タイトルから面白そうな映画だなということで観ることになりましたが、これからの世界、とんでもないことが起きるかもしれないなと恐ろしくなります。(笑) 田舎の劇場が満杯という凄い人気のある作品であることにも驚きです。
ヒトラーが目覚めて、現在のドイツ各地に出かけ「お前らは何をやっているか」と会話し(これは本物のインタビューです)、それがネットで広まり人気者になっていく前段、このヒトラーは物まね(偽物)ヒトラーだと思われて、市民がかってのヒトラーの政治テーゼ、人種問題、難民問題、ヨーロッパの政治形態などに同調していくところがとても面白く、笑えます。今年、最高に笑いました。
しかし、芸人として大成功し実在の政党、政治家と交わるあたりから怖くなり、物語の最後の1/3は恐ろしい未来を想わせる結末に寒くなります。本物を偽物として見せるトリックが見せどころです。
現在、世界が右翼化していくなかにあってよく作れたなと感心する反面、この内容を受け入れられない国もあるのではないかと推察します。
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物語
○ヒトラーの誕生
ゲーリック元帥はどこだ、敵は休戦のようだ。子供たちに会うと“ヒトラー・ユーゲント”と挨拶を送るがサッカー中の彼らには無視され、「こんな子らの声はあてにならん」と総統官邸のあったブランデンブルッグ門に急ぐ。こんな調子で面白可笑しく物語が進みます。
ヒトラーの偽物が現れたということで写真に撮られたり、パントマイムの男に怒鳴られたり、ドイツの女性は「すばらしい!」と近づくとスプレーをかけられ意識朦朧のなかで辿りついたのが新聞スタンド。面白い“おっちゃん”ということでここにしばらく世話になることに。そこで「トルコはどうなった」と新聞を読み始め、現在ドイツの状況を把握する。
○マイTVのデイレクター・ザヴャツキとの出会い。
ザヴャツキの務めるマイTVの社内人事で、次の局長候補ゼンゼンブリンクが破れ局長には敏腕女性のペリーニが就任。ザヴャツキはゼンゼンブリンクの手下であったために首になる。局に帰るにはそれ相当の“ねた”を掴まねばと、ヒトラーの物まね芸人を訪ねて新聞スタンドにやってくる。
このときヒトラーは長く着ていた制服を洗濯にだして緑のパンツ姿。この男に話し掛けると話が通じない。
「ルーマニアの次はどうする? 砲には砲だ。ポーランドなんぞ、ポーランドとルーマニアの約束を忘れたか」。これを聞いたザヴャツキ、「これは受ける。『ヒトラーのそっくりさん、現代のドイツに生きる』」で俺が撮ると番組を企画する。
○全国漫遊の旅
ザヴャツキ、金がないので母にせびり、車を借りる。この車がピンクのワンボックスカー。「なんだこれは、銃殺刑だぞ、親衛隊はどうなっている」というヒトラーを連れてベルリンを出て各地を旅する。
犬を見て「ダックスフンドと交配してはどうか、もうセパードは産まれん」「アメリカ人はIQ40だ、ドイツは80以上だ」と彼の純血思想を披歴。「俺は祖国のために死んでもいい」「エボラ熱、ドイツは何も言えない。政治家が金を懐に入れているからだ。国会の前で訴えろ」とドイツの抱える移民、
環境問題、失業、若者の貧困など数々の課題を明快に説いて回るが、“これに芸人のふざけ”と見て大いに語るドイツ民衆に笑えます。(笑)
この旅で、彼はブリーダーの意見を聞いているときに噛みつかれた犬を射殺するという事件を起こす。
ザヴャツキはここぞとばかりに元上司ンゼンブリンクに番組提案するが「ヒトラー番組には反対」と断られる。ヒトラーが直接ペリーニに交渉、「チェコに進出できたのは俺だ。俺には断固たる世界観がある」を聞いて「こいつは本物の芸人だ、受ける!」と判断、ユダヤ人ネタを言わないことを条件に彼のテレビ出演を許可する。
