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「二重生活」(2016)

イメージ 1「二重生活」(2016
本作に出演の門脇麦さんの演技についてA-Studio」(20160624)で鶴瓶師匠(MC)がすばらしいと褒めているのを耳にして、これはと観てきました。鶴瓶師匠は「このすばらしい演技が出来るのは、日常がいかに安定しているかということです。普通のことが出来ることで演技ができているということを、この年で悟っているのがすごい。学生時代、すごく閉ざしていたから開くことが苦手であったが、役柄に入ると全部が開けてすごく楽になるという技を覚えたこと。この年でこんなすごい女優が現れたということ、これからも女優として続けていってほしい」と言うものでした。原作は小池真理子さんの同名小説、岸善幸さんの初監督作品です。
本作、大学院の修士論文のため院生白石珠(門脇麦さん)が教授の勧めで不特定の人間を対象とした“哲学的尾行”を始め様々な出来事を経験して、人間の二重性は誰にでもある。他者を知る唯一の方法は他者と同一化するぐらい考えることが重要であると気付き、自己を確立していくという物語です。

前半はサスペンス狙いで“尾行行動”を描くことに力点が置かれテーマが解り難いですが、後半になって人間ドラマとなり、提出された論文要旨を咀嚼することで哲学的尾行という意味を知ることになります。
この作品は門脇さんのための作品と言ってよい。自然な演技、裸を見せることに戸惑いがないので一層自然に見え、生まれ持った思いやり・やさしさが随所に出ていて、尾行するときのどきどき感に、尾行をされる場合にはさらにこれが増幅されてサスペンス感によく出ています。また、自分の意志ではなくなんとなく恋人には合わせて生活している感じがとても自然ですばらしい演技です。
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物語
「何ヶ月か前から人をつけるのが面白くなった・・・」という論文、論文を読み終えた男がドアーを閉め電源コードで自殺するところに女性が駆けつける。この男がなぜ自殺しようとし、なぜ女性が駆けつけたのか、物語は回想の形で始まります。
朝の明るいマンションのベッドの中のふたり、表面上は穏やかに過ごしていますが生活感がない。女性は主人公大学院生白石珠、男性は同棲中の鈴木卓也菅田将暉さん)です。ここでのシーンはとても自然できれいなセックスシーンになっています。さすが、門脇さんです。(#^.^#)
ことの後始末は珠がして、ゴミ出し。これを監視カメラが記録し、適切に仕分けしてゴミ出しが行われたかを管理人が点検している。不十分なら注意することになっているらしい。物語はこの監視カメラの時刻記録に沿って進められる。常に監視カメラで監視(尾行)されているという、嫌な時代になりましたね!物語ではこの監視カメラが重要な役割を演じます。
珠が出校して講義を聞いています。教室では哲学科教授の篠原弘(リリー・フランキーさん)が「哲学とは“あるとは何か”を明らかにすること・・」と講義中です。このようなわけのわからない役(?)にはリリーさんの雰囲気がぴったりです。(笑)

論文テーマの決定。
珠は教授に修士論文のテーマについて「人間はどうして存在するのか、何で生きているのか、正直なんとなくここにいて自分でどうしているのか、胸がもやもやして、町で見かける人の気持なんか集めるといいかなと思っている」と相談すると、教授は「それを見つけるのが哲学です。友人でなく、たった一人の対象者を追いかけて人間とは何かを研究することです。ここで気付かれてはいけません。尾行ですから、理由のない尾行(哲学的尾行)です。やってみませんか。面白い論文になる」と勧めます。珠はやってみることにします。

