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「空気人形」(2009)人形ベ・ドゥナを観る作品!彼女は愛されたか!

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是枝裕和監督ポン・ジュノ監督作で知られるソン・ガンホペ・ドゥナを使って「ブロッカー」という仮題の韓国映画を手がけることが伝えられています。どのような作品になるのかと期待が膨らみます。そこで是枝監督がすでに撮ったことのあるペ・ドゥナ主演作を観ることにしました。

 性処理に使われる安物の空気人形。主人の好きなように抱かれていたが、あるとき雨だれを受けて「心を持つ」人形になり、「自分の心で動ける」と思ったが、周りの人は苦しむ人ばかりだった。そんななかでデンタルビデオ店で出会った男性に恋をして、本当に愛されているのかと彼に会いに行き、そこで・・・。

 みんなが他者で生かされている世界で、どう生きるかという人と人の関係”が描かれ、人として生きることは傷つけ傷付けられる切ないものだが、“そこで生きるとはどういうことか”という人生の妙を教えられる作品でした。

 この作品はベ・ドゥナ無くしては語れない、是枝監督作品の中では異色の作品。彼女の役は性処理に使われる安物の空気人形。体当たりで演じてくれます。ポン・ジュノが絡まなければペ・ドゥナの出演了解は取れないキャスト(笑)。両監督が互いを信じ、競い合っているからこそ生まれた作品だと思っています。次作を楽しみにしています!

 原作:業田良家の短編漫画「ゴーダ哲学堂 空気人形」、未読です。監督・脚本:是枝裕和、撮影:「長江愛の詩」(2017)のリー・ピンビン、音楽:world's end girlfriend

出演者:ペ・ドゥナ井浦新板尾創路、高橋昌也、貴美子、岩松了丸山智己寺島進オダギリジョー富司純子、他。


Air Doll (空気人形) Trailer

あらすじ(ねたばれ):

ファミレス従業員の秀雄(板尾創路)が疲れて帰って、風呂にも入らず、勤め先に不満を吐き出しながら、空気人形の“のぞみ”(ペ・ドゥナ)を抱く。そのあとの処理がなんともわびしい(笑) 板尾さんの怪演です。次の朝になると、のぞみを裸のままにして出勤。

 のぞみは窓から手を差し出して雨だれに触れ、「心をもつ」ことになった。顔は少し整形され人形らしく作られたスタイル抜群の色っぽいベ・ドゥナが演じるのぞみがメイド姿で外に出てみる。捨てられたゴミから人形を拾って話しかける少女(萌)、交番で警察官(寺島進)に昨日の事件のことを訪ねる未亡人(富司純子)と出会い、幼稚園の園児と一緒に遊んで過ごし、シネマ・サーカスというビデオ店で店員の純一(井浦新)に出会った。

夜、帰宅した秀雄とそろいのマフラーで、車椅子に乗せてもらって公園を散歩。ここで秀雄がキスしようとする。が、「私は心を持ってしまった!」とこのキスは嫌だった。

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 次に日、のぞみは会社を辞めさせられると不安そうな女性社員(余貴美子)の後をつけて、ビデオ店にやってきて、ここで働くことにした。店長(岩松了)が「彼氏いるの?」と聞くので、「います」と“心を持った”ので嘘をついた。店が終わり、「純一の好きなビデオはミュージカル」などと今日の出来ごとを口にして、楽しかった1日を思い出しながら帰宅した。途中でリンゴを拾った。

 このリンゴを捨てたのはOLの美希(星野真里)。部屋に篭って母親が贈ってきたリンゴをかじりまくるという過食症。このシーンの差し込み方は、萌も未亡人もそう、この時はよく分からない!

 秀雄が帰宅して、一緒に入浴した。100円高いというシャンプーで洗ってもらってベッドイン。おっぱいに一杯空気を入れられ抱かれた。(笑) のぞみは「私は空気人形、性処理の代用品!」と呟いた。秀雄は「ずっと側にいてくれ!」という。私は心を持っているのに!

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 次に日、美容院で化粧して、可愛い服装で出勤。純一と気軽に話ができるようになり、海に連れて行ってもらった。砂浜を歩いながら、「年を取るとはどういうことか」を聞いた。「命を失うこと」と教えてくれた。

帰りにレストランで食事。隣で萌ちゃん一家が食事。萌ちゃんの誕生会だった。「誕生会というもの」を始めて知った。のぞみは“人には誕生と死がある”ことを知った。

帰り道でタンポポを見つけ、純一が「枯れている!」という。のぞみが「かわいそう!」と口にすると「世界は生き物で溢れているがいつかは枯れるんだ!」と教えてくれた。彼は死に憑りつかれているように、純一の話は死にまつわるものが多くい。

 バスのなかで眠る純一を見て「もっとあなたのことを知りたい」と思った。

 帰宅して秀雄引き出しのなかに空気人形のぞみの空き箱を見つけた。「私は5800円の安物空気人形だった。

 朝、空気を一杯体に入れて店に出勤。“のぞみ”をのぞき見して「髪を梳かす女を」とビデオを借りて行った浪人の学生(柄本拓)。交番のお廻りさんが「悪い警察官のビデオはないか?」と借りにやってきた。(笑) お客さんの探し物にうまく対応できず、「役に立たず!」と悲しくなって店を出て公園で休んでいた。そこでふしぎな老人(高橋昌也)に出会った。

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 「カゲロウは1~2日で死ぬ。卵だけを産んで死ぬだけの生物だ」と話しかけてきた。のぞみは「私も空っぽなの!」というと「みんなそうなんだ!」と命の話をしてくれた。

命は自分自身だけでは完結できないように作られている。花も雄蕊と雌蕊だけでは不十分で虫や風がきて雄蕊と雌蕊を仲立ちする。生命はすべてそのなかに欠如を抱きそれを他者から満たしてもらうのだ。世間は多分他者の総和。しかし互いに欠如を満たすなどとは知りもせず知らされもせず、ばらまかれている者同士、無関心でいられる間柄」。

 のぞみは老人の話を聞いて、店に戻った。純一と話ながらビデオを探していて転び、釘が刺さって空気が抜け始めた。「見ないで!」と叫んだが、純一が傷口にテープを貼って、御臍から口で空気を送ってくれて助かった。のぞみは准一に縋り付いた!

