とても評判がいい、このような作品を観る年頃ではないのですが、主演のふたりに誘われて観ることにしました!
偶然に出会った大学生の男女。映画や音楽、小説と好みが一致し最強の恋人同士だと思っていたが、社会に出て仕事を持つことで次第にすれ違いが出てきて、追い詰められていくふたりの5年間にわたる恋物語。
年齢とか考えないで、ふたりの恋の行方にそんなこともあったなと感情移入でき、とても楽しめる作品でした。恐らく今の時代にぴったりで、それでいて時代を問わない、人を愛することや生きることの意味を知る作品だと思います。
恋愛の終わりから始まる物語、どうしてこんな結果になったのか、その結果を問うのではなく、この思い出を抱いて次に進んでいく物語。ということで前段、嫉妬するほどに美しい恋愛模様が、後段で社会に出て挫折するところが描かれ、とても愛おしくて切ないですが、リアルで筋が通った恋愛物語になっていて、恋愛教書と言っていいかもしれません!
何の変哲もない、あたりまえと言えばあたりまえの恋物語。これをこんなに面白く見せてくれる坂元さんの脚本、凝りに凝ったセリフはさすがでした!
監督:土井裕泰、脚本:坂元裕二、撮影:鎌苅洋一、音楽:大友良英。
出演:菅田将暉、有村架純、清原果耶、細田佳央太、韓英恵、中崎敏、小久保寿人、瀧内公美、森優作、古川琴音、篠原悠伸、八木アリサ、押井守、PORIN、オダギリジョー、戸田恵子、岩松了、小林薫、他。
映画『花束みたいな恋をした』140秒予告【2021年1月29日(金)公開】
あらすじ(ねたばれ):
2020年、冒頭でふたりがファミレスでイヤホーンで音楽を聴いている若いカップルを見ながら、自分たちの過去を振り返る物語になっています。
2015年冬、八谷絹(有村架純)21歳。振られて彼氏いない?今はミイラ展が最大の関心事。山音麦(菅田将暉)21歳、美術部。彼女とは別れた。最近調子が悪く燃え尽き症候群だが、ストリートビューイングに写し込まれたことを知って、何かいいことが起こるぞと興奮気味だ。
こんなふたりが終電に乗り遅れ、入ったカフェで一緒になった。そこに押井守が居ることに気付いた麦が「神がいる」と声を挙げ、それに共鳴した絹。これが切っ掛けで、この夜、居酒屋、カラオケそして麦のアパートへと場所を移しながら、本や映画、歌、食べ物の好みが同じだ!と燃え上がった!次はミイラ展に一緒にと約束して絹は帰って行った。
二人が意気投合するセリフには当時の作家や小説名、バンド名や曲名といった話題が一杯で、これを理解できる人にはふたりの気持ちが読めて堪らないシーンでしょう。
ミイラ展を見て、ファミレスで小説の話をして、港で行きガスタンクを見て、誘電までには告白するぞとファミレスでねばり、やっと「付き合って下さい!」と言えたふたり。(笑) 交差点で信号待していてキスした。
これから一週間、食事したり映画を観た。映画は「希望のかなた」で絹は感激の様子だったが、麦は居眠り!
