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「愛にイナズマ」(2023)映画の面白さは予測不能で、愛とイナズマのような情熱だ!

 

月」に続く本年2作目の石井裕也監督作品実はこの作品が「月」より先に作られていたとのこと。「月」と真逆のポプでハッピーな作品ということで観てまいりました。

監督・脚本:石井裕也、オリジナル作品。撮影:鍋島淳裕、編集:早野亮、音楽:渡邊崇主題歌:エレファントカシマシ

出演者:松岡茉優窪田正孝池松壮亮若葉竜也MEGUMI佐藤浩市、他。とても豪華な布陣です。

物語は

26歳の折村花子(松岡茉優は幼少時からの夢だった映画監督デビューを目前に控え、気合いに満ちていた。そんなある日、彼女は魅力的だが空気を読めない男性・舘正夫(窪田正孝と運命的な出会いを果たす。ようやく人生が輝き始めたかに思えた矢先、花子は卑劣なプロデューサー(MEGUMIにだまされ、全てを失ってしまう。失意の底に突き落とされた花子を励ます正夫に、彼女は泣き寝入りせずに闘うことを宣言。花子は10年以上音信不通だった“どうしようもない家族”のもとを訪れ、父や2人の兄たちの力を借りて、大切な夢を取り戻すべく反撃を開始する。(映画COM)

コロナ禍で何かが歪んでしまった故の理不尽な仕打ち。この仕打ちに負けてたまるかとダメ家族にカメラを廻し始めて、映画と撮ることの面白さを知り、家族の絆を取り戻す物語。理不尽を訴えるには膨大なセリフが必要だった(会話劇にならざるを得ない)。いたるところで放たれるユーモアに笑い、人生は愛にイナズマだと納得の結末に涙した

先行が読めないコロン禍では製作予算に限りが出てくる。これまで撮ってきた人に予算を廻したいと新米監督花子には厳しい圧力があったと思う。さあこの圧力をどう跳ね返すか!笑って泣けるリベンジの話だった。


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あらすじ&感想(ねたばれあり:注意)

花子の脚本「消えた女」についてプロデューサーの原と助監督の皆川と打ち合わせ。

会議室で行い、花子のアパートに持ち込み花子持ちのビールを飲みながら延々とやる。

皆川が「母親はなぜ死んだ、理由がなく死ぬわけがない」と認めない。花子は「私の母の話、理由はない。世界はコロナになって大勢の人が亡くなった、こういうことはある」と反論。皆川は「理由が絶対必要だ。現場なくなるぞ、業界には伝統がある」と認めない。原は「助監督のいうことだから気にしないで」とその場をとりつくらう。金のない花子は「頑張ります!」と言う以外にない。そして二人がアパートを出て行ったと思ったら、皆川が引返してきて「あれはプロデューサーの意見だ。泊まっていいが!」という。それでも花子は頑張ろうとする。

皆川の意味のない論議にうんざりした。石井監督は映画の先を心配して危機を訴えたと思った

舘正夫は食肉流通センターで働いている。冷凍され吊り下げられた牛肉を捌く仕事。辛い仕事だ!

正夫が仕事を終えバーに飲みに行く途中で3人の男たちの喧嘩に遭遇した。学生が2人の労務者に路上飲みを注意したための喧嘩。学生の正義を問うか労務者の非を認めるか。正夫は止めに入って殴られた。どちらが正義か?そんなことコロナ禍ではどうでもいい状況だった

花子がバーに入るとそこに真っ赤に染まったマスク姿の正夫がいた

店の客はふたりしかいないマスターは休業協力金1500万円を貰って店を開けている。(笑)正夫は安部マスクで150万円儲けたと言い、安部マスク製作の無駄金使いを話題にコロナ社会の歪を話す。(笑)ふたりは酔っ払って「ありえないことが起こること」そして「夢を持つこと」を話し合った。正夫の夢は俳優だが怖くて出来ないという。花子が正夫を励まし、正夫は花子の「映画を撮る信念」を褒め、ふたりは意気投合しキスした。これを店の監視カメラがその瞬間を撮っていた。次に会ったときはキスなんかしてないと他人顔。店のカメラがこれを捕えていて、ふたりが他人になることはなかった。映像を残すことが如何に大切かを知った。