 朝、のぞみは秀雄が出勤したのを見届けて、空気入れをゴミ捨て場に捨てた。そして部屋で蝶のように舞った。町に出てゲームセンターでプリクラで遊んだ。河船にも乗った。オモチャ屋で指輪を買った。公園のベンチで弁当を食べてる女性社員に「私、歳をとるのよ!」と教えた!

 店で純一に「空気が漏れたときびっくりしたでしょう」と聞くと「俺も同じようなものだ」というので、それなら“私と同じ”だと思った。純一のバイクに乗せてもらい映画を観た。その後、純一のアパートを訪ね、そこで彼が彼女と撮った写真を見た。帰り道、「心をもつことは切ないことだ」と思った。

 女性社員が「会社を首になったただの派遣社員になった」と話しているのを聞いた。お廻りさんが未亡人に「事件は解決したから安心しろ」と宥めていた。萌ちゃんは人形と遊んでいた。浪人の学生はビデオ見ながら手淫していた。(笑)OLの美希は焼きそばをやけ喰いして吐いていた。(笑)

 秀雄が店にやってきてビデオを借りていった。のぞみが店員で働いていることに気付かなかった。これを見た店長が「代理はいくらでもいる」と脅し「純一とやったか?今来た男と一緒のところを公園で見た」とトイレに連れ出されレイプされた。「私は空気人形。性欲処理の代表品!」と泣いた。

その夜、二階で寝ている秀雄の様子がおかしいので覘くと、新しい空気人形の誕生日をしていた。「私のどこが好きなの?」と聞くと、「元のただの人形に戻ってくれ!心を持つと面倒だ!」という。これはひどいと家を出た。

 老人を訪ね、そこにあった写真で元国語の教師だと知った。老人は代用教員あったが「寂しかった」と言った。「「ちょっとあそこ触ってくれ」というから、「あそこだ」と思ったら頭だという。頭を触ると「気持ちが良い、冷たい手の人は暖かい人だ」と言われ、うれしくなった。このあと私を作った人形師(オダギリジョー)を訪ねた。

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 おかえり!」と迎えてくれた。新しい人形が作られていたが、古い捨てられた人形が戻っていた。戻ってきた人形を見て彼は「元は同じでも帰って来たときはみんな違う顔をしている。愛されたかどうかの表情が出る。残念だが燃えないゴミだ。君が見た世界は悲しいものだったか?美しいものだったか?」と聞かれ。のぞみは人形師に口紅をつけてもらい、純一を訪ねることにした。

 純一が「君は誰の代わりでもない、何をしてもよいか」というので「何にを?」と問うたら「空気を抜きたい!」という。何度も何度も抜いて口で空気を送ってくれた。今度はのぞみが純一の臍をナイフで切って空気を抜き、口で空気を送ろうとしたが血液が噴き出して出来ない。のぞみは純一の口から空気を送り続けたが、彼は出血多量で亡くなった。

 のぞみは純一を燃えるゴミをして捨て、自分が燃えないゴミの中で空気を抜いた。これまでに出会った人々が「誕生日おめでとう!」と歌って送ってくれた。萌ちゃんが指輪と人形を交換していった。朝、窓を開けて燃えないゴミ場を観た美希が「きれい!」と言ってくれた。

 感想:

とても大きなテーマでどこまで理解できたか?

 監督はいろいろな人と人の関係を描いてきましたが、ここでは人形と人の関係を描き、人と人の根本的な関係と問うとしたのだと思います。その答えは「老人の言葉」にあると思いますが、これが難解でした!

 のぞみと純一の最後はとても悲しいシーンに思えますが、ゴミ捨となったのぞみの表情は美しいものでした。純一の心にあったものは何だったのか? のぞみが純一に愛されたと思えばそれが正解ということ。人と人の関係は、自分の心次第だと思います。

 のぞみは全く気付いてないまわりの人々、未亡人や女性会社員、萌、美希などの苦しみが描かれ、ラストで萌と美希がのぞみに救われ、出会った皆と繋がっていて、これが老人が語った「人と人の関係」をぴたり暗示しており、人の心はどこかで結ばれているという不思議な縁を感じます。

 ペ・ドゥナの演技が作品テーマすべての鍵を握っていました。全てが人形でしたね!たどたどしい日本語「ワタシハ クウキニンギョウ」がよく合っていて、人形のような裸身の美しさが圧巻でした。人形から人としての感情を持つにつれて変化していく表情もすばらしかった。

 物憂い東京の佇まい。撮ったのがリー・ピンビン。人恋しくなるような映像で、ペ・ドゥナが美しく撮ってあり見事でした。

 是枝監督とポン・ジュノ監督の絆はこの映画のテーマかもしれない。ペ・ドゥナその蝶だったかもしれませんね!

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