間、“クラシスは拳銃の引き金を引いた!”クラシスがFBIとして生きるために求められる“恐怖のトラウマ”から解き放された瞬間だった。

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クラシスは自信を持って、FBI訓練課程を終えることが出来た。祝いの席にレクターから電話が入ってきた。「羊の悲鳴は消えたか?私にもクロフォード同様に敬意を払ってくれ!もっと喋りたいが古い友人と夕食だ!」と会話を切った。その時、レクターは空港から降りて来たチルトン博士を見つめていた。

感想:

猟奇犯人ビルを逮捕したが、それをうわまわる知的殺人鬼レクターを逃がすという結末、とても知的な推理ゲームだった!

全てがレクラターの作文通りで上手くやられたと思うのですが?そして、クラシスに対する彼の態度は彼女を利用しただけなのか、愛情だったのか?

ふたりの対峙は圧巻。レクターがクラシスのトラウマ“羊の叫び”を引っ張り出すシーンはドキドキでした。ふたりの最後の別れがレクターの「ありがとう」だった。何に対するありがとうだったのか?

事件解決後に、レクターからクラシスへの電話「君がいた方が世界は楽しいよ」。憎めない悪党でした!

レクター脱出劇は、のちの作品の参考例になっているそうですが、圧巻でした。エレベーターの屋根から血液をたらし、自分を殺すことはないと知っていて、警備兵をおびき寄せて脚を撃たせ、キャスターで空港に運ばせ脱出する。あまりにも見事でした。

殺人鬼ビル、次第にその性癖が明らかになり、素っ裸で蛾のように踊り狂う姿。暗視眼鏡を着けてクラシスに迫る。怖かったですね!

冒頭のFBI訓練コースにあった精神徳目「痛み、苦悩、苦痛を愛せ」を、クラシスがトラウマ克服し成長した姿で見せるラストシーン、すばらしい作品でした。

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