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「HOKUSAI」(2021)「時代のせいにするな、己の“好き”を貫け!」

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「HOKUSAI」というタイトルで観ることにしました。

青年期に版元蔦屋重三郎に出会ってから晩年小布施(長野県)で「男波・女波」を描き上げるまでの、代表的な絵をモチーフに北斎の絵師としての生き様を描いたものです。

製作・脚本河原れんさん、“お江”役で出演しています。この作品は河原さんの作品と言っていいのではないでしょうか。監督:「探偵はBARにいるシリーズ、「相棒シリーズ」の橋本一さん、音楽:「八日目の蝉」の安川午朗さん、撮影監督:ニホンマツアキヒコさん。

出演者:柳楽優弥田中泯阿部寛永山瑛太玉木宏、滝本美織、青木崇高河原れん津田寛治、他。

物語は4章から成り立っていますが、青年期の何故絵を描くかに苦悩する姿と老年期の幕府の弾圧を受けながら表現の自由を求めて描き続ける姿が描かれています。

杉浦日向子さんの「百日紅」や朝井まかてさんの「眩(くらら)」が頭にあったせいか、北斎像としてはちょと違うかな!という印象。何か・・・塩気が抜けた感じ! しかし、北斎の代表的な絵をモチーフに「好きな絵」を描くことから「時代に抵抗して、絵は世の中を変えられる」と“波”を描き続ける北斎の生き様は感動的でした。「時代のせいにするな、己の“好き”を貫け!」というメッセージがよく伝わる作品でした。

あらすじ(ねたばれ):

歌舞伎、遊郭などの町人文化が開花した文化文政時代の江戸の町。砂地に棒切れで絵を描くのちの北斎少年。しかし、この文化は幕府の堕落に繋がると弾圧の方向に向かっていた。

美人画全盛の時代に勝川春郎のちの北斎柳楽優弥)は貧しい長屋で花の絵を描いていた。

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版元の耕書堂が幕府役人の手入れを受けて、室内は大混乱。しかし店主の蔦屋重三郎阿部寛)は「絵が世の中を変える!」とびくともしない。お抱えの絵師・喜多川歌麿玉木宏)を吉原の遊郭に住まわせ美人画を描き続けさせていた。歌麿を訪ねた重三郎はそこで花魁・麻雪(芋生悠)から“もうやだ、あの山猿!」(笑)という絵師・勝川の話を聞いて、彼を訪ねて「自分のところで絵を描かないか」と誘うが、「人に指図されて自分の絵が描けない!」と断られた。

重三郎が勝川は困っているだろうと金を届けたが、勝川は「受け取れん!」と重三郎を吉原に尋ね、花魁をモデルに絵を描く歌麿に会った。歌麿から「あんたの絵には色気がない。目の前のことしか描けない。命がない!」と揶揄され、帰ろうと思ったが重三郎に止められ、歌麿の描きっぷりを見学した。重三郎から「何故絵を描いている?」と問われたが答えられず、金を置いて長屋に戻った。勝川春章門下でただ絵が好きで描いていただけだった。

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勝川は女郎部屋に上がり女郎の表情をよくみて描いたが気に入るものはなかった!

重三郎は新進気鋭の絵師・東洲斎写楽(浦上最周)の役者絵が気に入って店に招き宴席を設けたところに勝川が絵を見にやってきて、重三郎が「まあ上がれ!」というので末席に座った。そこに歌麿もやってきた。上席の写楽に参加者から絶賛の言葉が投げ掛けられ、これに耐えられず勝川が「あんな絵が!遠近法も分かってない!」と罵倒した。写楽の「心の赴くままに絵を描くだけですよ!お気に触りましたか?」という返事を聞いて長屋に帰った。

そして「何故俺は絵を描いているのか」と旅に出た!野を越え山を越え、雨に打たれ、歩いて、歩いた。筆を折ろうと思ったが折れなかった。海に出た。そのまま海に入って行った!勝川は死ななかった!生かされた!海辺の砂に絵を描いた!

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旅を終え、重三郎に「描きたいものを描いた!」と絵「江島春望」を見せた。「波か!面白い、こうくるとは思わなかった。こんな波は見たことも聞いたこともない!“波と旅人”、お前にしか描けない!“ふたつとあらず”のサインも良い、名が北斎か、これも面白い」と褒めた!そして世界地図を取り出して「俺は世界と商売をする。“絵は世の中を変えられる”」と喋って、よろけるように襖に消えた。重三郎は北斎が帰って来るのを待って、亡くなった。こうして北斎は世間に知られる絵師になっていった!

