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「サバイバルファミリー」(2017)非常時の準備ができていますか?

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久しぶりの矢口史靖監督作品、時代を斬るおかしみを楽しみしていて、“待ってました”という期待で観に行きました。大停電で混乱する東京を脱出し、水も食料も不足し何よりも情報を絶たれたなかで、自転車で鹿児島に向かう家族がどうやって生き残ったかというお話し、コミカルに描かれていて笑った、涙が出るほどに。大停電とはいえたった130年前の江戸時代に戻っただけ。しかし、我々は飲める水の判別さえできない、まして食べ物をどうやって見つけ料理していいのかわからないという情けない人間になっていることに恐怖を抱きます。そこには軽い映画のようで重いメッセージが込められ、監督らしい作品だと思います。
メッセージは現代文明への警鐘ではと思ったりしますが、描かれているのは、こんな危機が起こりうるかどうかを問うことではなく、いたって当たり前の人としての生き方を問うています。電気が止まって右往左往する様を今では普通の鈴木一家の生活に絞って、大げさなものはなく、細かい具体例をもって描かれるところがすばらしい。このためにあえて全編ロケで、太陽光のなかで、野宿で寒さに怯え、バッテリー液を呑み、草や虫や猫缶詰等食えそうなものを喰らって、SNSが使えずいいかげんな親父を信じ、母親の愛情の大きさに気付き、子供たちは自分の衣服は自分で繕い、自転車は自分で修理するという家族が逞しく成長していく物語になっています。

なんといってもこの家族の父親鈴木義之小日向文世さんの仕事は真面目だか家のことは何にもできない文句ばかり言う“だめだめ”親父が、“だめっぷり”と父親としての包容力(存在感)を感じさせるコミカルな演技、そして、母親光江:深津絵里さんの専業主婦ぶり、たいしたことは出来ないが居るだけで安心感を醸し出す演技がすばらしいです。長男健司の泉澤裕希君長女結衣の葵わかなさん、ノーテンキな若者の生き方そして少しづつ強くたくましくなっていく演技は良かったです。避難途上で出会うみなさんのユーモラスな演技が監督のおかしくって温かい作風を盛り上げています。何よりも皆さんが、厳しい現地ロケに耐えたことに拍手を送ります。(#^.^#)
エンドロールに」流れる“Hard Times Come Again No More”はこの作品テーマによくあった曲でしみじみと満ち足りたい今だからころ、サバイバルを考えなければならない思いにさせてくれました。
ねたばれ(感想):
ここから、鹿児島までのサバイバル旅を駆け足で覗いてみます。
電気のある鈴木家の日常。
鈴木家は夜でも昼のように明るい東京を遠望できるマンション住まい。お父さんはビールを飲みながらTVを観て、お母さんはお爺ちゃんから送ってもらった魚が捌けないと冷蔵庫に、娘はつけまつげ命でSNS狂、電池が切れたと充電中。息子は帰ってくると物も言わず二階に上がりパソコン経済学講義ノートの整理、彼女に頼まれ転送。家族で話すことなど全くない。母親の携帯代がひどいという愚痴。さてこれが停電になると。
1日目
朝、目覚めると家中の電気がストップしていた。TVが見れない。携帯電話が充電されてない、ご飯が炊けてない、便所の水が出ない、新聞はこない、エレベーターは停止、出勤しようとするも電車が動かない、バッテリーが上がってタクシーが走らない。出勤しても会社の玄関が開かない、電話・パソコンが使えず仕事にならない。銀行では現金引き出しが制限され、スーパー・コンビニ店頭から商品が消え、買い物カードが使えない。
夜はローソクでの生活。夜空を見上げて「星が美しい本当に天の川があるんだ」と驚く娘。
こんな中でもお父さんは会社に出勤、これが日本人の偉いところ?。このような事態での出勤はマニュアルがあるはずだがこの会社にはないらしい。

3日目になってくると街がゴミで一杯。会社にはやっと出勤する必要なしと指示が出る。計測メーターが作動しなくなりガスが出なくなる、トイレが使用できない。部屋は洗濯物で一杯、スーパーにも食べるものがなくなる、情報がない。しかし、そのうち解消すると楽観的に考え、避難すると泥棒に荒らされると家に居続けます。

7日目になって隣・近所が避難を始め、お父さんの計画で羽田から飛行機で東京脱出を決意。やっとの思いで自転車を手に入れ家族で空港に走ります。この決心のあまりにも遅いこと。地震災害など自然災害なら3日もすれば行政が立ち上がり情報が入ってくるが、ここでは情報が入らず、入ったとしても判断できず、こんなこともありうるという注意喚起。決めつけない、あまくみてはいけないということ。
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やっと手に入れた中古自転車で羽田に出発、娘はハイキング気分、しかし途中で水を買おうとするとボトル1本1000円、先にいけば安くなるかと思いきや1500円、2500円になる。堪りかねておかあさんの主婦根性でまとめ買い、1本600円で手に入れます。食べもので一番大切なのは水、これから先にも苦しみます。イメージ 3
空港に着くと飛行機は飛んでいない。誰も泊まる人のいないホテルに泊まり、さあどうするかと、お父さんの計画で故郷鹿児島に行くことに。むすめは無理というが「昔はあたりまえだった(参勤交代)」と父親が押し切る。翌日、ウイスキーと交換で自転車と米を手に入れる。ものが物々交換、食べるものとの交換でなければ手にはいらなくなっている。そして誰も居ないブックオッフで地図と案内書を入手し鹿児島に向かう。大坂は停電していないという噂を聞き、当面大坂を目指す。この目標設定はいいですね、やれるという目標が見えないとやる気がおきない。お父さんの智恵です。
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出発したが子供用の地図で道に迷う。ここで思いついたのが高速道路の使用。すでに利用者で一杯だがなんとか自転車で走れる。スケボが最も効果的。このシーン、大量の避難民の中を自転車で走れるかをテストことも含め多くのエキストラを使っての見せ場になっていて、画面に力があります。
海老名SAに着くが、売店は閉鎖です。ある女性から水を求められるが断る。夜は芝生の上でシートを被って寝ます。サバイバルで一番大切なのは保温。水ではないことに注目です。夜間水を盗むやつが出てきて、長男が追っかけると赤ちゃんにミルクを与えているお母さんの姿をみて申し訳なさそうに引っ返すという、自分の経験を通してやさしさを見つけたようです。
次の日、長く暗いトンネルに入るが何も見えず不安で引っ返し、案内を商売にしている盲人の老婆たちに水と食料を渡して案内してもらう。全員を綱で繋いで杖で道を探っての案内。このような簡単なことが出来ないんです。()いや、闇に対する行動力が低下しているのではないでしょうか。

