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「前科者」(2022)犯罪者の更生に尽力する保護司の物語、力作だった!

 

“前科者“というタイトルに魅かれて、情報を持たずに、WOWOW「W座からの招待状」で鑑賞。

「第47回報知映画賞」の主演女優賞作品だと知ってびっくり。(笑)しかしこれに相当する社会派ドラマでした。

原作:香川まさひと/作画・月島冬二の同名マンガ。WOWOW連続ドラマ版「前科者 新米保護司・阿川佳代」にないオリジナルストーリーとのこと。

監督・脚本・編集:「二重生活」「あゝ荒野」の岸善幸、撮影:夏海光造、音楽:岩代太郎

出演者:有村架純磯村勇斗森田剛若葉竜也マキタスポーツ石橋静河、他。

物語は

保護司を始めて3年となる阿川佳代(有村架純は、この仕事にやりがいを感じ、さまざまな前科者のために奔走する日々を送っていた。彼女が担当する物静かな前科者の工藤誠(森田剛は順調な更生生活を送り、佳代も誠が社会人として自立する日を楽しみにしていた。そんな誠が忽然と姿を消し、ふたたび警察に追われる身となってしまう。一方その頃、連続殺人事件が発生する。捜査が進むにつれ佳代の過去や、彼女が保護司という仕事を選んだ理由が次第に明らかになっていくというもの。(映画COMより)

佳代が保護司として、連続殺人事件に絡む誠に、保護司として何をすべきかと苦悩し、成長していく物語です。

地味な社会派ドラマですが、これを盛り上げるためにミステリー仕立てになっています。これがすばらしい!岸善幸監督の力作となりましたね!さらに、森田剛さんが6年振りの映画出演というのも見どころでした。


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あらすじ&感想(ねたばれ:注意):

冒頭、中学生の佳代と滝本真司は恋仲であったが、佳代が暴漢に襲われ、通りがかった真司の父親が救おうとして命を落とすシーンから物語が始まります。

その後、佳代は保護司となり、真司は刑事となった。こうして前科者に対して刑事と保護司の目線で連続殺人事件を追うところが面白いところです。

佳代はコンビニの仕事があけた時間をボランティアとして保護司の仕事を行なっている。保護司は無償の国家公務員の仕事だというから驚きです。本作が訴えたいところです。

現在、佳代は3人の仮釈放者の保護司となっています。三人の住まいや職場を訪ね、勤務状況や生活態度を掌握し、無事釈放できるよう支援していますが、どう保護すべきかいまだ掴めないという状況です。

その中にひとり、職場の先輩を刺殺した前科者・誠の職場を訪ね、社長さんから聞く「仮釈放明けには正社員に迎えたい」の言葉に安堵します。

半年前、誠は刑務所を出所してすぐに牛丼を食べ、その足で佳代のアパートを訪ね、ここで佳代と一緒にまた牛丼食べるという男でした。 (笑) まじめで優しい、気遣いが出来る男でした。

月2回佳代のアパートで会いチェックを受けるのですが、あと1回のチェックで佳代の仕事は終わりという段階に漕ぎ着けていました。佳代は誠が好きだというラーメン屋で会うことを約束した。このとき「あなたは何故保護司になった?」と誠に聞かれ、返事は保留することにしました。

このころ、交番の巡査が刺され拳銃を奪われるという事件が起こった。次いで市福祉課の女性職員が拳銃で射殺される事件が発生。佳代は新聞でこのことを知った。

鈴木刑事(マキタスポーツ)と滝本刑事がふたつの事件を追っていた。

誠が、昔母と弟と一緒に訪れたラーメン屋で食べていると、黒いフードを着けた男が入ってきた。弟の実(若葉竜也)だった。誠は実を自分のアパートに連れてきて事情を聴いた。誠が仕事仲間の殺人事件で拘留されている間、実は保護施設で虐めに合い大量の薬を飲まされ、今尚薬で苦しむ実の姿を見た。そして第3の事件が起きた。

誠が訪ねてくる最後の日。佳代はアパートで待っていた。しかし現れない。電話するがかからない。寮の誠の部屋を訪ねるときれいに整理されていた。佳代はとりあえず東京保護観察所の高松課長(北村有起哉)に報告し、連絡を待つことにした。

