映画って人生!

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「夜空はいつでも最高密度の青色だ」(2017)

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舟を編む」(2013)の石井裕也監督作品です。今作はこれまでの作品と少し趣が変わっています。人気の詩人最果タヒさんの同名詩集にインスパイアされて書いた石井監督の創作劇「現代の排他的な東京で生きづらさを抱えながら暮らす若者2人。美香と慎二の恋愛模様」です。
最果さんの「よくわからないがグッとくる!」詩が映画化されしっかり心に滲みる出来栄えです!

ヒロイン美香のナレーションによって最果さんの詩「透明でなくては生きていけない」「都会を好きになった瞬間、自殺したようなものだよ。塗った爪の色を、きみの体の内側に探したってみつかりやしない。夜空はいつでも最高密度の青色だ」と読み上げられ、これに添うように、死の予感があふれている東京、ふたりの生きづらい日常、恋愛感が描かれます。

人が溢れる新宿・渋谷の街、オリンピックを目前に控えた建設ラッシュ。夜のネオンに燃える真っ赤な東京の街、ひたすら歌うストリートミュージシャン。都会の虚構・不気味さ・孤独感が滲む東京。

そこに住むふたりは、
看護師をしながら夜はガールズバーで働く美香(石橋静河さん)は、つきあっていた男には棄てられ、彼氏はいない。いつもぶすっとして、何かにつけて後ろ向き。言葉にできない不安や孤独を抱えつつ毎日をやり過ごしています。
一方、工事現場で日雇いの仕事をしている慎二(池松壮亮さん)は、毎日工事現場で死の気配を感じながら生活を切り詰め、それでも残った片目で読書は欠かさずただひたむきに生きています。

ある日このふたりは偶然渋谷で出会い「俺は、ヘンだから」「へえ。じゃあ、私と一緒だ」と「透明にならなくては息もできないこの街で、君を見つけた」「悪い予感だらけの今日と明日が、少しだけ、光って見えた」と繋がりのなかったふたりが繋がりはじめる。

戸惑いながら少しづつ間を縮め、慎二が「イヤなことは半分にしてやる、こんな目にうまれてきてよかった」と、正真正銘の本物の愛を見付け、ふたりなら息づらい東京に耐え生きてゆけるという結末。
不器用なふたりの恋、これこそが「コミック」とは異なる大人のこころに響く恋物語です。ここでも監督の人に対する暖かい目線とユーモアがしっかり生きています。

慎二役の池松さん、喋りすぎることで生きずらさを表現する演技、美香との交際でやさしさがでてくる演技、自然で役に生きているようですばらしいです。
美香役の石橋さん、最初は素人っぽくてブスに見えましたが、映画が進むに連れてだんだん可愛く見えてきてラストで自信に溢れるヒロインになっていて、これからが楽しみな女優さんになっています。驚きです!

エンデイング曲“The Mirraz”の「NEW WORLD」が、ふたりの行く先に光をさしてくれます。
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冒頭、夜だが真っ赤に映えるビル街。そして、日の丸の赤、赤い服のジョガー。今日も小洒落たランニングウエアーに身を包んだ人々が皇居の回りを走っている。運動不足だから走る、どこに向かうでもなく、ただ走る。
バスを待っている人たち、並ぶと一斉に携帯を取り出し眺める。上空に飛行船、誰もみない。詩のことばが、人や町や空や夜になって、映画のなかに生きています。

○美香
病室を歩いていると「二人の子を残して可愛そうに」の声、そして死の場に立ち会う。
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終えると自転車で帰宅、ネールをして夜の街を「都会を好きになった瞬間自殺したようなものもの・・・この世に恋愛などない」(最果さんの詩)とガールズバーに。休憩時間を待つようにして“ふっ”とたばこをふかす。生活のためにアルバイト、つくり笑いとため息。美香の孤独、虚しさは埋まらない。

