二階堂ふみさんにとっての今年4本目の作品、大根監督に、福山さん、吉田洋さん、滝藤さん、そしてリリーさんの出演ですから、この作品に外れはないと観てきました。
面白かった、でも最後にはちょっぴり寂しい、中年おっさんの悲哀の人生のようにも思え、糸井重里さんのキャチコピー「ごめん。馬鹿で悪かったな。」が心に残ります。
物語は、かつて敏腕カメラマンとして週刊誌のエースだった男が、今は借金まみれで芸能人スキャンダルを執拗に追いかける中年パパラッチ。そんな彼が新人女性記者とコンビを組むことで、仕事への情熱を取り戻していくが、突然・・・という展開。
この男、ロバート・キャパに憧れカメラマンになったと言い、手にしたエースの座を何故投げ出したか、おそらく続けることの苦しさから逃げたのでしょうが、カメラマンとしての魂を忘れることなく、パパラッチとして「誰からも疎まれ、ゴキブリと罵られようが世間は見たがると仕事を全うする姿には熱いものを感じます。
芸能人・政治家がお忍びで来ている深夜のバーやカーテンを閉め切ったホテルの部屋の密会現場などの撮影裏舞台、どうやってシャッターチャンスをモノにするのかというパパラッチの裏技をしっかり見せてくれます。(笑)
物語はこれだけでは終わらない、男は捨てた夢を追いかけるが自分が作った罠に引っかかりあっけない最期を迎え、世間の垢を貯め込んだ中年男の侘しさに胸が痛くなります。
出演者の皆さん、それぞれ素晴らしい演技で楽しめます。福山さん、まさかこれが福山さんといったこれまでにない演技に驚きました。
二階堂ふみさんの可愛らしさから逞しいスクープ写真家に変化していく(受け身)演技、吉田羊さんの意志のある編集者としてのカッコよさ、滝藤さんの厳しさのなかに見せる優しさ、そしてリリーさんの狂気を秘めた捉えどころのない演技には引き込まれます。
パパラッチらしいカーチェイスや盗撮現場など大根監督らしさが一杯のスリルのある映像が楽しめます。(#^.^#)
****
物語
○新人記者(行川野火)との出会い
冒頭から中年カメラマン都城静を演じる福山さんの演技が、まあこの業界ですから当たり前、それを凌駕するほどの容態で現れびっくりです。
これまた脳天気に飴をくわえて出勤の行川野火を演じる二階堂さんのチャラ姉ちゃん。
静ちゃん、ストリップバーでポールダンサーに挨拶がわりにオッパイ鷲掴み、やおらフクヤマを狙って隠しカメラをセット。
商売道具はすばらしい、腕とやる気は十分。そこになんと野火がやってきていきなり「取材です。コメントください」。「このバカ」と静ちゃん、せっかくのチャンスを物にできず野火を連れて雑誌社に。
副編集長横川定子・吉田羊さんに「こんなど素人寄こすな!」と怒鳴りこむ。「あんた売り上げ落ちてんだからあの子あんたにつける、一人前にして」と定子。
「こんな素人、処女じゃあねえか」
「あんたのヤリマンとは違う」
「あんな女に俺、立たんよ」
「処女かどう賭けよう」と持ち掛け、フリーの静ちゃんをネタ30万円で契約する。この賭けが物語のラストで回収されます。
こんな調子の静ちゃんを全力で福山さんが演じ、まったく違和感なしです。(笑)
○二人で芸能人・政治家のスキャンダルを追う。
・静ちゃん「俺は新車と処女には乗らん」と言いながらベンツSUVに野火を乗せ、恵比寿、中目黒、代官山、このあたりは釣り場と人気アイドルを追う。パパラッチの合間に「おまえ何でこの会社に入ったんだ」と聞く。「ファッションが好きで女性誌に行ったが駄目で、SCOOPよ」。と言ってると、ゲンキ君とシュウ君ら人気アイドルがキャバレーに入るところに出くわす。
ゲンキが女連れてカーテンの奥に消えたところで、野火に「カーテン開けて写せ、外で待っている」とカメラを渡す。
野火「この仕事、まじ最低ですね」と言いながら3枚撮って逃げる。写真を見て「ブレ、ブレで記者はカメラマンの気持ちが分かっとらん」と言いながら一枚を選ぶ。静ちゃん「おれたちどぶねずみ、ゴキブリ以下。でも何で世間は見たがるんだよ」と。これがスクープ賞「人気アイドル同士のキス写真」。野火は携帯でこの記事を見てうんざりする。
・「次は政治家、不倫、ツーショットで」と定子。小田部議員とTVアナの二人がホテルにいるところを狙うことにする。野火につけさせ8階の部屋に入るのを確認。隣のビル屋上から狙う。カーテンが邪魔だと花火を上げてこれを見ようとカーテンを開けたところを撮るという作戦。これは実話だそうです。
バッチリ撮れたが相手に見つかって、逃げる、逃げる、カーチェイス。ここでも相手の追跡を花火を投げて交わす。スリル満点のシーンです。静ちゃん「かって定子と組んでいつもこうだった。ボーナスつくぞ!」と活き込む。野火は「この仕事最高ですね!」と言い、静ちゃんは嬉しくなって野火にキスしようとするが、ぶん殴られる。「小田部議員の不倫現場」でこれまたスクープ賞。
こんな中で野火が隠しカメラで芸能人の路上キスを取ると、アイドル部門を担当する副編集長の馬場・滝藤賢一さんが「うちで育ているアイドル、あんなの墓穴だぞ」と定子に文句をつける。
