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「生きる」(1952)ゴンドラの唄だけではなかった、ユーモアがあって映像で見せる“生きる”だった

 

黒澤明作品の名作中の名作。学生のころ見たが「主人公がブランコでゴンドラの唄を歌うシーン」ぐらいしか思い出せない。これをリメイクした「生きる LIVING」(2023)を見るために見直してみた。

“生きる”とはどういうことか。これをユーモアたっぷりに描いて見せてくれる作品だった!(笑)

監督:黒澤明脚本:黒澤明 橋本忍 小国英雄撮影:中井朝一編集:岩下廣一、音楽:早坂文雄

出演者:志村喬日守新一田中春男千秋実小田切みき左卜全中村伸郎伊藤雄之助、小堀誠、他。


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あらすじ:

渡辺は癌が見つかったが、息子・喜一(小堀誠)には迷惑をかけたくないと打ち明けなかった。しかし息子夫婦は家の新築にしか興味のないことを知り、ここに居場所はないことを知った。

街に出て酒を呑んでも気分は晴れない。飲み屋で知り合った小説家(伊藤雄之助)の案内で、体験したこともない東京の歓楽街を彷徨してみたがここでも酒の苦さだけで、何にもない。

そこで出会ったのが、「市役所を毎日同じことばかりで退屈だ」と退職を希望する若い職員小田切小田切みき)だった。小田桐は玩具を作るのが好きだと言い、課長はミイラと職員の墓で評価されていることを知った。その通りだと笑おうにも笑えなかった。

俺に残された仕事はこれだと市民から陳情のある公園造りに、これまで頭を下げることに大嫌いだった渡辺が、市役所の各課長、何よりも助役(中村伸郎)に頭を下げまくって、公園を完成させた。

完成した公園でブランコを漕ぎながら歌うゴンドラの歌。これを聞いたには、お回りさん(千葉一郎ひとりだった。それでも渡辺は生き切ったと雪の降る中で亡くなった。

渡辺の葬儀。陳情した女性たち多数が焼香に訪れた。公園を作ったのは助役だと提灯持ちの課長たちが去った後、酒を呑みながら、居残った元部下たちが本当の功労者は誰だと論議が始まった。飲むに「功労者は渡辺さんだ」となった。父が癌だと気付かず、何一つ父に尽くしてやれなかった息子の貴一がこの話を聞いていた。

「功労者は渡辺さんだ」と語った職員も次の日には新しい課長の言うままに働いていた。

貴一は帰宅途中で公園で遊ぶ大勢の子らの姿を見ていた。「生きるとどういうことか」と考えていた。

感想:

冒頭、癌に冒された胃のレントゲン写真を見せる。「渡辺の仕事は時間潰しだ。生きていないからだ」のセリフで始まる物語。

強烈な市役所仕事批判から始まる。これが痛快だ!

渡辺は市役所を休まない。そんな渡辺が診断で役所を休んだ!

 ずっと椅子に座り続ける。「休暇をとったら、役所は暇だ」と分かるから。事務所には書類が山のように積み上げられている。 市民の陳情は全て断る。書類で仕事をするんだ。大量の書類が積み上げられている。このような役所は今でも見受けられる。今はもっとたちが悪い。すぐお回りさんを呼んで陳情者を追い出す!(笑)

渡辺の病院での癌診断も面白い

医者は癌だと「好きなものを喰って、手術がいらない」と嘘をつくというもの。渡辺はまさに医者からこう言い渡された。(笑)

黒澤監督ってこんな人か?ユーモアの中で癌に冒された渡辺が自分の生きる道を捜すというのが洒落ていると思った

戦後7年の東京の活気を見せてくれる

小説家に案内されて5万円使って「人生を楽しむのは人間に与えられた義務だ、無駄で失った人生を取り戻す」と繰り出す東京。パチンコ屋、ビヤホール、クラブ、バー、キャバレー、ストリップショー、ダンスホールどこも人で一杯だった。特にジャズやマンボの音楽で踊る姿に圧倒される。天井から吊るされたカメラで撮るというのも面白い。しかし、道路は未舗装で、オート三輪車とトラックが処狭しと走っていた。ここから日本は再生していったんだ!

アプレガールの小田切との出会いが渡辺を変えた

「毎日、同じことやっているから役所を辞める」という小田切。渡辺には理解できなかった。ふたりでデートを楽しんだ。喫茶店、パチンコ店、スケート場、遊園地、映画、料亭。こんなものが当時流行ったのか!

料亭で「課長はみんなにミイラと言われている」と明かされた。渡辺は「俺は死んでいる!」と笑うしかなかった。小田切「それは息子さんのせい!親はみんなそうだ、息子さんが一番好きでしょう」と言われた。帰宅すると息子の貴一に「5万円使って、女と遊んで」と言われ、渡辺は小田切の言わんとすることが分かった。

茶店で、「もう話すことが無くなった」という小田切。渡辺は「これからひとりになるがどうしたらいいか」と問うと「私は工場で玩具を作っているが、これだけで楽しいよ」と言った。

葬儀から始まる、渡辺の生き方を問う演出

葬儀の主役助役とその支持者が帰った後、元部下たちが「公園を作った本当の功労者は誰か」と論議が始まる。結構長いシーンになっていて、役所根性がしっかり描かれ面白い。

発言者が見た渡辺の姿が紹介される。何度助役を訪ねても無視され立ち続ける渡辺。雨の中に佇んで工事を看る渡辺。雪の中、揺れるブランコでゴンドラの唄を歌う渡辺。

ぐじゃぐじゃしなくて簡潔で分かりやすい。話が進み、最期は皆が「功労者は課長だ」となった。ここでの左卜全さんの演戯、得難い人だと思った。

生きるとはどういうことか

橋の上から公園を見る息子・真一の姿がズームアウトし、公園で遊ぶ子供たちがズームアップされるラストシーン。息子貴一の胸に、市民の皆さんの記憶の中に生きていた

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