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「FLEE フリー」(2022)アニメで描く難民逃亡の実態!恐怖のトラウマが如何に癒されていったか!

 

20年の時を経て祖国アフガニスタンからの脱出を語る青年アミンの姿をとらえたドキュメンタリー。アカデミー賞3部門にノミネートされた話題の作品です。

デンマークスウェーデンノルウェー・フランス合作作品。難民問題で苦しむ国の合作作品ということで、WOWOWで観ました。

監督:ヨナス・ポヘール・ラスムセン、脚本:ヨナス・ポヘール・ラスムセン、アミン・ナワビ。アニメーション監督:ケネス・ラデケア、アートディレクター:ジェス・ニコルズ、編集:ヤヌス・ビレスコフヤンセン音楽:ウノ・ヘルマーソン。

物語は

父が当局に連行されたまま戻ることがなかったアミンは、残された家族とともに生まれ育ったアフガニスタンから脱出した。やがて家族とも離れ離れとなったアミンは、数年後たった1人でデンマークへと亡命する。30代半ばとなり、研究者として成功を収め、恋人の男性と結婚を果たそうとしていたアミンだったが、彼には恋人にも話していない20年以上も心に抱え続けていた秘密があった。親友である映画監督の前で、アミンは自身の過酷な半生を静かに語り始める。監督は自身も迫害から逃れるためにロシアを離れたユダヤ系移民であるヨナス・ポヘール・ラスムセン。


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あらすじ&感想

物語はラスムセンによるインタビューで、アミンが逃亡生活を振り返るとともにこれからの生活が並行して語られる。インタビュー時期、場所が不明でちょっと戸惑います。これもアミンをはじめ、関係者の安全を守るための配慮だということのようです。

アニメの中に実写映像を挟み語られるドキュメンタリーのような独特なアニメション作品になっています。この独特なアニメの作り方だからこそ訴えられるものはなにか?これが見どころです。

2021年?コペンハーゲンのラスムセンの部ビ屋で写真を撮った後、「幼い頃の記憶を話してくれ」から、アミンの話が始まる。アミンはここで恋人キャスパーと結婚するか米国に遊学するかの決心がつかず、これまで秘密にしてきた悩みをラスムセンに話すことにした。

1979ソ連軍がアフガニスタン政府を支援するためアフガニスタンに侵入。アミンは当時5~6歳頃ですでに男の子に興味があった。しかし宗教上ゲイは認められないので、姉たち女の子の遊びに興味を持つとともに兄たち男の子と遊ぶことにしていた。

反政府軍に米軍が装備を提供し、ソ連軍の闘いがベトナム戦争化していったカブールが戦場になってきた。

ソ連軍の侵攻様相が実写映像で映し出され、アニメが突然ドキュメント映像に変わるが、実写映像は縮小されており、アニメの中での状況説明と受け取れるよう配慮されている。これが一般に言われる“アニメ”とは異なるこころですが、当時の状況を知るにはこの方法がいい。ではなぜアニメなのか?

 父はパイロットだった。政府は父を共産政権に対する脅威と見ていた。だから父は連行され、戻って来なかった。生死は分からない。兄は徴兵をいやがりスウェーデンに亡命した。

1989年、ソ連軍がアフガニスタン撤退を発表反政府軍ムジャヒディンが反逆者等を逮捕し始めた。当時、西側の大使館は閉鎖され、出国窓口はソ連しかなかった。

二人の姉が心配で母が出国を決意し、ソ連の観光ビザで母とふたりの姉、次男の5人でモスクワに逃れた。

当時のロシアは共産主が崩壊する直前で、半年で通貨が変わるほどに社会が大混乱に陥り、治安が悪化し、警察は信用できなかった。

兄はスウェーデンで掃除作業員として働いていたが低収入だったが、家族を救出するモスクワまで来て金を提供してくれた。家族全員は無理で、ふたりの姉を業者に依頼してスウェーデン密入国させることにした。ロシアは無法地帯だったから街を自由に歩けず、ロシア警察を見ると逃げていた。一日中メキシコの連続ドラマをTVで観ていた!(笑)

安い料金で依頼した密入国支援業者のやりかたは非人道で酷いものだった。ひとつのコンテナーに64人を詰め込み、子供が24名、呼吸困難に陥りストックホルムで兄が面会したとき姉たちは瀕死の状態であったらしい。アミンは今でも怯えているようだった。

母と次男、アミンは別の業者により、多くの密入国者と一緒にトラックに乗せられ森林地帯で降ろされ、夜間、密輸船の停泊地まで歩いた。業者が落伍しそうな老人に「殺すぞ!」と脅す。アミンは母が殺されるのではないかと心配だった。