○慎二
ビル建築の工事現場。年上の同僚智也(松田龍平さん)や中年の岩下(田中哲司さん)出稼ぎフィリピン人アンドレス(ポール・マグサリンさん)と何となくいつもおなじ仕事場。
この4人、一見して雰囲気があります。仕事が鉄骨を運ぶだけ。岩下が腰を痛めて次の作業場行をやめるという。
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「きみがかわいそうだと思っているきみ自身を、誰も愛さない間、きみはきっと世界を嫌いでいい・・そしてだからこそ、この星に、恋愛なんてものはない」(最果さんの詩)。
慎二は、岩下の不甲斐なさを口にしてべらべらしゃべり続け、智也に“うるさい“と止められる。「いやな予感がする」と慎二。なんとなく一緒にいるが漠然とした不安が消えることはない。
仕事を終えて居酒屋「一休」で本を読んでいる。そこに美香がいたがお互いに気付くことはなかった。慎二は外に出て「ここは東京だ!」と空を見上げる。

次の日、作業現場で智之の首の傷に気付き「どうした」と煩く聞きただし喧嘩になる。
岩下が「もう死ぬかもしれん、オリンピックが終わったら」と言い、慎二がガールズバー7000千円が高すぎるとぼやくと「金のないやつはバカにされるだけだ!」と智之に窘められる。
慎二は古いアパートでひとり暮らし、隣に住む独居老人からかりて本を読むことが唯一の娯楽。美香は女子尞でひとり暮らし、ストレッチをして空を見上げる。それぞれが眠りにつく。

慎二、仕事場で智之の「岩下はもうだめかもしれん」を聞き「変なこと言うな!生きるとか死ぬとか、ガールズバーにいってみるか」と励ます。慎二の奢りで三人でガールズバーに。途中ストリートミュージシャンが歌ってるが耳に入らない、空気だ。
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「美香です」と挨拶。美香の勧めでビール。智之が電話番号を聞き出そうとする。慎二は無意味な言葉でこれを侮り続ける。つくり笑いで、これをやり過ごす美香。
仕事を終え店をでた美香は、深夜の渋谷の雑踏のなかで、歩いて帰る慎二に会う。慎二が「渋谷好き」と聞くと「嫌い!でもなんども出会う。一千万人もいるのに。どうでもいいけど」と美香。
慎二が人身事故で電車が遅れたことをべらべらと話し始めると「話が大きすぎる」と美香。「しゃべっていないと、俺、不安になる、俺、変だから!」「私と一緒」。
慎二が歩きながら「月があんなに青い。だれも気付かない、いやな予感がする」と漏らすと「わかる」。慎二は月を見て「きれいだ!」。

○智之の死
智之が「美香がまたデートしてくれる」と言い、岩下も「コンビニの姉ちゃんがデートしてくれる」言う。慎二が「コンビニは便利だ!」という。()アンドレーに「東京で生きることを考えたことあるか」と聞くが返事しない。智之が「俺の恋を応援しろ」と言って仕事をはじめ、倒れる。

葬儀は、親族はだれも来ないということで慎二が執り行う。上司が弔意に訪れ「仕事中は死ぬなとみんなに伝えておけ」と言って帰る。美香もやってきてビールを飲んでぐるぐる廻っている。ゴリラの行動か?()
慎二が「あの人が死ぬ?」と話し掛けると「傷のある人は血管を圧迫するから。それだけで人は死ぬ」「すごい」。

葬儀後、ふたりは街を歩く。ストリートミュージシャンが歌ってる「ガンバレ!ガンバレ!」に、誰も見向きもしないが、二人は愛想笑いをする。
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「俺にできることがあれば言ってくれ」「死ねばいいのに」「死んで孤独を手にいれたい」と慎二。

○病院で再会
車に荷物を積む作業で転ぶ。休憩時間に岩本が「コンビニの姉ちゃんに早く会いたい」と言う。アンドレーは妻の写真を見せて「慎二には好きな人がいないのか」と問う。黙っているとアンドレーに押され転んで大怪我。病院に行くと美香に会う。
「今日は運がない、俺は左目しか見えないんだ。また会えるかな。応援するから何でも言ってくれ」「そんなわけ、メールアドレスだけ教える」と美香。
慎二は智之のアパートで荷物を整理していると、美香とふたりで撮った写真を見付ける。岩下が「智之には彼女しかいなかった」と泣く。