石坂史郎の尾行。
珠は、早速書店で尾行関係の書籍を探していると某作家のサイン会に立会している男性社員、マンションの隣の一軒家に美しい妻と娘と住む石坂史郎(長谷川博己さん)に出会い石坂を尾行することに決め、尾行する日々が始まります。尾行の状況は手ぶれカメラで撮られていて臨場感があります。
尾行することに珠は素人で、いつ見つかるか、失敗するかとひやひやしながらその行動を追うことになります。卓也から電話があっても「今、話せない」と尾行することに熱中していきます。
イメージ 2石坂はコーヒーショップで女を待ち、人気のないビルの陰に移動してセックスを始める、こんな尾行ならやめられません。() タクシーで帰る彼女を尾行しメールボックスを確認して検索し彼女の名前(澤村しのぶ)を突き止め記録する。
帰宅すると卓也はイラストを描いていて、「そんなことばかりやっていて論文順調なのか」と疑問を投げてきます。しかし、珠は教授に改めて哲学的尾行で論文を書くことを伝えると、「対象と接触してはいけません。接触すれば哲学的尾行ではなくなる」と改めて注意を受けます。
学友から「あの先生の指導を受けれるのは羨ましい、頑張って」と声を掛けられる。篠原教授は誰かに電話で「二ヶ月です。それでかまいません」と喪の準備をしている? (ここでは何のことか分からないですが、ラストでアングラ劇団の女優さんに奥さん役を依頼している電話なのです)

珠がおにぎりを食べながら待っていると、ビルから石坂がでてきてタクシーで出かけるので、これを尾行。石坂は喫茶店に入り小説家と打ち合わせを始める「なにか足りない、読者が我を忘れて読むものを、第2章は不要だ」と手厳しく意見を述べている。珠は「仕事のできる人だ」と思うのでした。終わると「パパだよ」と娘に電話している。二重生活者だ!!
帰宅し、管理人に聞くと「この地区の土地を持っていて出版社の部長さんだ、奥さんは可愛い人、お嬢ちゃんは・・、セレブな夫婦よ」と教えられます。
朝、石坂家を見ると妻・娘を伴ってお出掛けの様子。珠は卓也に「図書館で本借りて、友達に会うので帰りは遅くなる」と嘘をついて尾行開始。達也はがっかりしている様子。石坂は水族館で家庭サービス中です。イメージ 3
(篠原教授は女性を伴って入院中の母親を見舞っている。母親は「こんな素敵な人が、次は孫の顔がみたい」と言い、3人で写真を撮っている。
朝、珠が外を眺めていると、管理人がゴミ集積場の掃除をしていて、そこに石坂の奥さんが花を捨てに来ます。管理人がなにかを奥さんに話しているようです。

この日の尾行は痛々しいことになる。珠は出版社で石坂を待って尾行するとあるホテルへ出かける。石坂が待っていると“しのぶ”がやってきてホテルの食堂へ、ワインを飲み始める。ここに珠が接近、聞き耳を立てる。二人はなにかで揉めて、しのぶが「わかっているから、もういや!」と言って席を外す。このときホテルの外に奥さんと娘がいて(珠をつけていた?)、石坂がホテルから出てくると娘がパパと叫ぶ。奥さんが、石坂に娘を預け、ホテルに走り込んで行く。石坂は娘とタクシーで帰ってしまう。
珠は奥さんを追ってホテルの中へ。洗面所で“しのぶ”にばったり会い「奥さんに頼まれてつけていたの」と怪しまれるがこの場をなんとか切り抜ける。
奥さんはしのぶを追うがタクシーで逃げられてしまい、悔しさで酒を買って飲み泣き叫ぶという醜態を演じます。(ここで、篠原教授がスパゲテイ弁当を写真に撮ってから食べ始めるシーンが入ります)
夜、卓也はイラストの仕事中。珠は論文資料の整理。そのとき、ピーピーとサイレンの音。何事が起きたかと外に出ると、石坂の奥さんが自殺未遂で病院に搬送されるところだった。石坂が珠を見つけて睨んでいる。マンションの部屋から卓也がこの状況を見ている。
イメージ 5次の日、珠は石坂に呼び出され「俺をつけていたな、女房に頼まれたか、恨みがあるのか」と迫られ、珠は接触しては論文ができないと必死に逃げる、逃げる。篠原教授に至急相談したいと電話するも通じない。(教授は病院で母親の臨終に立ち会っている。「終わりました」と彼女に礼を言うと彼女は“おかあさん”と泣いている)。
家に帰りつくと、電話が鳴っていて出ると石坂から「逃げても無理だ、会おう、時間はそちらで決めろ」というものでした。卓也が「誰から」と聞くので「教授」というと「嘘だ」というので正直に石坂を尾行していたことを白状する。卓也は「そんなことをして何の意味があるのか。俺たちは何で一緒にいるんだ。分からん」と涙する。珠はこれまで大切にしていたものを失うとしても尾行を止められないのでした。

