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「悪の偶像」(2019)バックグラウンドの国内事情に、粘っこい韓国ドラマのエネルギーを見た!

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WOWOWの韓国サスペンス特集「真相への執念」4本の内の1本。轢逃げ事故を起こした息子を庇う議員とその事故で息子を亡くした父親の葛藤を綴るサスペンス作品。轢逃事故はよくある事故。これなら韓国社会の実情が分かりやすいだろうとこの作品を選びました。

監督・脚本:「ハン・ゴンジュ 17歳の涙」のイ・スジン、撮影:ウォンホウ・サ、編集:チェ・ヒョンソク、音楽:キム・テソン。

出演者:「シュリ」「ベルリンファイル」のハン・ソッキュ、「オアシス」「殺人者の記憶法」のソル・ギョング、チョン・ウヒ、ユ・スンモク、他。

あらすじ(ねたばれ):

冒頭で被害者の親父が「息子の射精を手伝った知能は4歳だが体は成長し・・」と息子への想い出を語るシーンから始まります。

ク・ミョンフェ(ハン・ソッキュは病院長で政府の原子力委員長原子力推進派から次期知事にと嘱望されている。米国での視察を終えて帰国し、空港でキム議員と懇談中に妻から息子ヨハンが交通事故を起こしたという連絡が入った。夜、帰宅してガレージをのぞくと妻が必死に洗車している。よく見ると血だらけの死体がある。

息子が飲酒運転で事故を起こし被害者をトランクに収めて持ち帰ったもの。すでに1日が経過し、事故の目撃者はいないと知ったミョンフェは死体を事故現場に戻し事故車を処分して、息子に自首させた。記者会見で息子の過失事故だと謝罪し、知事選立候補については明言しなかった。

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被害者親父ユ・ジュンシクソル・ギョング)が警察で遺体を確認する。見せられた遺体は年寄りでほっとしたところに、もうひとつあるという。足を見ただけで泣き崩れた。息子・ブナムには嫁のリョナ(チョン・ウヒ)が付いている、リョナはどこに行った?と事故に疑念を抱いた。リョナは不法入国の中国人でマッサージ店に勤めていた。ジュンシクはブナムの嫁にとリョナを引き取っていた。この事故はブナムとリョナたちの新婚旅行中の出来事だった。

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ミョンフェは報道陣を伴ってジュンシクを訪ね謝罪するが、嫁リョナが見つかっていないと受け付けなかった。ミョンフェはリョナが一緒だったと聞いて驚いた。

ミョンフェは家に戻りガレージの防犯カメラを調べた。驚くことに被害者はトランクの中で生きていて、彼を引き出して妻とヨハンが殺害したことが分かった。

ジュンシクは新婚旅行先のホテルを訪ねるがリョナが消えていた。残されたリョナの妊娠映像写真を見て何としても探さねばと思った。ジュンシクはかってリョナが務めていたマッサージ店に出向き、どこにいるかを聞くが分からなかった。結婚して国籍を欲しがっていたことを聞いて悔やんだ。

ここからはミョンフェとジュンシクがリョナを追うという追跡劇。

ミョンフェは原発汚水の処理弊害を無視できないという理由で原子力委員長を辞任した。辞任理由をすり替えた。そして、私立探偵キム・ヨングを雇いリョナを捜索することにした。

事件当時、現場付近住んでいる老人が変な音を聞いたと警察に現れた。この聴取にはジュンシクも立ち会った。キム刑事に詰問に「事故は見てないが、女が追われていて、この男(ジュンシク)がいた」と証言。ジュンシクが「バカ言うな!」と怒った。ホテルの防犯カメラ映像を解析して「バスターミナルからインチョン行きのバス停に走っており、誰かに追われている?」と分かった。実は、この老人、次期知事との関係を築きたいという魂胆があった。「事故車は見てないが逃げる女は見た」とミョンフェに伝えた。

ジュンシクはブナムの死亡推定時刻が、事故よりも6時間以上の差があるとキム刑事から聞かされた。

ミョンフェは姉の家からヨングに「リョナの居場所捜索してくれ、その先はいい」と依頼した。1000万ウォンと義理の兄の携帯を姉から借りた。

ジュンシクは大量のリョナ捜索ピラを準備し、マッサージ店を内偵していた。家に戻るとそこにジュンシクが妻と叔母を伴って示談に来ていた。叔母に「このあたりで示談が良い」と示談を持ち出されたが、ジュンシクは「息子は事故後6時間生きていた。あんたを疑っている。リョナに手を出したら皆殺しにする」と示談を断って部屋を出た。追って部屋を出てきた妻が「この家には悪霊が付いているのか?」という。「国一番の人物の首を狙え、そうしなければ見つけられない」と言われたとジュンシク。妻が「あの子の姉に連絡してみたら・・」と。「なんで早く言わんか!」。部屋に残っていたミョンフェはリョナの写真を探しカメラに撮った。

