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「ベストセラー」(2015)

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<編集者パーキンズに捧ぐ>
原題「GENIUS」と出演者で観ることに。(#^.^#)
天才小説家と名編集者の葛藤の物語、名優コリン・ファースジュード・ロウニコール・キッドマンの競演です。
 
物語は19201930代ニューヨーク、スクリブナーズ社の伝説的な名編集者マックス・パーキンズが無名の作家トマス・ウルフを発掘し、育て上げ、やがて決別に至る物語。
パーキンズはフィッツジェラルドグレート・ギャツビー」、ヘッミングウエイ「日はまた昇る」らの才能を見抜き育てあげた編集者。小説家を描いた作品は数多くありますが編集者に焦点を当てたものはめずらしいのではないでしょうか。
 
天賦の才に恵まれたトマスから吐き出すように出てくる言葉、悪手のメモ書き、マックスはこれを整理し、口論し、ガンガン削除して作品として世に送り出す(ここが見どころ)。処女作では原稿30万語から6万語以上削ったと言われています。しかしマックスのこの能力がトマスを傷つけることになりふたりは決別する。作家と編集者の並大抵でない関係、天才を育てるために全てを捧げる編集者の想いをみることになります。
 
ウルフ役ジュード・ロウの感情を露わに欲望や情熱のままに深く考えず突っ走る演技、また一方パーキンズ役コリン・ファースの自分を抑え根気よく相手を説得する理性的な演技はすばらしいです。
舞台は192030年代のニューヨーク。渋い、陰影深い色調で再現された風景に往時の美しさ、香を感じます。
 
あらすじ&感想
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○出会い
1929年ニューヨーク、雨の中足早に歩く男トマス・ウルフ、部屋で赤鉛筆を持ってゲラに手を入れるマックス・パーキンズ。トマスはスクリプナーズ出版社に入りマックスにいきなり膨大な枚数の原稿を「これ読んでくれ」と差し出す。マックスは一瞥して読み始める。顔を上げることはない。
 
「失われしもの」と言うタイトルに不思議な感動を覚え帰りの列車(6時2分)のなかで、帰宅して妻とその友人たちを無視し、食卓に着き妻から「家族を放って置くの」と嫌味を言われながら読む。
次の日出勤する(10時)とトマスがやってきて原稿の一部を呟きながら「この本を出せという人に会いたい」と言う。返事しないでいると持って帰ろうイメージ 3
とする。マックスが「トマス、うちで出す」と話すと「どこでも断られた作品だから」と躊躇し「削除しないことが条件だ」と言う。マックスは「傑作を読者に届けるのが私の仕事」と言い「無理のないペースで仕事をしなさい」と500ドルを渡した。
 
彼は感激して廊下を出るや喜びの声を上げる。トマスは帰宅し愛人でパトロンのアリーン・バースタイン(ニコール・キッドマン)に「君のおかげだ」と感謝した。彼女は有名な舞台衣装デザイナーで夫、子供を捨てトマスの愛人になった人だった。
 
・マックスが「削除するページが300ページだ」と伝えると「削除は血がでる」とトマスは応じない。いつものマックスの帰りの列車のなかでふたりは話し合った。トマスは「登場人物は自分だ。とても気位が・・」。「それはよくあることだ」と励ますと「タイトルは『失われしもの』にしてくれ」と言う。
 
帰宅し部屋を与え、家族と一緒に食事をする。妻ルイーズ・パーキンズ(ローラ・リニー)が「主人はナポレオンの妻の話を書いている」(マックスの愛読書は『戦争と平和』)というとそれへの所見といって書き始める。酔っぱらってよく喋る。無作法で自分勝手だが「貴方以外に友人がいなかった」とマックスに告白した。
 
・出勤したマックスは「印刷に廻す、タイトルは『天使よ故郷を見よ』」と指示した。トマスの希望するタイトルに変更して発刊した。これが大ヒットし15000部の売り上げ、お祝いのデイナーでアリーンがマックスに礼を述べると
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「称賛されるべきはトマスだ」とその才能を褒めるが、ご本人はフアンと一緒に席を外していた。アリーンはこれにがっかりした。
アリーンがマックスの妻ルイーズに「あなたの主人にトマスを盗まれた」と言い、彼女がマックスとトマスの関係に激しく嫉妬しはじめた。
 
○ベストセラー「時と川」を出版
次作について、トマスは「独立は無理、処女作を残して死ぬべきだ」などと言い出し、マックスは「グラント将軍の伝記でも書いたら」と勧めた。「傑作を書くよ」とトマス。
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○出会い
・トマスはダンボール箱3箱分の原稿をマックスの元に持ってきた。マックスは「お疲れさん、帰ってくれ、読む」と言って読み始めた。が、原稿になってない。全ての原稿はタイピストを使って“読める原稿”に変換すると5000枚の原稿になった。
この原稿でふたりが論争しながら小説に仕上げるところが見どころです。道イメージ 5
を歩きながら、列車の中で、食堂でもマックスが文章を読み聞かせ、文章の修正、削除を話し合う。トマスは出された案にはまず反対、マックスに過大な作業が課せられているようで編集者の忍耐が問われた。小説「時と川」を読んでいる方にはふたりの会話は興味深いのではないでしょうか。
 
