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「首」(2023)これが本当の“本能”寺の変だ!首、首と求めることで何かを失っていないか!

 

北野武監督が黒澤明監督から「君が撮ったら面白い作品になる」と言われ、「ソラチネ」(1993)と同時に構想し、30年経って公開される本作、“本能寺の変”を信長・秀吉・家康・光秀ら武将たちの野望、裏切り、運命で描き上げた「首」

期待していた。公開初日初回で観たが、確かにNHKでは描かれない、圧倒的な映像力、想像力で訴える戦国スペクタクル作品だった。

全編が首に拘る武士、茶人や百姓らの想いが描かれ、秀吉が「首なんかいらねえ!」というラストシーンに“監督の生き様”を見た感じだった。本作が北野監督の集大成だと思う

監督:北野武原作:北野武、未読です。脚本:北野武撮影監督:浜田毅編集:北野武 太田義則、音楽:岩代太郎

出演者北野武西島秀俊加瀬亮中村獅童木村祐一遠藤憲一勝村政信寺島進桐谷健太浅野忠信大森南朋六平直政大竹まこと津田寛治荒川良々寛一郎副島淳小林薫岸部一徳、他。

物語は

天下統一を目指す織田信長加瀬亮)は、毛利軍、武田軍、上杉軍、京都の寺社勢力と激しい攻防を繰り広げていた。そんな中、信長の家臣・荒木村重遠藤憲一)が謀反を起こして姿を消す。

信長は明智光秀西島秀俊)や羽柴秀吉北野武)ら家臣たちを集め、自身の跡目相続を餌に村重の捜索命令を下す。秀吉は弟・秀長(大森南朋)や軍師・黒田官兵衛浅野忠信)らとともに策を練り、元忍の芸人・曽呂利新左衛門木村祐一)に村重を探すよう指示。実は秀吉はこの騒動に乗じて信長と光秀を陥れ、自ら天下を獲ろうと狙っていた。(映画COM)


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あらすじ&感想(ねたばれあり:注意)

美しい川の流れが兵士の遺体で埋め尽くされている。沢蟹が、頭がない兵士の首から出てくる映像から物語が始める。目を覆いたくなる映像だ。北野監督らしい!

 1578年(天正7年)信長に謀反し有岡城に籠る荒木村重軍に、信長軍が城門をぶち破って侵入し双方が激しく闘う戦場がダイナミックに描かれる。ちょっとしたシーンでも手抜きがないのがいい

村重が消えた!

信長は諸将を集め、跡目相続を餌に「村重一族は磔にするが、村重は生かして連れて来い」と村重の捜索を命じた秀吉は村重と昵懇の明智がこれをどうとらえているのかと気になった。秀吉は本願寺戦のあとの詮議で信長が村重に示した行動を思い出していた。

西本願寺との和睦後の詮議時、信長が村重に「留守役」を命じたことに、村重が「四国の征伐を!」と不満を表明した。信長が切腹を言い出すと、これを明智が止めた。信長は代わりに刀の先に饅頭を差し「喰え!」と村重の口に入れて捏ね回す。村重の血だらけの口に信長が口を合わせて血を吸う。

信長の尾張弁、これがよく分からなかった。(笑)しかしリアルだ!こんなやせっぽちの信長が並み居る武将を押さえるには何かがいる?狂気しかない!加瀬さんの立ち振る舞いがよく合っている。このあとまだまだNHKでは絶対に描かれない震えるほどの狂気を見せてくれる。

伊賀忍者で芸人の曽呂利新左衛門村重が逃げた尼崎城を捜索していて、馬に乗り戻ってきたに村重を捕らえた。表向きは茶人だが裏で暗躍する千利休岸部一徳)に預けた。うさん臭い利休には岸部さんがぴったりだ。

信長は村重一族の磔刑を京の河原で執行した。白装束で一列に並べ差し出し首を斬り落とす。ここまで見せるかという映像だった。惨い!

利休と間宮(大竹まこと)は信長に対する反応を見るため明智らを茶室に招いた。明智は「その気は全くない」と否定した。利休は匿っていた村重を明智に会わせた。

明智は孤城中の村重を説得にいったときの記憶が戻ってきた。「今なら処罰で済む、降伏しろ」と勧めるが、「あんなやついるか?最初に抱かれたときから敵だった!明智にキスを求める。「今は敵だ」と明智は断ったこと。

信長は小姓の森蘭丸だけでない、村重にも手を出していたのかと驚かせてくれる。ふたりの確執の激しさからこのようなことがあってもおかしくない。

光秀は「亀山城まで運んでくれ」と利休に頼んで邸を後にした。

このころ、村を通過する秀吉軍を見て興奮する若者がいた。茂助と弟分の為三(津田寛治)だ。突然秀吉軍が襲撃を受け、兵士の首が転がる。茂助はこの首を抱えて大喜び、秀吉が憧れだった。そこに現れた曽呂利の家来にしてもらった。

