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「Pearl パール」(2023)残酷なサイコパスへの変貌!これが時代経て継がる恐怖!

映画スタジオA24作品前作「X エックス」(2022)でマキシーンとパールを演じたミア・ゴスが前作のパールの若かりし頃を描くという前作でのミア・ゴスの快演があり、テーマが「何故彼女が史上最高齢のサイコキラーになったか」、さらに完結編「MaXXXine(原題)」に続くとなると、これは観ないわけにはいかない。ということで公開初日初回に駆けつけました。

監督:タイ・ウェスト、脚本:タイ・ウェスト ミア・ゴス撮影:エリオット・ロケット、美術:トム・ハモック、衣装:マウゴシャ・トゥルジャンスカ、編集:タイ・ウェスト、音楽:タイラー・ベイツ ティム・ウィリアムズ。

出演者:ミア・ゴス、デビッド・コレンスウェット、タンディ・ライト、マシュー・サンダーランド、エマ・ジェンキンス=プーロ、他。

物語は

スクリーンの中で歌い踊る華やかなスターに憧れるパールは、厳格な母親と病気の父親と人里離れた農場で暮らしている。若くして結婚した夫は戦争へ出征中で、父親の世話と家畜たちの餌やりの毎日に鬱屈とした気持ちを抱えていた。ある日、父親の薬を買いにでかけた町で、母親に内緒で映画を見たパールは、ますます外の世界への憧れを強めていく。そして、母親から「お前は一生農場から出られない」と諫められたことをきっかけに、抑圧されてきた狂気が暴発する。(映画COMより)

ドリーミーなパールが、戦争やスペイン風邪によるペンデミック、貧しい田舎暮らしのなか、社会の不条理や罠で夢を引き裂かれサイコパスに落ちていく有様がメルヘンな色彩で描き出されるメルヘンな作風であるが故にモノクロでは味わえない落差のある恐怖を味わうことになります。何が起こるか知って観る怖さ!前作「X エックス」を観ての鑑賞をお勧めします


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あらすじ&感想(ねたばれあり:注意)

冒頭、扉が開いて、前作の舞台となったテキサスの牧場の農家が写しだされる。色彩が美しいテクニカラーになっている。陰気くさいホラーをモノカラーで観るのは辛い!華やいだ気分で観れるのがいい。

 若いパールが正装して鏡を覗き、未来のスターを夢見てダンスをするシーンから物語が始まる。ドイツ人の母親・ルーズ(タンディ・ライト)から「パパ(マシュー・サンダーランド)に食事させ、身体を洗って!」「納屋はどうなっているの!」と矢継ぎ早に指示が飛んでくる。パールはこれらを見事にこなしながら「ここを出たい!」と呟く。母への面当てにガチョウをビッチフォークで突き刺し、その遺体を池に運びワニのセダに喰わせる

パール役のミア・ゴスが若くて美しくてチャーミングで前作の全く違うのがいい。

1918年、WWWⅠの末期、戦場は西部戦線で膠着状況。そこにスペイン風邪パンデミック。いいニュースなどない、夫・ハワードは戦場。母親ルースの敬虔で頑固、清潔好きに苦しめられる。さらに父親は全身麻痺状態の病人。田舎ぐらしで友もない。「田舎を出たい!」。

父親の薬の買い出しにパールは街に出て、薬を買ったあと映画館でマスクをして、ミュージカル映画“パレス・フォーリーズ”を観てラストシーンのラインダンスに魅入った。帰りに映写技師に声を掛けられ、映写フィルムのひとコマを切り取って「銀幕レビューが楽しみだ!」と渡された。

パールは自転車で帰宅中に胸に入れていたフルムを落とした。トウモロコシ畑の中を捜すが見つからない。ところが案山子を見つけた。これが映写技師に見えて一緒に踊り、セックスまでやった。(笑)。パールは鬱積した気持ちを発散させた。

家の戻ると「スペイン風邪の菌を持ち帰った、余計は出費をした」と母親に叱責された。「街に出るとドイツ人は虐められる、夢なんかみたらダメ」と厳しく注意された。「世界一のスターになるため、ここを出たい!」とパールは呟いた。

そこに義妹のミッツィー(エマ・ジェンキンス=プーロ)が母親とやってきて、プレゼントの子豚の丸焼きを渡し、パールに「クリスマスに上演する劇のオーデションがある。参加しない」と声を掛けられた。パールは千載一遇のチャンスと思った。

パールは母親の目を誤魔化し、正装して映写技師を訪ねた。「人前で踊ったことがないから映画“パレス・フォーリーズ”を見せて!」と頼むと「これ観よう」と見せられたのが“A Free Ride”というポルノ映画だった。技師は「フランスで買ったものだが、法律で禁止されている。しかし誰もが観たいやつだ」と話し、「俺は自由人で、いつでも飛びだす」と話した。パールは「両親がいなければついて行ける」と言い残して牧場に帰った。

