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「ザリガニの鳴くところ」(2022)性暴力、差別、貧困等人が作り出した醜いもの、自然はすべてを打ち砕く!

 

「タイトル、面白そう!」で観ることにしました。(笑)

面白かったです!

原作が全世界で累計1500万部を売り上げたディーリア・オーエンズの同名ミステリー小説。未読です。

オーエンはアフリカで20年間動物と過ごし、3つのノンフクションを発表している著名な女性動物学者。これを知って、本作のリアリティを知り、フィクションではあるが彼女の体験が描かれているのではと思います。

監督:リビア・ニューマン、脚本:ルーシー・アリバー、撮影:リー・モーガン、編集:ラン・エドワード・ベル、音楽:マイケル・ダナ、オリジナルソング:テイラー・スウィフトスタッフ全員が女性というのも見どころ!

出演:デイジーエドガー=ジョーンズ、テイラー・ジョン・スミス、 ハリス・ディキンソン、マイケル・ハイアット、スターリング・メイサー・Jr.、デビッド・ストラザーン、他。

物語は、

ノースカロライナ州の湿地帯で、将来有望な金持ちの青年・チェイス(ハリス・ディキンソン)が変死体となって発見された。犯人として疑われたのは、「ザリガニが鳴く」と言われる湿地帯で育った無垢な少女カイア(デイジーエドガー=ジョーンズ)。

彼女は6歳の時に両親に捨てられて以来、学校へも通わずに湿地の自然から生きる術を学び、たった1人で生き抜いてきた。そんなカイアの世界に迷い込んだ心優しい青年・テイト(テイラー・ジョン・スミス)との出会いが、彼女の運命を大きく変えていった。カイアは法廷で、自身の半生について語り始めた。

法廷で“湿地の女”と蔑まれるカイアが裁かれる。人が決めた規範の場でカイア=自然を裁くという視点で見ることになります。

物語はクライムストーリーであったり、ラブストーリーであったり、社会派ドラマであったりと、いくつもの顔を見せてくれます。しかし、テーマは背景となる自然、「ザリガニが鳴く」と言われる湿地帯で、不気味な力を秘めた、美しい映像を楽しむことができます。


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あらすじ&感想(ねたばれ:注意)

1969年ノースカロライナの湿地帯でレクレーションに来ていた子供が遺体を発見。保安官が現場検証するが足跡も指紋も発見できなかったが羽毛が残されていた。検死官は遺体が伏した状態で発見されており、19mの火の見櫓から突き落とされたものとして、この湿地に住む“湿地の女”カイアを容疑者として逮捕した。

たっぷりと我が国では見ることはない湿地、ここでの追跡劇を見せてくれます。

カイアは収監され、酒浸りの老弁護士・ミルトン(デビッド・ストラザーン)が担当することになった。

ミルトンは「あんたを“湿地の女”と侮っている陪審員が相手だから、ちゃんと喋って欲しい」と申し入れをした。

19536歳のカイアはこの湿地で兄姉と一緒に絵を描く母親に大切されて過ごしていた。が、父親の母親へのDVが激しくなり、母親が去り、姉がそして兄も去って行った

兄が「困ったときにはザリガニが鳴くところに逃げろ!」という母の言葉を教えてくれた。

父親とふたりの生活になったが、父親を避けて、ひとりでボートに乗り湿地を巡り鳥や動物を見て過ごしていた。あるとき釣りをしている男の子(のちのテイト)に出会って、声を掛けたことがあった。

父親と町に出て、雑貨屋の黒人夫婦シャンピン(スターリング・メイサー・Jr.)とメイベル(マイケル・ハイアット)に出会った。洋服を買って、小学校に行ったがクラスの者に「字が読めない」「汚い」「臭い」「虱がいる」と蔑まれ、この1日で学校へ行くのを止めた。

母が「帰らない」と便りを寄こして、父は激怒して家を出て行った。カイアはムール貝をシャンピの店に卸させてもらってお金を稼ぎ、ひとりで湿地の動物たちを見て暮らしていた。カイアの生活は、当時の日本の戦争孤児たちは同じように生活していたから、特段珍しいことではない!

ここからは、“裁判の進展に応じ”カイアの行動が明かされていきます。

 Q:検察官「“湿地の女”だから、この女が櫓から突き落とした」。ミルトンは「この人の人間性を見ればそんなことはない」と反論した。

こんな生活の中で、「母と妹を失ってカイアに会いたくなった」とテイトが現れた。彼はカイアが喜ぶ鳥の羽と生活品、手紙を携えてやってきた。しかし、カイアは字が読めなかった。

テイトが字の読み書きを教え、カイアは週3回図書館に通い、「進化論」「幹細胞」の本も読めるようになった。

テイトが大学を目指すようになってカイアは不安になってきた。小屋を町役人が取り壊すと調査にくる。カイアが町役人に交渉すると「200ドルを払えば住んでよい」と言われ、テイトの勧めで、これまで書き溜めたものを出版することにした。

風で葉っぱが舞い上がる季節、初めてテイトとカイアはキスを交わし、ふたりの恋の季節がやってきた。美しい映像で見せてくれます。しかし、決してテイトはカイアの身体を求めることなく愛を育んだ。

カイアは「1カ月後には戻ってくる」と大学に入った。カイアは美しい海辺で待っていたが、彼は戻って来なかった。「テイトは私の人生だった、全てを失った」と泣いた!