曽呂利と茂助の登場は首を欲しがらない曽呂利と欲しがる茂助を描くことで信長・明智、秀吉の狂言回し役になる。

三木城攻略中の秀吉。兵糧攻めが効いている!」という官兵衛に「人仕えに飽きた!なんとかしろ!」と漏らす。そこに曽呂利が茂助と為三を連れ訪ねてきて利休の手紙を渡す。字の読めない秀吉は秀長に読ませる。

秀吉と官兵衛、秀長の関係が芸人仲間のように描かれ、そこに芸人で元古賀忍者の曽呂利が登場。この雰囲気、秀吉は孤独でない、そして笑いで狂気を隠し何にでも挑戦できる。まさに北野武監督そのものだと思った

秀吉はインチキ博打をする曽呂利に逆に金を与えて部下にして、その後の村重を捜索させた。

曽呂利らは途中で甲賀忍者のリーダー・左兵衛(寺島進)に出会う。曽呂利から事情を聴いた左兵衛は明智の館に忍び込み、監視する。

明智が雇い人を標的に射撃いていた。狂った明智が描かれる。夜、明智と村重がセックスしていた。それを忍びものが覗く。(笑)村重が明智に「信長に惚れているのか?」と聞くと「お家のためなら何でもやる」という。明智が「俺は神経をすり減らしている。信長は家康を疑っている、信長も必死だぞ」と言えば村重は明智にすがりつく。明智が忍びものに気付いた。村重は「信長か」と怯えた。(笑)

このシーンは艶めかしい!西島さんと遠憲さんの演技がおもしろい。特に遠憲さんが狂演でした。カンヌで絶賛されたとのこと。

曽呂利は家康の館に「秀吉からの使いだ」と乗り込み「信長の手紙の買い取り」と申し出た。

天正9年の馬揃え明智の英姿が町人の圧倒的な人気を得た。これでは信長が嫉妬するだろう。この美しい式典の裏で、伊賀ものと古賀ものの忍びの闘いが続けられていた。

秀吉のところに信長の手紙を持って曽呂利が戻ってきた。手紙には「家督織田信忠に譲るとして明智、秀吉の首はお前のもの。ずる賢い家康は斬ることが肝要」とあった。官兵衛が計画に取り掛かった。

信長の手紙と明智と村重の関係から、明智をもって信長を討つと決まった

 安土城での軍議。信長は小姓の森蘭丸寛一郎)とセックス、「代れ!」宣教師の従者・弥助(副島淳)を相手にする。吐き気がするようなシーンだった。

「村重の黒幕は家康だ!」と家康成敗を明智に当てた。秀吉は「毛利をやる」と申し出た。これに明智が「秀吉は疲れているから私がやる」と申し出た。これが信長の逆鱗に触れた。弥助によって廊下に放り出し、信長が激しく足蹴りする。そして「このバカが!」とキスを強要する。他作品でもよく使われるシーンだがここまでのバイオレンスシーンはない。耐えられない映像を見せてくれる!

明智が秀吉を訪ねてきた秀吉は秀長、官兵衛を侍らせて明智に対応した。秀吉は「あなたを庇うが、村重は殺したほうが良い。信長をやるのか?」と問うた。明智が「忠義を重んじる」というので“信長の手紙”を見せた。明智は「家督が子なら、今までの自分がやったことはどうなる?」と言う。秀吉は「あなたこそが跡取りだ!」と応援を申し出た。秀長が「家康が刺客を送って来る」と示唆した。

このあと秀吉は秀長、官兵衛を伴い家康を訪ねた。秀吉は秀長の勧めで家康に「信長は狂っている。私を天下人にしてくれ!あなたの草履取をする!」と頭を地にこすりつけて頼んだ。(笑)家康は「お譲りします!」と応じた。

ここからは、信長の首を求める明智に対し、秀吉の首を獲ることに拘らない権謀術数が始まる。

信長の甲州征伐。信長と家康が武田勝頼の領国へ侵攻。柵で武田軍を阻止して鉄砲で撃破する。合戦描写にぬかりはない。見せどころは信長の隠密が家康の首を狙うところ。しかし、家康が一枚上で影武者を次から次へと繰り出す。黒澤監督へのオマージュ・シーンだった。

