映画って人生!

宮﨑あおいさんを応援します

「あちらにいる鬼」(2022)地獄の不倫愛憎劇に、寺島、豊川、広末の快演!

 

原作は作家・井上荒野さんが自身の父である作家の井上光晴と母、そして瀬戸内寂聴さんをモデルに男女3人の特別な関係をつづった同名小説だという。新しい寂聴さんの見方が出来るかもしれないとWOWOWで観ることにしました。

監督:廣木隆一脚本:荒井晴彦撮影:桑原正、編集:野本稔、音楽:鈴木正人エンディングテーマ曲:浜田真理子

出演者:寺島しのぶ豊川悦司広末涼子高良健吾村上淳蓮佛美沙子、他。

物語は、

人気作家の長内みはる(寺島しのぶ戦後派を代表する作家・白木篤郎(豊川悦司と講演旅行をきっかけに知り合い、男女の仲になる。一方、白木の妻・笙子(広末涼子は夫の奔放な女性関係を黙認することで平穏な夫婦生活を続けていた。しかしみはるにとって白木は体だけの関係にとどまらず、「書くこと」を通してつながることで、かけがえのない存在となっていく。(映画COMより引用)


www.youtube.com

あらすじ&感想:

1966.70年安保を目前に控え日本社会は騒然としていた。白木(40歳)は日本社会の不条理に切り込む作家。もてる作家で放縦な女性関係を持っている。家庭は妻笙子(35)と娘(5)と集合住宅で生活していた。

みはる(44歳)は大胆な性描写で人気の小説家。結婚して子をなしたが離婚。その後いくつかの男遍歴を経て、今は昔馴染みの若い夫・秦(村上淳)と豪華なマンション住まい。

白木は女性にもてる。会話がうまい。社会からすこしズレた男は糞真面目な男に比べて女性の心をくすぐるところがある。徳島講演会で一緒になったふたり。待機室で白木がトランプでみはるの運命を「ここ数年であんたの書くものが変わる」と占ったのがはるみの心を捕らえた。

はるみは白木の著書を読み、白木の住む集合団地の案内を白木に依頼した」。このとき白木は妻の笙子を避妊手術で入院している編集部の坂口初子(蓮佛美沙子)の見舞に行かせていた。

笙子は「これで主人との関係は終わり」といやな見舞いを受け入れていた。

白木は自転車にはるみを乗せ団地を案内。終ったところに病院見舞の笙子がバスで戻ってきた。白木が笙子を「妻です」とはるみに紹介し、自転車に妻を乗せて自宅に帰っていく。(笑)はるみは「きれいな奥さんがいて家族を大切にする人」と思った。

はるみは原稿が売れず、逃げ場所として夫を求めるが不満だった。

白木は不意にはるみのマンションを訪ねてきた。我が家のように「ウイスキーがまずい、もっと上等なオールドパーを置いておけ!」といい、はるみと夫・秦(村上淳)と一緒に酒を呑み、はるみの夫婦関係を掌握する。

白木は家に戻り、笙子に「時代がかった家で亭主はつまらない」と喋る。「白木の話が嘘ばかり」と笙子はこんな話を信じるような女性ではなかった。

クリスマスの夜

白木が「調べた!あんた福岡の講演はない」と突然マンションに訪ねてきて、玄関ではるみを抱き、激しくベットで交わった。はるみは夫では得られない快楽を味わった。はるみは「夫と別れ京都に家を買う」と話した。

このとき笙子は急な陣痛で入院。ひとりで男の子を出産した。笙子は不安で「どうしたらいいの」と祖母の言葉「あの子はあんたのもの!別れたがったらあんたが決めたらいい」を思い出していた。これまで笙子は祖母の言葉に間違いはないと信じてきた。

白木はひどい男で、みはると映画を観たり散歩したりとふたりは仲睦ましく過ごすようになっていった。笙子は産まれた子を側に置いて白木の原稿を浄書していた。何の不平も漏らさない。

はるみは白木が他の女性とつい合っているのを知って「あんたが思っているような女ではないよ」と釘を刺した。

白木は編集者を家に招いて食事。笙子を料理が出来るし、小説が書ける。書かさないか」と紹介した。この席で「初子が手首を斬って亡くなった」という話しが出た。

夜、白木が笙子を抱いた。笙子は「初子さんはあなたに来て欲しかったと思うよ」と白木に話した。笙子はこういう形で気を休めていた。白木は「最初のやつは面白かったから次の小説を書け!」と勧める。笙子は「貴方の名になっているから晒すことができた」と答えた。笙子は白木の生活に欠かせない存在になっていた。

1969、はるみは白木の影響を受け学生運動家を支援するようになっていた。白木は東大紛争を目の当たりに、「日本は間違っている。朝鮮民族に謝罪せと」と講演し、その怒りをぶつけるようにはるみを抱いたはるみは「先生だけが女性と認めてくれる」とその愛撫に溺れた。

はるみはこの体験を小説「欄に焼く」にして白木に読ませた。白木は「ものすごいものを書いた。化けた!」と褒めた。

白木は三島由紀夫の割腹自殺にあたり、三島を激しく罵るなど文筆活動に追われた。はるみはクラブで男を漁るようになっていた

そんなある日、白木が「あなたのフアンはだ!」とバーのマダムとガラス王芸作家の女性を連れてマンションにやってきた。はるみは気にいらなかった。白木は「人間として面白い人たちだからつれてきた。なんでも色恋に結びつけるな!」と言うが、はるみは「必要な女には何をやってもいいと思っているが、私はもう情熱がなくなった。私が男と寝ていてもあなたが気付かない」と激しく言い返した。白木は「もういうな!」と激怒して帰って行った。はるみは泣いた!