そして彼はパソコンを覚えることになり先生はザヴャツキの恋人クレマイヤー。IDにアドルフヒトラーは使われていて彼の住所オーバーザルツベックにする。そしてインターネットに加入「これで世界制覇ができる」と呟く。まさにヒトラーの宣伝戦略にぴったり(現代の危機)。
○TV進出と野心。
「人気のヒトラーをユダヤ発言で潰せ」とゼンゼンブリンクの企みで人気お笑い番組「クラス・アルター」に出演することになる。MCのヴィッズマン(本物)はヒトラーに会ってみて乗り気になれない。そんな中で番組の幕が開く。
ヴィッズマンの困り果てたところを見計らって話だす。そう、ヒトラーの名スピーチ術です。圧倒的な演説力に観衆は大拍手「TVは低俗な番組だ。こんな低俗番組を流すとは何だ。無理もないこの低出生率」と現在のTVや政治を論理的に攻撃し、「2045から声明を出す」と言う。これは冗談だと思ってる観客は大拍手を送る。
これがもとで料理番組をはじめあらゆる番組に出演することになる。このようにしてかって彼が作り上げたような政治国家を目指すという彼が本性が見え隠れし始める。
「彼の言うことには一理ある」と評判になる。投書で反対論も出てくるが、政治討論番組で、NDP(ドイツ国家民主党)が必要だと「君のような人物を最前線に送りたい」と言い、AfD(ドイツのための選択岐)の意見を聞きながら寝てしまう。
NDPのビルネが出演すると「この国を動かす気があるか。仲間に塹壕で戦うような人がいるか」と問う。
ゼンゼンブリンクはヒトラーを負い落とそうと犬を射殺した件を持ち出し追及を始める。ヒトラーはTV番組で謝罪するがこれでTV出演はなくなる。ヒトラーが「クラス・アルター」に出演しなくなり、著しくTVの視聴率が低下しはじめる。
○ヒトラーの復活
落ち目のゼンゼンブリンクがこれを聞きつけザヴャツキを訪れ、挨拶をしようとすると、この男はシリコンマスクを外し、映画でザヴャツキを演じていた男だった。ザヴャツキはこれに有頂天になって、ヒトラーを連れて恋人のクレマイヤーの家に。彼女のお婆ちゃんがヒトラーを見て「こいつは本物だ、みんな殺される、大変だ。あんたが全部殺した。このバケモノ」と騒ぎ出す。彼は「偽物だ」というが、祖母は「ヒトラー本人に間違いない!」と断言。
そして「あの時も皆が彼のユーモアで笑った。最初のうちは、そして全員殺された」という。ザヴャツキは真意を確かめるためこれまで撮った映像を調べ始める。このとき、ヒトラーはネオナチに狙われ病院に入院。ザヴャツキが映像に出てくるタイムスリップした場所を現地で確認すると総統地下壕であったことから「こいつは本物だ」とペリーニに報告すると「その男を追え」と指示される。
ザヴャツキが追うとボデイーガードに囲まれたヒトラーを見つけ拳銃で「大衆を扇動する気か」と脅すと「私を選んだのは市民だ」とビルの屋上に逃げる。ヒトラーを屋上に追い詰め「大衆を扇動するつもりか」と叫ぶと「わたしを選んだのは普通の人だ。選挙で選ばれた。彼らと本質は同じだ、価値観も同じだ」と答える。
映画が大成功しヒトラーが再び脚光を浴びなか、ベリーニはヒトリーとともにオープンカーの後部座席に乗り多くの大衆にむけて「これは偽物よ、ちょっとばかり、彼が帰ってきたのよ」と呟く。
エンドロールでは「ヒトラーをぶっつぶせ、ヒトラーをねじ伏せろ、たたきのめせ、ねじふせろ、ヒトラーはユダヤ人を連れ出し、あいつはユダヤ人を追い出し、彼は間違いを犯した、ヒトラーをねじふせろ、・・」の歌が流れる。
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