珠は石坂に喫茶店で会うと「何故付けた、妻の自殺未遂は君に責任がある」と責められ、修士論文のためだと論文を見せる。そして謝罪します。許されず、夜になり酒場で飲み始め「俺たちのことを論文に使うな」と言われる。「何とか使わして欲しい」と懇願してるうちに飲みすぎて訳が分からなくなり自分から抱きつくなどしてラブホテルに行くことになります。が、娘からパパという電話が入り行為に及ぶことはなく、正気に戻った珠は「父を早く亡くし、高校生のとき励ましてくれた男性を好きになったが何も言えずガンで失い、私の大切な人はどうして居なくなるのか、私は取り残されるのか、考えても考えてももやもやするばかりで人とうまく付き合えず、深いところではいつも空っぽ。卓也と会っても空っぽ。石坂さんを尾行することで空っぽのところが埋まる気がして、何か埋められるように思えて書いてみたい」と論文にすることを認めて欲しいと必死に訴えるのでした。
石坂は「陳腐だ。同情しろと言うのか。この世界で満たされている人などいない。人間が何で生きてるかなど分からん。あの女とどうして付き合っていたか聞きたいのか、自分で考えろ!」と珠の望みを跳ね返す。これを聞いてただただ珠は泣くのでした。
これを見て、石坂は自分の秘密を使うことを許可する。二人はタクシーで家に帰るが誰かに見れている(卓也に?)。

篠原教授の尾行。
珠はこれまでの成果を教授にみせると、対象者と接触してしまったが対象者を変えてでも続けるよう指導受ける。そこで珠は教授を尾行することにする。尾行すると、教授は彼女とスーパーで買い物をしている。お酒を買ってふたりで自宅に帰るまで尾行してここで打ち切り帰宅します。
(教授の家では、「彼女がお世話になりました」と指輪を返し、教授は「またお会いできますか」と問うが彼女は無言で去って行く)
イメージ 4帰宅すると卓也がインスタントラーメンを食べていて、一緒に食べる。卓也が「俺たちおかしくないか」と問うので、「わたしのせい。私は論文のことしか考えられない」というと彼は「俺、引っ越すよ」と宣言します。珠は尾行に熱中して卓也を失うことになりました。
(篠崎教授はひとり自宅で彼女が作ってくれた弁当の写真を見て彼女のことを思い出している)
珠は「尾行すると、されている方か、してる方か分からなくなる」(彼女の経験)と論文を書き始め、居なくなった卓也を思い出し涙するのでした。
イメージ 6朝、隣の石坂家を見ると三人でお出掛けです。石坂が珠をにらんでいる。(石坂と妻は何故元に戻ったのかと)珠は論文を書き続ける、書き続けてやっと完成しました。

出来上がった論文を教授に読んでもらうと「すばらしい論文だが対象者Bは修正しなさい」と言い「芝居を観なさい」と”主婦殺人事件”という舞台チケットを渡される。芝居を見に行くとこの芝居に教授の彼女が出演しているではないですか!!
(教授は、「これから2か月間妻役をお願いします。これを着けてくださいと指輪を渡すと彼女が「素敵」と言って着けた光景を思い出しながら、生きた方がいいのか、死んだほうがいいのかそれとこれは別問題かと苦慮している)
珠は芝居が終わると彼女を尾行するが、自転車で全く教授のことなど頭にないようにどこかに去ってしまう。(教授はしずかに論文の採点を終え、電源コードをドアーに引っ掛けて・・冒頭のシーン)。ここに珠が訪れるのでした。
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エピローグ
珠は論文が審査をパスしたこの機会に引っ越すことにする。引っ越し荷物を整理していると卓也が残して行った封筒に入った絵(珠の寝顔)を見つけるが、もう終わったことと、そっと封筒に戻します。
論文要旨は「平凡で穏やかで満ち溢れている人生はない。苦しみを軽減してくれるのは自分を他人と向き会うことで互いの情熱を知ることが唯一の道である」というものでした。

珠は渋谷のスクランブル交差点で指輪を付けた人(教授?)を見かけ微笑みます。この尾行で「見つけたのは、本当の私でした」。
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