牧場に戻ったパールは車椅子の父親を池に運びワニのセダを呼び「ここ出る!」と叫んでいると母親がやってきた。パールは「ここで我慢ばかりで嫌だ!」と訴えると「持っているものを大切に、人生を大切にしなさい」と注意された。

夕食時、パールは母・ルースにオーデションを受けることを話した。ルースは夫を看取りながらの生活の苦しさ、パールが家族に必要で、生涯をここで過ごすよう求めた。パールは「オーデションがダメならそうする」と答えた。ふたりの意見が合わず掴み合いの喧嘩となった。ストーブの火がルースの裾に燃えつき、ルースが火だるまになったが、パールが消し止め、地下室に横たえた。

パールは「これでスターになれる」と映写技師に会い行き、セックスしてダンスの練習をした。帰りは技師が家まで送ってくれた。パールが部屋に入ると父がテーブルについていて、料理が出ていた。

パールは技師を二階の自室に誘いセックス。「ヨーロッパに行ける?」と尋ねた。そのとき異音した。技師が1階に降りて異変に気付いたらしい。パールは納屋に技師を案内した。技師が異音を詮索し「もう帰る!」と言い出した。パールが「ヨーロッパ行きは嘘なの?」と聞くと「オーデションは成功するよ」と車で帰り始めた。パールは技師を車から引き下ろし、ビッチフォークで刺し殺した

パールは父母に別れを告げてオークション会場に向かった。そこにミッツィーが待っていた。次々と受験者が不合格で退場してくる。ミッツィーが「怖くなったから順番を変わって欲しい」というのでパールが試験場に入った。

ステージのX印のある位置に立った。背景は戦場で戦士たちが歓喜するシーン、パールが力一杯踊った。結果は不合格だった。パールが「スターになりたい、もう一度踊らせて!」と訴えた。審査員が「大勢いるんだ、アメリカの金髪の女を探している!」と受け付けなかった。

パールは試験が終わっても会場で泣いていた。ミッツィーが牧場に送ってくれた。玄関に腐った豚の丸焼きが置かれていた。ミッツィーは落ち込んでいるパールに「私をハワードと思って話してみて!」という。パールは「結婚しても家を出たかった。堕胎もした。映写技師と寝た。これがバレたらハワードに申し訳ない。私はどこかが腐っている。楽に生きる人を見ると腹が立つ。技師を殺した時快感だった。気分がよかった。これからはここで暮らす」と長々と話した。ミア・ゴスの大演説だった。ミッツィーが「もう帰る」と言うと、「私が怖いの!あんた合格したでしょう。落ちたふりしないで!」「ハワードには言ったこと隠して」と求めた。ミッツィーが帰り始めるとパールが「金髪は嫌い!」と背後から斧でめった切りした

パールは両親にここで暮らすことを告げ、ミッツィーをバラバラに解体してセダに喰わせた。映写技師は車に乗せて池に沈めた。

パールがこの家のボスとなり、テーブルに腐った豚の丸焼きを乗せ、両親を席につけ、お祈りをしているところに、夫ハワードが復員してきた。「お帰り!」とパールは笑顔を見せ、その表情は狂気の表情へと変わっていった。

まとめ:

パールが戦争やスペイン風邪、貧困、厳しい母親の監視、全身不随に父の看護、差別などで“スターになりたい夢”を持ちながら殻に閉じこもっていた。しかし、映写技師の言葉を励みに“スターになりたい」夢”に進み出すが、技師の裏切り、次いでオーデションで金髪でない理由で落選し夢を断たれた。人を信じられず人を殺す快感を覚え、サイコパスに墜ちた。

パールの人生、恐ろしいようで同情したくなる。ミア・ゴスの可憐さ、狂気、サイコパスに墜ちたわけを語る大演説。見ごたえのある演技でした。

パールがサイコパスに墜ちた社会環境は今の時代に似ており、最近の連続殺人事件やストーカー事件の頻発を思うと、時代に連鎖しているように思え、これこそが恐怖で、作品を通じてのテーマのように思えた。

この作品はオズの魔法使い」のようなファンタジー描写でパールの真正直な夢を描き、その先にとんでもない殺人劇を見せて「現実はこうだ」と突きつけ、現実味のある作品になっていた。この作品の一番の面白さだと思う。

この作品の位置づけがしっかりしていて、ポルノ映画をパールに見せた映写技師の殺人金髪のミッツィー殺人これをワニのセダに喰わせるシーンなどが「X エックス」でパールの殺害動機と殺害法が繋がり見事でした。「X エックス」でパールの殺し方を知っていても、誰が何時どんな方法で殺されるのかとハラハラドキドキで観ていました。(笑)すばらしい作品でした。

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