正夫は俳優志望の落合(仲野太賀)という友と同居していた。落合は花子の映画に出演できると喜んでいた。

病院のロケハン。花子がカメラを廻した。これに皆川が「意味がない」と反対。花子は「カメラを廻すと何かが動く。これを撮る」とカメラで撮ることの意味を説明した。これに皆川が「業界のやり方に反する」と反論。花子は「私のやり方で撮る」と宮川に反論した。すると皆川が「死を軽視している」といちゃもんをつけた。花子は「母を失った」と反論。皆川が「たったひとりか」とバカにする。

これが映画製作サイドの現状かとがっかり。もはやここに花子の居場所はないようだった。

皆川の言い分(業界に言い分?)が、花子が故郷に戻って家族を撮りだして、崩れていくところがこの作品の醍醐味。面白くないがここはしっかり押さえておく必要がある

正夫がアパートに戻ると落合が首を吊っていた花子の作品に出れなくなったことが原因だった。この話を花子にした。花子はプロデューサーの原に質すと「脚本が変わった、これ業界では普通よ」、「たった1500万円の作品じゃない!文句があるなら上の人に話がして!」と言う。ここまで言われても花子は「なんとかなりません」とお願いした。

落合の葬式を終えて、花子は正夫をアパートに招いた。激しく雷が鳴る夜だった。花子は「家族を撮る」と言うと正夫が「あなたが家族の映画を撮るために使って欲しい」と貯めたお金、全財産を差し出した。花子は「あなたが好き、一緒にやろう!」と正夫を抱いた。

ここから花子が故郷に戻り家族を使って「消えた母」の撮影を始めるので、これまでの雰囲気とはがらりと変わって、突飛でもない話がユーモを持って延々と語られます

花子の父・治(佐藤浩市)の屋敷裏が雷で崩れ落ちた!(笑) そこに花子は正夫を伴って戻ってきた。

花子が監督(笑)、正夫は「母が消えた理由は?」とカメラを廻す。(笑)治が「何事だ!」と動き出す。父が動き出した!花子が荒川に放った言葉が正解だった。

夜、治は正夫をカラオケに連れ出し本音(真実)を語り始めた。「花子に話すな」と言い「自分は癌だ、花子になにかしてやりたい」と話した。治は会社員で長男の誠一(池松壮亮)、牧師の次男・雄二(若葉竜也)を呼び寄せた!

赤色が好きだという花子。父と兄たちに赤い服を着せ「本当のこと話して!母が消えた理由は?」とカメラを廻した。(笑)驚く父と兄たち。答えるべきかどうか、花子はこれで金儲けかと大喧嘩!このシーンは圧巻です。こんなシーンは偶然でなければ撮れない!遂に父が口を開いた「母さんは外国だ!」(笑)。“カット“と花子の声。「こんな嘘はだれでもつける」と再び家族が揉める。(笑)

夕食時、父がしんみりと「母さんはいる。携帯を持たせたが一度も使ってない。使用料は自分が払っている」と真実を話した。「兄たちは知っていてなにも話さなかった」と怒る花子。しかし「電話するかどうか」でまた揉める。遂に花子の意見で父が電話すると男性の声で「3年前に亡くなった。遺骨が横須賀のフェリーから散骨した。渡すものはない!」と返事がきた。治が「相手が嘘をいうこともある」と横須賀に向かうことにした。

思わぬ展開に驚く

家族4人に正夫が加わり横須賀に出向き、母親の兄で運送会社社長(北村有起哉)に会い、遺骨を受け取り東京湾に散骨した。散骨では父が「お母さんのことは忘れるな!俺の記憶は残るのかな?船の上から撒いてくれ!」と話した。

治が「母さんの携帯を解約する」と携帯電話店で店員(趣里)と交渉するが「本人でなければ出来ない、死亡の場合は戸籍謄本が必要」と解約を認めなかった。(笑)治の「母さんが解約して欲しくないんだ」という言葉で事態は収まった。こんないい話はちょっとやそこらでは出てこない!

