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「永い言い訳」(2016)

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西川美和さんが直木賞候補作にもなった自著を自ら脚色、監督した作品であり、本木弘さんが7年ぶりの主演参加ということで、原作を読むことなく観てまいりました。期待どおりの、これまでの監督作品とは違った、観たあとでじわりじわりとよさが伝わってくるというすばらしい作品です。

人気作家の夫は、女友達と旅に出た妻が突然のバス事故でふたりとも亡くなるが、当時彼は別の女性と不倫中で、自己愛の強い彼にはその死に涙もでない。あることから、女友達の子供たちの世話をすることで彼の気持ちが変化し、彼女の死を受け入れるという作家の再生物語。
 
この作家ほどではないにしても、多くの夫婦にとってお互いの気持ちが疎遠な時期はある。こんな時期に突然相手を失ったとき、ましてやこの夫のように妻に不義を課している場合どう償うか、どう立ち直るか。このことを考えることで、生き方は変わる。いい回答をくれた作品だと思います。

作家が子供たちと繋がっていく様が、食事で、TVで、宿題で、自転車で、そして涙でつながっていく丹念なエピソードの積み上げがとてもいい。子供たちの演技がうますぎる、見事です。作家が子供たちと父親に触れ合うことで変化していく「他者をいたわる愛情」が繊細に描かれている。しかし、なんと言ってもほとんど出演シーンはないけど、妻である深津さんの圧倒的な佇まいがこの作家を再生している。(#^.^#)
うつくしい四季の変化を感じながら、作家の生き様を見ることになります。
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物語は、
冬、冷たい感じの部屋で新聞紙を引き詰め、妻・夏子(深津絵里が人気作家(津村啓)である夫・幸夫(本木弘)の髪を切っているシーンから始まる。TVには夫がクイズ番組に出演している映像が。妻はこうして夫をずっと見てきている。売れない作家が結婚して、妻の支えで人気作家になったが、ちゃんと作品を書いているのかと。妻に疎遠になっている友人から電話が入る。

夫は「そいついつまでも友達と思っているのか、こちらから電話番号教えるから掛かってくるんだ。アナタ、電話するときには俺の名前使うな」と言い、「編集者が来たときぐらい呼び名の幸夫、やめてくれ」と偉そうな物の言い様。彼には女房に食わしてもらって作家にしてもらったという僻みがでねじれた自我意識があり、夫婦の間には冷たいものが走っている。妻は髪を切り終えて「駄目か」と呟いて、親友と旅にでる支度にかかる。この隙に、夫は編集者の福永智尋(黒木華に電話。妻は夫の部屋に顔を見せ「あとかたずけておいて」と言って旅にでかける。この妻が残した最期の言葉に、夫は「永い言い訳」で“あとかたずけ”することになる。
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朝、幸夫は智尋とベットで目覚める。ニュースで夜行バスが雪道で横転した事故を報じているが気がつかない。そこに警察から電話が入り妻が亡くなったことが知らされ話を聞かれることになる。何を食べたが、服装は、連絡はと聞かれるが答えられない。警官が(たまりかねて)「20年もするとうちも同じようなもの。相手の方の亡くなった」と言う。遺体を引き取りにいくと遺品に自分が書いた小説と携帯電話がある。

葬儀では「人生は妻から始まり、出かける前に髪を切ってくれその想い出がはっきり残っている。20年間、妻以外の人に切ってもらっていない。彼女を失い髪が残っていくでしょう」と挨拶をするが涙はでない。(ラストでこの髪を切ります
遺骨を山形の実家に埋葬、これはニュースで取り上げられるが、表情は無表情。ネットで「幸夫」を検索し「津村君、可愛そう」と書き込む。とんでもない男?
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旅行会社の事故説明会に参加。そこで妻と一緒になくなった親友の夫・大宮陽一(竹原ピストルさん)に出会う。彼は「妻を返せ」と激しく感情をぶつける。ここで受けるインタビューも幸夫は感情のないもの、一方は大宮は嘆き悲しむとおうもの。
一連の妻の弔いが終わって、「こうしていないとたまらん」と智尋を呼び出し求めるが、彼女は「先生は私を抱いている顔でない、バカな顔。子供を抱いたことはないですよね」と言われる。
 
春、満開のさくらの中で花見。酔っぱらった社員はら「ここ3年、先生の書くものに感情がない」と罵倒され騒ぎとなる。自宅に帰り、PCに書き溜めた原稿を消す。
こんな中で、事故説明会で会った大宮陽一から「妻(ゆきこ)のことで喋れる人がいないので、よかったら電話ください」とメールが入る。陽一は六年生の真平(藤田健心)、保育園に通う灯(白鳥玉季)を連れてやってくる。

フランス料理で、灯がアレルギー症にやられ病院に。幸夫は真平を大宮の住む団地アパートに連れていきここで彼らの暮らしぶりを見る。真平が塾を止めるということを聞く。真平が寝込むとそっと布団をかけて、メモを書きながら、陽一と灯の帰りを待つ。彼は、小説のネタ探しかもしれないが、帰ってきた陽一に「週2回、ここにきて子供たちの面倒を見る」と申し仕入れをし、彼の許可を得る。
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電車、バスを使って幸夫がアパートに通い、子供たちと触れるようになる。灯はコンビニで買ってきた親子丼を食べない。返事はしない。5時になるとTV「ちゃぷちゃぷローリー」を見る。幸夫はすっかり気落ちしてコンビニで弁当を食べアパートに帰ると灯がベランダで待っている。彼にとってこれは救いになる。9時に二人で塾帰りの真平をバス停に迎えに行くと近所の人に「この人、誰」と聞かれ、灯が「お父さんの従弟、幸夫君」と言って手をつなぐ。こんなことで気持ちが少しづつ繋がっていき、カレーを作って食べたり、洗濯物を取り込んだり、真平の勉強を見たりとすっかりお母さんのようになっていく。
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圧巻は、灯を自転車に乗せて坂道を危なかっしく上るシーン、親子のような愛情がしっかり読み取れる。子供の演技が自然体ですばらしい。これに触発されるように大木さんの母親ぶりが微笑ましい。
 
