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「海よりもまだ深く」(2016)

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是枝監督作品、そして監督にかかわりの深い阿部寛さん、樹木希林さん、真木よう子さん出演作ということで観てまいりました。
本作、小説家になる“夢を諦め切れないまま探偵事務所で働く男が、たまたま実家に集まった母、元妻、息子と台風の一夜を過ごすなかで、自分を見つめ直すという物語。

この男の話ということでなく、今の世にはありふれた話でここで語られる言葉に身につまされ、観終わってじわじわと良さが伝わってきます。なかでも、そんな息子に深い愛情を寄せる母の姿に感動です。なんども観て深く味わいたい作品です。

ごく普通の生活なかで交わされる会話はユーモアがあり含蓄深く秀逸で、役者さんの名演技と相まって、感動的です。特に希林さんの発する言葉には説得力があり役を超えたすばらしい演技でした。
団地風景や室内美術、そしてテレサ・テンの「別れの予感」、がめ煮にカレー料理は物語の雰囲気によくマッチ、情感を高めてくれます。
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物語、
冒頭、台風の情報がラジオから流れるなかで、集合住宅に住む母淑子(樹木希林)と娘千奈津(小林聡美)の会話。
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半年前に夫を亡くして済々したという母に、千奈津が「お友達作ったら」と言えば、「葬式の数が増えるだけ」という。自慢の料理がめ煮を作って、「人と同じでもう少し寝かせないと味が浸みない」と言う。
ここでの母と娘の会話における、希林さんと小林さんの演技は絶品です。

敏子が「隣の柴田さんが、中学の頃はぱっとしないのに、引っ越しちゃった。家には大きな大将、大きいには大きいんだが、“大器晩成にしては遅すぎる”」と話していると、
息子の良多(阿部寛)が電車、バスを乗り継いで、団地の近くで手土産買い、途中で友達に「頑張ってるね、賞もらったんでしょう」と声をかけられ、集合住宅3階の部屋に帰ってくる。

良多は仏壇に手を合わせ香典を抜き、「父の残した“雪舟の掛け軸”が欲しい」と母に問うと、「あんたは馬鹿だね、箱は本物だが中身は嘘よ、お父さんのものは邪魔だから全部捨てた」という。
クラシックを聴きながらカルピスを凍らせて作ったアイスキャンデイを二人で食べる。そして、「ここでの生活はとっても便利になった」と言いながら、小さなベランダで育てているみかんの木に「花も実もつかないがあなただと思って、なんかの役には立ってる」と嘯きます。(笑) 会話にウンチクがあって面白い。
見えっぱりの良多が1万円札を出すと母は「もう良い」というが、「ついでにマンション買って」という。「無理しないでいい、私は一人でいいように暮らしている」。

良多の仕事は小説家のはずだが、15年前に文学賞を獲ったきりその後は鳴かず飛ばず。妻響子(真木よう子)には愛想つかされ離婚、11歳になる慎吾(古澤太陽)は彼女が育ている。

〇思い通りにならない、どうしようもない、良多の人生
良多は興信所に務めている。小説の“ねた探し”と言っているが、いまではこちらが本職のようになっている。
浮気調査では、彼女に調査されていることをしゃべり見返りを要求するという悪探偵。この彼女も、こんなはずではなかった一人で、「私の人生どこかで狂ってて、これ無かったことにしてちょうだい、幾ら」と言われ、応ずる。次から次へとこんなはずではなかった人がでてくるところが面白い。良多だけではない。()

 
この金を2~3倍にしようと競輪に通う。すってんてんになり、相棒の町田(池松壮亮)に借金するというどうしようもない男になり果てている。
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興信所の所長山辺リリー・フランキー)、良多の売り上げ金(借金)を見て、「男がおかしくなって、ストーカーはみんな男。女が浮気する時代に感謝してるよ、小さな時代になった」。
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これを聞く良多、いったい別れた妻はどうなっているのかと気にしながら自宅に帰ってくると、部屋はめちゃくちゃに散らかっていて、「どこで狂ったか私の人生」と嘆く。
 