ジュンシクが弁護士フアン・ウシクにリョナの姉イ・スリョンの捜索を相談すると「相手は懲役5年か!議員は判事や検察に繋がっているから、示談は?」と言いながら(笑)リョナの姉イ・スリョンの夫の携帯に繋がった。

教会にいるミョンフェに「あれは事故だ!選挙に出ろ!」と勧める支持者。彼には人を惹きつけるドラマがあると。「プサンライオンズクラブ2階へこい!」とヨンクからメールが入った。

ジュンシクはリョナの姉イ・スリョンが居るテベクの養鶏場を訪ねリョナの消息を尋ねた。スリョンは火傷を負った顔を隠し、鶏の首を落としながら話すという異様な雰囲気のなかでの会話。スリョンも同じように韓国に密行していた。リョナとは異父姉妹で「リョナはエンペン人なのにハルビンと偽って働いている、この傷はリョナが付けた。とんでもない怪物女だ!」と話すが、リョナの消息は得られなかった。その帰りに「2000万ウォンでリョナの居場所を教える。他のも探している人がいる・・」と携帯でヨンクが伝えてきた。

夜間、ミョンフェはライオンズクラブの前で駐車してリョナが出てくるのを待っていた。酔っぱらって出てきたリョナを拉致し隠れ屋に連れ出した。リョナは仲介人のチョイさん?彼の喉を切ったのはスリョンよ」と仲介人に捕えられたと思ったようだ。無言でミョンフェが嫌がり抗うリョナに“ある薬品”を注射すると、「お義父さんごめん!朝までブナムを探したけど見つからなかった」と謝罪する。ミョンフェが注射が終わって車に乗るとそこにヨングが「よく準備したな!」と現れた。ところが手違いがあった。リョナが隠れ屋から出てきた。ミョンフェはヨングに「彼女殺してくれ!」と頼んで下車したところを何度も車で轢き、逃げ帰った。恐怖を演出するとても凝った演出でした!

ジュンシクは2000万ウォンで買った情報の場所ライオンズクラブやってきて病院に収容されたリョナに会った。最初リョナは殺されると思ったが、あの男が義父でなかったことを知って、「ブナムは見なかった、水路にいなかった。」と泣いて訴えた!

ジュンシクはこのことを弁護士に申し出て、道路監視カメラの映像を点検してもらった。すると事故当日現場に遺体がなかったにもかかわらず、3日後に遺体があることがわかった。ミョンフェの車庫を調べると何の痕跡もなかった。ふたりは刑務所のヨハンを訪ね「死体遺棄」を認めさせた。

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リョナが警察病院に収容された。ジュンシクは訪ねると「お義父さんが告訴したの!ここだと強制送還される!韓国に来るために人を殺した。だからこのことを訴えて拘置所に入れて!」と叫ぶ。このことを弁護士に相談すると「ヨハンが自殺を図った、事故車が取り換え、一滴の血液も残ってない。処置なしだ」と。ジュンシクが「告訴したのは誰か?」と聞くと「ウェグァン町のオ・ソッキだ」と言い「とんでもない政治家だ、再踏査を願い出る」と弁護士。

ミョンフェは病室のヨハンに付き添い人工呼吸器を外してヨハンを死に追いやった。

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ジュンシクはオ・ソッギを訪ねたが、居なかった。近所の人から不法入国の女の子を追っていって溺死したと聞かされた。携帯に残っていたその男を見せてもらうと結婚式の写真があった。リョナは偽装結婚をしていた!ブナムの遺体を確認したとき最初に見せられた男だった!ジュンシクはそれでもリョナの腹の子が欲しかった。

ジュンシクはミョンフェを訪ね「リョナの送還を阻止してくれたら、あなたの選挙を応援する」と取引をした。

ジュンシクはやっと息子ブナムを火葬に付し、ミョンフェの知事立候補公演会の演台に応援者として立っていた。原稿を忘れて喋った一部が冒頭の息子ブナムを想う一節。素朴な語りの演説に好感が持たれ、ミョンフェの人としての大きさに感動して、彼の人気は上々だった。

リョナはジュンシクと結婚という形で国籍を得て、大きな腹を抱えながらマッサージ店で働くことになった。リョナは泣いて喜んだ!