北斎は妻・コト(滝本美織)に送られて、絵を持って武家の出の戯作者柳亭種彦永山瑛太)の屋敷に通うようになっていた。寝食を忘れるほどに彼の描く戯作に絵を描いていた。

あるとき種彦が「絵が話を食っている。でしゃばるな!」という。北斎は「あんたの話はここにある。読み手は想像で読むんだ!」と意に介しない。こうして奇想天外な妖怪の世界に嵌っていった。(笑)

ふたりで妖怪講談を聞いていたとき、歌麿が幕府役人に捕らわれたという知らせが入った。講釈師がうちにも手が及ぶと怯える。北斎は家に戻って「こんな時だから人を元気づけるために」と絵を描いた。

妻コトが身籠ったという。北斎は生まれてくる子供のために絵を描いた。そして生まれた子をあやしながら絵を描き続けた。

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それから23年後、北斎白髪の老人田中泯)になって、妻コウを亡くし成長した娘・お江河原れん)と荒れ果てた家に住んでいた。種彦が「戯作を描いている」と花を持って訪ねてくる。幕府の弾圧がきつくなっていて、北斎は「昔ある男が絵は世の中を変えると言った」と種彦を励ました。

そんなある日、家の外に出ると突然大風が吹いて人が吹き飛ばされる。この様を、目に見えない空気までも北斎は絵にした。200人を越える弟子たちに向けた絵手本北斎漫画」として残した。

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69歳を迎えた日、脳梗塞で倒れた。お江が「もう筆が持てないかもしれない、親父さんには言えん」と泣いた。しかし北斎の描きたい意欲が凄まじかった。震える手で粥を食べ、筆を握って絵を描いた。そして、足を引きずりながら「病に罹った今だからこそ見えるものがある」と命を探す旅に出た。

野を歩き、花を描き、大木に出会い、カエルに拾い、山道を歩き、海に出た。浜辺を歩き赤い富士、青い富士を仰いだ。旅を終えて家に戻り絵にした。

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お江が「種彦がお上に狙われている」という。「たまたま武家に生まれただけ、書きたいものを書けばいい、止められん!」と。

ある日、西村屋与八が描いて欲しいと“ベロ藍”の絵具を持ってきた。雨で溶いて頭に浴びて色合いを感じた。世に言う北斎ブルーだ。弟子たちが見守るなかで“ベロ藍”で大波と富士山を書いた。この絵を版画として沢山の富士山の絵「富岳三十六景」が描かれ、大繁盛した。種彦はこれを見て書き続ける覚悟が出来た。

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種彦は幕府役人が「柳亭種彦を知っているか?」と聞いて来るが「そんなやつは知らん!」と白を切っていた。が、北斎が弟子たちと宴を開いているところにやってきて「お世話になりました」と挨拶する。

北斎は「何時の日か指図されずに生きて行ける世の中が来る。生きているうちにそんな世界を見たい!」と種彦を励ました。

役人の厳しい追及に種彦は「柳亭種彦は自分だ!」と告白し、斬殺された。駆けつけた北斎は種彦の遺体と対面し、首がないことを確認して泣いた!そして自宅に帰り「こんな時だから描く」と描き始めた。

血にまみれた種彦が「描いてくれ!」と首を差し出してくる!まるで彼の描く戯作そのものだった。北斎は怒りの中で描いた。「種彦は言いたいことも言えないままだ!」とこの絵「生首の図」をお江に見せると「これでは捕まる、江戸を出よう!」という。ふたりは小布施(長野県)の豪商高井鴻山青木崇高)のところに奔った。

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高井に「生首の図」を見せると「世が変わりますよ、その日まで預からせてください」と絵を引き取った。北斎は「残したい絵が見える!」と高井に絵具を準備してもらって、波の絵「男波・女波」を描き始めた。北斎は90歳になっても絵を描く情熱を失わなかった。「天が10年いや5年の命をくれるなら、おれは本当の絵描きになってみせる」という言葉を残して亡くなった。

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感想:

世界で一番有名な日本人アーティストとして名の上がる人物の伝記。アート的な演出で、歴史的なエピソードにどれほどの信ぴょう性があるかと気になり、物語に乗れなかった。江戸風俗研究家の杉浦日向子さんが描く北斎の人物像。奇行の絵師として気が短く、粋を好み、洒落っ気たっぷりな江戸っ子という雰囲気が感ぜられなかった。

自分の絵を描くことで苦しむ姿より、時代に抗して自由を求めて描くということに力点が置かれているように思えました。北斎といえば「性根入れて、あがいて、あがいて描く!」でしょう。

各エピソードは出演者の熱演でとても面白かった。

北斎蔦屋重三郎によって見出されたというエピソード。重三郎を演じる阿部寛さんの姿が、写楽の絵の役者そっくりで、「絵で世の中(世界)を変えていく」という持論に説得力がありました!(笑) 北斎の絵「江島春望」を褒め、ふらふらと襖の奥に消えていく後姿になんとも言えない寂しさを覚えました。

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北斎が自殺するために?海に入ったが波に浮かび富士が目にし“絵師として生きる”と覚醒するシーン。海に生かされ“波”をテーマに「生きる」を描き続ける北斎の生き様を見せてくれたように感じました。

後段、年老いた北斎が“ベロ藍”に興奮するシーン、田中泯さんが身体にそれを浴びて喜びを表現する熱演に圧倒されました。しかし、これが北斎かと問われると・・・。

北斎が怒りで首のない種彦を追悼しながら描くシーン、血だらけで描いてくれとにじり寄って来る種彦・永山瑛太さんのホラーっぽい真柏の演技、これを怒りで描く北斎田中泯さんの表情、すざましかった!これが作品のテーマになった感じ。「HOKUSAI」で観る作品でした!

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