〇良多、町田とふたりで元妻響子の張り込み
響子は新しい恋人福住(小澤征悦)と楽しそうに息子の野球を応援しているではないか。信吾が「見逃し三振」になったことで、福住がバテイングセンターで特訓中。福住が慎吾に「そんなことではヒーローになれない、お前のヒーローは誰だ」と聞くと「おばあちゃん」だという。

こんな慎吾を見ていた良多は慎吾がトイレに入ったのを見て近づき、「何してるやつか」「結婚するって」「聞いてみろよ、日曜日にな!」「お金大丈夫」と慎吾。息子に金のこと心配されるという情けなさです。(笑)
 
出版社に顔を出すと、「マンガの原作はどうか」と持ち掛けられ、「名前がでるんでしょう、別のもの書いているんです」などと見えを張る。帰りに妹に金の無心する。
「書けそうなんだ」というと「私たちのことは書かないで、お金もないのにお母さんにあげたんでしょう。お金が無いのにあげて、私に電話があった。お父さんも金貸してくれと来た。おとうさんに比べられるの嫌でしょう。まともに働いていたら母の団地生活はなかった。練馬にいたころはお金を米粒のなかに隠していたの」と言い、出し渋る。
 
〇淑子は団地のクラシックを聞く会に出て、
クラシックの先生(橋爪功)が「昔3チャネルに出演を請われたけど音楽の神様に悪いと断った」と言うのを聞いて、「ここにも思い通りにはいかなかった男がいる、良多だけではない」と淑子は思うのでした。(笑)
 
〇男からの調査依頼に、
良多が「このような男に、女を幸せにできるわけがない」と、町田に「一人でやるか」と持ち掛けると「焼きもち、未練でしょう」という。
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良多が「失くして初めて愛に気付くんだよ、荒さがししている場合ではない。離婚するまで家族の話はでなかった」と自分の体験を話す。
町田が「会いたくなったら向こうから会いに来ますよ」と慰めると、町田に「何になりたかったんだ」と聞く。すると「地方公務員、おやじみたいになりたくなかった」という。俺と同じで、なれなかった人生を抱えているやつがいると良多が苦笑いする。
 
・高校生の火遊びを見つけて、「向こうは火遊びだ、やめとけ」と注意すると、「あんたみたいな大人にだけはなりたくない」と言い返され、「そんなになりたい大人になれると思ったら大間違いだ」と逆きれする。一向に大人になれない良多でした。(笑)
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・浮気する奥さんの言い分
ホテルに尾行し「女の子は恋愛を始めると前の記憶が無くなる。下の絵が見えなくなるデーターの裏書と違う」と問い詰めると、奥さんが「私のおかげで儲かったでしょう」と言う。「旦那さんは知らなかったほうがよかったんですかね」と問うと「全部含めて私の責任、これで養育費を払って終わりにして!」。
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ここにも思い通りにいかない人生に苦しむ人がいると興信所に戻ると、所長から「篠田、この仕事に慣れたろう。本腰で小説書けよ。誰が主役か? 高校生ゆすって金獲って、元上司の息子だよ、この会社潰す気か」「そんなに息子に会いたいならさっきの封筒だせ」「なんでこんなに入っているの、“誰かの過去になるのが大人の勇気というものだ”」と諭される。リリーさんが話すと説得力があります。(笑)
 
○台風がやってきて、
月に一度の慎吾との面会日。響子に会うと「お金は!」と問い詰められ、「お茶飲もう」と誘うが拒否される。
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慎吾つれ運動具店でいんちきして靴を安く買い、二人の絆だと宝くじを買う。本当にちゃらんぽらりんで成長してない男です。

良多が金の工面で母を訪ねと千奈津夫婦も来ていて夫(高橋和也)が台風に備え窓ガラスの目張りをしている。この人だけが小さいながらも幸せに生きているように見えます。だんだんと雲行きがおかしくなるので千奈津一家は車で帰ってしまい、代わりに響子が慎吾を迎えにやって来る。

