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「すばらしき世界」(2020)ちょっとの辛抱と善意で手がとどくところにある! 

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西川美和監督作品で、主演が役所広司さん。これは見逃せない!と観て参りました。

人生の大半を刑務所で過ごした元殺人犯。見た目は強面ですぐカッとなるが、彼流の強い正義感がある。そんな彼が娑婆に出て、真っ当に生きようと悪戦苦闘するなかで浮かび上がる現実世界は・・・・というはなし。

「すばらしき世界」は何処にあるのか、ちょっとの辛抱と善意で手がとどくところにある! 「人間社会は捨てたものではない!」と感じる作品でした。

原案は佐木隆三さんのノンフィクション小説「身分帳(1990)。監督・脚本:西川和美、撮影:笠松則通、音楽:林正樹。

出演者:役所広司、仲野太賀、北川有起哉、六角精児、長澤まさみ、安田成美、梶芽衣子橋爪功、他。

あらすじ(ねたばれ):

殺人罪で13年間を旭川刑務所で過ごした三上正夫(役所広司)、出獄時「罪を反省しているか!」と問われ「判決には不満がある」と言い、生い立ち・犯罪歴や服役中の態度が書かれた「身分帳」を放送局に送りつけて、営門を出た。“真っ白な雪の中”を歩いてバスに乗り、東京の保護司庄司弁護士(橋爪功)の元に急いだ。

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送られた身分帳を見た局プロデュ―サー吉澤(長澤まさみ)は小説家への転身を目指していたTVディレクター津乃田(仲野太賀)に「密着ドキュメンタリー番組」をやってみないかと勧めたが、「相手にしない方がいい!」とあまり乗り気ではなかった。

庄司夫妻にすき焼きで出所祝いをしてもらい「人の信頼を取り戻せ」と励まされた。「養子縁組」のTV番組を観て、「子供を捨てる親がいるか!」とカットする。

翌日、三上は庄司弁護士と福祉事務所に出掛け「生活保護申請」をするが、担当相談員・井口(北川有起哉)から「反社会勢力と関りがありませんか?」と問われ、庄司弁護士がうまくとりなしたが、「たかが生活保護費ごときで肩身が狭くなる、刑務所のほうがましだ!」とムカついた。血圧が上がっりふらついて入院することになった。

医師の診断は「頭に傷がある、体調をみながら生活するように!」と注意があった。そこに津乃田が挨拶に訪れた。三上は愛想よく「なんでも喋るぞ」という態度で、津乃田はほっとした。

津乃田の車で古い住み家、木造アパート二階の部屋についた。部屋を整理していると、庄司弁護士の妻敦子(梶芽衣子)が古いミシンを持ってくる。これは三上が頼んでいたもので、刑務所で覚えたミシンによる剣道衣を作って自立して生きようと考えていた。とてもうまくバッグを作って見せて驚かせた。

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掃除洗濯、買い出し、カーテン作り、自炊、ゴミ出し等で毎日を過ごしていた。剣道衣製作会社に公衆電話から注文を入れるが、ない。

夜間一階で若い連中がゲームで騒ぐ。注意にいったところで「日中働いてる者に、生活費を貰っているやつが口出すな!」とばかりに言われ、カッとしてそのうちのひとりチンビラ風の男を外に呼び出し啖呵で脅した。この騒ぎに付近の住宅に住む人たちが驚く。

こんなことがあってか、井口が家庭訪問と称して、三上の生活を見にやっていた。こぎれいに生活し、お茶を出すことに“この人が殺人犯人”とびっくりした。「保護費はあなたの裁量で使っていい」というので携帯電話を買った。

河原で津乃田に相談しながら携帯で職を探す。自動車運転免許証を採ればなんとかなるという結論になった。津乃田が「罪の意識があるか?」と聞くが、三上は「ない!」と答えた。津乃田は理解できなかった。

三上は仕事を持ち生活費を稼いで普通に生きようと考えていた。それもいつ命を落とすか分からない健康状態で。ところが周りがそれを許さない!

さっそく無効になった免許証の更新に出向くが、新たに取得するよう求められた。ここで元妻の久美子(安田成美)似の女性を見て、久美子に会いに行った。彼の殺人刑は彼女を救うために相手をメッタ刺しし、殺意を認めたためだった。

彼女は仕事で不在で会えなかったが、娘に会った。自分の子かな?と指を折って歳を数えた。まだまだ男として生活したい。保護費ではヘルスにも通えない!(笑)

近所のスーパーに買い物していて、店長の松本(六角精児)に万引を指摘された。近所での騒ぎが影響したらしい。全身裸になって刺青も一緒に調べて貰った!(笑) 松本は恐縮してアパートまでやってきて食品を差し入れしてくれ、同じ福岡の出身ということで意気投合した。

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道路交通法を自習し、運転には自信があると免許試験場に出かけたが、13年間のブランクを埋めることはできなかった。車の構造機能が彼には合わなかった。(笑)

試験に失敗し憂ばらしにヘルスにでもと値段を聞いているところに津乃田と吉澤がやってきたので、焼肉店で番組について話すことになった。「三上さんが壁にぶつかり、トラップに掛かりながら更生していく姿を放送したい」という。三上は「トラップは嫌だ!」と反対したが、「母親が見ていて会えるかもしれない」ということで、受けることにした。

