ケイト・ブランシェット主演作、予告編の指揮者姿が恰好よかったので、何の前情報なしで鑑賞。 (笑)音楽無知にオーケストラの専門的な用語など知らず、難解でした。(笑)
第79回ベネチア国際映画祭、第80回ゴールデングローブ賞での主演女優賞作品。
監督・脚本:トッド・フィールド、撮影:フロリアン・ホーフマイスター、音楽:ヒドゥル・グドナドッティル。
出演者:ケイト・ブランシェット、ノエミ・メルラン、ニーナ・ホス、ジュリアン・グローヴァ―、マーク・ストロング。
物語は、
ドイツの有名オーケストラで、女性としてはじめて首席指揮者に任命されたリディア・ター(ケイト・ブランシェット)。天才的能力とたぐいまれなプロデュース力で、その地位を築いた彼女だったが、いまはマーラーの交響曲第5番の演奏と録音のプレッシャーと、新曲の創作に苦しんでいた。そんなある時、かつて彼女が指導した若手指揮者の訃報が入り、ある疑惑をかけられたターは追い詰められていく。
あらすじ&感想(ねたばれあり:注意):
リディア・ター(ケイト・ブランシェット)はペルー生まれのシピポ族。アメリカの5大オーケストラで指揮者を務めた後、ベルリン・フィルの首席指揮者に就任。作曲者としての才能も発揮し、著作もある。この世界のヒエラルギーTPOに立つ女性だが、必ずしも礼儀正しくないという女性オーケストラ指揮者。まだまだ女性はこの世界では少ない。ということでまるでターは権力の権現だ!
その生活ぶりが描かれる。
冒頭、楽団の副指揮者フランチェスカ(ノエミ・メルラン)とコンサートマスターでバイオリン奏者かつターの妻シャロン(ニーナ・ホス)が交わす会話から物語が始まる。「あの女に良心があるわけ、まだ愛しているの」。ターは男化してどうやら妻にも支配的らしい。
ターとシャロンには養女で小学生のべトラがいる。ベトラが虐めに合っていることを知ったターが学校に乗り込み、相手の子を威嚇するという世間では一番自分が偉いと思っている。
ターはベルリン・フィルで唯一録音を果たせていない交響曲第5番をライブ録音し発売する宣伝の記者会見を行った。ここで「指揮とは何か」を問われ、よく分からなかったが(笑)、「時間を操ることだ」という。どうやらこれが彼女を権力者に押し上げた原因らしい。「涙を流したことがあるか?」に「ない」と言い、「指揮者になって殺人者にもなれることを知った」という。
楽団を支援する投資家兼代行指揮者のエリオット(マーク・ストロング)は指揮についてターに一目置いている。そんなエリオットに「副指揮者のセバスチャン(アラン・コーチュナー)を切れ!」と人事も自分の権限だと思っている。
ターはジュリアート音楽院を設立している。ここでの教育、バッハは男性優位主義だったから聞かないという男子学生に「指揮するためには偉大な音楽家がいかなる思いでこの曲を作ったのか向き合う義務がある。あんた消えるよ!」と一蹴する。自分以外の意見は聞かない!これが正解であっても学生は許さない。
そんなターに、シャロンが「首にしたクリスタ・テイラーからメールがあった」と報告すると、薬を飲み、著書「挑戦」からクリスタ記述の部分を破いて捨てる。ターはこの地位に登り着くまでに相当な悪行があったことを匂わせる。これが彼女の大きな心の傷になっている。
ターは作曲中でも突然のメトロノームの音に怯える!就寝中に突然起き出して部屋を見廻る!
これで精神的に追い込まれていく。怖いシーンになっていて、ターの精神状態を上手く表現している。これを克服するために河畔のランニングとボクシングのサウンドバッグ叩きを欠かさない。
オーケストラの指導。指揮台に挙がってタクトを振るブランシェットの姿は存在感・威圧があって圧巻です!ドイツ語で話すプランシェットが恰好いい。
どこがどう悪いのかは分からないが、どんどん奏者に注文を出していく。奏者は全てを受け入れる。指揮者冥利に尽きるシーン。無駄な、権力の見せつけのようにも感じる。2階の録音室で収録音を確認する。この状況をフランチェスカがカメラに収めていた。自分が気にいらない奏者はすぐに外そうとする。これにセバスチャンが反対すると「私の権限!」と威圧を加える。これにはセバスチャンも引っ込まざるを得ない。
こういう管理者はけっこういますよね!
