映画って人生!

宮﨑あおいさんを応援します

「ムーンライト」(2016)

イメージ 1本年度アカデミー賞作品賞、他2部門受賞。監督バリー・ジェンキンス、原案タレル・アルバン・マクレイニー。
本作は、母親が麻薬中毒で売春婦。母親にネグレクトされ、さらにゲイという運命を背負った少年が、どう生きて行くかと自分のアイデンテイテイを探す物語。物語は三つの時代に分け、幼少期を「リトル」、少年期を「シャロン(自分の名前)」そして青年期を「ブラック」としてそれぞれの成長エピソードを淡々と少年とその周囲の日常を描いた作品で、セリフは少なく、俳優の表情と仕草のなかに成長の兆しを感じ取ることになります。

どの俳優さんもすばらしい演技を見せてくれますが、少年が成長する様を3人の俳優で演じていて違和感がないところが凄い(ポスター:左から幼少期、少年期、青年期のシャロンの合成)。

馴染みの薄い人種差別、LGBT、貧困などが取り扱われていますが、厳しい環境下の少年の生き方として物語に入り込め、「そうなんだ!こうやって俺は生きて来た」と愛に満ちている・人が生かされている世界に気付き、つらい思い出は人を強くすると感動します。

どのシーンも絵画的で美しい。柔らかい音楽が心に滲み、語られる人生の指針になる言葉と美しい映像を思い出せば、希望を持って生きていけるのではないでしょうか。
どんなに苦しいなかにも光(月光)はある、ブルーに光るかどうかは他人に惑わされることなく、自分らしくいきることと教えられているように思います。

一度は「ラ・ラ・ランド」に与えられた作品賞が改めてこの作品に与えられるというハプニングが思い出されます。壇上の誰もが敬意を示す作品。人種差別・LGBTに苦悩する今だからこそ必要とされる作品で当然な結果ではなかったのかと思えます。
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監督、原作者は黒人。ふたりは母親が麻薬中毒でこの作品の主人公と同じような環境で育っていて、主人公シャロンにダブリます。
ふたりの学歴とその後の活動、今回の授賞を思うと、差別・貧困を跳ね返すだけの鎧(勉学)をまとい夢を追い続けた結果がこの授賞であったと、シャロンの物語以上の感動を受けます。
授賞式の監督の姿を見ると涙が出ます。さらに、この作品を受け入れるアメリカの懐の広さ、夢の持てる国アメリカ(奨学制度)はすばらしい。

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Ⅰリトル
マイアミの犯罪多発地区で暮らす内気な10歳の黒人の子シャロン(アレックス・ヒバート)が、同じ色の子に追われて廃墟に逃げ込み彼がいなくなるのを待っている。それを見つけた麻薬売人のフアン(マハーシャラ・アリ)がイメージ 3やってきて「ここでなにしている。心配するな!何か食べにいこう。ここよりましだ」と誘い出し「ここはやばい地域、送ってやる」と自宅につれてきて、妻テレサジャネール・モネイ)に会せ食事。「名前は?」「シャロン、あだ名はリトル」「ママは?」「いる」「パパは?」「返事しない」。食事が終わり、結局フアンの家に泊まることになる。
フアンはおそらく小さい頃いじめられた体験を持ち、弱い子を見ると助けたくなる。人生のなかでこうような人に出会います。

翌日、母親ポーラ(ナオミ・ハリス)のところに送っていくと「あなたは誰、子供が怯えている。いつも大丈夫なの」と不愛想。「お騒がせシャロン、心配しないで」とシャロンを抱き締める。ポーラの過去は語られないが、おそらくレイプされた経験もあり、屈折した心を癒すように麻薬に走り、今は売春で生計を立てている。

シャロンは仲間と紙で作ったボールでフットボールをやっているが、仲間に衝かれてドロップアウト。そこにケヴィン(ジャハール・ジェローム)がやってきて「いじめられて平気か。やられたらやり返せ」とふたりで取っ組み合う。「お前はタフだ、唯一の友達だ」とケヴィン。シャロンにとっても唯一の友達になっていく。
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ある日、フアンが車でやってきてシャロンを海につて出す。シャロンを海に入れ「俺に身を預けろ10秒だ、感じるか?いまお前は地球の真ん中にいる。こうやるんだ」と泳ぎ方を教える。「もう泳げる」と手を放す。シャロンは泳ぎ始める。フアンは「よく聞け、黒人はどこにでもいる。俺はこの町に長い、出身はキューバだ。俺もガキのころはお前と同じで走り回った。老女が俺を捕まえて『月明りを浴びて黒人の子はブルーに見える。お前をブルーと呼ぶ』と言ったんだ。自分の道は自分で決めろ!周りに決めさせるな!」と話して聞かせる。シャロンにとってフアンは父親のようになり、この言葉がこれからのシャロンを支えになっていきます。
フアンはシャロンを家に送って、「これ」と(薬)渡すとポーラがこれを取り上げ男と二階に上がる。

学校ではオチンコの大きさが話題になりシャロンは家に帰り風呂で確認します。
ポーラがフアンのところにやってきて「うちの子育てる気?わたしに薬売ってるくせに。あの子の歩き方見た」と言う。フアンは「あんたはクソだよ」と追い返す。家に帰ったポーラがシャロンを大声で「オカマ」と罵倒しこれに耐えられず、シャロンはフアンの家に逃げ込む。「オカマって何なの?」と聞く。「オカマってのはゲイを不愉快にさせる言葉だ」と答えると「僕はオカマ?」と聞いてくる。テレサが「違う、まだ早い、そのうち解る」と答える。シャロンが「薬を売ってる?」と聞き「ママがやっている」と言う。フアンは自分の麻薬商売がシャロンを傷つけていることに忸怩たる思いを抱き深い悲しみの表情を見せる。