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その帰り道で若いふたり組が中年の男に因縁をつけているのに出会った。三上は躊躇なく戦闘加入して喧嘩が始まる。喧嘩は梯子を持ち出して殴り合うというエスカレートに、カメラに収めていた津乃田が逃げ出した。怒った吉澤が「あんたは終わっている。ここは喧嘩を止めるか、撮影し続けるだ!」と怒り投げつけて帰っていった。津乃田は「これでは殺人事件が起こる」と取材を続けるかどうか考えていた。一方、三上は意気揚々とアパートに引き上げた。(笑)

このことをスーパーの松本に話すと「喰いものに去れる。人の保護を受けている者のすることでない」と反対した。三上は「喰えるやつには分からん!俺は3000万くれれば人を殺す!金持ちが枕を高くして寝ているお調子もんではないぞ!」と脅すと「あんたはおかしい!」と、喧嘩別れをした。

三上は免許講習を受ける資金が生業扶助金で出ることを知って、庄司弁護士に相談すると福祉事務所に聞けという。井口を訪ねると、上司に話さねば回答できないと埒が明かない。

三上は電話で津乃田に借金を持ち掛けたが断られた。津乃田は「何で逃げないのか?」と三上のやり方を非難した。「見逃すのが人生か?都合がいいときだけ現場に出てきて!」と津乃田をなじった。津乃田は「あんたのその性格で、母親が逃げたんだろう!」と応じると、電話が切れた。津乃田は「言い過ぎた!」と気付き、図書館で暴力やネグレクトについて基本から勉強し始めた。

金が工面ができない。これでは人生が終わりと、博多の親分大稲葉(白竜)を訪ねることにした。空港に迎えがきて、ヘルスに案内してくれるなど暖かく迎えてくれた。

しかし親分は組に戻れとは言わなかった。女将さん(キムラ緑子)が「本当は廃業したかった」と言い、「あんたはこれが最後のチャンス。娑婆は我慢の連続よ。我慢のわりに面白うもなか。そやけど、空が広いち言いますよ!」と餞別をくれてた。

母親の居所が見つかったと津乃田が福岡にやってきて、三上はふたりで児童養護施設を訪ねた。母親の記録はなかったが、当時食事の面倒を見てくれた女性が歌を唄ってくれ、三上も一緒に唄った。そして園児とサッカーを楽しみ、まだ真っ白だった当時を思い出し、涙が止まらなかった。この姿に津乃田も泣いた。

温泉風呂で津乃田は「あなたが生まれて、生きてきたことを書きます。だから戻らないでください」と言いながら三上の背中を、まるで罪を流すように洗った。

東京に戻ると井口から介護施設で働いて見たらという提案され、施設を訪れ仕事を体験すると、三上のような几帳面な男には最適な仕事場だった。

松井が自動車講習費の一部を提供したいと言い、その残りを庄司弁護士が持つことになった。三上は自動車講習にも顔を出し始まった。

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就職祝が三上のアパートで、庄司夫妻、津乃田、松本が集まって開かれ、「もっといい加減に生きろ!」「必要なこと以外は捨てろ!」「逃げてこそ生まれる!」と言葉が贈られた。通勤のための自転車が贈られた。

津乃田は「普通の三上を書く」と小説を書き始めた。

介護ホームで若い障害を持つ阿部と花を植えた。その阿部が建物の影で、2人の職員に虐められているのを見た。三上は躊躇なく側にあったモップを持ってふたりを殴りつけ、いじめを止めた。このとき忸怩たる思いがこみ上げてきた。

作業室に戻って、女性職員とお手玉作りをしているところに、男が戻ってきて「阿部は前科もん!」と貶し、阿部の不自由な身体の動きを真似て「三上さん似ていますか?」と聞く。三上は側のハサミに目が入ったが、思いとどまり、笑顔で返した!

介護ホームから帰宅しようと外に出たところで阿部がにこやかにコスモスの花をプレゼントしてくれた。なんの反論もしてやれなかった俺に!と泣いた!

自転車にその花を乗せての帰り、久美子から「仕事みつかった?相手ともめとらん!昼ごはんたべよう」と電話が入る。雨が降って来て、家路を急いだ。

家に着いた三上は胸が痛み、コスモスの香りを嗅いで、静かに息を引き取った。このとき津乃田は三上が刑期を終えたところを書いていた。津乃田は現場に駆け付けたが、警察により会せてもらえなかった。庄司弁護士、松本、井口も駆けつけてきた。

雨が上がり、空が見えてきた。

感想:

真っ白な雪の日の出獄。真っ白になって娑婆に戻り、病を抱えながら、人に迷惑を掛けないよう仕事を求め、自分の正義を通そうとし、ある時は雨に日、ある時は晴天に歓喜し、最後は天職のような介護の仕事に就き、やっと社会と折り合いをつけて生きれると思ったところで、大雨に見舞われ、純白を意味するコスモスの花の香を嗅ぎながら、息を引き取った。

三上にとっては生きづらい世界ではあったが、暖かいものではなかったかと。嫌でも人と触れ合うことで、お互いの理解が進み、掛け替えのない人々になっていくという人間関係の不思議。この世界がすばらしいと思いますよ。

そこには三上のすこしの辛抱と忍耐と、周りの人たちには彼への少しの善意が必要でした。捨てる神に、拾う神ありです。人生は生きる価値があると思わせてくれるすばらしい作品でした。

この物語を牽引するのは言わずもがなの主演・役所さんでした。その演技に文句の付けようがない。ここでは気性の激しい三上に嫌悪感を抱きながら、彼の気性を認め、親のように馴染んでいく仲野さんの地味な演技もすばらしかった。そして、笠松さんの男気のある映像も忘れられません。

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