○故郷の美香
父は妹のふたり暮らし。母は亡くなっているが死因がはっきりしない。父は何も語らず、美香は自殺ではないかと苦しんでいる。ふたりの生活費は美香から出ている。
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妹が「東京に行ったらスカイツリーを見たい。彼と一緒に大学受験する」と言う。
これに美香、「恋する女は醜いよ」「ゴリラがぐるぐる回るのは恋しないと苦労するということ」と妹、「あんたの彼氏もコロッと死ぬよ」。「お姉ちゃん、恋愛したことないの」。()
父が「仕送りはありがたいが、もうたくさんだ」と仕送りを断る。
この間、
慎二は、生活費を検討している。携帯9700円、ガス1261円、電気2380円、家賃65000円、シリア、テロリズム、食事25000円、ガールズバー18000円、震災、智之が死んだ、薬害エイズ、制感スプレー、安保法案、少子化、高齢化、・・胸がどきどきしてきて止まらない、「会いたい」と電話する。

○新宿でデート、
ふたりは新宿で会う。慎二が「嫌がっていたので今日は新宿にした」という。ストリートミュージシャンが「ガンバレ!」と歌っている。
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慎二が「恋愛とは元カレが元カノにくっついたものか」と言い出すと「バカみたいに恋が溢れているじゃない。失恋して空しくってみんな言ってるわけでしょう。ダメだね、私が一番ダメだね。いつか捨てられるのになんでわからない」「あんたの分、わたしがわかってやる」。

○慎二、カラオケ店で歌う。
慎二が「男の未練」を唄う。池松さんが歌うこのシーンは圧巻です。「恋しちゃったんだ」と唄いながら抱きつこうとするが、拒否される。「ごめん」と謝って店を出て歩く。
「恋する人間は凡庸になるってほんとう」と美香、「知らない」。「そして死んでいくんだ、みんな死んでいくんだ。お母さんが何故死んだか誰に聞いてもみんな違う。ほんと死ぬ気わかる。むかつく」。
美香が「私たちは何で葬式のあと笑ったの」「わからない」「放射能がどれだけ漏れているか知っている」「知らないことなどわからん」と慎二。「笑うことしかないのかな」と美香。
「捨てられた犬、保健所に預けられ死にたくなくても殺される」しゃべり過ぎたと慎二。不器用でぶっきらぼうなふたりは近づいては離れる。
帰って、美香は水槽の亀を見ているとそこにモトカレから「会いたい」というメール。慎二は隣の老人に本を借りる。

○美香の元カレ
元カレ(三浦貴大さん)が「愛している」と言うが「愛していることばが、口から血の匂いがしない!」と彼の申し出を断る。
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○慎二の彼女
彼女:玲(佐藤玲さん)から「愛してた」とメールが入る。会うと「ニューヨークに行く」と言い、高校の頃の話を持ち出し「愛していた」という。そして年収や仕事を聞いてくる。ばかばかしくなって彼女に隠れて美香にメールを送る。
中華店で飯食って、ラブホテルまで付き合うが「無視するものと、無視されるものがいるんだ。いずれ終わらせないと世界は続かない」と別れる。

○慎二、美香の尞を訪ねる
仕事が終わり、慎二は走って、ストリートミュージシャンの「ガンバレ!」を聞いて、美香の尞目指して走る。
美香は彼が来たことを認め「女子尞だから男は入れない」とメール。がっかりする慎二。翌朝美香が外を見ると彼がいる。部屋に入れると「俺は半分しか世界が見えない」という「半分見えれば十分じゃない。普通みえないよ」と美香。
ガールズバーは不安だからやってるのか?」「私が悲しいと思ってからでしょう。看護師だけではお金が少ないから、・・とっくに辞めた」。
街に出て飛行船を見る。
「見た、ラッキー!」
「とてつもなく良い事が起きるかも」。

翌日、慎二は工事現場を抜けて1200円の髪飾りを買って美香に会う。「ありがとう」と美香。「1200円なんだから」「でも本当にありがとう」。ここは泣けます。
「つらいことが続くかもしれない。なにが起きてもおかしくない。でも、とてつもない良い事が起きるかもしれない」と慎二。

○俺にまかせろ!
慎二は美香と田舎の美香の父を訪ねる。父から「娘をよろしく」と請われる。ふたりで田舎の夜を自転車で走りながらみた空。慎二が、
「暗いな」
「東京には黒がないから」
「私は母に捨てられた」
「そうか、俺にまかせろ。いやなこと半分にしてやる。こんな目に生まれてきてよかった」
「私、信じられないくらいダメ人間」
「そうか俺と同じだ」。
ふたりが新宿に戻ると、ストリートミュージシャンの宣伝トラックに出会う。ふたりはこれを見て微笑みます。
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