幸夫は子供たちとの交流で癒され妻と向き会おうと、マネージャーの岸本(池松壮亮にTV企画番組「交通事故家族の・・・」に出演することを伝える。岸本は「先生、それ逃避行でしょう。子供育てて免罪符ですよ。先生、奥さんなくなって一度でも泣きましたか?」と言ってくる。「泣くか泣かないは問題でない。TVの前で泣けというのが分からない!」と言い返す。
地震があって子供たちをしっかり守ってマンションに帰ってくると妻の写真が落ちていて、そっともとに戻す。
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夏、陽一の誘いで海に出かける。幸夫が「守る者がいて羨ましい」と言うと「いや、おっかないですよ。あいつら居なかったら楽だと思う。おれ一人なら事故で死んでもいい。でも、あいつらが居るから生きていれる。やべえ、この幸せ」と陽一。これを聞いて幸夫は子供たちと戯れる幻の妻の笑顔を見る。灯が「ここで去年ヤドカリを見た」と言うを聞いて陽一が嗚咽する。真平が「また泣いた」ということに「お父さんは泣く。
強い人は大事な人を亡くしたらちゃんと泣く」と幸夫。
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帰宅して、TV撮影に備え妻の鞄にあった携帯を見るとそこに「もう愛していない。ひとかけらも」という残された未発信のメールを見て動揺、携帯をぶん投げる。このメール、(奥さんは主人への不満をこのような形で処理していたんだ。すばらしい嫁ではなかったのか)。

彼はこの気持ちを引きずってTV撮影の参加する。「天国に召された奥さんに何かメッセージを」と問われ「そんなものはない。あっちもない。あえて言えば彼女の死がメッセージを切った。私は残された方だ。僕の前からぷっつり消えたのだから」と妻への鬱憤を吐きだす。そして録音取で「彼女の死は受け取れない。無理に忘れようとするのは嫌だ。妻の死とともにいたい。自分の時間を作りたい」と。
 
大宮一家と一緒に科学館に。吃音のある鏑木先生(山田真歩さん)が灯たち子供を使って透明な液体に息を吹き込むと白くなる実験をしている。白くなる理由を灯ちゃんのお父さんということで陽一に振られるが答えられない。これに真平が「もういい」と怒って去っていく。陽一は「妻がいるときはああではなかった。おれが忘れてもあいつが」と妻を思い出して泣く。幸夫は「子供は成長する。もう7ヶ月だ、忘れろ。忘れることが大切」と諭す。陽一が「来年になったらどうする」と幸夫との別れを心配し問うてくるので「真ちゃんが中学生になったら来れない」と答える。鏑木先生がやってきて「子供を亡くした姉がTVで『妻と一緒に考えたい』を聞いて立ち直れました。ありがとうございました」と挨拶をする。
 
花火大会が終わり、蝉の抜け殻を見る頃になって、陽一はトラックの運転中によく聞く妻の音声メッセージを消す。そして灯の誕生日を迎える。
鏑木先生も招待されている。先生は化学館をやめて自宅で保育事業を始めるといい、灯がお世話になるらしく幸夫は大きな疎外感を感じる。こんな気分のなかで幸夫に子供がいないことが話題になる。
「子供がいない方がリスクは小さい」と言うことに、陽一の「夏ちゃんは欲しかったじゃない。幸夫君本当にそう思っているの、絶対に欲しかったと思うよ」を聞いて「ぼくは子供が欲しくない。あの人はそのまま死にました」と叫ぶ。さらに「僕は妻が死んだとき、別の女とセックスしていた」と言い捨て、大宮家を出て途中で浴びるほど酒飲んで吐いて、マンションに帰る。これまで妻と真剣に向き合わず自分のことしか考えてこなかったことに嫌気が差し、妻への「済まなかった」という気持ちがあふれる。
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再びの冬。大宮家と絶縁状態になり、幸夫は携帯にある一家と海に行ったときの写真を見て孤独感にさいなまれ涙を流す。TVでちゃぷちゃぷローリを見る。一方、大宮家も幸夫が来なくなって部屋は荒れ放題。こんな中で陽一と真平が衝突する。真平はトラック運転中に真平のことを考えていて事故を起こす。食事中の幸夫に病院から「事故で怪我している」、真平からも「父が帰らない」と電話が入る。

すぐに大宮家に出かけ、灯を自転車で保育園に送り、真平と一緒に陽一のいる病院へ。真平の「お母さんが死んじゃうとお父さんの方がましだと思う」を聞き「きっとお父さんが一番そう思っている。必死でハンドル握ってきた。人間の心は強そうで弱い。自分の大事な人を見くびったり貶めてはいかん。僕みたいになる」と言い聞かせる。病院に着くと、陽一の症状は軽く、真一を連れてトラックで帰ることになる。幸夫は一人電車で帰るなかで、書きかけの原稿に「人生は他者である」と書き加え、涙する。幸夫は人生において他者の人生を大切にする気持ちを取り戻す。
 
大宮一家を招き小説「永い言い訳」の出版記念パーテイーを開く。そこで灯から一枚の写真が渡される。その写真には・・・。
理髪店で髪をきり、妻の残していたハサミを箱に収め「あとかたずけ」が終わる。
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