信長が明智に今晩つき合えと誘い、戦勝祝いの接待役を明智に命じた明智は家康の武勲をほめそやし料理を勧めたが、家康は食べたふりをして食べなかった。これを知った信長が弥助に明智を斬れと命じたが、明智の「お慕いしています」の言葉で止めた。論功行賞で、明智丹波を取りあげられ秀吉の増援を命じられた。

この話を聞いた村重が「猿は味方で、都人に人気がある!天下を取れ!」と明智をけしかけた。

秀吉の備中高松城攻めが始まった茂助は田んぼの中で敵の首を獲ることに執着していた。そこに利休が「本能寺で茶会がある」と秀吉を訪ねてきた。ここでは明智が乱を起こした後のことを論議した。曽呂利を徳川の監視に当てた。

秀吉の高松城水攻めが始まった

天正10年6月2日。本能寺。信長は能を舞っていた明智は「天下を取るとお前は重い!」と村重を追放した。そして「信長を討ちとったら家康を追え!」と斎藤利三勝村政信)に指示した。信長の首なんか関係ないと秀吉は万一明智が失敗しても家康を生かすという先を読んでいた。

追い詰められた信長は森蘭丸に「感謝だ」とキスし斬った。そこに弥助が現れ信長の首を斬って持ち逃げた。どこに持って行ったか分からない。(笑)

信長の死が、あっさりと描かれる

 北野監督はどの作品でもそうだ!生と死の境は無限だ!そこに物語はない!だからこそハードなバイオレンスが描けるのだと思った。

明智は信長の首を探すが見つからなかった。これ以外に思考が働かない。

 家康は大阪を脱出し、変装を繰り返し、古賀忍者・服部半蔵桐谷健太)に守ら伊賀越えで駿府に向っていた追う斎藤利三、半蔵に阻止され家康の首を諦めた。これが後の春日局を生む。

備中高松。秀吉は官兵衛と曽呂利を派遣し宗治が切腹することで和議することにした。秀吉はこのふたりが裏切るのではないかと疑った。

毛利の軍師・安国恵瓊(六平直政)が頑固に反対する。宗治が「受け入れてもいい」というと、恵瓊は「無念!」と泣く。が、後ろを向いて舌を出す。これを見た曽呂利は「みんな阿保か!」と思った

このあと曽呂利は「武士を辞めた!」と備中を後にした。が、姫路で「光秀の首を獲る」と侍に復帰。これが災いとなり命を失う。「自分には無理」と思ったことを続けてはダメだ!

秀吉は宗治の切腹を見届けるために待機。その儀式にいらいらして「さっさと死ね、俺は百姓だ!」と声を出した。(笑)

秀吉の中国大返し。徹夜の行軍、炊き出し支援、千種川の渡河などしっかり描かれていた。千種川では秀吉ひとりが輿に乗せられて渡河、秀長に殺されると思った。これほどに思考が働く。これだけの準備をどうやってやった。首を捜す時間などないということ。

山崎の闘い秀吉の謀略で明智の指揮所が大混乱。明智は単身で山中に逃げ休んでいるところを茂三に首を獲られた。しかし茂三が「やっと侍だ、日吉丸だ!」と声を上げた直後に首を斬られた。他に考えることはなかったのか。これが秀吉と徹底的に違う。なんとも言えない虚しさを感じるシーンだった。

秀吉の陣営での首実験首、首、首が一杯並んでいる。明智の首が出てこない。秀吉は「明智が死んだことが分かればそれでいい」と首を蹴とばした。

まとめ:                           

首が斬られ、遺体が転がる生々しい光景。その戦場。時にバイオレンスで迫力のある映像だった

ストーリーは “本能寺の変”に至る信長・秀吉・家康・光秀ら武将たちの野望、裏切りが“ユーモアたっぷり”に描かれていた。これを絵にして手抜きがない。特に信長・光秀・村重の男色三角関係が戦を引き起こした本能のままの戦、“本能寺の変”に見えた。(笑)

呂利と茂助に秀吉並みのパートを割いている。こうすることで物語が生きていた。これが秀吉の狂言回しになって秀吉の生き方、いや北野監督の生き方を浮かび上がらせる。うまし設定だった。

これまでにないエンターテイメント時代劇になっていた

 男色をここまで出した時代劇など考えられない。これが北野監督に出来るといいうのは、秀吉が言う「百姓だから首はいらない」という発想だと思う。

出演者皆さんの狂気の演技、文句のつけようがない加瀬さんの信長は凄かった。歴史に残る。

首、首と首を狩ることに拘る信長、明智、茂助らは、生きる目的、戦う意味を見失っていた。これに対して秀吉の柔軟な頭を持っていた。イスラエルハマスの戦を見て、これは現代にも繋がる問題で、戦争の目的は何なのかと考えさせられる。

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