シャロンがクリスタからのメールをターに見せると、「忘れなさい!」と慰めるが、気が気でない。「情緒不安で推薦が取れない」という文を見て、涙ぐむ。
オーケストラの指導。「よくない!感情的によくない!」という。これを奏者はどう理解するのか!(笑)セバスチャンを呼んで嫌味たらたら!(笑)
ターは独断でチェロ奏者をオーディションで探すことにした。メンバーにとっては死活問題だ!オーディションもターの好みでオルガ(ソフィー・カイアー)に決まった。
ターはカフェでオルガに会った。ターはこの子に興味を持ったようだった!
オルガをアパートに呼んで指導する。このときから部屋に何かが居ついたように音がする。ターは深夜起き出して冷蔵庫を調べる!
オーケストラの指導。オルガを自分の前に席を設けて指揮。演奏が終わってメンバーから大拍手!あたりまえです!
ターはオルガのためソロ演奏をプログラムに加えることにした。さすがにこれにはメンバーから反対者が出た。
セバスチャンから「クリスタが自殺した。あなたは告訴された」と知らせが入った。ターは動揺した。セバスチャンがターを責めると「カラヤンでもやった!鞭で指揮していた、覚悟がいる」と言い返した。
オルガがアパートに訪ねてきた。ターは曲を作っていた。オルガがそれを見て「ここフラットがいい」と言った。ターは「まだ途中よ!」と返事したが、それでは収まらなかった。
ターがアパートを訪ねることでシャロンの精神がおかしくなり、ベトラが人形と遊ばなくなり様子もおかしくなっていった。
ターがオルガの古いアパートを訪ねたが見つからない。2階に登る途中で犬に追われ転倒して顔を負傷した。この顔でオーケストラの指導に出たが、メンバーが笑う。「つまらない男に殴られた」と話すが、信じる者はいない。フランチェスカが「チェロリストは?」と聞くが返事しなかった。
ターが曲を作りながらスマホを見るとセバスチャンから“ターのパワハラ映像”が送られてきた。
ターが楽団のプログラムメンバーに顔を出すと「性を強制されたと書かれ、ネットで拡散された」と言い、ターの出番はなかった。全部が敵に回っていた。スポンサー財団を訪ねたが、取り合ってもらえなかった。そしてクリスタの家族がアパートにやってきてアパート売却を妨害し始めた。
ターは楽団への復讐を誓った。指揮者エリオットが指揮台に立ったときにターが舞台に走り出してエリオットに殴りかかった。
その後、ターは故郷に帰り、自分が積み上げてきた努力を見直し、請われてタイに渡り、仏教で精神修養して「モンスター・ハンター」のゲーム音楽収録の指揮をとっていた。
まとめ:
トッド・フィールド監督は権力嫌いなんだ!これをケイト・ブランシェットに演じさせたところに意義がある!!(笑)
クラシック音楽界だけでなく色々な部門にあるヒエラルギーのトップに立ったものの権力と愚行、そのなれの果てがよく描かれていた。ラストで「モンスター・ハンター」の主題歌指揮者となったターをどう評価するか、「またモンスターになるぞ」「精神修養したから・・」と面白い結末でした。
SNS社会特有のキャンセルカルチャーで墜ちていく設定は面白い。
ケイト・ブランシェットの演技が凄すぎました。指揮者のトップに立ち、自分の立場を見失い、社会のトップに立った気分で突っ走る傲慢な顔から、トップを追われる不安に怯える顔に、全てを失って発狂した顔。「ブルージャスミン」「キャロル」を上書きする演技、見事でした。彼女を除いてこの作品は存在しない!
オーケストラ指揮者の闇、ミステリアスでホラーっぽい作りがよくテーマに合っていて、最期まで楽しめました。
そして何故、ターの演奏曲目がマーラーの交響曲5番なのか?これが分かる演奏・音響!ブランシェットの指揮が素晴らしかった!レコード化されると聞いて快挙だと思っています。
最後に、寝てる人、途中から抜ける人を見かけましたが、私自身も少しネタを仕入れておくべきだったと反省しています。(笑)
****