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「クーリエ 最高機密の運び屋」(2020)キューバ危機を救ったのはケネディ?

クーリエとは運び屋のこと。1962年のキューバ危機ではケネディ大統領の強いメッセージでソ連キューバへの核ミサイル配置は阻止されたが、その裏にはソ連の情報員の情報を運んだ男がいた。この男の物語です。

NHKBS世界のドキユメンタリー(「“核”の内幕 第3回 モスクワからの使者~キューバ危機の真実~」)で観て興味を持っていたところにこの作品、WOWOWで鑑賞しました。

監督:ドミニク・クック脚本:トム・オコナー、撮影:ショーン・ボビット、美術:スージーデイビス衣装:キース・マッデン、編集:タリク・アンウォー ギャレス・C・スケイルズ、音楽:アベル・コジェニオウスキ。

出演者ベネディクト・カンバーバッチ、メラーブ・ニニッゼ、レイチェル・ブロズ、ジェシー・バックリー、アンガス・ライト、他。

1962年10月アメリカとソ連の対立は頂点に達し、キューバ危機が勃発。英国人セールスマンのグレヴィル・ウィンベネディクト・カンバーバッチ)は、スパイの経験など一切ないにも関わらず、CIAとMI6の依頼を受けてモスクワへと飛ぶ。そこで彼は、国に背いたGRU(ソ連参謀本部情報総局)の高官ペンコフスキー(メラーブ・ニニッゼ)との接触を重ね、機密情報を西側へと運び続けるが……という展開。

ハラハラドキドキのシーンもありますが、ミステリーやアクションで見せるスパイものではなくソ連人と英国人の国境を越えた友情で見せてくれるヒューマンドラマです。この友情がなかったらキューバ危機は危機でなく戦争になっていた!

核使用をチラつかせながらのロシアのウクライナへの軍事侵略したことで、核抑使用の現実性が叫ばれるようになったが、過去を振り返ってみると、こんな際どいことで核使用を押し止めたという史実にぶち当り、あらためて核使用の現実性を考える作品になっています。

捉われたウインは過酷なKGBの尋問を受ける。カンバーバッチがすさましい体重コントロールでこの役を演じてくれます。ここも見どころです!


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あらすじと感想(ねたばれ:注意):

1960,08.12、モスクワ。「帝国主義者の時代はじきに終わる。連中は虚勢を張り我々を脅しかけている。だが連中こそ怯えている。我々の核の威力は日々増大の一途である。連中を必ず叩きのめしてやる」というフルシチョフの演説を聞いたペンコフスキーは、「これは脅しでない!」と判断、核ミサイルの写真を同封した封書を、アメリカの観光客を使って、アメリカ大使館主席公使に届けた。

フルシチョフの演説がプーチンの演説に似ているのが気になる!

これを受けて、CIA諜報員ヘレン(レイチェル・ブロズ)はM-16の諜報員ジェームス(アンガス・ライト)を伴ってM-16を訪ね「CIAにはロシアに適当な諜報員がいない!運びが仕事だから適当な人を」と協力を求めた。

CIAでは「ペンコフスキーは砲兵大佐で先の大戦で13回の表彰を受けるほどの人物で、フルシチョフに近づけつる人物。トルコで一緒に写真を撮ったことのあるコード名“アイアンバーグ”、今は科学委員会代表で、実際はGRU」と把握していた。

M-16は「プロの諜報員より目立たないセールスマンがいいだろう」と商務省に出入りする東欧と取引のある男ウインを紹介した。

この役を聞かされたウインは渋ったが「大酒飲みで体が緩んだ男が最適だ!」と励まされ、ソ連と取引ができるかもと引き受けた。(笑)

ウインはモスクワ空港で厳しい検査を受けてロシア入り。ソ連科学院で「西側の最高の機械メーカーを紹介します!」と売り込みをした。そこでペンコフスキーに誘われてレストランで食事。

ペンコフスキーは「コード名!アレックス“だ」と明かし、ウインの会話が諜報員らしくなく酒に強いことを確認して、ボリショイバレー団の公演に案内した。フルシチョフも見物にきていて、ペンコフスキーに気付いたが、何の反応も示さなかった。ペンコフスキーは劇場を出て、街を歩きながら「貿易使節団としてロンドンに招いてくれ!」と要求した。

アレックスは“情報の運び屋はこいつだ“と気にいった。

ウインはロンドンにやってきたペンコフスキーをクラブに案内し、妻シーラ(ジェシー・バックリー)にも会わせ、派手に踊ってもてなした。その後、アレックスをジェームスとヘレンが待つ部屋に巧みに誘導した。

アレックスは「フルシチョフは本気だ!」と証拠に機密誌“軍事思想”を提示した。そして「必要なときには家族を亡命させて欲しい」と申し入れした。CIAはこれを受け入れた。アレックスは「ソ連核兵器は米国より遅れている。第1撃能力は無く、壊滅的打撃力はない」と証言した。ヘレンは「これで戦争を思い止める理由になる」とこの証言に注目した。

ヘレンはウインに「ペンコフスキーが望んでいるから」と引き続きペンコフスキーとの接触役を依頼した。

ウイルは拒絶した。ところが夜、ペンコフスキーが息子へのプレゼントを携えて訪ねてきた。家族と一緒に飯を食べ、運び屋をやってくれることを頼んだ。ウイルは受け入れた。

ウインは度々モスクワを訪ねペンコフスキーと接触し商談と装って、情報を運んだ。ペンコフスキーから「モスクワは全てKGBに監視されていると思え!女房には嘘ついておけ!」と注意されているので、ウイルの行動に007のようなアクションはなくても、ヒヤヒヤさせられ、リアルなスパイものになっています。