刑事たちは第3の事件を追っていて容疑者として工藤誠が浮かんでいた

 滝本刑事が佳代の働くコンビニにやってきた。滝本の父親が亡くなって以来の再会だった。滝本から「DNAが一致している」として誠の居場所を聞かれたが分からないと応えた。佳代は誠について何も知らないことに泣いた。夜、滝本がアパートに訪ねてきたが、好きだったあのころには戻れないことを知った。

佳代は誠ことをもっと知ろうと調べることにした誠と一緒に働いていたパン工場で働く岡崎を訪ね、誠が事件を起こしたときの話を聞いた。無表情で刺して血を見て半狂乱となり「母さんごめん!守れなくて!」と泣いていたという。

誠が「ごめん、やっぱり戻れない!」と電話してきた。「ラーメン屋で待っている、来て!」とラーメン屋に急いだ。

ラーメン屋で待っていたが誠は現れなかった。佳代は刑事に尾行されていた。佳代は「警察に協力する。更生のために何が必要なのか分からない、だから知りたい」と申し出て、滝本から事件の概要を教えてもらった。

3つの殺人事件、義父の暴力相談に母と駆け込んだ交番警察官の殺害と拳銃強奪、義父の暴力から逃れるため転居の相談に訪れた厚生課の女性職員殺害、保護施設の職員殺害に嫌疑が掛けられていた。

佳代は義父・遠山(リリーフランキー)の妻殺人事件をPCで検索し、遠山の担当弁護士が宮口(木村多江)であることを知った。宮口弁護士を訪ね「誠の更生のために必要だ」と遠山の現住所を聞いた。宮口弁護士は「午後6過ぎに訪ねてみて!」と教えてくれた。「なぜあなたが死刑囚の弁護を引き受けるのか」と聞くと「リハビリと治療で治る可能性があるから。更生という点で線引きがあってはならない、あなたも同じ」と答えてくれた。

佳代が遠山を訪ねた。とても融和な人だった。警察が遠山を標的に誠が来ると張り込んでいた。ここで第4の事件が起きた。遠山を殺害しようとやってきた誠と実。実は遠山と対峙したが拳銃で撃てず自殺した。誠は実を救おうと車を警察隊の中に突っ込み、逮捕された。

誠は病院に収容された。警察はその後の調査で連続傷害事件は全て実の犯行だと判定した。

宮口弁護士が、病院で誠に接見することになっていた。コンビニで働いている佳代に滝本から「いつ会う?」と電話があった。佳代は「6時!」と答えて病院に走った。滝本は実の遺品を整理して彼の復讐計画を見つけた。実の復讐目標は宮口弁護士だった。

刑事、弁護士より先に到着した佳代は誠の病室に飛び込み、刃物を持った誠の頬っぺたを張って、「これ以上加害者を産んではいけない!戻ってきて!このままでは人間に戻れない!」と抱いた。そして自分が保護司になったわけを話した。 

まとめ

誠は自分が犯した罪であまりにも惨い状態にある弟・実を見て“復讐をやめろ”とは言えなかった。そこまで彼の心は更生されていなかった。どこまで更生されているかなど誰にも分からない。

このような心理状態の誠の保護司として、佳代が出来ることは“抱き抱え”、「法律では解決しない。今度戻ってきたら私を訪ねてください。お手伝いします。“辛いときはそのことを伝えてください”」寄り添うことでした。

佳代は中学生のころ受けた事件がトラウマとなり苦しんでいたが、ある時、前科者に「諦めるな!」と叱りつけている保護司を見て、自分を襲った人にも寄り添う人がいたらあの事件は起こらなかったと保護司になった。これが自分に課せられた役割だと思っているというものだった。

か弱そうな保護司・佳代が意思のある強い保護司へと変貌していく有村さんの演技はこれまでにないものでした。

佳代の採った行動・覚悟は適切で、保護司職に対する見方、処遇について考えさせられました。

前科者をどうとらえるか。誠は物静かで普通の人ですが、こころの底にはとんでもない痛みを抱えていた。誠を演じた森田さんが繊細な演技で応えてくれました。

ドラマとして刑事の追走劇が、佳代と真司の恋の行方を絡ませながら、ラストまで続き、観る人に緊張感を与え、エンターマント作品としてすばらしいものになっていました。罪を犯した人にも救いの手が差し伸べられる社会になって欲しいと願わざるを得ない作品でした

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