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「ヒッチコック/トリュフォー」(2016)

イメージ 9もっと映画が楽しめるようにとこの作品を選びました。名著「映画術 ヒッチコック/トリュフォー」を全く知らずに、さらにヒッチコック作品も数作しか観ていない状況で挑むことになり苦戦でした。()この作品を見るには、書籍に目を通して、ヒッチコック作品「サイコ」「北北西に進路を取れ」「めまい」「鳥」「汚名」の5本を観ておくとわかりやすいと思います。
本作は名著「映画術」のためのインタビュー音源とインタビュー風景に今日の映画界を牽引するデビッド・フィンチャー、ウエス・アンダーソン、マーチン・スコセッシ(敬称略)ら10人のフィルムメーカーたちのインタビューを交え、ヒッチコックの映画術を現在視点で蘇らせるドキュメンタリーです。
ドキュメンタリーは「あなたの映画は、映画としては物足りない」という質問からスタートし「サスペンス」とは何かを語り、映画に用いられた技法や、観客を恐怖に陥れる“からくり“をばらしていきます。だから彼の映画は面白いんだと納得です。
観客をほんとうに感動させるのは原作小説のおもしろさでも俳優たちの名演技でもない、純粋に映画そのものなのだと言い、映画の面白さはシナリオよりも映画そのもののテクニック(表現技術)、いちばん重要なのはキャメラと映像だと主張します。
現代の名だたる監督たちが語るヒッチコック評を聞いてヒッチコックの影響力の大きさを感じ彼の映画術を知らずして映画を観るなという感じを持ちます。(#^.^#)
最近観たスコセッシ監督の「沈黙-サイレンス-」にもヒッチコック手法を見ることが出来ます。
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まず、ヒッチコックトリュフォーの対話が成立した背景が、ふたりの作品・経歴を紹介しながら語られます。対談の行われた1962年、ヒッチコック62歳で「サイコ」まで47本を撮っていましたが大衆作家と語られることが多く彼には不満があったようです。一方評論家から映画監督へと進むトリュフォーは、3本の映画しか撮っておらずヒッチコックを師としていると強いリスペクトを表明していました。トリュフォーがインタビューさせて欲しいと丁寧な手紙を送り、これが快く受け入れられ実現したものであると紹介されます。その経緯が主要作品の映像(沢山のフィルム)を交えながら説明があり、なかでも経歴のなかに二人とも刑務所生活の経験が作品に生かされているというのが面白い。
8日間30時間にも及ぶインタビューは、1966トリュフォーが映画一本分の製作費と労力を費やして仕上げ、傑作「映画術」として各国で翻訳され世界の映画フアンのバイブルとなっています。イメージ 3
この書物に対する評価については、本作のなかでも、デビット・フィンチャーは「父の本棚に映画を論じた本があった。夢中になって読んだ。すばらしい本だ」、ウエス・アンダーソンは「私はペーパーバック版を持ち歩いて読み続けた」、ジェームイメージ 6ス・グライは「映画作法の本」、マーテイン・スコセッシは「革命的だ」と語っています。
次いで、本作が書籍と異なるところが語られます。長時間にわたるインタビューの中からヒッチコックが“最も熱を浴びて語る部分”を、今日の映画界を牽引するデビッド・フィンチャー、ウエス・アンダーソン、ジェームス・グレイ、マーチン・スコセッシらが如何にヒッチコックの影響を受けてきたかを語ることで、ヒッチコックの映画技術の今日的意義を明らかにするというものです。
 
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さてここからインタビューの紹介です。
トリュフォー(以下、T) ヒッチコック(以下、H)で表します。
H:スタートよいか
T:「もうスタートしている」と言い、通訳者ヘレン・スコット女史を紹介しとても和やかな雰囲気でインタビューが始まります。
T:映画として物足りない、おもしろいだけだと言われるが?
H:客は何を見せてくれるかと期待している。
T:大ヒットすると文句が付く?