ソ連によるベルリンの壁が閉鎖、50メガトン核弾頭の成功が伝えられる中で、ウインはペンコフスキーから核弾頭資料が渡された。このときペンコフスキーから「万一の場合、妻子を保証してくれ!」と乞われ、「政府として約束する!」と答えた。

ウインは空港で周りの監視をきつく感じ、機内で吐いた。家に帰りつくと妻のシーラを激しく求めた。そして体力をつけるようトレーニングを始めた。シーラは「浮気が始まった?」と怪しんだ。ウインの最大の敵はシーラだった!(笑)

フルシチョフが、キューバにミサイル拠点を作ることに批判的な意見に対して、「アメリカに付け入る拠点にできる」と指示する現場にペンコフスキーが居合わせた。

この情報にCIAはペンコフスキーに確証を求めた。ペンコフスキーは秘密資料室に入り、資料を漁り、「キューバにおける核ミサイル配備計画」をカメラに撮り、フィルムをウインに渡した。

ウインはこれをイギリス大使館のトイレでM-16に引き継いだが、彼は緊張のあまり吐いた!どんどん追い詰められていった。

ウイルがモスクワの部屋に入ると、机の上に置いている英露辞書の向きが違う!ウインはKGBに狙われていると感じた。一方、ペンコフスキーもKGBのグリサバフに狙われていると知った。その直後、毒を盛られ入院した

このあたりの状況は現在と同じですね!

1962.10.14米軍の偵察機U-22キューバ上空を飛行してペンコフスキーの情報が正しいことを立証した。

1962.10.23、これに基づき、ケネディはTVで「確実な証拠により、ソ連は攻撃用ミサイル基地をキューバに建設していることが判明した。アメリカは西緩急のいかなる国に発射されてもソ連アメリカへの攻撃とみなし、総力を挙げて攻撃する」と発表した。

ペンコフスキーはロンドンの見本市参加が、貿易省から取り消しになったことで「逮捕される!」とウインに電報を打った!

ウインはジェームスとヘレンにペンコフスキー家族の亡命を求めたが、ジェームスは「プロは人を利用するのはあたりまえ!」と反対した。ウインは「ペンコフスキーを見捨てることができない。自分が亡命計画を伝え行く」と言い出し、これにヘレンが同行することになった。

ウインとヘレンがモスクワに飛び、ヘレンが大使館員と脱出計画を練った。その計画をウインがペンコフスキーに渡し、ふたりはボリショイバレーを見て、涙を流しながら別れを惜しんだ。

ここからのペンコフスキーの脱出劇は、スパイ映画らしくサスペンスフルに描かれますが、失敗。ふたりはKGBに逮捕された。ヘレンも捕まったが、外交官特権で国外追放となった。

搭乗機から降ろされたウインはKGB拘置所に直行、素っ裸にされ尻の穴を調べられ、髪を刈られ、便器しかない牢に放り込まれた。髪の件を除けば今の警察のやり方と同じ。ウインは「ペンコフスキーが何を喋ったかしらないが、俺はセールスマンで頼まれたものを運んだだけだ」とこれ以外何も話さなかった。決してKGBが作った調書にサインしなかった。ウインは次第に痩せ衰えていった。

妻シーラをジェームスとヘレンが訪ね「ご主人は勇敢だった。親戚友人に決してスパイだと話さないで欲しい。いつか救出する」と伝えた。シーラはウインがモスクワで浮気していると思っていたから驚いた!(笑)

半年後、ヘレンが面会に牢を訪ねた。痩せたウインを見て驚いた!守衛が制するのを無視して「キューバからミサイルは撤去された!」と伝えた。ウインは深い感動を味わった。

KGBはペンコフスキーをウインの牢に入れ、ふたりの会話からウインがスパイであったことを立証しようとした。

ペンコフスキーは「全部話した。君は荷物の中身を知らない。世界を平和にしたかったが、こうして国や同胞を裏切ったことが無念だった!」と泣いた。ウインは泣きながら「フルシチョフは核を撤去した。君のお陰だ!君は偉業を成し遂げた!」と告げていると守衛がペンコフスキーを連れ出した。

1964.2.22、ウインは捕虜交換で帰国したペンコフスキーは処刑され、その家族はモスクワで静かに暮らしていた。

まとめ

ペンコフスキーとウインで持ち出した秘密資料は5000件以上というからこれは凄い!それも全く素人のウインが絡んだスパイ事件というのが驚きだった。

007ストリーと違って、こちらは環境の雰囲気や登場人物の吐くセリフの中に恐怖を感じるという、リアルなスパイ映画でした!

当初、運び屋ウインの行動が、妻のシーラを絡めて、ユーモアたっぷりに描かれますが、次第に恐怖に襲われるようになり、最期は牢の中での過酷なシーンへと変わっていく物語。状況が悪化するほどにウインとペンコフスキーの友情が強く結ばれ、モスクワのバレー劇場での涙の別れ、そしてペンコフスキーが「ソ連キューバから手を引いた」ことを牢の中でウインから聞かされるというラストシーンは感動的でした。

牢に入ってからのカンバーバッチの痩せ衰えていく演技は凄かった。体重を落とすために3か月間撮影を中断したと言いますが、役者根性を見た思いでした。

作品全般を通してみると、スパイ映画はアクションがないと映えませんね!(笑)核の問題が論じられる今、うまい具合に観ることができた作品でした。

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