その帰り父の知合いの海鮮料理店で食事をすることになった

店長(増岡轍)が「食べろ!」と豪華な料理を持ってきて「お父さんには感謝している」ととんでもない父と母が別れた話をする。そこで話された父・治の隠された秘密。これに家族は泣いた!これで“THE ENDか?”と思ったら、隣席にオレオレ詐欺を自慢気話す4人がいた。

一度店を出て、正夫が「あいつらは許せない」と言い出し、家族全員で襲うことにしたが牧師は拙いと、誠一が殴り込みをかけることになった。(笑)「証拠を残す」と正夫がカメラを廻すことにした。しかし撮れてなかった。警察には届けないことにした。(笑)

夜、父の家に戻った。大雨で雷の夜だった。停電、ローソクの灯りの中で車座になって飲んだ。正夫がカメラを廻した。治がブレーカーを上げる合図で皆が眠った。

1年後、治が教会を訪れ雄二に「家族でハグしよう」という。

雄二が兄の誠一に電話すると、誠一は社長(高良健吾)に伴われキャバレーで客の接待をしていて「女の映画監督か?」と花子を貶なす客をぶん殴っているところだった。(笑)

夜、5人が集ってハグしようとしたとき、正夫が「ハグは撮ってある」と嵐の夜、雑魚寝で寝た映像を見せた

なぜこのエピソードが必要なのか?治は癌だった。子供たちに「存在を確認したい」と話した。

治は正夫に「娘を頼む」と言った。

父が亡くなった。4人がフェリーから父の遺骨を東京湾に散骨した。花子は「消えた女」ではなく「消えない男」にしたいと消そうとしても消えない父のために泣いた!

まとめ

コロナ禍の歪の不条理な目にあった花子が空気は読めないが天使のように優しい正夫を連れて田舎の父の元に戻り、家族をカメラで撮ることで自分が排除された理由「すべてに理由がある」「突然に消えることなどない」「ロケハンでカメラを廻すな」を、「こんなばかなことはない」と撮って見せる痛快な話だった

だから映画の結末は「突然に起こる」とんでもないエピソードの連続だった。そしてコロナ禍で知った映像記録の大切さを強調するかのように「家族のハグシーン」を父親・治の発想で撮った。映像の力を訴えた結末は映画監督にふさわしい結末だった。

前段でコロナ禍の歪を、花子と助監督の荒川やプロデューサー原の分厚いセリフの会話で、映画製作社会の不条理で描いた。後段では一転ユーモアたっぷりに花が前段で蒙った不条理を家族劇でひっくり返す演出、これはおもしろかった。

演技者の皆さんのすばらしい愛と涙の演技、なかでも名優・佐藤浩市さんのだめ親父っぷり、松岡茉優さんの口の悪い娘の暴れっぷり、天使のような窪田正孝さん、みなさん面白かった。

家族の絆の物語、家族の喧嘩シーンから始まって家族でオレオレ詐欺の退治までやってしまう。父親の隠された涙の善行があらわれ、母の消えたわけが分かるという展開、初めに理由があってこうなるか?

石井監督は常に社会の不条理を希望で克服する物語を描いてきて、コロナ禍での不条理を無かったことにはしないと描いた本作がその集大成で、前作「月」がさらに次のステップの作品だったのではと思った。

笑って泣いてコロナ禍を思い出した。映画は“予測不能なエピソード”と、“愛”、そして“雷に打たれるような情熱”によって感動作が生まれると示したような作品だった。

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