ミョンフェのパーテイーにジュンシクとリョナが招かれた。このときリョナはミョンフェの香水の匂いに「どこかで会った人!」と言い出す。ミョンフェの母がリョナのなまりに、「エンペンの人?ハルピンと言うのよ」と話しかけた。リョナはハルビンだと偽っていたから、「傷は治るが、言葉の傷は治らない!」と怒りを露わにした。

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リョナはPCでジュンシクに情報を送ってきたヨングに接触し、自分を殺そうとしたのは誰であったかを知った。

そんなときにリョナのところに「妊婦がいい」と姉スリョンの首を持った男が訪れて、サ-ビスさせて金をせびった。男は仲介屋だった。リョナはこの男をナイフで刺殺して逃げ出した。

選挙運動中のジュンシクはリョンの事件を知らされマッサージ店を訪れたがリョナはいなかった。夜、リョナが家に戻り「ブナムには子供が出来なかった、何故隠したの!約束は守ります」と包丁を持って出て行った。ジュンシクはブナムにパイプカットさせていたのだった。リョナが去って、録音していたブナムの声を聞いて泣いた。

ジュンシクは「すべてを失った!」とイ・スンシン将軍の銅像に上りその頭を爆破させ逮捕された。TVで犯人ジュンシクの妻はリョナだと報じられていた。

リョナは匂いの男を見つけたとミョンフェの家に侵入し、エンペン人と貶した叔母を刺殺し、妻をテープで縛り上げ、ミョンフェを呼び寄せ「ジュンシクに2000万ウォンを返せ!善良に生きてよ!私を1000万ウォンで殺そうとした」とガス管を切ってライターで火を点けた!

弁護士がジュンシクを刑務所に尋ね「殺せ!と言ったか?」と聞く。彼は笑った!監獄のなかで「俺は悪い病気に罹っていた。だが痛くはなかった」と呟いた。韓国が狂っていると!

ミョンフェは選挙演説の壇上で「裕福なのになぜ整形手術しないのかと問われるが、・・・・・」と話すと、何度も何度も繰り返す大喝采を浴びていた。

感想:

胸糞が悪くなるほどの力の入った作品だった!(笑)

悪の偶像とは誰か?真相が明かされない大衆がミョンフェの演説に何度も何度も惜しまない拍手を送るラストシーンに、最大の恐怖を感じるというサスペンスドラマでした。これほどあからさまに政治権力をこき下ろして描くところが韓国風なのかなと思いました。

息子ブナムの手淫を手伝ってやり、一緒にマッサージ店に通い、そこで見つけたリョナと結婚させ新婚旅行に出すというこれほどに息子愛に富んだ母なる証明」(2009)に匹敵する父親ジュンシクが、ミョンフェの息子ヨハンに車をぶつけられてブナムは殺され、何の因果かリョナと関わったことで、狂って韓国救国の英雄イ・スンシン将軍銅像を爆破したことで韓国最悪の権現にされる。ジュンシクの行動になんとしても血を絶えさせないとする韓国家族の絆を見たように思う。

中国のエンペン出身のリョナ。韓国に密入国して国籍を取得するために偽装結婚をするが、ジュンシクに請われてその息子ブナムと結婚。新婚旅行中にブナムは政治家ミョンフェの息子ヨハンに車をぶつけられ、生きていたにも関わらず証拠隠滅のために殺害された。リョナはブナムと一緒に行動していたという理由だけで殺害されかかり、仇討ちに出たリョナはエンペン出身の大悪人として政治利用される。リョナは韓国に蜜入国し、ここで生きるために数多くの悪行もやった悪ですが、韓国で生きることの生きずらさを知る作品でした。

ミュンフェは知事になりたい政治野心家。このために息子ヨハンによるブナム殺人を交通事故による被害者放置に見せかけ工作する。さらにリョナがブナムと一緒にいたと聞けばその口封じに殺害を計画。自殺を図った息子ヨハンの息を止める。ジュンシクのリョナ国籍取得要請に自分の権力を利用して、リョナ殺しを計画した自分の罪を無効にするだけでなく、ジュンシクまで取り込んで選挙に利用する。ジュンシクがイ・スンシン将軍銅像を爆破したことで立場が不利になれば、仇討ちにやってきたブナムを大悪人に仕立てて選挙戦を優位にしていく。知事になるためなら何でもやるというミョンフェ。韓国では政治権力を持てば殺人でも何でもできる絶対的“悪の偶像”らしい。

韓国映画を楽しむにはその国情を良く知る必要があると選んだ作品。

交通事故を起こした息子の父親ミョンフェと被害者の息子の父親ジュンシクによる亡くなったブナムの嫁リョナ捜しが、ブナムの奇怪な行動に振り回され韓国映画特有のエログロ、暴力ありの暴走クライムサスペンスとして面白かった。そのバックグラウンドの韓国の国内事情が凄かった。知的障害者を持つ親の愛情、不法入国者の生き様。政治家の野望、闇の渦巻く社会。ここに粘っこい韓国ドラマのエネルギー源があるように思いました。😊

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