密かに乗船してスウェーデンに渡るというものだった。密輸船の船腹に詰め込まれ、蓋をされて出航。2時間も経つと船酔いで吐きだす。嵐で浸水。これに耐えて沖合で甲板に出るとノルウェーの客船に遭遇した。助けてもらえると思ったら、マイクで「エストニア沿岸警備隊に通報した」と知らせてきた。

廃墟のような建物に収容され取調べを受けた。哀れだった!詳しく言いたくないという。「ここに留まるか、ロシアに戻るかを決めろ!」と言われ、「ロシアなら警官に金を渡せばまたチャンスがある」とロシアを選んだという。

ロシアに戻ると、アパートの一室に閉じこめられた生活だった。街はマクドナルドが進出してきて賑わっていた。街を歩いていて警官に職務尋問され計を盗まれた、これが怖かった!

スウェーデンの兄が恋人と分かれてでも金を作ってロシア脱出支援してくれた

まずアミンを脱出させると、高価な密入国支援業者に依頼した。ロシアの偽パスポートを作り同行者が一名つき、彼の案内で航空機によりイスタンプールに脱出して、ここでストックホルム行きに乗り換え、パスポートを破棄しで空港出口で「難民!」と申告し、入国管理者に「アフガニスタンから脱出した。家族全員が死亡と言え!これ以外は話すな!家族にも連絡するな!」と決められたルールを厳守するよう言われての脱出だった。行き先ストックホルムコペンハーゲンと変わったこと以外はルール通りにうまくいった。車で宿舎に送られる時に見たコペンハーゲンの街の風景にほっとし「これで送還されない!」と思った。

アミンはコペンハーゲンに来て、これまでの出来事をノートにダリー語で書き綴った。高校2年とき、通学電車の中でアミンとラスムセンは出会った。アミンは大学に入ってから、すこしづつ友に心を開くようになった。が、逆に「ばらすぞ!」と脅しの手段に使われるので、怯えて暮らしていたという。ゲイであることを女医に話し、薬を要求したが断られた。我慢するしかなかった。

スウェーデンの兄に電話するとびっくりして「家族は?」と言うから、「業者から言われているので、知らせないで!」と断った。

数年後、スウェーデンの兄をアパーにト訪ねると、ふたりの姉も居て、とても喜んでもらった。その時「彼女は?」と問われ、「いない・・」と応えると兄が「分かっていた」とゲイバーに連れて行ってくれとても感動したという。

アミンの話は終わり、ラスムセンが「これからどうする?」と聞くと、「恋人のキャスターは家を準備して待っているというが、これまでの逃亡生活で人を信用することが出来なくなっている。常に自分を守ろうとする。恋人とキャリアーのどちらを選ぶかと言われれば、兄たちのこれまでの恩に応えるため、アメリカのプリンストン大学から誘いがある博士研究員をしてみたい」と話した。

アミンはとりあえずアメリカに行ってみて結論を出すことにして、渡米して講演を行った。しかし、なにかが欠けていると感じ、コペンハーゲンに戻った。

キャスパーに見つけた家を案内され、うつくしい植物に触れていると、ここでキャスパーと結婚して暮らしたいという気持ちになった。そしてふたりは結婚した。ロシアの母も次男もロシアを離れることができた。しかし、依然と父親は見つかってない。

まとめ:

風変りなアニメーションでしたが、感情をもって難民逃亡者の苦しみと再生の物語を観ることができました。家族愛と同じ体験をもつ友人愛に感動しました。

 難民逃亡者が蒙る苦難は脱出すれば収まるものでなく、置かれた環境や脱出手段特に密入国支援業者によるマインドコントロールで、自分を守るために人が信じられないという。まっとうな社会生活が営めないのは大変な問題!経済的な困窮や犯罪が話題になりますが、このための「カウンセリングの必要性」を訴えたのは至言だと思います。

アミンの場合は難民逃亡者以外にゲイをいう問題を抱えていた。兄がスウェーデンに住んでいたことでアミンが救われましたが、「宗教とゲイの関係」が問題視されました。

アニメと実写映像の組み合わせで作ったアニメ作品。実写映像で見せことは当時の社会あるいは戦争などの状況をアニメよりわかり易く理解できます。アニメは色彩をシンプルにして美しく、主人公の心理状況やあいまいな説明が“もやもやとした影”で描写され、足らない部分は自分で補足して、与えられた状況に感情移入して観ることができるように感じました。

冒頭で故郷とは何かにアミンが答えます。「安全な場所」「よそに行かなくていい場所」。アミンにはコペンハーゲンが故郷になりますね!

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