白木の不在時、「先生のストリップショーを見たことありますか、盛り上がっています。何時でも困ったら来いというから旦那と別れてきた」と若い女性が訪ねてきた。笙子が困惑していると戻ってきた白木が女性を連れ出した。笙子はお茶を飲みながら「おいしい」と呟いた。(笑)

笙子は「あなたがストリップショーをやっているなら離婚します!」とはじめて白木の愚行を責め、「家を持ちたい!」と言い出した。笙子は白木とはるみの関係を知っていての言い出し。とてもしたたか申出だった

1973年、白木は妻以外連れてきたことはないという故郷・佐世保にはるみを伴って旅した。はるみはここに連れてきてくれたことに感謝し「出家したい」と話した。白木は「そういう方法もある」と認めた。はるみは「どうしようもない男だけど愛おしい!」と白木を抱いた。

白木は家族と一緒に家の建築場所の下見にやってきた。笙子は「いつか私を捨てるかもしれないね」と話す。白木は「小山内はるみは出家する」と言うと「まさか、本気なの?」と笙子は白木の横顔を見ていた。

はるみはマンションに訪ねてきた白木に「あなたには家庭が幸せの象徴だ。家庭のあるあなたに私が合わせていたが、あなたが私に会わせていたのかもしれない」と話した。白木は「君は寛容で、いつも家庭を認めている。男の自由を認め、金を出させず、男を守る。全部許しているように見えて許してない。だから男が分かれる。風呂で髪洗ってやろうか!」と答えた。

ふたりは風呂に入って、白木が髪を洗い、切った。はるみは泣いた。ベットではるみは「どちらかが死ななければ別れられないと思った。それで出家し生きながらえながら死ぬことにした」と話した。

アパートに戻った白木に笙子がはるみの得度式に参加するよう勧めた。

得度式。はるみは毅然たる態度に髪を下ろし僧衣で得度式を終えた。支度部屋に戻ると白木が待っていた。はるみは白木が来たことに驚いた。白木は「笙子に言われて来た」と言い「身体の関係があるとかないとかそんなことは彼女はどうでも良いんだ。それ以外で彼女は君との関係を理解している」と話した。ばるみが「奥さんはあなたを寄こしたことを告げなかった。あなたは何の使者なの」と聞くと「あんたとうちの嫁は仲良くなると思う」と答えた。はるみは「自分のしたことは百も承知で言うが、彼女のためにあなたを憎む!」と返した。

白木は得度式が終って笙子に「今夜はひとり宿に泊まって明日帰る」と電話した。しかし、笙子は信じなかった。許せない想いが出てきた。

白木の宿にはるみが訪ねてきた。はるみは最後の別れをして何事もなく戻って行った。

笙子は自宅建設で世話になった新城(宇野祥平)を呼び出しホテルに誘ったが、未遂だった。(笑)笙子ははるみを許しているようでまだ許せない気持ちがあった。

白木は得度式からの帰りに笙子に出会った。ふたりでうなぎを食べた。笙子が「お坊さんはうなぎがたべられないね!」という。白木は泣いた!

1974年、はるみは白木邸に招かれ、笙子の料理を白木の家族とともに楽しんだ。

18年後、白木は癌で亡くなった。白木ははるみと笙子の手を握りしめあの世へと旅立った。

まとめ

寂聴さんが出家したのち不倫した井上光晴氏の家族と親しく交わっていたことを知って驚きましたこのことがのちの寂聴さんを作り上げたんですね。今の時代ではちょっと理解できない地獄の不倫愛憎劇だった。

当初、白木を女狂いのどうしようもない男だと思ったが、後半で見せるはるみや笙子への想いに、ラストシーンで見せる涙は、ふたりの女性を本当に愛する男、どちらも捨てることはできなかった決してでたらめな男でない、時代が作った男だと感じた。白木に振り回された女性たちの話とも言え、寺島さんが言う「白木が主役」という豊川悦司さんの快演でした。

はるみは白木が家族を捨てられない男だと見破り、自分が白木を愛する我儘がいかに白木の家族を苦しめるか。自分が苦しんだ想いを白木の妻・笙子に重ね、自分がやっていることは修羅の道、鬼だと悟った

寺島しのぶさんの演技。出家の覚悟、剃髪、そして得度してもあちらに行けない煩悩、そしてラストシーンのとめどない白木への想いの涙。身体を張った演技はすばらしいかった

広末涼子さんの演技。笙子が自分を殺して耐える生き方、こちらの鬼も凄かった。いつも泣いているような大スクリーンの広末さんの顔。昨今の広末さんの真逆の不倫騒動に絶句しています。

マンションと集合住宅、長回し撮影、時代の切り取った映像、小津作品の臭いがする作品だった

                ****