シャロンは高校生(アシュトン・サンダース)。教室で「オカマ、タンポン替えたか」とバカにされるが、じっと我慢。そんな彼にケヴィンが「お前は口が堅いから」と自分の性体験を自慢気に話す。母ポーラは薬に溺れ酩酊状イメージ 5態で、シャロンは彼女から家を追われテレサのところに居候することになる。フアンは亡くなっているが、テレサは快く「うちのルールは愛と自信をもつこと」と暖かく迎えてくれ、彼女の手を借りてベッドメイク。これを見て彼はおどおどしている。夜、ベッドで波の音を聞きながらケヴィンのはなしを思い出す。母親ポーラが訪ねてきてテレサから貰った金をせびって帰って行く。

シャロンは下校時、同級生に呼び止められ「こいつの母はフェラがうまい。このオカマがジーンズか」とバカにされる。彼は怒りを覚えるが我慢する。
夜になって電車で海辺にやってくると「会いたかった」とケヴィンもついてくる。ふたりは砂浜に座りマリファナを吸いながらたわいもない話をして、イメージ 6ケヴィンが「泣くか、どのくらい」と聞く。シャロンは「泣きすぎて自分が水滴になりそうだ」と答え「この辺のやつらは海の冷たさで紛らわすんだ」とキスをする。ふたりは意気投合して愛撫を交わす。月が輝く夜、ふたりは初めてお互いの心に触れることができた。
終わって「ごめん」とシャロン、「なにがごめんだ」とケヴィン。ケヴィンが車で送ってくれ「初めてか?」と聞く。シャロンは「ありがとう」と言って別れる。

翌日の学校の食堂で、ケヴィンが同級生に「学校が退屈だ、俺がニガを選んだら殴れ」と脅かされ、「こいつやれ」で、シャロンを殴りつけてくる。シャロンは保健室で治療すると、保健の先生から「訴えないのか、一人の男を4人で殴ったんだ」と言われるが「知らないくせに!」と泣く。すべてをイメージ 7自分のなかにしまい込み、先生の言葉は耳に入らない。
洗面所で自分の顔を見る。遂に怒りが爆発し、教室に走っていき、ケヴィンをけし掛けた男を椅子でめった打ちにする。そしてシャロンは警察に連行される。

Ⅲブラックイメージ 8
青年のシャロントレヴァンテ・ロース)は、アトランタに住んでいて、高級車で「女はどこだ」という客を案内している。あの事件以来、決して打ち負かされることのないようバーベルで身体を鍛えすげ~えマッチョな男になり、金歯を装着し、子分の男には「ちゃんと客から金を貰え」と仕事を教えていて、父親代わりだったフアンとおなじ麻薬売人となっていた。
ベッドに寝ていると母ポーラから「顔見せて」と電話があり、真夜中に「ケヴィンだ」と電話が入る。ケヴィンは「あのときのことは忘れた」と言いながらどんどん子供時代の話に戻って「いつもバカやって、今はダイナーやっている。ある男がお前に似ている。だからこっちに来たら顔を出せ」と話す。タバコをふかし街をあるく彼を思い出し、そっとあそこに触れる。
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翌日、シャロンアトランタの更生施設にいる母ポーラを訪ね「いつ帰る」と問うと「ここが家よ、他人を見ながら自分が救われている」と言い、シャロンが麻薬売人であることに「刑務所にいくよ」と注意する。このことで「俺はあんたの言いなりにはならない」と二人は言争う。ポーラは「バカだった。ひどい母だった。わたしみたいなクズにはなるな。おまえが私を愛しなくても私は愛している」と泣く。シャロンはこの母の言葉を泣きながら聞き「もういい」とそっと涙を拭いてやる。シャロンは母との不仲を解消しケヴィンのところに向かう。

シャロンは車で、「ククルクク・パロマ」を聞きながら、ケヴィンのところに急ぐ。車を止め、シャツを着け、ダイナに入りカウンターに座る。「すぐ伺います」とケヴィン、シャロンを見てびっくりする。「うつむく癖は昔と同じ、料理を注文してくれ」と言い、料理を作ってふたりでワインを飲む。ケヴィンは「結婚し子供もできた。刑務所で苦労した、戻りたくない。女房とは別れた」と言い、シャロンは「友人を椅子で殴り、刑務所である男から薬の商売を教わった」とふたりは別れた日からのことを確認する。シャロンが「何故電話してきた」と聞くと「この曲だ」といって聞かせる。
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「ハローなつかしい恋人 うれしいわ帰ってきたの 何年ぶり 最後に会ったのはいつ 最後に会ったのは遠いむかし とてもうれしい」。
店を閉めてケヴィンの家に。ケヴィンが「ニガのおませ、金歯に車、何者だ?責めているわけではない、予想外だ。覚えているか最後に会ったときのことを」と問いかける。
シャロンは「忘れた、なにもかも。俺はアトランタで変わった、鍛えた」と答えると「俺は浅はかだった。周りのいいなり流された。しかし今は違う、息子がいて、店があって、休めぬほど働いている。あのころの不安はない」とケヴィン。

シャロンは「俺が触れたのは一人だ。お前だけだ。あれ以来ずっと」と告白するとケヴィンがそっとやさしくシャロンを労わる。そこには、月明りで輝くシャロンがいた。

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