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「あのこと」(2022)中絶の苦しみ、男性が観る作品!

法律で中絶が禁止されていた1960年代フランスを舞台に、望まぬ妊娠をした大学生の12週間にわたる戦いを、主人公の目線で描いた作品

2021年・第78回ベネチア国際映画祭の金獅子賞受賞作です

今の日本では論ずる必要がないかもしれない。が、米国での反対運動に見られるように世界的な視点からみれば大きな問題。これが映画作製の狙いであり、評価理由だと思う。

鑑賞してみて、アンヌの体験を通してそこに内包される性の問題を普遍的に描かれていた

原作:2022年度のノーベル文学賞作家アニー・エルノー若き日の実体験をもとにつづった短編小説「事件」。

監督:「ナチス第三の男」(2019)などの脚本を手がけ、本作が監督2作目となるオドレイ・ディワン脚本:オドレイ・ディワン マルシアロマーノ撮影:ロラン・タニー、編集:ジェラルディーヌ・マンジェーノ、音楽:エフゲニー・ガルペリン サーシャ・ガルペリン。

主演は、「ヴィオレッタ」(2014)のアナマリア・バルトロメイ、共演にケイシー・モッテ・クライン、ルアナ・バイラミ、ルイーズ・オリー=ディケロ、ルイーズ・シュビヨット、他。

物語は

労働者階級に生まれたアンヌは、貧しいながらも持ち前の知性と努力で大学に進学。未来を掴むための学位にも手が届こうとしていたが、大切な試験を前に自分が妊娠していることに気づく。中絶が違法とされる中、解決策を見いだすべく奔走するアンヌだったが……。


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あらすじ&感想

1960年代、フランス。文学専攻のアンヌ(アナマリア・バルトロメイ)は友人のブリジット(ルイーズ・オリー=ディケロ)とエレーヌ(ルアナ・バイラミ)と共に、ちょっとおされにしてディスコに出かける。そこで学生に成りすました消防士の誘いを受けるが、アンヌは断った。アンヌには心配ごとがあった。

学生寮に戻ると下着を調べ「生理が無い」と不安になり婦人科医院を訪れた。アンヌは「経験がない」と言う。医師は妊娠を告げ、「関わりたくない!」と告げた。中絶は禁じられていたからだった。

休みには実家に帰り父母を喜ばせるが、妊娠のことは話せない。アンヌを学に行かせるのが父母の誇りだから。

アンヌは食欲旺盛で人のものまで食べてしまう。シャワーを使うにも気を使い出す。

アンヌは別の男性医者に「何とかして欲しい!」と申し出たが断られた。アンヌは医者に言われた通りに薬を飲み自分で注射を始めた。しかし効果はなかった。

教室ではポルノ写真を回し見。一体何しに大学に来ているのか。(笑)ブリジットは自慰を見せセックできたら大学辞めてもいいと言い、エレーヌはこれに刺激されている。アンヌはトイレで吐いた。アンヌが「妊娠したら、産まない方法は?」と聞くと「冗談でも言わないで!」と考えたこともない。

女子大生たちのセックス願望は分からないことはないが、この程度の甘っちょろい考えだった。

アンヌが男子学友のジャン(ケイシー・モッテ・クライン)に助けを求めると「妊娠しているなら心配ないからやろう」と誘う。こういういいかげんな学生もいたということらしい。(笑)

シャワー室でアンナの乳房が寮生の話題になりだした。

学業の方に力が入らず教授から原因を聞かれ「何もない」と返事した。「この状態では、教師資格試験は無理」と言い渡された。

アンヌがブリジットとエレーナに妊娠したことを話すと、「私は関わりたくない!巻き込まないで!」とそっけない態度。アンヌはひとり悩むことになった。

アンヌはボルドーにいる関係を持った法科の学生マキシムに電話で「妊娠した」と告げたが相手が素気ないので「自分で処理する」と言ってしまった。母から「勉強したら」と小言を言われ喧嘩別れした。

アンヌはしっかり調べ自分で胎児に網棒で傷つけ堕すことにした。苦しみながらやり終えた出血があったので、医者の診断を受けた。「赤ちゃんは持ち堪えた」と言われた。アンヌは「子供は欲しいが人生と交換はできない!」と考えた。

アンヌはボルドーにマキシムを尋ねた。彼は「10週に入っては無理だ!」と言い友人の女性医学生を紹介したいらしいが、アンヌは止した。海に入り「このままお腹が冷えてしまえば」と泳いだ。彼は「帰るならもうつき合わない」と言い、妊娠したことに対して何かしたいという気持ちはなかった

ジャンから闇で堕してくれる女医がいると聞かされ、アンヌは連絡を取った。400フランが提示された。

アンヌは持っている本や装飾品を売り金を作って女医を訪ねた。女医からこれまで処置したことを聞かれ、「薬を飲み自分で堕ろそうとした」とを話した。薬は流産防止の薬だと言われた。

金を渡し寒々とした病室で堕胎処置を受けた。24時間もすれば堕りてくると言われ、学生寮に戻った。時間がきても堕りてこない。アンヌは女医に電話した。女医は「自己責任だよ」と再度メスを入れた。

アンヌが寮にもどると産気づきトイレに駆け込み胎児を産み落とした。便器が真っ赤に染まった。大声で寮生を呼び、驚く彼女にハサミで臍の緒を切っても貰った。が、アンヌは気絶し救急車で病院に運ばれた。病院では「流産!」と診断された。

アンヌは教授に受験を頼み込んだ。教授に「何をしていたのか?」と聞かれ「女性の病気です」と答えた。猛勉強の甲斐あって見事に合格した。

まとめ

男性が感想書くのはどうかと思いましたが、これは男性が観る映画!と感じ、書くことにしました。

自分で堕胎しようとするシーン、闇の女性医師による処置シーン、ちょっと見ていられなかった。リアルでこの映像こそが訴えたい“あのこと”だった。これを婦人病だと言い、流産で無罪という法的解釈に耐えられなかった。

 これは過去の話と割り切れない!この痛はいつの時代であろうと理解しなければならない。今の時代に繋がるように、学生たちの話を含め“どうあるべきか”がしっかり描かれていた。

妊娠は男女の行為。双方が平等に責任を負うべきである。産みたくないなら徹底した避妊処置が必要だし、万一妊娠したら男性も半分の責任を持つべきだ。

もうひとつは子供を身ごもるということの尊厳性が軽く考えられおり、性の乱れは戒められなければならない。

主人公の視点ということでアナマリア・バルトロメイが全編で姿を見せる。それも身体を張った演技で、すばらしかった。

現在の日本には関係ないという問題ではなく、性に絡む普遍的な問題を提起した良作だと思いました。

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