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「シェル・コレクター」(2016)

20160416
シネマクレー
未体験の艶麗劇薬ファンタジー誕生」というコピー、と出演者リリー・フランキー寺島しのぶ池松壮亮橋本愛さんの演技をみたいと行ってきました。
物語は、妻子と離れて沖縄の孤島で暮らす盲目の貝類学者が、島に流れ着いた女性画家の奇病を貝毒で完治させたことから、治療を求めて島に殺到する人々によって学者の静かな生活が狂い始める姿を描いています。
物語の展開は寓話的で、盲目の学者の記憶や想像、幻覚が入り乱れ現実を抽象化しており、観る側にその解釈が任されていています。
美しい沖縄の海中とそこに生きる生物・貝の美しさに圧倒されるとともに、貝の毒に纏わる生命の不思議自然と人間の係わり、孤独について考えさせられます。
リリーフランキーさんの醸し出す盲目の学者の表情、指や身体の動かし方、喋り方に圧倒されます。また、寺島しのぶさんの生を得て歓喜し昇り詰める感情の表情や身体を使った演技は、国際級で、すばらしいものです。
*****
物語、
うつくしい海底に沈んで行く男、亀が泳いでいて、「ここにあるのはただただ純粋な謎だ。貝は螺旋を描く。なぜこの形でこの模様なのか。なぞってもなぞっても答えは永遠に出ない。その美しさは言葉にならない領域でしか感じ取ることができない」と言う貝類学者(リリー・フランキーさん)のナレーションで始まります。物語は億単位の年数にわたる生命の不思議にかかわっていることが伺えます。
孤島、赤やけの美しい海。ピンセットで肉片を取り出し、貝を調べる貝類学者の視線はとんでもない方向を向いていて、「貝は不思議な生き物で昆虫類に次ぐ群で5億年のときを経て作った螺旋をもち自ら作りあげた骨格のなかで一生を過ごす」と呟き、まさに自分がここに留まっていることの意義を語っているようです。貝を指で撫でる動作が艶麗ということなのかと想うばかりのフランキーさんの演技は見事です。

研究室(シェルター)にあるラジオで「皮膚の謎の病気について、明確な治療法はない。手や足の麻痺から死にいたる、自殺者が出ている」という放送が流れている。
イメージ 2貝類学者は海に身を投げここに流れ着いた“いずみ”という女性(寺島しのぶさん)、その腕には赤い皮膚病変がみられる、を研究室に泊める。いずみは、貝類学者が貝の収集で不在中に、学者が収集したイモガイ(形がイモに似ていて猛毒を持ち獲物が来ると毒を打ち麻痺させることができる貝)に刺され気絶する。が、学者が戻ってきたとき、目覚め、「元に戻った」と歓喜し、部屋の壁に大きな螺旋の貝の絵を描く。そして貝類学者に迫り強引に身体を重ね、朝になるとあの感覚を味わいたいともう一度貝に刺されたいと言い出し貴方と一緒に暮らしたいと言う。貝類学者は「あれは毒貝だ」と、共に過ごすことを拒否するといずみは島を去って行く。
イメージ 5貝類学者は海底に沈んで(貝になって)「生物は生きるために、場所を新たに準備するか滅びるかいずれかの道がある」と呟く。
 
奇病を治療したという噂を聞き付け、貝類学者のもとへ人が押し寄せるなかに、いずみと同じ奇病に冒された娘蔦子(橋本愛さん)を助けたいと願う島の有力者弓場が訪れ、協力しなければ島から出てもらうと言い、貝類学者はこれに協力することになる。訪ねると祈祷師の祈りのなかで蔦子は苦しんでいて、祈祷師の「お告げがあったので貝を乗せて欲しい」と促され、蔦子の手に乗せると貝は皮膚に食いつき、みごとに完治する。
 イメージ 3
奇跡を起こした貝類学者が杖をつき海辺を探索しているシーンは童話の世界のようで美しい。ここで、貝類学者の過去が簡単に語られる。彼は幼くして視力を失い、訓練でリンゴに触れるがなにも感じないが、海辺で水に触れ、貝に触れることに喜び、先生に「いいものを見つけたね」と褒めてもらう。
噂を聞き、外国人記者が訪ねてきて、「貝は薬か、たんなる毒か」と聞く。彼は、「貴方が探している学者はもういない。自分は探すのを止めた」「孤独は貝に似ている」「人が居なくなると自然に戻る」と答える。
記者が帰ると、ラジオが「科学的根拠はない、むやみに島に近づかないように」と放送を始める。
しかし多くの人が島にやって来るなかに息子光(池松壮亮さん)の姿があった。光は父に会えたことを喜び、いまはある環境ボランテイアに属しているといって、訪れる人に「奇病は環境汚染が影響している」というパンフレットを配る。
貝類学者は、光が子供たちと海岸で遊ぶのを見て、あれではいつ貝に刺されるかもしれないと心配する。上空にはP-3機が飛んでいて、貝類学者は渦巻く海水の形が爆撃機や戦車の形に見えるという幻覚に陥る。
光は父に「お父さんはどうして生きてきたかを知りたい」と言い、「あの貝のこと、いずみという女性のこと」を聞きたがる。「貝が欲しいのか、売るつもりはない」と答えると、「この国に戦争がある、今止めないと戦うことになる」と言い出す。光は、貝でお金をつくり、戦争を止める運動に使いたいらしい?
夜になると、海辺ではキャンプファイアーで盛り上がり光も参加して騒いでいる。貝類学者は、海の底に沈んで(貝になって)クラゲが踊っている夢をみてると突然起こされ、光が倒れているというので駆けつけると貝に刺され意識不明になっている貝を握らせるが戻っては来なかった。
学者は焚火を見つめ、海を眺める。突然雨が降り出し、自分は海に沈み、海中の泡の中に漂っている(貝になって)と光がやってきて「お父さん、ザトウクジラとすれ違って、彼等は北極の海に帰る。つめて~」と言う。
「生物はそれぞれの生態に適したところで生活する。」「光、わたしは君が生まれてくるのが怖かった。お前は何でも出来た。どこかで生きてくれればそれで良かった。」「お父さんがずるいよ」「私は君に会えてよかった」。
夢もなかで光を送った。 イメージ 4
シェルターに戻ってくると、蔦子が訪ねてきていて、二人で海辺にでる。蔦子は「私たち一族は、神は向こうから来たと教えられている。この海の彼方に神が住む国がある。私たちの魂は必ずこの国に戻る。留まらず、常に旅を続ける」と話す。
私には一つだけ分かったことがある。それは「私は何も分っていなかった」ということ。
海に入り戯れる蔦子、砂浜にペットボトルを被ったヤドカリが動いている。
「ごうごうと地鳴りがして、ひたひたと海水が押し寄せ、火山が噴火する。セルターが流される。うつくしい浜辺を二人で貝拾いを楽しんでいる。名前はまだない新種の貝。静かな海辺の風景、海中は泡が渦巻いていて・・」、幻覚でしか孤独は味わえない。