16日目、川原で一泊。マッチが4本、水が底をつく。父親は川水をきれいな水だと飲む。これが大失敗、川の水をどう処理して飲むか。暴風雨で自転車やカセットコンロがイメージ 5
風に吹き飛ばされボロボロになる。鈴木家はこれでピンチです。おやじさんは腹を壊してもう・・動けない。息子と娘は無人のスーパーに入り込み食べ物、水を探す。見つけたのは猫缶とバッテリーー液に発煙筒。これに携帯電話の樹脂ケースを拾う。
息子が猫缶を食べるが「何これ!」と吐きだが、食べられるらしい。バッテリー液は飲める。とにかくこれで凌ぐことにする。親父さんは川原で石を見つけて頑張るが火がつかない。やはりマッチとライターは必需品、火打ちで火を着けるには経験が必要です。
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22日目、休憩地で猫缶を食べていると、なんとキャンプセットでうまそうに食べてる家族(斉藤一家)がいるではないですか。この家族からサバイバル術を教わる。地面から葉が出てくるものなら何でも食べられると教わる。父親が猫缶のラベルを一生懸命に取り除く姿が痛々しい。()
途中で自衛隊とすれ違う。斉藤一家の家長が情報を貰いに駆けつける。正確な情報が得られる好機、見逃さないこと。彼らは「大阪が停電してないからって行くという選択岐はない」と言って別れることになる。スキルのある人は何が起こってもどこでも難なく生きて行けるということ。

43日目通天閣に着く。ごみだらけの街になっている。「電気は通じていない、水も食べ物もない。お父さんは嘘ついた」と怒りだす娘。母親は「そんなこととっくにわかっているでしょう。おとうちゃんはこんな人だから」とこの場を収めますが父親はひど
く落ち込む。こんな経験を積んでお父さんになるんです!
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母の父親が心配だと鹿児島に向かう。水族館で炊き出しを行ってるところに出くわす。なんとか食事に預かろうと列に並ぶが駄目。このとき父親が土下座して「子供の分だけでも」と頼み込むのでした。みごとに父親になりました。

67日目、自転車で走る4人。休憩中、父親が虫を見つけて捕まえようとしてるところに豚が飛び出してきて、みんなで捕まえようと走り出す。血を抜くこともまして解体もイメージ 8
できないのになぜ追っかけたか。養豚家の主人がれ、逃げた豚の収容を手伝うことで食事と宿の提供を受け、豚の燻製法を教わります。豚の解体は無理としても、鶏の解体はぐらいは知って置くのがよい。
ここでしばらくの間、休養。息子は自転車を修理し、娘は洗濯・衣類の繕いをします。自分のやるべきことをやるようになっています。この映画のキャッチコピー「すべてがOFFになると人間がONになる」の具現です!!
燻製の豚肉を持って鹿児島に出発します。自転車で急ぐ映像がとても美しいです。
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85日目、地図に書いてある橋がない。そこで廃材、ペットボトルを利用して筏を作ります。最初にお母さんと娘さんを向こう岸に渡し、引っ返して自転車と荷物を運びますが荷が重いうえに大雨になり水没、息子はなんとか岸にたどりつきますが父親が行方不明に。懸命に探すが見つからず、鬘を見つけたことで捜索を止めます。

94日、3人は、特に母親が意気消沈し、列車軌道を歩いていると野犬に襲われ燻製豚を奪われる。ペットを放置すると野生化しこのような事態は考えられます。どう対処すべきか、あわやというときに蒸気機関車(D-57)が現れ、3人は収容されます。()
一方川に流された父親は、下流で砂浜に打ち上げられて失神していた。やがイメージ 10
て気が付いてよろよろと立ち上がり、線路の見えるところまで来て、最後の発煙筒を焚き力尽きる。母親が列車の窓からこれを発見して停めてもらい再会を果たします。(笑)家族が一緒になることで生きるための大きな力が生まれます。列車がトンネルに入ると、窓を閉めることを忘れていて、真っ黒けに!。こんなことも、もう忘れているんですね。笑いました。
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108日目、4人は鹿児島の母親の実家に着きます。2年と126日目、父親と息子は漁師の手伝いをし、娘は機織りを、母親はトマトの菜園を手伝う。一家は漁業を手伝い子供たちは逞しく成長しています。
父親が夜、外にでると時計が鳴り出し、街頭スピーカーから放送が流れ、電灯がつきます。TVによれば世界的な停電であったとか。東京に帰った家族の生活は、妻は魚を捌いて料理し、娘は服のほころびを縫うという状況で、それぞれが自分のなすべきことをなし、相手を思いやる家族に生まれ変わっていました。
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