三日続けて麦のアパートに泊まった。
四日目、絹はブログで知ったメイさんが亡くなったことをニュースで知り、彼女が「恋愛の終わりは始まり、成就は数パーセンで、切なさに苦しむしかない」と書いていたことを思い出していた。絹がこの話をするが「今始まったばかりだ」と気にかけなかった。
就活の季節がやってきたが、麦は自分の絵力を生かし自室のイラスト作業で凌いでいた。一方の絹は面接試験に出掛けるが、うまくいかず落ち込む。そんな絹を見て、多摩川が望めるマンションで暮らすことにした。毎日が一緒で、ふたりは川辺の散策をしながら焼きそばパン屋さんを見つけたりと、幸福感に包まれていた。
2016年の元旦、初詣で猫を拾ってきて飼うことにした。女性が猫を飼うと危ないですね!(笑) ふたりは大学を卒業しフリーターになった。が、麦のイラストでは生活が苦しくなる。そこに絹の両親、(広告代理店経営)がやってきて、母親(戸田恵子)が「普通に働け!」と説教。父親(岩松了)は「ワンオク好きか?」と聞く。(笑)そして麦の父親(小林薫)が新潟から出てきて「花火家業を継げ!反対なら5万円の仕送りを止める」という。
両家の親の言葉は麦の生活態度に決定的な影響を与えた。絹との今の生活を続けるにはどうしたらいいかと。麦は就職することに決めた。
12月に絹が簿記の資格を取って歯科医院に就職した。友達に誘われて合コンに参加もした。
2017年、麦はネット通販の会社に就職が決まった。帰宅が5時だから絵も描け、これで絹とずっと一緒に過ごせると思った。が、営業部の仕事はそんな生易しいものではなかった。競走意識で意地もある、毎日仕事を持ち帰り、休みのない生活が続く。絹の「絵を見に行こうか?」にも生返事で、言い訳ばかりの生活が続く。クリスマスに本屋さんに行っても、麦の読む本は変わった。
2018年、あの焼きそばパン屋さんがつぶれたと知らせても麦は反応しなくなった。絹が「イベント会社に転職したい。楽しいから」と伝えると「仕事は遊びではない。そんな仕事をするやつは人を舐めている」と言い、突然、「結婚しよう!毎日好きなことが出来る」とプロポーズした。
絹はIT会社(社長:オダギリジョー)を訪ね、酔っぱらって愚痴を吐いた。絹は友人の死を一緒に悲しめなくなっている麦とは別れるべきと思ったが、いつ切り出すかが問題だった。
2019年、友人の結婚式にふたりで参加し、その後まだ乗ったことがないと観覧車に乗って楽しかった日々を思い出し、ファミレスに入った。
麦はこれまで一緒に生活したことに感謝して、良い思い出にすると言ったが、「結婚しよう!今日が楽しいから元に戻れる」と言い出す。そこに若いカップル(清原果耶、細田佳央太)がやってきて、ふたりがいつも座っていたテーブルについて、昔ふたりが交わしたような会話を始めた。やっと冒頭シーンに繋がりました。輝くようなカップルを見て麦は泣いた!絹は外に出て泣いた。麦が追ってきて、そっと抱きしめた。
2020年、麦に彼女ができ、偶然見つけた絹も彼氏と一緒だった。あのころのことは思い出として残っているが、新しい生活が始まっていた。麦はストリートビューイングに、絹と一緒の姿が写し込まれていることを知った!
感想:
どうしてふたりが瞬く間に恋に嵌ったの?ふたりの結びつきがポップカルチャーなものだけに強烈な共感を得たのではないでしょうか。好きという感情で、相手に合わせることもあるということ。社会に出て、生の生活に晒されたとき、その共感度が試される。
辛い社会生活に晒された麦には「イベント会社に就職したい」という麦の気持ちは“ちゃらちゃらした仕事に就く”としか見えなかった。絹の好きなことをしたい気持ち、どう生きたいかという願いを理解してやれず、楽しい思い出があれば昔のように暮らせると思ったところに大きなすれ違いが生じた。
この作品は後段の社会に揉まれて、その先をみる恋物語になっているところに価値があります。イベント会社社長(オダギリジョー)の「結婚という手もあったかな!それはそれで、しっかり寝なさい!」の言葉に、もうあの時代にバックは出来ないという大人の作品になっています。
平凡な日々のなかに、それだけにリアル感がありますが、時代を取り込んだ、人の心の機微に触れる坂元さんの名セリフで綴られた作品。主人公と同年代の菅田さんと有村さんが、まるで主人公たちがそこにいるかのようにそのセリフを喋り佇んでくれ、「花束のような恋」の先に、何が大切なのかを思い出させてくれる一生ものの作品です。
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