・母と慎吾
母淑子と響子が料理を作り始める。慎吾が作文:尊敬する人を読んで聞かせると、「尊敬するならお婆ちゃんでなく、マザーテレサか宇宙飛行士にしなさい」と淑子が嬉しがる。
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出来上がったカレーを食べる。「半年前のカレーだ」と言い、飛沫が良多のシャツに着き、これをふき取る母、いくつになっても子供なんですね。(笑)
母淑子が「慎吾は文才があるようだからパパに似たのかな、パパに似たくない? パパが嫌いだから別れるのではなくて、好きだから一緒になったのよ」というと、信吾が「宝くじ買ったから、当たったらお婆ちゃんも一緒に住もう」と応え、これに淑子さんはうれしそうです。
 
・良多と響子
良多が風呂に入るが、団地の風呂が小さい。慎吾が風呂に入ってる間に久しぶりに良多と響子の間に会話が始まる。
母はそっと三人の寝具を準備して、元に戻ってくれたらという気持ちが見え、この二人に対する気持ちは少しも変っていない。母の気持ちがしっかり伝わってきます。
良多は「純文学の時代ではないのでマンガにしてみようと思う。そうすると教育費とか・・」と話すと「そんなに父親になりたいのなら何で一緒にいる時にしなかったの」と響子。良多が「終わっていない、慎吾のずっと父親なんだ」と言えば、「大人は愛だけでは生きて行けない。所詮月1度の父親ごっこだから、今後無理して会わなくてもいい」と言われる。
 
・母と良多
良多は、またまた隠し金を探し始めます。ストッキングでラッピングされた封筒、もしやと出してみるとすでに千奈津が手をつけていて、仏壇を探すと線香立ての灰が固まっていてそれを掃除していると母がやって来る。

「私はここで死ぬだろう、弱っていくのを見ておきなさい」「お父さんがポックリ逝くなと夢に出てくるんだよ、お父さんは生きていると思っている」「長く生きているのとポックリ逝って夢に出てくるのとどちら、ファイナルアンサー」。「思いどおりには行かん、時代のせいで。その線香立て、お父さんだと思ったでしょう。居なくなっては駄目」「何で今を愛せないのか、居なくなったものを追い回したりしても面白くない。幸せは何かを諦めないと得られない」
続けて母は言う「私は海より人が好きになることはないが、普通はない、それでも生きている。ないから楽しく生きて行ける。単純よ、人生なんて。単純よ、小説書きなさい」。
 
・母と響子 
良多はトイレに起きてきた慎吾を連れて、昔父と一緒にしたように、台風のなかの公園に出かける。
ふたりがでていったことを気にしながら、母淑子と響子の会話。
「もうあなたたち駄目なのかしらねえ」「お母さんには本当に娘のよう思ってもらってすいません。良多さんは父親には向かない」「お寿司はもうやめにしましょう。慎吾の臍の緒あなたが持っていて。なんでこんなことになったのかねえ。へたな子だよ、私に似ている」。
 
・良多と慎吾、
台風のなか、公園の遊具タコの滑り台の中で良多と慎吾は菓子を食べながら、「慎吾、おじいちゃんのこと覚えているか」「おじいちゃんのことパパ嫌いでしょう」「喧嘩した、パパ小説家になるから、何になりたい」「公務員」「パパは何になりたかったの」「まだなれていない、大切なのはそんな気持ちを持って生きているかどうかだ」。

様子を見に来た響子、一緒に遊具の中に入って、良多の「こんなはずではなかった」を聞き「そう、こんなはずではなかった、もう決めたんだから前に進ませてよ!」、「わかっていた」。三人で缶コーヒーを飲んで、「もう子供じゃないんだから」と響子。良多が宝くじを落としたと言い出し、三人で探す。
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朝、台風が去ったニュースを聞きながら4人で食事。「泊まってよかったでしょう」と母、父のシャツを取り出してきて良多に着せる。こまやかな母親の愛情を見ます。
電車で帰ってきて、駅で別れる。
響子は慎吾に「あのときどうして打たなかったの」と聞くと「フォアーボールを狙ったんだ、フライになると困るから」。この人生比喩は秀逸です!

良多は去っていく二人を見送って、振り返り前に歩き出す。「失くしてみて、はじめて、大切なものに気付く」。
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                                              「別れの予感」
 記事1 20160524
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