そんなカイアを慰めたのが鳥や木々、動物たちだった

Q検察官「足跡がない、カイアの犯行と認めざるを得ない」。ミルトンは「潮の満ち干によるもの」と反論。

カイアはシャンピに町による小屋の取り壊しを相談するため街に出て、そこでチェイスに出会い、ピクニックに誘われた。彼女は応じた。

チェイスのボートで“海辺”にデートした。美しい貝殻を拾って貝の生態を説明すると「詳しいね!」と褒め、キスを求めてきた。カイアは応じたが、「甘く見ないでよ」と注意した。“火の見櫓”に登り、広大な沼地を見た。“床が取り外れること”を知った。

ボートで小屋に送ってくれ、沢山の描きた動物たちの絵を見て「君は頭が良いし、風みたいな人」だと褒めた。シャンピは女の子にもてる人で「嫌だ!」と伝えた。

Q検察官「遺体に付着していた毛はなんだ!カイアのものだ!」と質問。ミルトンは「そんなもの、いつでもくっつく」と回答。

カイアは出版本にすばらしいという感想文が寄せられ、ほっとしていた。チェイスが頻繁に訪ねてくるようになり、結婚を申し込まれた。「両親に私のことを話して!」と返事をしたが、彼からの返事はなかった。

アッシュベルへの一泊二日のドライブを誘われ、応じた。モーテルに入るとチェイスすぐにカイアの身体を求めてきて、ふたりは結ばれた。カイアは記念に貝殻で作ったネックレスを彼の首に着けた

Qチェイスの母親「いつも着けていたネックレスが遺体から消えていた」と証言。ミルトンは「息子さんとの関係は終わっていた。証拠がない!」と回答。

大学を卒業してテイトがカイアの前に現れ「後悔している」とあの日、海辺に行かなかったことを侘び、「チェイスは遊び人だ」と注意し、以前と同じように鳥の羽を渡した。「君の側で働きたい、今は沼地の調査をやっている。君のために何でもする」と話した。カイアは「分からない!」と答えた。

テイトが出版本を読んで「よく出来ている」と感想を書いて、お金を贈ってきた。

町で女性と一緒のチェイスに会うと「婚約者だ」と紹介された。その後、小屋に「話をしたい」とやってきて、拒否するカイアに暴力を振るった。カイアは逃げて、浜辺で寝そべって泣いた。

Q漁師「今度近づいたら殺してやると叫んだのを聞いた、この娘だ」と証言。ミルトン「あなたは見ていない」と回答。

カイアが絵を描いているところにチェイスが現れ、暴力で犯した。カイアは「私には近づかないで、近づくと殺す!」と大声を発した。ボートで逃げた。目を覚ますとチェイスの“ボートに隠れていた”。父親のような男は必ず女を殴ると思った。

小屋に戻ると部屋がチェイスによってめちゃめちゃにされていた。夜は石を抱えて、チェイスが来るのではないかと警戒していた。

朝、テイトがやってきて「チェイスに殴られたか」と聞いた。「出版社に行きたい、出版したいだけではない」と言うと「行け!ホテルに泊まって休め」と励まし、“毛の帽子”を渡された

シャンピの店に出向いて、「所要で小屋を空ける」と話した。シャンピは全てをお見通しで泣いてくれた。バスで出版社に出かけた。

Q検察官「ホテルに泊まっているが、十分戻って殺す時間があった」。バスの運転手、編集者、ホテルマンが証言台に立った。

ミルトンはカイアに「証言台に立って証言しろ」と促がしたが「誰も信じない!私を裁くのは自分が裁く」と断った。

ミルトンは「湿地の娘と呼ばれる女性を裁く証拠はどこにもない。11時間で戻って殺すなど至難の業だ!皆さんはデマで裁いている。偏見はもう捨てて欲しい」と陪審員に訴えた。

判決が無罪だった。裁判長が「長いこう留期間をお詫びします」とカイアに詫びた。この言葉に一番感動しました。今の日本の裁判長でこう侘びた人がいますか?

カイアはテイトと結婚し、湿地の生物を観察し本を書いた。年齢を重ね、母に誘われザリガニのいるところに入っていった。「私は湿地の中にいる。ここが私の居場所」と歌うテイラー・スウィフトの歌がいい。カイアはボートの中で亡くなっていた。

テイトがカイアの遺品を整理していて、貝殻のネックレスを見つけた。 

感想

唖然とする結末でした。この結末はザリガニの鳴く湿地が決めたこと。「自然の力には逆らえない」ということではないでしょうか。

純真無垢で育ったカイアにはDV、性暴行は死にあたる罪で、これを認めることはできないという意思の強さは、ザリガニが鳴く自然で育てたものだった。女性スタッフによる作品らしく、DVに対して厳しい視線を感じました。

カイアの戦いはこれだけではなかった。差別、貧困、格差等人が作り出した醜いものへの戦いだった。自然の力はこれらをすべて打ち負かす力がある!

 自然の力を我々はもう一度見直してみる必要がありますね!

カイア役のデイジーエドガー=ジョーンズは純真無垢そのもので、適役でした。

ひとり湿地に取り残されたカイアが食材を自分で探し、ムール貝の取引でお金を作り出し、文字を覚え独学で生物学を学び、湿地の生物図鑑を出版するまでに成長していく姿にはロマンがあり、それが嘘っぽくなく描かれているのが爽やかでした。

とても美しい風景の中でのラブストーリーに目が行きやすいですが、「貝のネックレス」をネタにしたクライムストーリーも、ミルトンの弁護が実に巧妙で楽しめました。(笑)

この時代の黒人には白人と関りをもつことは禁じられていたが、町の人々がカイアに厳しい視線を送る中で、陰からカイヤを見守り、これがカイアを生かすことに繋がっていた。迫害されるもの同士が結びつくという痛みが分かり合える関係に、世の中捨てたもんじゃないと思いました!

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