ニューヨーク駅でふたりが列車に乗ろうとするところでトマスが「ユーシン・ガントは恋をみて、ピリオド、4章終り」と叫び「I love Max」と歓喜を上げる。
二人は会えば論争を繰り返した。マックスは家のことは放って置く。クリスマスでもふたりで論争。「小説家なら形を作れ」とマックスが声を荒げた。イメージ 9
ルイーズは娘たちを連れて旅に出た。アリーンは「マックスといつも一緒、もう結論だして。これが私の痛み」とトマスの頬を引っ叩く。これでもふたりは決して仕事を中断しなかった。
 
・トマスは「奥さんなら出て行っても心配ない、怪しいところにいこう」とジャズバーに連れ出す。しかめっ面のマックス。ここでもふたりは論争する。「ジャズは作家だ」とこれに合わせて詩を書くトマス。そして黒人女性をナンパ。トマスの性癖をよく表すシーン。マックスは途中で抜け出し、事務所で原稿に赤ペンを走らせる「削除」と。
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翌日トマスを訪ねると冷蔵庫をデスク代わりに原稿を書きなぐっている。これが彼の癖。マックスは原稿を会社に持ち帰り、このままではいくらでも書くと、タイトル「時と川」、10月発刊と決めてしまった。
 

・マックスが原稿を読み終えたところにトマスがやってきて1節だけ付け加えるとメモを渡しパリへ旅だった。これはマックスへの謝辞であった。

 
マックスは「私がおまえの作を歪めているのかもしれない。編集者にはいつも悩みがある。違う本にしているだけかもしれない」と葛藤する。マックスは会社に届いた「ニューヨークタイムス」を開き書評欄を見ると「絶賛」とあった。トマスに「大家に比べられる書評ばかりだ。天才扱いだ」と電報で知らせた。
 
・アリーンがマックスのところにやって来て「私はトマスの人生から削除された」と言い「まだ誰を撃つか決められないトマスか私か、あなたか」と銃を突きつけた。「自殺は過剰だし、トマスを殺してもしようがない。残るは私かな」とマックス。彼女は銃を置き「彼と付き合えばあなたもわかる。むなしくなるだけ」言って去って行った。トマスは電報を見てパリから帰り、マックの出迎えを受け次作への意欲を見せた。
 
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○別れ
・マックスはボートで釣りにでるヘミングウエイを訪ねた。ヘミングウエイにトマスの「時と川」を読んだかと聞くと「きちがいだ。トムマは君を離れるよ」と言うので「それは違うぞ」と、釣りを楽しんで別れた。
 
帰るとトマスが酔っぱらってやって来て「アリーンは入院させる。もう書かない」と言う。ふたりは言い合う。マックスは「おまえの人生はどうなっている。人の痛みがわからんのか」と子供っぽい彼の生き方を心配した。
 
トマスはアリーンに「マックスは俺を作り上げていると思っている。俺は一人で書ける。俺にはマックスは不要だ。旅に出ようと思っている。昔のように戻れる」と元の関係に戻るよう説得するが、「私は一人になりたい。私を傷つけた。マックスはそれ以上傷ついている。私は登場人物ではない。出て行って!」と叫び彼を追い出した。
 
・スクリブナーズ社創立記念日にトマスがマックスを訪ね「一人で書ける」というので「やってみろ」と激しい口論になる。このあとトマスはフィッツジェラルドを訪れ、イメージ 7
「マックスは俺の作品を盗んだ」と話すと「マックスを批判するのは間違っている。励ましてくれるよ」と忠告する(この時期のフィッツジェラルドはスランプで一語も書けない状態でマックスが生活の面倒を見ていた)。
 
マックスは、元のトマスに戻ってくれることを願って娘に「天使よ故郷を見よ」を読み聞かせている。
 
・トマスはマックス、アリーンを失い失意のなか海辺を散策していてトマス突然倒れる。マックスにトマスの母親から「彼は脳腫瘍で治療法はない」と知らされた。こんなイメージ 8
なかでトマスは看護師から鉛筆を借り「親愛なるマックス」と手紙を書き始めた。
葬儀が終わって、この手紙「もう一度あなたに会いたい。人生に大きな窓が開いたように感じています。以前はこのことを感じていませんでした。」をマックスは読み嗚咽を漏らした。
 
名作にはこのような隠れた編集者の物語があるんですね、感動です。
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