H:おもしろいだけで、屁理屈がつく。
ここでは「北北西に進路を取れ」を取り上げ(ヒットした作品)、ロジックが退屈だ、「鳥」も同じだとして、客の満足感はストーリーを語るキャメラと映像だと言います。
そしてヒッチコックの真骨頂「サスペンスとは何か」の話題に入っていきます。恐怖とは関係ないとして「汚名」を取り上げ、ふしだらな電話を聞くのもそうだと説明します。「鳥」(’60)の映像を使って、カモメが女性を攻撃する動画シーンを例に、時間と空間が映画を撮る上でのいかに重要なファクターであるかを具体的に説明します。
リチャード・リンクレイターが「時をあやつること、時を刻む監督だ。時と空間を思いのままにコントロールできる監督だ」とコメント。
黒沢清は「映画の中心にいるようで、作家的には端っこだ。THが語っているのはそういう考えでとるべきだが、真似はしない」とコメント。
イメージ 4次に「汚名」(’46)の約5分にわたるキスシーンを使って、「ふたりの顔を撮っているがそれ以外は分らない。部屋を歩きながら長いキスをする。観客はキスに気を取られ他の何かを隠しているように思える恐怖につながる」と説明します。ふたりはイングリッド・バーグマンケイリー・グラントで、実は俳優が嫌がるシーンなんだが「苦しくてもやれ。どう映るかが大切なんだ」と発破を掛けたと言います。デビット・フィンチャーは「もめるね。スターだから」とコメント。()
ここで「私は告発する」(’52)の映像を示し、俳優(モンゴメリー・クリフト)の目線で揉めた話「彼の見るところにビルがあるんだ。(彼はみていない)」「俳優は家畜だ」と語ります。ヒッチコックにとっては、俳優がやりずらくてもスクリーンでどう映るかが問題で、俳優はすべて彼の手のうちで動かなければならない主義のようです。
この姿勢にジェームス・グレイは「彼は映画の心理学大家だ。映画の言葉を学んだ」とコメント。スコセッシは「ヒッチコックは古典的な俳優を好む。例えばアル・パチーノ。アフタースクールの俳優は使い易いし演技がしっかりしている」とコメント。
T:よく夢を見る?
H:いいや
T:(あなたの作品には)夢を見るイメージがある。狂人の夢のようだ。
H:普通のドラマには関心がない。
イメージ 5ここで「めまい」(’58)は夢だと自らのシークッレット部分を語り始めます。「死んだ女を生き返そうとするところだ。性的興味か恍惚感からかで男は死んだ女のセックスイメージでベットに入ってセックスをする。女は髪をブロンドに染めて帰ってくる。裸になったがパンテイは脱いでない感じ、女がセックスに備えて裸ででてくるところ、男は勃起しているが見えない。「めまい」は変態映画なんだ。「めまい」で興味あるのは女の物語だ。男の要求に応ずるが愛を求めない物語なのだと映像を使って詳細に説明されます。
スコセッシのコメント:イメージ 7
「めまい」はヒッチコックの傑作でキム・ノヴァクだからできた。真似しようとしたができなかった。映画の筋がよくない。映画詩のようでどこが始めで終わるのかわからない。男の目が何を見ているのか、不安そうに歩く男の目。なにもかも目に入らない。キム・ノヴァクが絵を見ているシーンの意味が分からない。全てが想像で幻想と現実が一致するところがヒッチコックだ。キスがすばらしい。去るところがよかった。女が死んでいなかった、恐怖を感じる。物語の話術の傑作だと言える。いや、それ以上だ。
「貴重な作品だ。まるで禁じられた聖なる映画だった」
ヒッチコックのすべて、映画のすべての結晶である」
H:サイレントの手法、これがいい。サイレントが原則だ。
ここで「下宿人」(’26)「第3逃亡者」(’37)「サイコ」(’60)「マーニー」(’64)を例に挙げます。
T:成績はどうだったの?
H:「めまい」でも失敗だ。問題は失敗からも学べる。ハリウッドは数字で決める。映画は観客のために作る。客が入ることを常に考えている。
スコセッシ:
「映画は世界最大のマスメデイアだ。ヒッチコックの心使いはすごい。日本でもインドでも同じだ。今は滅茶苦茶な映画が多いがヒッチコックには秩序がある。「サイコ」ではTVを超えている。三面記事の映画に火を着けた」
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H:サイコは手品で騙す映画。度肝を抜くトリックだ。
スコセッシのコメント:
「金を銀行に持っていくまでを長く描いて客の目を欺く天才だ。画面のサイズがいい。あのシャワーのシーンには衝撃を受けた。あ~あの声、ヒッチコックの勝利だ」
H:モデルを使って撮った。
スコセッシのコメント:
「物語の話術の勝利だ。ベトナム戦争があり大きく世が変わった。しかし、サイコがある。完成度が高い」
H:画面が大きく変わった。映画がエモーションを起こしている。女優でも原作でもない。フィルムそのものだ。キャメラと映像だ。映画のおもしろさは物語の面白さ。技術的にしっかりしていればそれだけが映画作家だ。
T:カメラで書く作家だ?
H:サスペンスでも何でも頭で書いている。
T:いつも善と悪を描いている。犯罪映画という形で?
H:そのとおりだ。これが映画だ。
イメージ 1インタビューを編集した「映画術 ヒッチコックトリュフォー」を読みたくなります。
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