折角撮ったのにと悔しがる野火にまあまあと諫める静ちゃん。静ちゃんも「そろそろスクープ撮れ。芸能人の尻撮ってどうする、元気のない中年のパパラッチ」と揶揄される。
・居酒屋で、定子が静ちゃんに「あのネタは駄目、あんたを元に戻したい。いい加減にしてチャラ源と手を切りな。あいつのために人生振ったんだから」と忠告。静ちゃん「風俗行きたいが金がない」と定子から金を借り、雨の中、チャラ源と二人で・・・。
○松永事件を追う(大スクープ)
・編集室に記者を集めて「4人レイプして殺した男。6ページくらいの記事にする。こいつの写真を撮ってきて」と定子。定子役の羊さんがテキパキと指示を出すところがかっこいい。「来週現場検証、このときに現場でシート脱がせて撮って」。記者たちの雑談、むつかしいなと古い話を出すやつ、昔ばなしを自慢するやつ。これを聞いていた野火「私は腹が立つ、むかつく。こんなやつ死刑でしょうが!そんなこと考えると(やったら)」。
これを聞いた定子「いま次期編集長争い中なのよ、あんたにこれやってもらう。ベテランに花持たせるのよ、ルーキーはね」と取材を野火に振る。
野火、静ちゃんに会って会議のことを伝え「私か撮りたい」というと、「今のお前には早い。あれはやばい」と拒否。「びびっているんですか」に「勝手にしろ」とバッテイングセンターに。
・野火が、目の前を歩く芸能人を見てシャターを切って、お兄ちゃんたちに捕まり「俺たちがおまえを廻しているところを写真に撮る」と迫られているところに静ちゃんが駆けつけるが逆に殴られる始末。
そこにチャラ源が現れ、軽快なフットワークで殴り倒してしまう。
チャラ源と静ちゃん、このあと街で女を拾ってバーへ、飲んでどんちゃん騒ぎ。
朝帰りにチャラ源が「別れた嫁が娘に会わせない」と不平を言い「俺と付き合っているの切りたいならいつでも」。「いいから」と静ちゃん。野火がこのときの写真を撮る。
・野火は静ちゃんの部屋を訪ね、礼を言うと「おまえを助けたのはチャラ源。“やるか”」「そんな言い方、バカ!」と言うと「例のやつ撮るぞ。記者がやりたいならカメラマンは・・」とキスしようと近づくところに定子がやってくる。
「この人は元妻だ」と静ちゃん。野火が帰ると「あれは昔の私」と定子「もう少しで確かめられたのに」と静ちゃん。
・現場検証の日。静ちゃんは取材規制地域とは全く異なった、どの社のカメラマンもいない位置にカメラを設置。松永が警備員に守られシートでカバーされて現れると、かっての友人今は副編集長の馬場に昔やったようにラグビー姿で警察にタックルを掛け警備員を引き付けようとするが失敗。そこでカメラを野火に任せ静ちゃんが警備員に割って入る。
シートが外れた瞬間、松永の写真をバッチリ連射で撮る。売り上げ350万部の「大スクープ」となる。瀧藤さんのおどけた演技がおかしい。
・祝勝会をアルペンを貸し切って、野火も盛り上がって大塚愛の「サクランボ」を唄ってわけわからなくなっているところに警察に拘束されていた静ちゃんが帰ってきて、ふたりはベットに。ここは二階堂さんの出番、見せ場たっぷりです!!
朝、目が覚めると静ちゃんがライカでパチリ野火を撮る。「キャパの写真みて小学生の少年がカメラマンになろうと思った。いつかはなれると思った。結局俺にはカメラしかない」。突然、チャラ源から電話が入る。
○静ちゃんの最期
・チャラ源「娘に会いにいったら男が出てきたので、男と嫁を撃ち殺した。ついでに誰かやりたいんだ、松永みたいに。かっこいい写真とってくれ」。
静ちゃん「あいつには大きな借りがある。呼んだら行かんといかん。警察には知らせるな。この金、定子に負けたと渡しとけ」と言ってライカを持ち飛び出す。
野火が後をつける。パトカーが駆け付ける。TVニュースで現場の様子が流れる。チャラ源は娘をつれ拳銃をぶっぱなしながら出てくると、静ちゃん、娘を解放し、チャラ源を落ち着かせようとしているところに野火がカメラを向けているのを見て「写せ」と合図。チャラ源がこれに気付き銃を向けるのを静ちゃんが止めに入り、なんと銃は静ちゃんの脳天をぶち抜く。唖然!
・この写真を載せるかどうか、馬場は「ジャーナリズムとかどうでもいい、人間の尊厳性を守る」と反対。定子は「カメラしかなかった男の尊厳性はどうなの」と賛成。
次期編集長に決まった定子が載せると決める。定子は野火に「あんたの写真使う。最後にデッドボールか。記事書け」と言い、使えそうな写真はないかと静ちゃんのライカを調べると、一枚を除いて全部ボケ写真(使えないようにしてある)。
一枚は、朝撮った野火の姿。ここは泣けます。野火が「静ちゃんが負けたと言っていた」と1万円札を渡すと、定子は「あんたが書かなきゃ。最後に愛した女に書いて欲しいんだよ」。
・野火が、新人記者を連れて事件現場に向かい、静ちゃんの残したカメラで撮る姿は静ちゃんの姿に重なる。
静ちゃんは亡くなったが、カメラマン魂の全てが野火に引き継がれるという、とてもいいお話し、終わりかたです。(#^.^#)
追記:
静が何故定子と別れ、野火を取ったかの描写がはっきりしないのが残念。
****